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「……えーっと、カトレアさん? ウェイトレスなんですよね? なんで椅子持ってきてアルナルド様とエディッタ様の間に座ってるんですか?」
私は、隣の空いている席から椅子を持ってきて、さも当然のようにアルナルドとエディの間にニコニコと笑っているカトレアさんに苦笑いしながら尋ねる。
カトレアさんは、首を傾げながら何のことが分からないような顔をしている……が、ニヤニヤが見えてますよ!!隠そうとしてますけど、口元は隠しきれてないですよ!!
「あらやだ、マリーナちゃん。私だって休憩が必要だと思うの。ね?」
いやいや意味がわかりません。
……ああ、そういえば会った時にアルナルドの言葉を言ってたなぁ。
カトレアさんはアルナルド推しだったのか……!!
っていうか流しそうになったけどね? で済まそうとしてるけどダメだよね?
「ちょっと待って、あのカトレア様とマリーナ、知り合いなの? っていうかエルも知ってる感じ?」
と、隣にいるカトレアさんと私とエルをキョロキョロと見ながらアルナルドが聞いてくる。
「ああそうなんです〜。さっき出会って! あ、私カトレア・マーベリアです」
と、カトレアさんがニコニコと笑って答える。
いや、自己紹介しなくてもアルナルドたちは知ってるみたいだけど……。
「こんなところでカトレア様に会えるとは思いませんでした」
そう言うのはエディ。ニコッと静かに笑っている。
「っていうか何でここにねえ……カトレアさんがいるんですか?」
驚いた表情のままそう尋ねるのはエル。
「なんでって……ウェイトレスだから?」
「じゃあ今すぐ職務に戻ってください」
すかさずエルはそう返す。
「だから休憩中なんだよ〜」
「こんなところにいたら休憩どころかサボってるようにしか見えませんけど?」
「むー……」
エルに論破され、ぶーたれるカトレアさん。
「っていうかドルソン先生はどうしたんですか? そういえば挨拶回りをするって言ってませんでしたっけ?」
私は話を切り替えるべく、とっさにそう言う。するとカトレアさんは静かに目をそらした。
「……え、まさかサボりですか?」
私がそう尋ねると、隣にいたエルの眼光が鋭くなる。
「サボってるんですか?」
エルも私に続けてカトレアさんに聞いた。
「……いや? だから休憩中だって」
冷や汗が見えてますよカトレアさん。そしてエルがすっごい怖い顔で見てますよカトレアさん。
「へぇ……サボりですか。へぇ……」
じっとカトレアさんを見つめたまま呟くようにそう言うエル。
「いやいやサボりじゃないって! 休憩中だよ〜あはははは……」
「は?」
「はいすみませんサボってますちょっと気晴らしに食堂行こうかなとか思ったらマリーナちゃんがいたのでウェイトレス姿できただけですごめんなさい」
エルの低い声にすかさずそう返すカトレアさん。
怖っ!!
私が待ち合わせに遅刻してきたときぐらい怖い……!!
「今すぐ戻れ」
エルが命令口調でそう言う。
あ、ヤベェ。
「いや、でももうちょっと……」
「今すぐ戻れ」
カトレアさん言葉を遮り、再度同じ言葉を言うエル。
待って待って待ってほんとヤバイ。
「あ、じゃあルカが来るま」
「今すぐ戻れ」
……。
ああもう無理ヤバイ!
エルの低い声とかかっこよすぎるんですけど!!!!
あの可愛いエルは怒ったらかっこいい!! もちろん可愛いもあるよ!!
「(うるさい)」
「(はいごめんなさい)」
あれ、私喋ってないんだけどな……ああ、感情が荒ぶるとテレパシーで送っちゃうんだったっけ。
エルについて叫んだけどエルにしか聞こえないなんて恥ずかしいったらありゃしないね、全く。
……めっちゃ恥ずかしい。
あっ、そういえばテレパシーってアルナルドにわかるんじゃ……あ、よかった、こっち見てない。
「仲が良いんですね、まるで兄妹みたい」
クスクスと笑いながらそう言うアルナルドに、ピシリと固まる2人。
わぁ、すごい。当たってる。
2人、姉弟(前世)なんですよー。
「やだ、アルナルド様ったら。面白いことおっしゃるのね」
うふふ、と可憐に笑うカトレアさん。さっきとは大違い……!!
「そうですよ、アルナルド様。僕一人っ子ですよ?」
あははと可愛らしく無邪気に笑うエル。さっきとは大違い……!!
あ、
「カトレアさん、あそこに」
「さあみなさん、せっかくの食事が冷めますよ。どうぞお召し上がりくださいな」
私が言おうとした時、カトレアさんがそう言う。
「あ、ではお言葉に甘えて」
アルナルドの言葉によって、食事がスタートする……んだけど、ちょっと待って。
「あの、カトレアさ」
「おい」
またもや私の声を遮り、カトレアさんの後ろから低い声が聞こえる。
ああ……言おうと思ったのに……。
カトレアさんはビクリと肩が震える。
みんながカトレアさん後ろの人物を見るなか、カトレアさんのみがそのまま固まっている。
「ドルソン先生?」
どうしてここに? と言う意味が込められたその言葉は、レインから発せられた。
よく話しかけれたね!! すっごい冷ややかな目をしてるのに、よく話しかけれたね!!
レインすごい!!
「ああ、みなさん、お食事中でしたか? すみません。ああ、これはこちらで回収させていただきますね」
ニッコリと美しい笑みを見せたドルソンの言葉には鋭利な棘がある。
めっちゃ怒ってる!!
「これ」ってカトレアさんのことだよね!? 言葉は普通だけどその裏側がめっちゃ怖い!!
「……あ、あの、る、ルカ?」
ソーッとドルソン先生の方を向き、名前を呼ぶカトレアさん。
「なにか?」
そんなカトレアさんに、真っ黒い笑みでそう返すドルソン先生。
怖いなぁ、もう!!
「も、もうちょっといたいなぁ、なんて……」
「私の耳もどうかしてしまったんでしょうか? 戯言が聞こえます」
笑みを崩さず、すかさずそう言うドルソン先生。
「ほんの1分だけでも……」
「お食事の邪魔してしまい、申し訳ありませんでした。それでは」
ドルソン先生はそう言って、ガッとカトレアさんの襟首を掴み、強引に椅子から立たせ(もう立ったというのかは分からない)、そのまま出口まで引っ張っていった。
……。
「こっわいねぇ……」
その光景を見ながら、ポツリとアルナルドは呟いた。
同感です。
……。
「……」
「……まぁ、とりあえず食べよっか」
苦笑いのアルナルドの言葉により、ぼーっとしていた私たちは食事を始めた。




