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「まぁ、それはそれとして、隠しキャラなんだけどね」
と、カトレアさんは話を転換させる。
それはそれとして、って簡単に変えれる話ではないけど……隠しキャラについては是非とも聞いておきたい。絶対に近づきたくないから。
「知らないの」
「……はい?」
あれ、私耳悪くなったのかな、なんか変な声が聞こえたような気がする。
「私の担当はシナリオ、及びキャラ設定だから、そこらへんはすっごい詳しいんだけど、名前や容姿までは担当じゃないのよね」
……。
「え……っと、ゲームをしたんじゃないんですか……?」
「うーん、してた……っていうかその途中で死んじゃって……」
苦笑してそう言うカトレアさん。
「そうなんですか……」
隠しキャラの正体を知らなかったのは残念だけど、プレイ途中に亡くなるなんて……まぁ私もそうなんだけど。
「……っていうことは姉弟揃って亡くなっちゃってるってことですか……?」
え、めっちゃ不幸すぎじゃない……?
「まぁそういう事になっちゃうね〜」
と、普通に笑いながら言うので思わず軽いなぁ、と考える私であった。
「……で、話はもう終わりか?」
そう切り出してきたのはドルソン先生。この会をさっさとお開きにしたそうな顔でこちらを見ている。
結構話し込んじゃってるからなぁ。
「そりゃあまだまだよ!」
すかさずそう返すのはカトレアさん。ってえ?まだ話すんですか?もう外暗いんですが。
「あの、私はそろそろお暇したいんですけど……」
私がそう言うとあからさまに落ち込んだ様子を見せるカトレアさん。
「あ、僕も」
エルもそう言って、手を挙げる。
「え、ええ……ああ、もうすぐ夕食の時間か……あ、夕食は誰かと予定あったりする?」
名案とばかりに明るい声で尋ねるカトレアさん。
ああ、そういえば言ってなかったっけ。
「まぁ予定といえば攻略対象と夕食を食べ」
「攻略対象と!?」
食い気味に被せるカトレアさん。あの、ちょっと怖いんですけど……。
「あ、は、はい」
私はこくこくと頷きながらそう返す。
「えーー!!いいなぁ!!私も!私も行きたい!」
はいはい!と手を挙げてそう言うカトレアさんに、エルが反応した。
「無理」
と、ただ一言……というか一語言ってカトレアさんの願いを一刀両断する。
「ええ!!なんで!!」
しかし、カトレアさんも食い下がる。
「面倒だから」
「理由がくだらない!ひどい!」
「あーもーうるさいなぁ」
迷惑そうな顔をして言うエルに行きたい行きたいとせがむカトレアさん。
なんか年齢逆なんじゃないかと思ってしまう……。
「カトレアは確か他の先生の挨拶、行ってなかったんじゃないか?」
呆れながらそう問うのはドルソン先生。その言葉に、カトレアさんは固まる。
「え、いや……行ったよ?」
「冷や汗が出てるが?」
「姉さん知ってる?姉さんって嘘をつくと髪の毛をいじる癖があるんだよ」
「ええっ?」
あ、確かに触ってる。
カトレアさんはエルの言葉に髪の毛をいじる手を後ろに隠す。
「……あははー」
そしてごまかし笑い。だが、ドルソン先生とエルに効くはずもなく、
「お前は今すぐ挨拶回りだ!」
「姉さん、食堂の出入り禁止!!」
と言われているのであった。
……あっははー……。
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「おかえりなさいませ、お嬢様」
そう言って一礼してきたのは執事のルイさん。
あれ、朝に会ったはずなのに久しぶりに会った気分だ。
……きっと、今日に色々起こりすぎたからだろうなぁ……。
「あ、えっと、ただいまです。あの、夕食は約束があるのでもうすぐ向かいます。送り迎えはいいです。ちょっと用意してきますね」
やや早口でそう言い、部屋のドアを開ける。
「かしこまりました」
ルイさんのその言葉を聞いて、部屋の中に入っていった。
「……ふぅ……」
私は静かにため息をついて、椅子に座る。
今日はいろんなことがあったなぁ……。
「朝は遅刻しそうになるしー昼も遅刻しそうになるしー次の時間は遅刻したしー……あれ、私不良少女になりつつない……?」
え、大丈夫だよね……?
あ、そういえばエルのヤンデレの発動も気になる……ヤンデレの発動条件があったりするのかな……?
「……あ、夕食はアルナルド達と食べるから早めに行った方がいいよなぁ、ルイさんに用意するって言っちゃったし、さっさと用意しちゃお〜」
私はそんな独り言をブツブツと言いながらササっと用意していくのであった。




