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「あのカトレア様が明日来るんですか!?」


 と、誰かがそう言う。

 理解が追いついていない私を差し置いて、みんなはザワザワと興奮冷めやらぬ様子。


 え、みんな知ってるすごい人なの…?


「(あの、エル?カトレアさんって……)」


 私はとりあえず隣のエルに助けを求める。


「(ああ、マリーナは貴族じゃないから知らなかったね。カトレアさんっていうのはこの学院の元生徒会長を務めてた人なんだけど、いろんな逸話や伝説が残ってるんだ)」


 い、逸話や伝説!?


「(た、例えば……?)」


「(うーん、僕も詳しく知ってるわけじゃないけど、マリーナみたいな貴族出じゃない人たちを助けるためにいじめていた奴の家に直々に行って、親もろとも説教したとか、学院の生徒に恨みがある奴を半殺しにしたとか、なんか色々あるよ?貴族の中じゃ有名だよ。僕はあんまり興味ないからそれぐらいしか知らないかな)」


 待て待て待て、突っ込ませろ。親もろとも説教までは、まぁうん、許容範囲だ。恨みがある奴がいるのも仕方ない。ここの学院生は魔法が使えないとは入れないから、誰もの憧れであり、そこに入った人たちは大体調子にのるから。


 私がビックリなのはその続き。

 ……半殺し……?

 カトレアさん半殺しに出来るほど強いの…?


 なんかすごいけど怖いんですけど……。


 そんなことを考えていると、みんな挨拶をしている。

 ヤバっ。

 私も慌てて立って、一礼する。


 私ってよく思い耽るなぁ、そろそろなおさねば話を聞かない不良になってしまう気がする。


「ねぇ、エル様?今から暇かしら?よければ私と一緒にお茶しません?」


 お、おおっと?エルさん?ナンパされてます?逆ナンですか?


「あー、ごめんね?僕これから予定があって……」


「もちろん、その予定が終わってからでいいですわ。あ、夕食ご一緒しません?」


「ごめんね、夕食ももう先約があるんだ……また次の機会があれば…」


「予定と夕食までの間でもいいの。エル様とお話ししたいですし」


「あー……間が出来るか分からないし……」


「では夕食は先約の方とご一緒でも!」


 こ、この女の子めげないな……


「えっ……と」


 エルは作り笑いを引攣らせながら、チラリと私を見る。


 よぅーし!この私がエル様のために一肌脱ごうではないですか!


「エル様?もう時間が迫っておりますが……」


 私は時計をチラリと見て、エルにそう笑いかける。


 すると、会話していた(ほとんど一方的に)女の子がギンッと睨んでくる。

 お、女の子がする目じゃないよ……。


「あ、そうだね、それじゃあ!」


 エルはそう言って私と共に行こうとする。顔が喜びに満ち溢れちゃってるよ。

 しかし、女の子はそう簡単に離してくれない。


「予定はアディソンさんとなんですか?」


 にっこりと笑顔でそう尋ねる、女の子。まるで能面のよう……。


「ああ、うん、まあね」


 エルも同じく笑顔で返す。うむ、可愛い!


「……言葉が悪くなってしまいますが、こんな庶民とご一緒してはエル様の品格が疑われてしまいます。本来、庶民とは貴族の顔色を伺って這いつくばっておけばよいものを魔法を使えるだけで学院に来て……入学だけでもできた事を感謝してとっとと退学していただきたいものですわ。だから貴族であるエル様は私のような者と一緒の方が……」

「黙れ」


 女の子が、勝ち誇るような笑みで言っていたのを、低い声が被せる。

 その声は、まごうことなきエルの声。エルの聞いたことのない声に、私も女の子も驚き、固まってしまう。


 ……聞いたことない、というのは少し語弊がある。

 正しくは、画面上で……つまり、前世では聞いたことがあるのだ。それも、ヤンデレ時に。


「エル……?」


 私は呟くようにそうエルを呼ぶ。呆然として呼び捨てになってしまったが、そんな事を気にする人はここにはいなかった。


「……マリーナを馬鹿にする権利がお前にあるの?」


「あ、あの……」


 エルの低い声に女の子は怯えている。口調も、ヤンデレのそれと同じもの。


 ……え、ヤンデレ発動してる?


 いや、ヤンデレのエルも好きだけど、なんで今……?


 ヤンデレの発動はもっと先だし、なによりエルは転生者。ヤンデレが発動することはないはずなのに……


「はいはいはーい、そこのお三方ストーップ!ちゃんと話し合いしよう、ね?」


 ドアの方から聞こえるその声。あれは……


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