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私はチャイムの最後の余韻でガラガラと乱暴に扉を開けた。
……さっきのように先生が遅いはずもなく、驚いた顔で教卓の前で立っている先生がいる。
「……お、遅れてすみません」
私はとりあえず息を整える前にそう言った。
先生は呆れたような顔で私を見て、
「遅れた理由は?」
と尋ねてきた。
「あ、ドルソン先生に呼ばれまして、少し話をしていました」
私がそう言うと、納得してくれたらしく、他には何も言わず、ただ座ってと促された。
ふぅ……。
「では、授業をはじめる」
先生はそう言って、授業が始まる。
「(ドルソン先生と何話してたの?)」
そんな時、隣からテレパシー。
ああ、エルには言っておこうか。あ、一緒に行けばいいんだ!!
「(あのね!!実は)」
……待てよ?これは言わずに会って驚かせた方が面白いのでは…!?
「(ドルソン先生って婚約者がいたらしいよ!!)」
私はすぐに言おうと思っていたこととは違うことをテレパシーで送る。
案の定エルが、
「婚約者!?………すみません」
と叫んだ。いや、ごめん。そこまでいくとは思ってなかったよ。
今の先生の顔めっちゃ怖かったね、ゾクッとしたよ……。
「(婚約者なんていたのか、あの黒髪メガネ教師……)」
黒髪メガネ教師って……。
「(すごい綺麗な人だった。あとで一緒に会いに行こう!約束したから)」
ふっふっふっ、そして転生者についても話すぜ!!
「(ヘェ〜、うん、まぁ僕はいいけど、約束してない僕が突然来て相手方は驚かれない?)」
「(大丈夫!その辺も織り込み済みだから!!)」
そう!!ちゃんと考えているのです!!
……織り込み済みって使い方あってるよね?その辺もちゃんと考えてるよって意味だけどあってるよね……?
「(ふーん、それならいいけど)」
うむうむ。
「では、この計算をアディソン、そしてこっちをサラン、やってみろ」
あ、呼ばれた……っておいおい、先生?
私を呼ぶのはまぁいいんですけど……
なんでルージュと一緒なの……!!
すっごい睨んでる!すっごい睨んでるよ!!
「はい」
「……はい」
私はルージュの返事に続いて同じく返事する。
っていうか話全然聞いてなかったなぁ……。まぁ今の授業は算学……前世の世界でいえば数学、というより算数っていうところだから、私に出来ない事はないんだけどね、というか私理系女子だったし!!
私は黒板に書かれた数式を見て、答えを書いていく。私もルージュも同じくかけ算の問題を解いている。
まぁ、この世界ではかけ算の答えの考え方が違うようで、ルージュは手こずっているようだが、私に助ける義理はないので見て見ぬ振りをする。
書き終わった私は、悠々と席へ戻っていった。
隣のルージュは、私がわからないのでデタラメを書いたと思っているようだが……というか周りのみんなは大体思っているようだ。もちろん、エルを除いて。
というかこの世界のかけ算の解き方がおかしすぎるんだよ。どうやって解いてるかは知らないけども。
というか一桁かける一桁よ?九九で楽勝ものよ?
というか問題をいうと私の問題は8×9で、ルージュの問題は5×3だよ?
8×9は、はっく72で5×3は、ごさん15だよ?
ルージュ楽勝じゃん。いや、どっちもどっちだけど。
ルージュも書き終えたようで、席に戻っている。その時、チラリと私を見て、鼻で笑ってきた。笑ってきやがった。なんだごらー!
「ふむ、アディソンは正解だ。しかし、サランは少し違うな」
先生がそう言った瞬間、みんながざわつき始める。いやいや先に計算しとけばわかることだよ?みんなジロジロ見ながらヒソヒソ話はやめよう?
「アディソン、この問題の答えは分かるか?」
「えっと、15です」
「正解だ。事前の予習をしっかりしているようだな。サラン、お前もしっかり予習をしておけ。さて、次は……」
先生がそう言って、また続けていく。
ルージュはというと、私を悔しそうに睨んでいた。
そんなに睨まれてもなぁ……。考え方の違いだしなぁ……。
計算は予習してもケアレスミスがあるし間違えるのは当然なんだから、仕方ないで終わらせてほしい……。
ルージュの睨みにため息を吐いた時、チャイムが鳴る。
「起立、礼、着席。このままホームルームだ。友達のところに遊びに行くなよ」
先生はそう言って、教室を出ていった。
いつの間にか消えているルージュの睨み。
ふぅ……。そろそろ授業中の睨みが鬱陶しくなってきたなぁ……。
でもどうせ聞く耳を持たないだろうし……どうしたもんか。
「全員席につけー」
担任の先生が入ってきて、教卓に向かいながらそう言う。
みんなその言葉で、素直に席についていった。
そして、ホームルームが始まる。
「明日なんだが、午前の4時間の内、どこかが潰れるかもしれない」
最初にそう言われ、みんなキョトンとする。
潰れる?ってことは消えるってこと……?でもどこかがってどこが……。
「どこが潰れるんですかー?」
クラスの男子がそう質問する。きっとみんな思ったことだろう。質問してくれてありがとう、名前の知らない男子生徒くん。
「うーん、それが特別講師が来るんだが、時間にルーズな奴でいつ来るか分からないんだ」
……午前の4時間の誤差ってルーズすぎだろ……って特別講師?入って間もない一年生に?
「この学院の卒業生で、成績優秀の有名人だ。多分、みんな知ってるんじゃないか?」
先生がそう言うと、「え、まさか……」「それってあの……?」とヒソヒソと聞こえてくる。
え、今のでわかるの?
成績優秀の有名人しか言ってなくない?
「あの、伝説の女王、カトレア・マーベリアさんだ」
……。
あっれれー?おっかしいぞー?とーっても聞いたことのある名前だぁ!
……うん、某有名名探偵くんの真似をしても仕方ないね、でもあのアニメみたいな……。いや、ないものねだりはしない!!
伝説の女王とか言ってたけどカトレアさんってそんな凄い人なの?私そんな凄い人と話してたの?
なんていうか、理解が追いつきません。




