12
さて、私は、食堂(という名のレストラン)で食事をしていた。
……のだけれど……。
「ふむ、これ結構美味しいな」
…。
「あ、僕、これ好きだな」
…。
「お嬢様?どうかなさいましたか?」
…。
「どうしてこうなった……!!」
私は悲痛な叫びを小声で言う。
私の周りには、なぜか人が。
ヤンデレ攻略対象者1、レイン・カルディ。
ヤンデレ攻略対象者2、エル・カトリーヌ。
私の専属執事 (らしい)、ルイさん。
…普通の人がいない!
まぁ、エルさんは普通だけどね?そうじゃなくて、執事だもん!
3人中2人もヤンデレ予備軍がいるし!!
このままじゃ、好感度=私の死亡率がうなぎ上りじゃん!!
うなぎ上りって言葉はいいよね、なんかいいことって感じ。
でも上がっちゃいけないんだよ、ウナギさん!!
……ふう……。
「さて、お二方は、どうしてこちらに?」
気分を落ち着けて、私は愛想笑いをしながらそう問う。
「ん?ああ、部屋でもよかったんだが、食堂を体験してみようかと思ってな」
「僕は、食堂に興味があってね~」
へぇ、まぁ私もそんな感じかなぁ……ってそうじゃない!
聞きたいのはそこじゃない!!
「そうではなくて……」
私はちゃんと口に出して聞く。
「どうして私と一緒に食事してるんですか?」
……そう。私は遠い席につけたことだけを喜んでいた。
しかし、それまでを見れられていたのだ。そして、料理を頼もうと思ったら、2人が来た。
…なぜこうなった!!
計画は完璧だったはずなのに!!
「教室のことをまずは謝ろうと思ってな。俺は少し出過ぎたことをしたようだ…エルに言われてしまった」
エル…?呼び捨てにするまで仲良くなったの?え?エルわかってる?レインは攻略対象だよ?私が恐怖を抱くってわかってるよね?
なんで近づいたの?怖すぎなんだけど…
「僕は、レインに連れられてって感じかな。あ、レインとはただ偶然知り合って、話してただけだからね~。別にそんなに仲がいいってわけじゃないよ」
私の心の中でも読んだのか、エルはそう言う。
そ、そうなのか…ああ、でもレインは距離を詰めてくるからなぁ…。
「エル、俺と仲が良くないのか?」
「いやいや、ちょっと話しただけで仲良い判定されても、って感じじゃない?」
ふむふむ、なるほど。
「そうでしたか。でもこれからはあまり表だって話すのはやめてくださると嬉しいです」
一応、言っておこう。
「そうだな。すまなかった」
「いえ…」
な、なんか素直だな…。
「うんうん、友情が育まれていくのはいいことだね~」
ニコニコした顔でエルは言う。笑顔がキュートだ。でもエル君?今小声で「恋愛になったらそれも全部散るけどな」って聞こえたけど、聞かなかったフリするからね?物騒なフラグ立てないでね?
「そういえば、マリーナとエルはいつ知り合ったんだ?教室でも話していたようだが……」
ギクッ
「いやぁ、ちょっと道に迷っていたら、知り合いまして。ね、ねえ、エル様」
多分、引き攣った笑顔になっていただろう顔をエルに向ける。
「そうそう。入学式直前で焦ったよね~。間に合ってよかったよ~」
エルも私なんかが比べ物にならないほどの笑顔を見せてくれる。
「ああ、マジかわ…」
私は思わずそう漏らしていた。
「マジかわ…?なんの名前だ?」
レインは、首をかしげながらそう聞いてきた。
「え?ああ!いや、そういう意味だよーっていうこと!」
ああ、思わず出っちゃったよー!!
エル!お願いだからマジ睨みしないで!だってかわいすぎたんだよ!マジでかわいいって言いたくなるでしょう!?
「そうか…ああ、マリーナはいろんな言葉を知っているようでな。昔にも教えてもらっていたんだ」
レインは、知らないであろうエルにそう説明する。エルは、「ボロでも出しかけたか?」なんて小さく言ってるけど違うから。私の事なんだと思ってるの?
「そんな重要なことでもないですけどね」
苦笑いでそう言う。そう、重要じゃないから。普通の事だから。
「へぇ~!どんなことを教えてもらったの?」
かわいい笑顔でそう聞くエル。ちょっと探りいれてるな?これは。
「そうだな…成金や下剋上、あとは、ちゃんばら?とかだな。聞いたことのない言葉ばかりだったので、とても興味深い。なにか知っている言葉はあるか?」
面白いでしょう?面白いよね?面白いことをいろいろ教えようと思ってね~。…あれれ?エル?大丈夫?固まってるよ?
「……へぇ~、そうなんだ~。面白いこと、教えてもらってるんだね~」
うわぁ、チラリとこっちをみたエルの顔がすっごい冷たかったー…
「ああ。成金っていうのはかっこよすぎてかしこまる、という意味だそうだ」
「……え?」
「下剋上というのは身分の低いものが高いものに決闘を挑む、という意味で、ちゃんばらは…」
「ああ、ううん、いいよ!そうなんだ!いろいろ知ってるんだね~、レインは」
ニッコニッコ笑いながらエルは言う。
「いいや、俺はまだまだだ。マリーナの方がいろんな言葉を知っている。他の人に聞いても知らないようだし…エルは知っているか?」
レインは、少し考え込み、エルに話を打った。
「あ、まぁ、知ってる…かな」
エルがそう言った瞬間、レインの顔が明るくなった。
「そうなのか!じゃあ、また教えてくれ」
「うん、いいよ~」
そ、そんなに言葉を知るのが好きなのか……。
レインは勉強家なんだなぁ、なんて考えていると、後ろから声がかかった。
「お嬢様」
私は、呼んだルイさんの方へ体を向ける。
「はい」
「お話し中、邪魔をしてしまい申し訳ございません。ですが、ただいま7時を過ぎております。明日の準備もあるため、もうそろそろお部屋に戻った方がよろしいのでは…?」
丁寧な口調でそう言うルイさん。
「ああ、そうですね…それじゃあ、解散ということで…」
「待て」
なんでやねん。
…帰らせて?お風呂に入って明日の用意をしてふかふかのお布団で寝させて?
「…なにか?」
私は、心の中がばれないように、必死に笑う。
「明日も暇か?」
……
「いえ、暇じゃないです。明日はちょっと……」
「では明後日は?」
「あー、明後日も予定が入ってますね」
「…では明々後日は?」
「明々後日も予定が……」
「……本当にか?」
疑いの目を向けるレイン。
「もちろんです」
笑顔でそう言う私。
……好感度を上げるわけにはいかんのだよ。
「まぁまぁ、レイン。マリーナは予定があるそうだし、しょうがないんじゃない?」
私に助け船を出してくれるエル。ああ、ありがとう!!
「…そうだな。じゃあエルは空いているか?」
「え?あ、あー、まぁ、うん」
「そうか、じゃあ明日もここで」
と、レインはいつの間にかエルとの約束をしていた。
お、おお…ザ・強引だな…
私しーらないっと。
いや、そんな…そんな助けを呼ぶような目で見られても私は助けな……ああ、もう!
「エル様はいつもやっていることがあるのでは?」
にこやかに、完全なる作り笑いをして言う。
「うん、まぁね。不定期だから日付も突然なんだ」
「明日もあるのか?」
…ど、どうしよう…悲しそうな顔をするレインを見てたらいじめてるみたいな気持ちになってきた…!
「あー…明日は…ないかな!マリーナの明日の予定は僕のことだし、別にここででもいいんじゃない?」
私と同じくエルもいじめっ子になった気になってしまったんだろう。…しかし、なぜ私を巻き込んだ!!
君と違って私は命がかかってるんだよ!?
「あー…はい、そう…ですね(後でゆっくり話し合おうか?私の命について)」
私は、恨みを込めたエルに視線を送り、にっこりと笑ってそう言う。ついでに心の声をテレパシーの要領で送ってやった。
魔封じは、魔力を封じ込むものだが、全部が封じ込めるわけではなく、漏れ出した魔力は多少使えるようだ。図書館で魔法について調べていたときに、そういうものを色々覚えていたのだ。
…秘技、裏技!!
「食堂で食べるのもいいものだね〜(俺1人に任せようとするな、道連れだ)」
エルも笑いながら、そう言い、私にキッと睨みを利かせた視線を送る。
道連れだって!?エルよりも私の方がリスクが大きいのに!!
てか、テレパシー使えたのかっ!どうせ貴族だから家庭教師にでも習ったんだろうなっ!この金持ちめっ!!
「そうだな。それは俺も同感だ」
うんうん、と頷きながらそう言うレイン。ここで私は否定の言葉を…
「もちろん、マリーナも来るよね…?」
……っ!
「もちろんですわ!!」
否定して、そのままに食堂には来ないつもりだったのに!!
あんな可愛いエルを見て断れるわけない…!!
「そうか!では、明日を楽しみにしている」
レインは嬉しそうに笑いながら、そう言う。
…これで、逃げ道は潰えた……。
私はもう逃げることを諦めて、好感度の上昇を抑えるのに専念することにする。
…さて、そろそろ解散の時間かな…時間だろう。
私が、口を開いたその時、
「レイン様。そろそろお時間が…」
後ろからそんな声が聞こえた。後ろを向けば、燕尾服を着た男が立っている。
レインにそう話しかけたってことは…
「ん?ああ、そうだな。じゃあ、エル、マリーナ。また明日」
あれはレインの執事か…。みんないるもんね……。
レインの言葉に、私はごきげんよう、と言い、エルはばいばーい、と手を振って別れた。
…ごきげんようで合ってたかな…。
私は、言った後に、モヤモヤそんなことを考える。
ってあれ?
「そういえばエル様の執事様はどうされました?」
レインの執事が来てるのに、エルの執事はきていない。
私の執事さんはそのままいるしね。…帰られると、道に迷って帰れなくなるからね…。
「ああ、僕は部屋の掃除を頼んでおいたからね。迎えもいらないって言っておいたし」
なっるほど!その手があるのか!
「へぇ、そういうことでしたか。では、私もお先に失礼いたします」
私は、愛想笑いを浮かべ、エルに言う。
その時、
「明日の朝5時。最初にあった場所で」
小声でエルにだけ聞こえるようにそう言った。
「うん、じゃあね〜」
一瞬、表情を消し、私を見て、すぐに笑顔を向ける。そして、ばいばーいと手を振るエル。…か、可愛い…。
よし、伝わったな。明日しっかり話さねば。
私は、そんなことを思いながら、ルイさんに目配せをし、出口へ向かう。
ちなみに、朝の5時も、そんなに早いわけでもない。生活時間が、すべてにおいて前世よりも早いのだ。
私は徹底的にのんびりと、をモットーにしていたので、非常にやりにくい。…実は今でもとか言わないんだから。ちょっと遅めなだけなんだから。
別に朝弱くなんてないんだから!
…部屋に戻ってお風呂に入り、ふかふかのお布団で寝ます。
今日、気づいたこと。
ルイさんがハイスペック!!