9
入学式が終了後、全員にクラス表が配られた。
私は…Bクラスか…あっ、エルと一緒だ!おお?レインもいる!?
こ、これは…回避できないレインの出会いイベントですね。というか、もう出会ってるけど。
他の攻略対象者は、Aクラスなので出会いイベントといえば、中庭だったり、階段だったり、廊下だったり…つまり教室の外なのだ。
ということは…
回避可能!!
全身全霊で回避します!!
絶対私の元に現れるなよ、Aクラス!!
ーーーーーーーーーー
「っな!お前!」
そうでした。Aクラスばっか考えてもう忘れてしまってた。
Bクラスにはレイン・カルディがいるんだった。
というか、私を指差して声を上げるのはやめて。周り見て。すごく目立ってるから(主に女子から)
なんなの、あの女。レイン様と親しげに。って聞こえてきてるから。
私喋ってないのになんで親しげ…?
「あー…久しぶり…でございます」
普通にいこうと思ったら女の子達に睨まれた。…怖い。
「?堅苦しいのはいい。昔も言っただろ?」
やめてぇぇええ!
庶民っていうだけでもいじめられる要素あるのに、レインと昔からの知り合いなんて、女の子達になんて言われるか…!
私は友達が欲しいんです!!
「…いいえ、私は一庶民、あなたのような貴族にタメ口で話すなど出来ません」
私はあなたが察しがいいと信じてる。だからどうかこれでわかって。貴族を呼び捨てなんて周りになんて言われるか!
「?昔からタメ口だっただろう?」
……。
「…私などと話す暇があるのであれば、勉強の一つでもなさったらどう?」
私は抑えきれない怒りとともに、冷たくそう言い放つ。
まずい、言葉が乱れた。
そう思いながらも、私はこれ以上目立つのはゴメンだと、教室をさっさと出てしまった。
……
なんでこうなるのぉぉおおお!!
私は全速力で走り、逃げる。やがて体力が尽きて、止まった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
走ったせいですごくしんどい。疲れた……。
…とっさに逃げてきたけどこれ1番入りづらいやつじゃん。それに絶対先生来てるじゃん。……最悪だ……。
私は、絶望にかられながらも、どうしようかと思案する。
そんな時、
「なにしてるんだ?」
と、とってもかっっっこいい声が、聞こえた。
…こ、この声は……
「今は自己紹介中だろう?抜け出してきたのかい?」
優しい笑みでそう問うのは、エディッタ・マオーラ。
なんでこんなところで出会いイベントが発動されるの…!
私は己の迂闊さを恥じ、どうするべきか考える。
「…あ、み、道に迷いまして、あ、私、マリーナ・アディソンと申します。えぇっと、あなたは…」
困ったように(割と本気で)そう言い、彼の返答を待つ。
もちろん名前は知ってますよ?でもね、聞かないと不審でしょう?
「君、僕を知らないのかい?一応、貴族界では有名なはずなんだけどなぁ」
聞いたほうが不審に思われたぁ!!
「あ、私はしょ、庶民の出ですので…申し訳ありません」
多少噛みながらも私はそう返す。
非常にまずい。自己紹介をしたのは私で、名前を求めているのも私。
全部私の行動によってイベントが成立されつつある…!
「そうなのか、君が噂の…ああ、僕はエディッタ・マオーラ。同学年だ、仲良くしよう。僕のことはエディでいい」
笑顔でそう言う、エディ。もちろん心の中では遠慮なく呼ばせていただきますよ?心の中ではね?でもね、リアルでそうはいかないんです…!
「いいえ、あなたは公爵様。私ごときの庶民が呼んでもよろしい名前ではありません」
私は背筋を伸ばし、そう告げる。よし、言ってやった!これで去ればとりあえずイベントが終わり、避けまくれば好感度が上がることもない!
しかし。
現実はそう上手くはなかった。
「…へぇ、君、僕が公爵位って知ってるんだー…おかしいねぇ、名前は知らないのに、爵位だけを知ってるなんて」
目を鋭くさせ、そう言うエディ。
こっわ!!
「っ!いいえ、名前は存じあげませんでしたが、家名を知っておりまして…」
私は目をそらしながら、そう言い訳する。
「…ほぉ、そうなのか」
と、納得はしていない様子だが、そう言って話を終わらせた。
「そ、そういえば!エディッタ様はどうしてこんなところに?自己紹介中、というのはお互い様では?」
これ幸運とばかりに、私は思いっきり話を逸らす。
「ああ、面倒くさいので出てきた。君は…AクラスにはいなかったけどBクラス?それとも道に迷って辿り着けてないだけでAクラス?」
私は話を逸らせたことと、そこからの話題転換にホッとしながら、エディの質問に答える。
「あ、私はBクラスです。…でもどうしてAクラスかBクラスだと?」
クラスは全部でEクラスまである。クラスの分け方は、一に魔力、二に学力、三に礼儀…となっており、それと同時に実は爵位も少し関わっているそうだ。
なので、庶民はEクラス、という共通認識がある。よって、AクラスかBクラスという考えは少しおかしいと思ったのだ。
「そりゃあ、これでも公爵位を持っているのもの、目を肥やしてるってことさ」
エディはそう言っていたずらに笑った。
……くっ!!
さすがはイケメン、こんな姿もかっこいい!!
「…あ、そろそろ行かないとね」
エディはそう言いながら、Aクラスの方向を眺める。
「そうですね。私のようなものに時間をとっていただき、ありがとうございました、エディッタ様」
私は精一杯の一礼をしてそう言う。
「うーん、固いんだけどなぁ…まぁいいや。こちらこそ話に付き合ってくれてありがとう。それじゃあ」
苦笑してエディはそう言い、手を振りながら歩いて行った。
…ふぅーー……
疲れた。まだ1日すら経ってないのに疲れた。
出会いイベントが多すぎる。
これは危険だ。もうプライドを捨てて命を取ろう。
今すぐ教室に戻ろう。
私はそう思いながら、Bクラスの教室の方へ体を向け、歩き始める。
あー…、行きづらい。
私は精神的疲労を感じながら、教室に向かった。