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魔女の迷宮への挑戦編 その6『もう、お姉ちゃんはこんな時に……』

 地下三階はこれまでと違いただひたすら真っ直ぐなトンネルが続いていた、エターナ達はそんな通路をかれこれ三十分は歩いているが、出口はおろか曲がり角すら見当たらない。


 「……こいつは、まさかな」


 リムも流石に不審に思い始めたときに隣を歩く白い狼姿のフェリオンが険しい顔で呟いたのに、アインも「ええ……これは、おそらく……」と相槌を打つ。

 

 「フェリオンさん? アインも、どうしたの?」

 「リム、何か文字を書くような物を持ってないか?」

 

 フェリオンは質問に答えずにそんな事を言ってくるが、残念な事にリムはそういう物は持ってきていなかった。

 

 「ん? 書く物~? マジックならあるけど~?」

 

 しかし、エターナはそう言うと背負っていたピンク色のリュック・サックを降ろして中をあさり油性の黒いマジックを取り出した。

 どうしてこんな物を持っていたのかを誰も聞かないのは、準備の時にどうせそこらに置いてあったから適当にリュックに入れてみたのだろうと簡単に想像出来るからである。


 「ふむ、ならエターナ、そこの壁に何か書いてみろ」

 「ほへ?」

 「自分の名前でも何でもいいですから、とにかく書いて下さいご主人様」


 アインも言うので意味が分からないながらも、とりあえずマジックの蓋を取り壁際までトコトコと歩き、少し考えてから手を動かし始めた。


 「これでよしっと~~~♪」

 「……”エターナちゃん参上~~”って、お姉ちゃん……〈人間界〉の暴走族とかじゃないんだから……」


 呆れ顔になるリムにフェリオンが「よし、行くぞ」と言ってさっさと歩き出したので、「……ちょ、待ってよ」と慌てて追いかける。

 そしてアインも無言で歩き出せば、リュックにマジックを仕舞って再び背負ったばかりのエターナも後を追った。


 「ちょっと! フェリオンさん……?」

 「言いたい事は分かるが、黙ってついて来い!」


 フェリオンにそう厳しい口調で言われれば何も言えなくなるリムであり、エターナも不満そうであったが従うのは、ついて行けば分かるだろうと何となく思うからだ。

 それは二人がフェリオンを、そしてアインをいかに信用し頼りにしているかという事である。

 そうして更に三十分程歩いた後でリムの顔が驚きに変わったのは、見覚えのある文字が壁に書かれていたからだ。


 「ちょ、これって……」

 「ほへ~~? あたしがさっき書いたのよねぇ?……何でかな~?」


 漠然と感じていた不安が大きくなっていくリムと、まったく状況を理解していないのかどこか呑気な声のエターナ。


 「やはりな、無限ループか……」

 「無限ループって……そんな……」

 「ほへ~むげんるーぷ~?」

 「要するにいくら歩いても先に進めずにずっとおんなじ場所をグルグルさせられるって事ですよ、ご主人様」


 フェリオンの口にした言葉の意味に愕然となる魔女の少女と、まったく理解出来ずに使い魔の黒猫に説明してもらうどこか情けない彼女のお姉ちゃんである。

 それでようやく状況が呑み込めたエターナが「……て~! それって大変じゃ~~ん~~~!!」と声を上げれば、ようやく理解出来たかと言いたげに溜息を吐くのに、こいつといると呆れて溜息を吐いてばかりだなと思うフェリオンだ。


 「そんな……どうしよう?」


 リムが困惑した表情でフェリオンに尋ねるが、彼も「さあな、まだ分からん……」としか言いようがない。


 「魔女のゲームのルール上は絶対に攻略方法はあるはずですが……」


 アインも何の手がかりもない現状ではそれだけ言うのが精一杯である、無論ゲームである以上はリタイアを宣言すれば助けてはくれるだろうがそれを口に出さないのは、ここまで来たら是非とも二人に最後まで行ってほしいと思うからである。

 だんだんと緊迫してきたその空気の中にぐ~~~~~という緊張感のない音が響いたのはその時だった。

 リムとフェリオン、そしてアインがその音の出所へと視線を集中させると、「てへへへ~」と少し照れた顔で笑うエターナの顔だ。


 「もう、お姉ちゃんはこんな時に……」


 そんな事に脱力し緊張感がなくなれば、そういえばと自分の空腹を思いだすリム。


 「まったく、お前って奴は……」

 「まあまあ、ご主人様らしいですよフェリオン? そうですね、ここらで食事にしましょうか、確かトキハ様がお弁当を用意してくれたと言っていましたね?」

 「うん、そだよ~~♪」


 家事の一切を使い魔のユリナに任せているからトキハが家事が出来ないという事ではない。


 「フェリオンさん……」


 エターナはすでにリュックの口を開き中を弄り始め、リムには懇願するかのような目で見つめられれば何も言う気はないのは、彼とて別に食事の大切さを理解はしていないわけではないからだ。


 「まぁ……焦ったところでどうなるものでもないからな」

 




 迷宮の探索中であっても食事や休息は当然必要だとはラヴィ・リンスも理解してはいる、理解はしていても「こやつら……何とも呑気な事を……」と言ってしまう。

 その理由は、遠見の魔法の媒体にしてる大画面のテレビに映った映像にある。

 石の床にレジャー・シートを敷き、その上に重箱を広げてそれを囲む銀髪の魔女の姉妹と人型に変身した使い魔達の光景である。


 「……まったく、ピクニックじゃないんだぞ……」


 流石にこの展開は予想しなかったフェリオンのそんなぼやきは、まさにラヴィの感想そのままであった。

 そんな事など当然知る良しもないフェリオンが「……で、どうする気だ?」と誰にともなく問いかけて、「……ほふぇ? どーするって?」と答えたのは手にしたおにぎりに今にもかぶりつこうとしたエターナだ。


 「あのなぁ。 まさか、ず~~とメシを食ってるわけにもいかないだろうが!」

 「そ~なんだけどねぇ~……どーしよっか?」


 明らかに何も考えてないだろうエターナには聞いても無駄だろう事は分かっているので彼女の妹の方を見るフェリオンに、卵焼きをお箸で掴もうとしていたリムは少し困った顔になる。

 その表情につい食事に夢中になり現状を忘れかけていたかと分かるが、それも仕方ないとも思うのは、空腹の年頃の少女が美味しい料理に勝てるとは彼も思わないからである。


 「……リム、お前はこのループの通路をどうやったら抜け出せると思う?」


 それでも今後の彼女の成長のためには聞いておかなければいけない、困難な状況であっても自分の頭できちんと考え判断出来る力というものはとても大事な事なのだ。

 使い魔のその問いにリムは考え込むが、これといった考えは浮かんでこない。  

 「前にも進めず最初の場所にも戻れない、リム様がゲーム・マスターならその”解決策”をどこに用意しますか?」 


 黙りこんでしまったリムにアインが助け舟を出したのを、余計な事とはフェリオンは思わない。

 少し考えてから「……私なら……この通路のどこかだと思う」と答えた。

 例えばこの現象の原因がこのループの通路を抜けた先にあるなら絶対にゲームはクリア出来ないのでありえないし、このループに入る前、ひとつ上の階層にあるのであればそこまで戻る事も不可能というのはいくらなんでも意地が悪すぎる。


 「ならば、どうする?」

 「……このトンネルの壁とか床とか、そういう所を調べてみるべきかなぁ……」


 まだ半信半疑という様子だが今度はフェリオンの問いに答えたリムに「つまりはそういう事だ」とフェリオンは言い、アインも嬉しげに微笑みかける。

 それで二人の意図を理解したリムが「……あ!」となる。


 「う~~~~~? つまりはどーゆーことなのよ~~!」


 一人だけまだわけの分からないエターナは自分が仲間はずれにされているようで面白くなく拗ねた声を出したのに、やれやれという風に顔を見合わせる使い魔の二人。


 「それくらいは自分で考えて下さいね、ご主人様」


 どこか意地の悪そうな笑い顔でアインが言うのに、ますますわけが分からなくなるエターナだった。





 「アスター! アスター・ロット!」


 画面に映るエターナらをソファーに腰掛けて眺めていたラヴィが大声で名前を呼べば、天井から黒い鳥の羽根がパラパラと降ってくる。

 次の瞬間には落ちてくる羽根の量が一気に増加し、それらはまるで意思を持っているかのように集まって黒い人型をとり執事風の男へと変わる。


 「……お嬢様、お呼びでしょうか?」

 「あやつらを見てたら腹が減った、軽いもので良いから何か用意せい」


 主人である”迷宮の魔女”の命令に、使い魔であるアスターは少し困ったような表情になる。


 「しかし、お嬢様……私は最終対決のための準備があるのですが?」

 「構わん! どうせ、あやつらはしばらく動かぬよ」


 見てみよという風にテレビの画面に顎をしゃくってみせるラヴィ、怪訝な顔をしながらもその通りにしてみて「……ふむ、そういう事ですか」と納得するアスターだ。


 「では、お嬢様。 しばらくお待ち下さい……」


 主人に恭しくお辞儀をしたアスターの身体が黒いシルエットに変わると、次の瞬間に一気にはじけて無数の黒い羽根が宙を舞った、その羽根達がすべて床に落下して幻めいて消滅したその後には、アスター・ロットの姿も気配も完全に消えていた。


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