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魔女の迷宮への挑戦編 その4 『う~~~何て姑息な奴~~~!!』



 地下二階に降りたエターナ達、そこはドーム球場めいた円形状の空間でリムの光の魔法がなくとも全体を見渡せるくらいに明るい場所だった、

 そしてその中心辺り立つ一人の男、身長は平均的な成人男性くらいだが赤褐色の肌や大きく尖った耳、そして背に生えた翼などから明らかに人間ではない。 


 「くっくっくっくっ! 良く来たな、俺の名はコ・ソック! 見てのとおりの悪魔だっ!!」

 

 まだ入り口を出てきたばかりのエターナらとは距離があるためか大声で名乗るコ・ソックに対し「……何かみょーなのがいるわね~」と姉が小声で呟けば、「そうだね、お姉ちゃん」と妹のリムが言ったのは、当人には聞こえるはずもない。


 「ここのルールは簡単だ、この俺を倒してこの鍵を手に入れて奥の扉を開けれれば先に進めるぞ!」

 

 言いながら服のポケットから取り出した金色の鍵を見せつけてくる。


 「おっけ~あんたをぶっとばせばいいのね~! やってやろうじゃん~~《エターナル・ピコハン》~~~♪」

 

 左腕の《エターナル・ブレスレット》を自身の身長程もある大きなピコハンに変えると前に進み出るエターナ。

 それを見たコ・ソックは口元を歪めてニヤリと嗤うと鍵を元のポケットに仕舞ってから「だが、しかしっ!」という声と共にパチン!と指を鳴らした。

 その音に反応したかのようにエターナ達からみて左右の壁の一部が音を立ててスライドし人が一人通れる程の四角い穴が空いた、それは一箇所づつではなく左右あわせて十箇所。 

 更にそこから「イィィィイイイイイイッ!!!」という声と共に全身を黒いタイツで覆われた怪しい男達が跳び出して来たのである。  

 

 「うげっ!!?」

 

 その数は約五十人づつ、左右で合計して百人程である、これには流石に驚きの声を上げるエターナ、困惑した顔で左右それぞれを見やる。

 それからコ・ソックへ向き直ると「だ~~この卑怯もん~~~~!!!!」とピコハンを振り上げて抗議の声を上げた。

 

 「馬鹿めっ!! 戦いとは勝てばいいのだよ、そんな事もわからないとはまだまだ子供という事だっ!! お前達の相手はこの百人の手下とこの俺なのだよ!!」

 「う~~~何て姑息な奴~~~~!!」

 

 勝ち誇った顔のコ・ソックだが、相手にしているのが駄々っ子めいて地団太を踏む十歳程度の容姿の女の子なので、大人気ないと言うか実際小物っぽさ溢れる光景である。

 

 「流石に百対四は不利よねぇ……どうしようか?」

 

 白狼と黒猫、自分と姉の使い魔にそう尋ねつつも、エターナならどういう選択をするかというのはだいたい予想はついている。 

 それはフェリオンとアインも同じようで悪の組織の戦闘員めいた男達をそれぞれに見据えているのは、どの程度の実力かというのを計っているようにリムには見えた。

 

 「……どうだ、アイン?」

 「何とかなりそうではありますね、フェリオン……」

 

 そんな会話に自分の予想が当たっていたと確信する。

 

 「うがぁ~~~!! こうなりゃ百人だろうが二百人だろうがまとめてぶっとばしちゃるわ~~~~~~!!!」

 

 後ろにいる妹達の声などまるっきり耳に入っていないエターナは、どこからでもかかって来いと言わんばかりに《エターナル・ピコハン》を構えるが、コ・ソックはいきり立つエターナを静止するかにように右の手のひらを前に出し「だが、しかしっ!!」と言う。

 

 「……ほへ!?」

 「この俺も悪魔ではあるが鬼ではない! このまま素直に回れ右して引き返すなら大人しく見逃してやろう!!」

 

 彼とて魔女の少女らを殺そうとは当然思っていないが、ゲームの障害としてきっちりと仕事を、不本意ではあるが相手が女の子でもこの百人の戦闘員を持って攻撃しなければならないのである。

 だから、この降伏勧告も油断させるための嘘とかではないのだが。

 そんなコ・ソックはどちらかと言えば小物の部類に入るが、決して悪人ではないのだが。

 

 「……む~~? 信用して良いんだが良くないんだか分からない言い方するわねぇ……?」

 「確かにね……」

 

 エターナとリムの二人の魔女に疑惑の眼差しを向けられてしまい、「失敬なっ!!!」と言い返した。

 

 「だったら、どうするんだ?」 

 

 その時、エターナの前に進み出たフェリオンがそう問うその横にはアインもいた、

 彼女も決断を求めるかのようにエターナを、次にリムを見る。

 

 「決まってるでしょう~あいつをぶっとばす~~~!!」

 

 一片の迷いも無く答える姉にリムも苦笑しつつ、「……だって?」と肩を竦めた。

 

 「……了解だ」

 「承知です!」

 

 主人らに頷くと同時に二人の使い魔の身体を黒い闇が包み込み、瞬時に巨大化してから霧散した後には黒猫と白狼の姿ではなくではなく人型に変わったアインとフェリオンの姿。

 

 「私の名はアイン! ご主人様の命によりあなた達を成敗しますっ!」

 

 リムよりやや小柄で黒いメイド服姿、ややクセッ毛のある黒いショートヘアの頭には猫の耳があり腰から尻尾も生えてる。 

 その両手にはそれぞれにダガーが握られてルビーめいた紅い瞳でこれから狩るであろい獲物達を見据えている。

 

 「俺はフェリオン! この姿に戻ったからにはただで済むと思うなよ、お前ら!!」

 

 三十歳前後に見える二メートル近いがっしりとした体格のフェリオンは、銀色の鎧で身を固め、重そうな片刃のグレートソードを片手で持ち上げている。 

 いくつもの修羅場を潜ってきたようにも思える精悍な顔付きだが、その頭部にはアインやユリナのような獣の耳のようなものも見られず尻尾も無い。

 

 「…………って! こら~~~こいつらはあたしがぶっとばすんだから~~~~~~~!!!!」

 

 いきなりの事に僅かな時間キョトンとなったエターナは、自分の代わりに彼女らが戦おうとしている状況を理解し抗議の声を上げた。 

 そんな主人を振り返り「……まあまあ、ご主人様はさっきがんばったんですから、今度は私達に任せて下さいよ」と言ったその顔は駄々を捏ねる妹をあやしているお姉さんのそれである。  

 確かにどちらかと言えば集団殲滅向きのエターナではあるのだが、いくらなんでもこの数は無理だろう、かといってエターナを含む四人で戦うと敵と一緒に自分達も彼女の魔法で被害を被る危険があるのだ。

 

 「そういうこった! 俺も偶には暴れないと身体がなまっちまうしな!」

 

 使い魔の二人がそんな事を考えてるなどとはまったく思い付きもしないが、フェリオンが言うのにもまだ納得できずに「う~~~~?」と唸るエターナの肩を妹の少女がポンと叩くと、優しく微笑みかけたみせた。

 

 「……う~~~~分かったわよぉ……」

 

 渋々という様子で納得すると、二人は再び敵の方へと視線を戻しす。

 

 「さてと、俺は右をやるぜ?」

 「なら、私は左ですね……ボスはどうしますか?」

 

 予想外の展開にまだ唖然としているコ・ソックを指してアインが言うと「そうだな……先に片側を全部倒した方がってのはどうだ?」とにやりと笑うフェリオン。

 

 「いいですね、それはっ!」

 

 アインとフェリオンが地を蹴って左右に分かれ駆け出すのと、やっと我に返ったコ・ソックが「……な、何だかわからんが……全員戦闘開始だっ!!」と命令を発するのはほぼ同時だった。





 魔女がその気になれば瞬時にテレポートめいた移動も可能であるが、屋敷内の移動にそんな横着をトキハはしない。 

 いや、彼女だけでなく余程の緊急事態でもない限りはそんな事に魔法の力を使う魔女はいないであろ。

 それは、魔女であっても身体を使わないでいれば少しづつ衰えていくからであり、魔法という便利な力に頼りきりになるのを自堕落だと考えるからだ。

 使えるから使う、出来るからやるのではなく、使うべき時ややるべき時をちゃんと見極めるのが大事なのだ。


 「……さて、あの子達は今は何をしているのかしら? 楽しんでいるといいのだけれど……」


 二階の廊下を歩いていたトキハがふと立ち止まり、何気なく窓の外の景色をその金色の瞳で眺めながら呟いた。





 

 攻撃命令を受けた戦闘員達がようやく動き出せたのは、数十メートルの距離をフェリオンが一気に駆け抜けて戦闘員との間合いを詰めた時であったのは、彼の脚の速さのためである。 

 武器を持たずに徒手空拳の黒タイツ男軍団が「イヤァァァアアアアアアッ!!!!」という掛け声を響かせて一斉に襲い掛かってきてもフェリオンは怯まない。

 

 「おらぁっ!! この《白狼の牙》の餌食になりたい奴から前に出ろやっ!!!!」

 

 逆に恫喝と共に柄を両手で握った《白狼の牙》を振るい一度に数人の戦闘員を薙ぎ払う、力任せのその一撃に「「「「アイヤァァァアアアアアアッ!!!?」」」と悲鳴を上げて呆気なく吹き飛ばされる戦闘員達。

 

 「「「「マダマダヨォォォオオオオオッ!!」」」

 「おう! まだまだだぜっ!?」

 

 間髪入れずに新たに迫って来る数人の敵を再び薙ぎ払うと背後から奇襲をかけようとしていた連中に回し蹴りを食らわせて倒す。 

 一方、フェリオンとは反対方向へ走ったアインは彼の力溢れる攻撃とは違い舞うような動きで双剣を扱い次々と敵を打ち倒していく。

 

 「このアイン! 伊達に《黒牙の双刃》を持ってはいない!」

 「「「アイェェエエエエエエエッ!!!?」」」

 

 フェリオンの《白狼の牙》による一撃程の威力は小柄なアインの双剣にはないが、代わりに瞬間移動めいたすばしっこさで脇腹のような箇所を的確に攻撃して一人一人確実に倒していく。

 

 「チェストォォォオオオオオッ!!!!」

 「……!!?……はぁっ!」

 

 倒れていく戦闘員の後ろからの別の敵の強襲に不意を突かれたアインは、まさに猫めいた身軽さで跳び上がるとその男の頭を踏みつけてから更に跳ぶ。

 

 「ウォレェェエエヲフミダイニィイイッアベシィイイイイッ!!!?」

 

 そして空中で縦にクルリと一回転するとブーツを履いたつま先を顔面に叩き込んで倒した。

 そんな調子で次々と倒されていく手下の姿を呆然と眺めていたコ・ソックはふと我に返ると思わず「ちょっと待ていっ!!! お前らチート過ぎるだろぉぉおおおおおおおっっっ!!!!!!」と絶叫する。

 

 「お~~そこだ~~いっけ~~~♪」

 

 一方で圧倒的な強さに無邪気に興奮した様子で応援するエターナ、その脇に立つリムもいくらか興奮しているのは自覚しながらも、頭の一部では冷静な思考が働いていた。

 これまでも彼らの戦闘は見てきてその自分達などを遥かに凌駕する力を目のあたりにはしている。 

 だからこそ、そんな二人がどうして自分達の使い魔なんかをやってくれているのだろうといつも疑問に思うのだ。

 例え、フェリオンとアインを自分と姉の使い魔にしてくれたのが”夢幻の魔女”のトキハであってもだ。

 そうしている間に残った戦闘員は左右に一人づつとなり、フェリオンとアインの攻撃はほぼ同時に決まった。

 

 「……安心しな!」

 「峰打ちですよ……」

 

 残った二人も倒れ、これで戦闘員は全員地に倒れ伏して気絶し残りはコ・ソックただ一人となる。

 

 「お、おのれぇ……!!!!」

 

 そのコ・ソックはワナワナと身体を震わせた後に怒りを込めた目でエターナをにらみつけ後に「こうなればせめて一太刀ぃぃいいいいいいいっ!!!!!」とやぶれかぶれの叫び声を上げて飛んだ……もっとも、剣どころか武器は何も持っていなのではあるが。

 

 「……わっ!!?」

 

 いきなりの事に驚きの声を上げるエターナの武器である《エターナル・ピコハン》は、すでに《エターナル・ブレスレット》に戻って彼女の左腕に嵌っていた。

 

 「ご主人様っ!」

 「エターナ!」

 

 走るのではなく低空飛行をするコ・ソックの接近速度は速く、アインやフェリオンでも間に合う距離ではなかった……が、彼がエターナに掴みかかろうとする寸前でその顔面にバキッ!という鈍い音と共に何かが打ち込まれ、「アギョェェエエエエエッ!!?」と情けない悲鳴と鼻血を撒き散らせながら吹き飛んだ。

 

 「……ほへ?」

 「……まったく、見苦しい男は女の子に嫌われるわよ!」

 

 万が一を予想し用心はしていたため素早く腕輪から変形させる事が出来た《デス・サイズ》の柄の一撃で無様に仰向けに倒れ身体を痙攣させるコ・ソックを、リムは暮れ顔で見下ろした。

 

 「お~~~リムすごい~~~~♪」

 

 そのリムに感心したという笑顔でパチパチパチと拍手を送るエターナであった。 

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