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魔女の迷宮への挑戦編 その2 『お~し、やってやろうじゃん~~~!!』

 高層ビルめいた高さでそびえ立つ城壁の唯一の入り口に立ち塞がるビッグ・ガーダー、彼を倒さない限りは先に進めないという事実はリムにとってはいきなり絶望的状況であった。


 「流石に……無理な気がするんだけど、フェリオンさんはどう思う?」


 三メートル近い巨体を頑丈そうな鎧で覆われ並大抵の攻撃は通用しそうにない、そんな重そうな鎧に身を包み更には一振りでニンゲンの身体を叩き潰せそうな巨大な斧を片手で持てるのだから、パワーも相当なものに違いない。


 「……まあ、俺とアインとお前の三人でも相手にならんとまでは言わないが……厳しいな、素直に撤退した方がいいだろうとは言っておく」


 エターナの名前がないのはファリオンが彼女を戦力として考えていないからではあるが、それは非力であるからではなく力はあっても加減やコントロールを出来ない味方というのは並大抵の敵以上に危険だからである。

 

 「……そうねぇ」

 

 白狼の提案にリムは思案する、あくまで魔女のゲームであり相手は守護者であるからゲームを放棄した挑戦者を追ってまで殺すようなことはしないだろう。 師匠であるトキハとて勝ち目の無い相手から逃げ出したとて責めたりはしないとも思う。

 とはいえど、のっけから戦いもせずに逃げだすというのも何だかみっともない気もした、だからどうしたものかと迷っていたのだが、「よーするにあんたをぶっとばせばいいのね~! お~し、やってやろうじゃん~~~!!」と勝手にやる気満々で宣戦布告する姉の姿に「はぁ……もうちょっとは考えようよ、お姉ちゃん……」と呆れた顔で溜息を吐くしかなかった。

 

 「……まぁ、こうなるか……」

 「ご主人様ですからねぇ……」

 

 何となくそんな気はしていたフェリオンとアインの二人であるのは、怖いもの知らずで売られた喧嘩は買ってしまうエターナと、そんな姉の無茶苦茶に振り回され迷惑しても結局は放っておけない姉妹の性格を良く知っているからだ。

 

 「がっはっはっはっ! よくぞ言った娘よ!!」

 

 自分を前にしても臆する事のないエターナの度胸を気にいったとでもいうかのように豪快に笑うビッグ・ガーダー。

 

 「だが、安心しろ。 我とて大の大人、お主らのような子供相手に本気になるような事はせぬ。 そうだな……」

 

 顎に左手を当てる仕草をするビッグ・ガーダーに、何だか妙な展開になるような気がしていたリムと二人の使い魔である。 ちなみにエターナはそんな事に思いをめぐらすという事は出来ずに、何だろうがやってるわよ~とでも言いたそうな顔である。

 

 「こうしよう、お主らに一回づつ攻撃のチャンスをやろう。 その時に我は防御はするが反撃も回避もせぬ、そしてその攻撃で我に悲鳴を出させたらお主らの勝ちだ!」

 

 何となくそんな気はしていても、やはり妙な展開になると咄嗟に反応できなくキョトンとしてしまう三人である。

 

 「ほへ?……それって、つまりはあたし達があんたをぶん殴って”アイエェェエエエエエ”とか言わせればいいって事?」

 「別に”アイェェエエエ”でも”ギョエエエエエエ”でも構わん、とにかく悲鳴だ。 それに別に打撃攻撃ではなく魔法を使っても良いぞ?」

 

 そして、こんな展開になっても何でもない事のように会話を続けるエターナは、「おっけ~~やってやるわよ~~~~♪」と右の握り拳をパンチめいて前に突き出す仕草をしつつ元気な声を上げるのだった。





  午後ののんびりとした時間に庭園の白い丸テーブルでティータイムをするのは、”夢幻の魔女”のトキハの楽しみのひとつだ。 そのトキハのいる白いテーブルにはティーカップに注がれた温かそうな紅茶とお茶請けのクッキー、そして古めかしい黒電話が置かれ、彼女はその受話器を耳に当てていた。

 

 『まったく、今回こそはそなたを唸らせるようなゲームにしてやろうと思ったのに……そなたではなく弟子を赴かせるとはどういうつもりか、トキハよ?』

 「いいじゃないの、私ももう歳だし……それにあの子達だってそう甘く見たものではないわよ?」

 

 外見は二十代後半のトキハが耳に当てている受話器から聞こえるのは若い女性の声である、別に何の事もないこの光景に違和感があるのは、本来であれば電話機から伸びているはずの電話線がないからであろう。

 しかし、それも当然だ、電話会社も存在しない〈幻想界〉で〈人間界〉のものと同じように電話が使えるはずもない。

 今トキハが使っているのは〈人間界〉で使われていた古い電話に魔法的な処置を施して通信機器としているもので、原理としては魔法使い同士が水晶玉を介して会話しているのと同じようなものである。

 何故そんな事をと思うかもしれないが、それは単に趣味趣向の問題でしかない。

 

 『あのなぁ……妾とて別に誰かを殺そうというつもりはないが、それでも確実な命の保証は出来んのだぞ?』

 「それもちゃんと言ってはあるわ、でもあの子らなら大丈夫よ、きっとね」

 

 楽しそうな口調で話すトキハに、どこからそんな自信がくるのやらとでも言いたげな溜息を吐くのが受話器から聞こえた。

 

 『……まぁ、よいわ。 そなたの弟子のお手並み、拝見させてもらうわい……』

 「うふふふふ、楽しみにしてていいわよ? ラヴィ」




 

 ビッグ・ガーダーに一撃だけ加えて悲鳴を上げさせれば勝ちという条件の勝負で、まずはリムが攻撃をする事になったのは、単にジャンケンの結果である。

 

 「……とは言っても、どうしたもかなぁ……」

 

 不安そうな声を出しながら右の手のひらで自分の左手首に嵌っているブレスレット に触れる、それはエターナのものと同じ《エターナル・ブレスレット》だった。 姉妹で一つずつお揃いの物をトキハから貰った物である。

 

 「まあ……やってみるしかないか……《デス・サイズ》!」

 

 持ち主の魔女の言葉に反応し光となった《エターナル・ブレスレット》が変化した形状はリムの身長よりやや長い大鎌であった、その名のように死神の持つそれを連想させる《デス・サイズ》を慣れた手つきで二、三度振ってから構える。

 緊張した面持ちで敵を見据えるリム、こうして互いに武器を持ち数メートルの距離を空けて対峙していると相手の巨体が更に大きく思えた、そんなリムの様子に何かに思い当たったかのように「む?」という声を出したビッグ・ガーダーは、次の瞬間には手に持った斧を地面に放り投げた。

 

 「……?」

 「すまんな、反撃はせんと言ったのにこちらが武器を持っていては仕掛け辛かろう?」

 「それは……お気遣いどうも……」

 

 言いながら腰を僅かに沈める、武器を手放したとはいっても相手の体格と予想される腕力を思えば素手でも致命傷を負わされかねないので決して安心出来るものではないが、こうなればやるしかないだけだと覚悟を決める。

 そんな妹の心中を察するという事もせずに、運動会の応援でもするかのように「いっけ~~リム~~~!!やったれ~~~!!」と檄を飛ばすエターナ。

 

 「……いきますっ!!」

 

 気合の掛け声と共に地を蹴って跳ぶ、並の人間の動体視力では消えたようにも見えるであろう速さであったが、それは決してリムの身体能力では出来る事ではない。 

 彼女は姉のように攻撃用の魔法を使う事は少ない、代わりに自らの魔力で身体能力を強化した体術を駆使するのが基本の戦闘スタイルである。

 そしてリムのそれは決してレベルの低いものではなかったが、ビッグ・ガーダーからすれば中の下というところだ、瞬時に左腕を前に出しガードするだけの事は十分に出来た。

 

 「むんっ!」

 「……わきゃっ!!?」

 

 大木でも豆腐めいて易々と斬り裂ける《デス・サイズ》の刀身がキンッ!と甲高い音を響かせて弾かれ、危うくバランスを崩しかけたが何とか着地してみせる。

 

 「ちょ……何て硬さなのよっ!?」

 

 両手に痺れを感じ驚きの声を上げながらも素早く態勢を立て直して《デス・サイズ》を構え直せるのは、日頃に鍛錬と多少なりともある実戦経験ゆえだ。 

 やろうと思えばビッグ・ガーダーがそこへ攻撃を仕掛ける事も出来たが、当然そんな事をはなく、代わりに「まだまだ未熟だが……悪くない一撃だぞ」と言ったのは、ガードをした彼の鎧の左腕に数センチほどのひびが入っていたからである。

 

 「結構本気で行ったのにヒビだけって……どういう硬さなのよ……」

 「ふむ、確かに殺す気の一撃ではなかったか……まぁ、当然だな」

 

 〈幻想界〉で魔女をやっていれば多かれ少なかれ戦いというものは避けては通れないところはあっても、まだ雛鳥と言ってよい少女らが本気の命の奪いをしなければならない程に物騒な世界でもない。

 

 「おっしゃ~! 次はあたしの番ね~~~!! 後はお姉ちゃんに任せなさい~~~~♪」

 

 背負っていたピンクのリュック・サックを地面に置くとタッタッタと軽快な足取りで妹に駆け寄り笑顔でVサインをしてみるエターナ。 

 そこにはリムの攻撃がまったく通用していなかった事に対する不安など微塵も感じられないどころか、寧ろ自信満々という様子である。

 もっとも何か策があるとは思えず、しかし少なくとも負けて殺される事はないだろうとは確信したので「う、うん。 がんばってね、お姉ちゃん」と苦笑しながら後ろへ下がりフェリオンやアインと合流した。

 

 「……ねぇ、お姉ちゃんは何をするつもりなのかな?」

 「さぁな……どうせピコハンの一撃を撃つ込むんじゃないのか?」

 「まぁ……そんな気はしますねぇ……」

 

 フェリオンとアインにそんな事を聞いてみれば、返ってきたのは予想通りの答えだった。 

 考え方も行動もとにかく一直線なエターナはとても行動が読みやすいとは言えるのだが、そのシンプルだが常人とはどこか違う思考回路は何をしでかすか予測不能とも言えた。

 

 「ふむ、次はお主か小さな魔女よ」

 

 リムが下がるのを待ってから、次の相手である銀髪アホ毛の女の子を見下ろして言うビッグ・ガーダー。

 

 「むかっ! 誰が胸の小さなつるぺたな魔女だって~~~~!!」

 「……いや、別にそんな事は言ってないが……」

 

 殺す気はないとはいっても相応に威圧感は放っているつもりなのだが、そんなものまったく感じていないかのようなノーテンキな様子のエターナに少々困惑するが、気を取り直して「さあ! どこからでも掛かって来るがいいっ!」と自分の胸をドン!と叩いた。

 

 「お~し~~! ”時間泥棒の魔女”、エターナちゃんいっくよ~~~!!」

 

 元気な掛け声と同時に駆け足でタッタッタと巨体の鎧男の足元に接近するとにぱ~☆と笑いを浮かべて対戦相手の男の左の太ももに右手を当てたのは、単にそこが一番手が届き易かったからでる。 

 それから「……すぅ~~~~~!」大きく息を吸い込むエターナ。

 

 「【男の子の大事なトコロを思いっきり蹴られた痛みが通常の三倍で起こる魔法】~~~~~~~~~!!!!!」

 

 エターナがいったい何を言ったのか咄嗟には分からずにリムと二人の使い魔とビッグ・ガーダがキョトンとなり訪れる一瞬の静寂……そして、その直後……。 


 「…………むぅ……?…………ぐぎゃぎょげぇぇえええええええええええええええええええええっっぅ!!!!!!」

 

 ビッグ・ガーダーの悲鳴とも奇声ともつかない叫びが響き渡った。

 そうなっても状況を理解出来ずに目を点にしている魔女リムと黒猫アインの女の子組と少し青ざめた顔でビッグ・ガーダーを同情的な視線で見つめる一行で唯一の男である白い狼のフェリオン。

 そして、「おっしゃ~~~あたしの勝ちよ~~~~♪」と意気揚々と拳を振り上げるエターナであった。

 


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