魔女の迷宮への挑戦編 その1『……おじちゃん、誰?」
やっほ~~~♪ 時間泥棒の魔女のエターナちゃんよ~~~♪
今日はおししょ~に言われてラヴィ何とかって魔女のゲームにリム達と一緒にちょ~せんする事になったんだよ~、そのゲームっていうのはラヴィの創った迷路をクリアしろってものらしんだけど……ま~~~何とかなるでしょ~~~ダメならダメでその時はその時よ~~~!!
〈幻想界〉とは人間が住まう〈人間界〉とは違う次元にある世界……平たく言えば異世界のようなものであるが、その空は同じように青く、白い雲がゆっくりと流れている。
森の中にある自宅の庭園に立ちで何気なくそんな空を見上げていた”夢幻の魔女”トキハが「まったく……あなたも無茶をしますね」という声に顔を下ろし背後を振り返れば、そこには彼女の使い魔である金色の髪を後ろで束ねた少女の姿。
「ふふふふ、何が無茶なのかしら、ユリナ?」
「迷宮を創り出し挑戦者を集めゲームを行う……”迷宮の魔女”ラヴィ・リンス卿のゲームにエターナとリムを参加させようなどと……まだ少し早いのでありませんか?」
水色と白のメイド服を身に着けた二十歳程の外見の少女は主人である魔女を多少咎めるかのようなエメラルド色の瞳で見つめる、一見すれば人間と思える姿のユリナであるが、その髪の毛の上には狐のような耳が生えていて腰からも狐の尻尾がある事から普通の人間ではない事が窺える。
「確かに招待されたのは私だけど……大丈夫よ、別にあの子のゲームは命を奪うのが目的ではないわ」
「それは知っていますが……」
ラヴィ・リンスが行うゲームは実際彼女の趣味的なものであり挑戦者の命を奪う事を目的とはしていない、だが命に危険はともなうのも事実である。 それでも挑戦者がいるのはゲームの勝利者には相応の報酬が支払われるからである、その事はラヴィと古い知り合いでもあるトキハも十分に理解はしている事なのだ。
この亜麻色の髪の魔女の弟子である姉妹はユリナに対して師匠の使い魔というよりお姉さんのように懐いており、彼女もそんな二人を大事に思っているのはトキハも知っており、そんな使い魔の少女の心配も理解してはいるので彼女を安心させるかのように微笑んでみせた。
「大丈夫よ。 子供の成長というのはね、大人が思うよりずっと早いものなのよ?」
そう言ってみせるトキハの表情は母親めいているとユリナは思った。
銀髪の魔女姉妹の眼前にあるのは巨大な石造りの城壁である、その高層ビルめいた高い壁をリムの足元から金色の瞳で見上げつつ「よくもここまで凝ったものを創る、ラビィ・リンス卿とはよほどの暇人なのだな……」と低い声で呟いたのは、リムの使い魔であるフェリオンという名前の白い狼だ。
「む~~どこまで続いているのかな~?」
「多分、どこまでもでしょうね。 ここはラヴィ・リンス卿の作り出した”ゲーム世界”ですから……」
可愛らしいピンク色のリュック・サックを背負ったエターナの楽しそうな顔は、実際迷宮攻略というよりはピクニックでも行こうかとでもいうかのようである。
そんな主人の女の子が左右にどこまでも続く城壁を見やりつつ聞いてくるのに答える黒猫のアインはエターナの頭の上に乗っかっていた。 そんな事をするのは別にアインの意思ではなく、単にエターナがそうしようとするからであり、それにもおそらくたいして意味はないだろう。
そんな風にしているうちにアインの方でもいつのまにかクセになっていた、そんな程度の事である。
「……それはいいんだけど、どうやって開けるのこれ?」
おそらく唯一の入り口であろう門は頑丈な木製の扉で閉ざされていた、並大抵の物理攻撃や魔法では破壊できそうもないとは、リムでなくとも思えるだろう。
「さあな……何か呪文でも唱えるんじゃないか?」
今回の事にあまりやる気のないフェリオンがぶっきらぼうに言うのに「お~そっか~呪文か~~!」と答えたのは主人のリムではなく外見的には妹にも見えるが実際姉であるエターナの方だった。
頭の上のアインの「……あのーまさかとは思いますが……」という声を打ち消す元気な大声で呪文を唱える。
「開け~~~~~ゴマフアザラシ~~~~~~~~♪」
「「「なんじゃそりゃぁぁああああああああああっ!!!!?」」」
全員がお約束のあの呪文かと予想した直後に飛び出した予想の斜め上を行く言葉に反射的に声を揃えてツッコミを入れていた。
そして、更にその直後に驚く事となったのは、固く閉じられていた門の扉がギギギギィと重い音を発して開き始めたからであった。
「……え~と……そんな……」
「……馬鹿ことが……」
「……あるはずが……」
予想外にも程がある展開にリムとフェリオン、そしてアインが呆然となる中「おっしゃ~開いたわよ~~~~♪」と一人喜ぶエターナである。
しばらくして扉が全開になった時にエターナが真っ先に飛び込もうとしてしなかったのは、中からガチャ…ガチャ…という重量感のある金属音が聞こえてきたからである。
リム達もその音にはもちろん気がついている、執事やメイドが来客を出迎えに来たなどとは考えないが、正体も分からないのでは奇襲で先制攻撃を仕掛けようとも思わず、油断無く身構え警戒しつつ音の主が出て来るのを待つ。
「……ふむ、どうやら挑戦者が来たようだが……」
そんな言葉と共に姿を現したのは三メートル近い巨体を頑丈そうな黒い鎧で包み込んだ男であった、自身の体格の半分はありそうな巨大な斧を右手で軽々と持っている。
「ほぅ、魔女の少女が二人と使い魔か……」
頭部も目元以外は完全に覆われているので表情は伺い知れないが、その隙間から覗く鋭い眼光を持って四人の来客を品定めでもしているかのように一人ひとりの顔を眺めていく。
「こいつ……」
「只者じゃない……」
フェリオンとアイン、使い魔の二人はこの鎧の大男から発せられる気がただならないものだと感じ取る、まだ殺気こそないが迂闊に仕掛ければ返り討ちにあうだろう程の力量だと思えた。
リムにはまだそこまでの事は分からないが、それでも相手の威圧感に呑まれ身動きが出来ないでいる。
そんな中でエターナだけは怯えた様子もなく不思議そうな表情で鎧の大男を眺めていたが、やがて「……おじちゃん、誰?」と問いかけた。
「お、おじちゃん!?……むぅ……」
予想外の問いかけに思わず唸り声を出してしまった鎧男は自分をおじちゃん呼ばわりした女の子の蒼い瞳を見つめた、澄み切ったその瞳は純粋そのもので邪な心などまったく感じられない。
エターナが怯えるでも先日の悪魔男の時のように先制攻撃を仕掛けるでもないのは、この見た目は怖い巨体の男からは自分達に危害を加えようという意思が感じられないからだが、それもこうして言葉で表現するような明確なものではなく、どちらかと言えば何となく大丈夫そうだという直感だったのだが、流石にそこまでは見通す事は出来ない。
「お、お姉ちゃん……」
姉のまったくの警戒心のなさにハラハラした様子のもう一人の魔女の少女、その彼女の足元の白狼といつの間にか主人の頭から地面に降り立った黒猫は威嚇するかのように鋭い目つきで睨みつけている。
普通ならこやつらのような反応になるであろうにと思いながらエターナに少し興味を持つが、ともかく任務は遂行せなばならんからなと気持ちを切り替える鎧の大男である。
「よくぞ来た挑戦者よ! 我が名はビッグ・ガーダー、この門の守護者である。 我が主人の迷宮に挑戦したくば、まずは我に勝つ事だな!!」
鎧の男――ビッグ・ガーダーは自らの力を誇示するかのように愛用の斧を掲げてみせながら宣言したのであった。
まずはひとつの事件が始まるまではサクッと更新、この後はリアルの時間の問題もあるので割りと間隔が空くとは思います。