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可愛い魔女と時間泥棒の魔法編

 少年の趣味は小説を書き、それをインター・ネットのサイトへ投稿する事だった。

ごく普通に学校に通い友達と話をしたりと至って普通の学生生活を送ってる彼は別にプロの小説家になりたいわけでもなく、ただ物語を書くのが、架空の世界を創造しそれを人に見てもらうのが好きなだけである。


 「……まぁ、こんなものかな……」


 祖父に小学校入学のお祝いに買ってもらった勉強机の上に置かれたノートパソコンのキーボードを打つ手を止めて呟くと「う~~~ん?」と大きく伸びをした、それからディスプレイ下の時刻表示を見れば、すでに二十三時を回っていた。


 「もうこんな時間か……」


 夕食後に作業を始めたのが二十時半ごろ、だが彼の体感的には一時間も経っていないように思う。 しかしそれも良くある事、何か楽しい事をしていれば時間というものはあっという間に過ぎている事は、誰もが何度も経験している事だ。

 どうしてそう感じるのかを少年は知らない、あるいは偉い大学教授とかであれば知っているのかも知れないが、あえて知りたいと思わないのは彼でだけではないだろう。


 「……さて、風呂に入って寝るか」


 椅子から立ち上がって歩き出した少年は、特に何かに気がつくでもなく箪笥から着替えを取り出ると普段通りに部屋を出て行った。 そう、この部屋は少年一人の部屋であり同居人はいない。

 しかし、少年が毎晩眠っているベッドの上には間違いなく一人の女の子が腰掛けていた。 年齢はだいたい十歳くらいであろう、草木を思わせる緑色の服を身に着けた長く綺麗な銀髪の天辺にピョンとアンテナめいたアホ毛を生やした女の子は、そのす澄んだ蒼い瞳で少年の出て行った扉を見つめていた。

 しばらくそうしていた女の子は、今度はその視線を握り締めていた自分の右手へと移してからゆっくりとその手を開くと、そこにはビー玉程の大きさのキャンディーがあった。

 そこから更にしばらくキャンディーの品定めでもするかのように眺めていたが、やがてそれを口の中へと放り込むと満足そうな笑顔を浮かべた。




 

 楽しい時は時間があっという間に過ぎているというのは誰でも経験した事があるだろう、そしてそれは実際に時間が早く進んでいるわけではなく人間の感覚の問題、単なる気のせいとも言えるだろう。

 しかし、もしかしたら中にはニンゲン以外の存在……魔女によってその現象が引き起こされている事もあるのかも知れない。 そして、もしもそんな魔女がいるとしたらこう呼ばれるだろう…………。

   

           ”時間泥棒の魔女”……と





 深夜の暗く人気のない深夜の公園、頼りない外灯の光に照らされているベンチに女の子が一人で座っているには遅すぎる時刻である。

 

 「……しかしご主人様、いくら普通の人間には姿が視えないからといっても、やっぱり不法侵入はどうかと思いますが……」

 「ん?……そう~?」

 

 長い銀髪の女の子、エターナという名前のその女の子に話しかけているのは、彼女の隣にチョコンと座っているルビーめいた紅い瞳をした黒猫であった。 その声の高さからするとおそらく雌猫であろう彼女に「いいじゃん~アイン、別に泥棒とかしてるわけじゃないんだしさ~」と屈託のない笑みを見せるエターナ。

 

 「……時間泥棒はしてますけどねぇ……」

 

 アインと呼ばれた黒猫は呆れた声で言うと小さく溜息を吐く。

 ニンゲンが見ればそんな非現実的な光景も当の二人にはありふれた日常の会話でしかない、それはエターナが魔女でありその使い魔であるのがアインという黒猫だからである。

 

 「まーそれだって別に人に迷惑をかけるわけじゃないんだしさ~~」

 「それは、まぁ……そうなんですけどねぇ……」

 

 時間泥棒とはエターナの使う魔法の事である、人間なら誰しも楽しいや幸せといった感情を感じる事があり、エターナの魔法とはその”幸せな”時間を奪いキャンディーへと変える事ができる。 これだけだとずいぶんと酷い事のようにも思うかも知れないが、彼女のその魔法は決して誰かに害をなすことはない、せいぜい記憶があやふやになり時間があっという間に経過したように感じる程度である。

 そして創る事ができるキャンディーは本当にただ甘く幸せな気分になるだけのキャンディーで他に何があるわけでもなく、エターナがこの魔法を使うのも単に甘いキャンディーを食べたいからで、それ以上でもそれ以下でもない。

 エターナはこの魔法をいつの頃から使えたのかを覚えていない、気がついたら使えていたもので今のところ自分以外で使える魔女にも出会った事はなかった。 だから【時間泥棒】の魔法と呼び自身を時間泥棒の魔女と勝手に称していた。

 

 「……さってと~そろそろ帰ろっか~~」

 

 口では言いつつもまだ遊び足りなさそうな顔のエターナが立ち上がった直後に「ところがどっこいっ! そうはいかねぇ!」という男の声が響き、エターナの数メートル手前に空から飛来した人影が降り立った。

 

 「……って! あんたはっ!?」

 「そうよ! 久しぶりだな小娘……」

 「何だかわかんないけど……先手必勝~~【エターナ・バスタ】~~~~!!!!」

 

 大まかなシルエットは人間に近いが明らかに人間ではない羽根の生えた爬虫類めいた外見の男の出現に両手を前に翳すと躊躇なく攻撃魔法を行使した、暗闇を中の公園を明るく照らす白い光が宇宙戦艦のビーム砲めいて男へと伸びていく……かに思われたが、銀髪の少女の放った一撃は男の一メートル程手前でありえない曲線軌道を描いて星の瞬く夜空へと消えていった。

 

 「だ~~~こら~~~避けんな~~~~~!!!!」

 「別に避けてないわっ!!……てか、いきなり何を……」

 

 男の抗議を無視して再び【エターナ・バスター】を撃つも今度もありえない軌道で標的を逸れる。

 

 「こんにゃろ~~~! 【エターナ・バスタ】~~~【エターナ・バスタ】~~【エターナ・バスタ】~~~~~~!!!!」 

 

 それでも懲りずにむきになって何度も魔法を放つご主人様に呆れた視線を向けつつ「……いや、何回撃っても当たりませんって……」と呟くのも、「だぁぁああっ! おい、こらっ!!! ちっとはこっちの話も聞けよ、このノーコンの魔女めっ!!!!!!」という男の抗議の声を聞こえていないようである。

 

 「誰がノーコンつるぺったんの魔女だぁぁぁああああああああっっっ!!!!!」


  否、最後の部分だけ聞こえたらしく、ついでに自分で余計なものも追加して。 そうして言い返している間も【エターナ・バスター】を撃つのを止めないエターナの胸は、実際年相応にぺったんこであるのは間違いではない。

 ちなみに【エターナ・バスター】というのは師匠である魔女から教わった護身用の攻撃魔法をベースにエターナがパワーアップさせて命名したものである、その威力は実際ライオンの一匹くらいは黒コゲのケスズミに出来る程である……もちろん威力に比例して魔力の消費を段違いに上がっていて並大抵の魔女では十発も撃てればいい方だというのは彼女の師匠の見立てである。

 そんな事からもこの小さな魔女がとんでもない魔法の才能と魔力を有しているのは明らかなのだが、どんな魔法であっても当たらなければ意味はない。 何故当たらないのかというとエターナが極度のノーコンだからと言うしかない、それは本人も自覚はしているのだが、そんな事は気にせずにとにかく撃ちたいから撃つのがこの魔女の少女の性格なのである。

 

 「く~~だったら~~~《エターナル・ピコハン》~~~!!」 

 

 それでも二十発くらい撃ったあたりで諦め、左の手首に嵌ったブレスレットに右手を添えた、するとブレスレットが光を放ちその形を変えながら少女の細い腕をはずれ右の手の平に移動した。

 そして左手から放した右手を掲げると、光はその形を十字に変えて肥大化してく。

やがてその光が消えたときにエターナの手に握られていたのは、彼女の身長程も長さのある可愛らしいデザインのピコハンであった。

 そう、この少女の持つブレスレットはただのアクセサリーではなく《エターナル・ブレスレット》という名のれっきとしたマジック・アイテムなのである。 使い手の資質に合わせた武器に形を変えるこのアイテムでピコハンになるのを、エターナは可愛い武器でいいじゃんと気に入っている。 

 

 「こ、この小娘……」

 

 【エターナ・バスター】の連打中に身動きすら出来ずに冷や汗させ浮かべた男めがけて躊躇することなく「てりゃ~~~~~♪」と声を上げ地を蹴って駆け出す、その動きは実際子供の駆けっこレベルのものでしかないのだが、エターナのシッチャカメッチャかぶりに振り回せれたこの男は半ば我を忘れいていたため反応出来たのは、エターナが彼の手前でジャンプしながら《エターナル・ピコハン》を振り上げた時であった。

 

 「お、おいっ! そんなのありかよぉ……」

 「ありなのよっ!! いっけ~~~~【エターナ・インパクト】~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」

 

 勢いよく振り下ろされら《エターナル・ピコハン》は男の脳天に命中しピコッ♪と可愛い音とバギッと鈍く重い音を同時に発した、そして直後に男は「ぎよぇぇえええええっ!!!?」と悲鳴を上げ仰向けに倒れ白目を剥いて完全に気絶した男の頭にはでっかいタンコブが出来ていた。

 幼い容姿の女の子が大の大人の男をピコハンの一撃でのすなど冗談の様な光景だが、使い手の魔力を込める事で攻撃力を生みだすのが《エターナル・ピコハン》という武器であり、その気になれば大岩とて粉々に砕く魔力を込められるのがエターナなのである。

 そのエターナは「おっしゃ~~~正義は勝つ~~~~♪」とピコハンを掲げて勝利のポーズを決めていたが、ふと何かを思い出したかのような顔になりベンチの上で呆れ顔になっている使い魔の黒猫の方へと顔を向けた。

 

 「そーいやさ、勢いでやっつけちゃったけど、こいつって結局何だったんだっけ?」

 「…………はぁ~~、まぁ……そんな事だろうとは思ってましたが……」

 

 この短い時間でいったい何度目になるだろう溜息を吐くアインである、ずいぶん前にエターナとその妹のリムの正当防衛によりボッコボコにされた悪魔族なのがこの男なのであるが、それをわざわざ説明するほどの事とも思わなかった。

 「まぁ……通りすがりの小悪党なんじゃないんですかねぇ……」

 だから、適当にそんな風に言った時に「も~! 何をやってるのよ、お姉ちゃんっ!!」という少女の声にアインが首を動かし声のした方をみれば、そこにいたのは予想通り主人エターナの妹であるリムであった。 姉と同じ長い銀髪をサイドで編み怒った顔で姉を睨むその顔立ちも蒼い瞳も同じであるが、彼女の外見は十七、八歳くらいである。 

 

 「何って、ちょっと散歩してただけだよ~?」

 「いや、お姉ちゃん……〈人間界〉へ来るのを普通はちょっとした散歩って言わないから……」

 

 まったく悪びれた様子もなく答えるエターナに歩み寄ってその顔を上から睨みつけてみせるリム、それだけを見ればやんちゃな妹を迎えに来た姉という構図の方がしっくり来るのだが、実際には姉と妹が逆である事には、この魔女姉妹と付き合いの長いアインには違和感を感じる事ではなかった。

 

 「まぁ……それはいいとして、これは何?」

 「ん~~? 通りすがりの悪党よ~~?」

 「……は?」

 

 地面に倒れている男を指差して聞いてみれば返ってきたのは到ってシンプルなもので更にわからなくなるリムは、助けを求めるようにアインの方を見た。

 

 「まぁ……言葉通りの意味ですよ、リム様……」

 

 何が言葉通りなのかはまだ疑問だが、とりあえずはエターナが罪も無い一般市民に迷惑をかけたのではないとは分かった。 悪意を持ってヒトを傷つける事はしない姉ではあるが、その大雑把でハチャメチャな性格故に他者を振り回したり、勢い余ってつい……という事はあるのだ。

 

 「……はぁ~。 まぁ、いいや。 とにかく帰ろうよ、お姉ちゃん?」

 「ん? そうだね~……あ、その前にリム……手を出して~~」

 

 怪訝な顔になりながらも言われた通りに右手を前に差し出すと、エターナが服のポケットから小瓶を取り出したのに理解した。 そして予想通りに瓶の蓋を開くと中身のキャンディーを一個取り出してリムの手のひらに乗せるエターナ。

 エターナは魔法で創ったキャンディーをすぐに食べてしまうばかりではなく、こうして小瓶に詰めて取って置いて後で食べたりヒトにあげる事もあるある。 ヒトの幸せな時間で創ったキャンディーは唯の甘いお菓子ではなく、僅かであっても口に含んだ者を幸せな気持ちにさせてくれる、幸せのおすそ分けのような物だとリムは思っていた。

 どういう原理で時間をキャンディーに変換出来るかや、どうして姉がこの魔法を使えるのかは実際たいした問題だとは考えない、ただ単にそれが自分のお姉ちゃん、エターナという名前に小さな時間泥棒の魔女であるという、それだけの事なのだ。


  「うん、ありがとうね、お姉ちゃん」





 〈幻想界〉とはエターナら魔女を含む人間以外の存在が暮らす世界である、その〈幻想界〉のとある森の中に”夢幻の魔女”のトキハの住んでいる屋敷はあった。 全体を白く塗られたその屋敷は決して豪邸というものではなく、家族数人で暮らすには少し広いかな程度の大きさだ。

 そんな屋敷に作られた庭園はやはり家族でお茶会をするのに十分という程度の広さである、そこに置かれた白いお茶会用の丸テーブルと同じ白い椅子に腰掛けた女性、少しウェーブの掛かった亜麻色の髪の二十代後半に見える女性が、エターナとリムの師匠でもあるトキハという名前の魔女である。

 

 「……ラヴィ・リンス、”迷宮の魔女”がまたゲームを始めるのですか、果てさて、どうしたものかしらね……?」

 

 テーブルの上に置かれた便箋に書かれた差出人の名前を見つめつつ、トキハはそんな事を呟いた。



 楽しい事をしていると時間があっという間に過ぎる、人間であれば誰しも経験はあるであろうこの現象は、ひょっとしたら時間泥棒の魔女の仕業かも知れない。

 そして、その魔女は無邪気でハチャメチャで……そして優しい女の子なのかも知れない、この物語はそんな小さな魔女と彼女の周囲を取り巻くのヒトビトの物語である…………。

 まずはエターナという魔女の女の子がどんな子なのかを紹介する的な話となります。

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