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桜と稲荷

作者: 氷翠


どうも今晩和お久し振りです…氷翠です。

長編、全く投稿していないで短編を投稿して申し訳ないですスミマセン…



しかも季節外れでスミマセン…


よ、宜しければどうぞ見てってください…


では。



桜の木の下には死体が埋まっているという


(…………あほらしいったらありゃしねぇ…)


ひらりひらりと舞い散る桜の雪の中、何を見るでもなくぼんやりと目を凝らす。

丁度目の前を過ぎ去った花弁が地面に落ちるまで見送れば、すぐまたその上に別の花弁が降り積もっていく。

後から後から、尽きることなく。


ほら、もうどれがどれだかわからなくなってしまった。

それはさながら、人混みに紛れる個人のようにも思えて。


木を隠すなら森の中

人を隠すなら人の中

昔は、見られたくない紙屑があればわざわざ襖貼りの下地に使ったこともあったらしい。


そんなに隠したいのなら、いっそのこと自分の手で始末してしまえば良いものを。

そう思うも、自分も始末できないような気がするから、強くは言えない。


ハァ…とため息が零れ出る。


人の愚かさなんて、もう充分わかっているはずだ。

けどどこか、わかっていなかったのかもしれない。


そうでもなければ、自分がこんなことでため息をつくなんて有り得ないのだから。



そのまま夜空を仰げば、そこに見えたのは、広がっているはずの宵闇色と砂を撒き散らしたかのような星の海ではなく。


堂々と枝を伸ばした、薄い桃色をした美しい桜の花。

月明かりに照らされて、なにも知らないままで花としての寿命を迎えた花弁。


………なにか知ったら、こんなに綺麗に散っていくことなんて、出来ねぇだろうなぁ…



存外、その言葉だって、誰かが桜の木の根本に死体を埋めたことを隠そうとして、吹聴したのかもしれない。

まったくもって、桜にしてみれば傍迷惑な話だ。


おかげで、すべての桜の木の根本に死体が埋まっているようではないか。


(…………まぁ、あながち間違いでもないよな…この桜だって…)



根元にゃあ、俺の死体が埋まってるんだから。



腰から伸びる金色の毛並みをした尾を一振りして、くぁ…と零れそうになった欠伸を噛み殺す。


己のために据えられた、小さな社に腰をかけ。

どっかの商人からちょろまかした煙草を、愛用の煙管で飲んでみる。


美しい月、雪のように舞う桜の花弁。

これに旨い酒さえあれば、それ以上文句の付けようもねぇってこった。



月見酒に、花見酒。


あぁ…さぞかし酒が旨かろう。



人になんと言われていようが、桜が美しいことに変わりはない。

酔狂な言葉を思い出すのも、また一興……なのかもしれない。


くゆる煙を見送りながら、心が凪いでいくように感じた。



稲荷と祭り上げられて、百云十年。

やっと余裕を持ってそんなふうに思えるようになった今日この頃。


供え物の油揚げも飽きてきた、ある春の日の夜の事。


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