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第六話 決戦、桶狭間の戦い(前編)

「かくなる上は籠城戦してもちこたえるしかない!」


「馬鹿を申すな!此方はかき集めて五千、今川は二万とも四万とも言われる大軍勢! いかに籠城をしたところで数の差で踏み潰されるのがオチであろう!」


「では馬鹿正直に野戦に持ち込めというのか!? 地の利があろうと兵力差が圧倒的すぎるわ!」



 永禄3年(1560年)5月19日

 只今清洲城で緊急軍事評定。

 

 織田家の家臣団が唾を飛ばす勢いで怒鳴り合っている原因は、言うまでもなく今川義元による尾張侵攻に関する事だ。

 後の徳川家康である松平元康率いる三河勢を先鋒に次々と砦を落とされていき、今俺達のいる清州城までもう間もないといったところである。

 局地戦では惨敗。

 いやー今川もそうだけど、三河勢が強いのなんの。

 勢力に圧倒的差がある背景があり、士気の違いがでているとはいえ、織田軍フルボッコ状態です。

 幼い頃の竹千代くんのイメージが抜け切らない中、逞しくなったんだなぁと場にそぐわない感慨にふけってしまうな。

 

 さて、詳しい日時は分からないが、間違いなく数日の間に桶狭間の戦いが起こるだろう。

 織田が勝つという未来を知っている俺ですら勝ち目なんて見えやしない中、家臣団たちに落ち着けというのは無理な話なわけで。

 こうしてヤンヤヤンヤと口論している中で、信長は静かに静寂を保っている。

 その姿は諦めとかそういう感情ではなく、活路を見出そうと必死に頭を回してるんだろうことが伺える。

 最終決戦は桶狭間。

 そろそろ今川軍は桶狭間に到達する頃合いだ。

 うまく今川本隊が桶狭間に陣を張ってくれればいいのだが。


 なんてことを考えていると、突然信長が立ち上がった。

 

「皆の者、頭を冷やせ。しばし解散だ」


 その言葉に喧々囂々となる家臣団に背を向け、

 

「久次郎、お前は俺と来い」


 そう言って、無理やり引っ張られるように俺と信長はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久次郎よ、この戦どう思う」


「どう、と言われてもな。見たまんまだとしか言えないくらいの状況だと思うぞ。 兵力差は圧倒的だからな、家臣たちが騒ぐのは無理ないんじゃないか?」


 信長の問に俺は率直な意見を述べると、その答えに何を思ったのか小さく苦笑する信長。

 なんていうか胆力が違うのか、よくこの状況で落ち着いてられるもんだと感心させられるわ。

 

「そういうお前こそ落ち着いておるではないか」


「みっともなく喚き散らせば戦況が変わるって言うならそうするがなぁ。っていうか何か策を思いついたんだろ? だからお前は落ち着いていられるんだろうがな、俺にはよくわからんから説明して欲しいもんだ」


「いや、策はない」


「は?」


 ちょっと待ってくれ。

 この歴史には桶狭間は起こらないっていうのか!?

 さすがにそれはマズイんじゃないのか!?

 夜逃げフラグか!?

 

 俺がプチパニックを起こしている中、信長は懐から扇子を取り出し一振り。




―――――――――人間五十年…



――――下天のうちを比ぶれば…

 

 

―――――――夢幻の如くなり…

 

 

――――――ひとたび生を得て…

 

 

―――滅せぬもののあるべきか…

 

 

 

 

 

 

 敦盛、か。

 確か、

 『人間の一生は所詮五十年に過ぎない。天上世界の時間の流れてくらべたらまるで夢や幻のようなものであり、命あるものはすべて滅びてしまうものなのだ』

 って意味だったっけか。

 信秀様も四十二歳と若くして夭折されたしなぁ。

 聞き方によっては、人生諦めが肝心、死ぬときは死ぬんだぜ!みたいに死亡フラグが立つみたいで深く考えたくはない。

 

 信長は敦盛を踊り終えた後、静かにこういった。

 

「久次郎、お前に頼みがある」

 

 その言葉こそが、この戦いの開戦の狼煙であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふひ~…さすがに疲れたわ。おい信長、お茶くらいだして労って欲しいもんだが」


 走りに走りまくった俺は汗だくになりながら清州城へと入場し、信長の部屋へと直行した。

 俺の姿を見た信長は、ニヤリと苦笑すると、

 

「主君に茶を所望するとは…お前も大概無礼なやつだ」


「お前にはかなわないっつーの……あ、すまないっすね、濃姫」


「いえ」

 

 信長と一緒にいたのか、濃姫が俺に茶を差し出してくれる。

 ツンとした表情はいつもと変わってはいないが、少し不安そうに見えるな。

 なんだかんだ言って信長のそばに居たかったのかねぇ。

 信長が濃姫に好んで会いに行くとは思えないからなあ。

 ………ツンデレか。

 さすが信長の嫁、その先進性は(以下略

 そんなことを考えながらお茶を飲み干した後、俺は成果を信長に報告した。

 

「今川本陣は桶狭間の麓の田楽狭間にいる」


「……っ! 確かか?」


「兵数は分からないがあの地形じゃそうそう大軍勢を組めやしないだろ、陣も張っていたしな。あんな場所に布陣するぐらいだ、油断もしていると思うぞ」


 それを聞いた信長は笑みを深くし、

 

「千載一遇の時来たり、だな」


 そのまま立ち上がると、清州城に響き渡るよう宣言した。

 

「皆を集めろ! 出陣だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永禄3年(1560年)5月19日

 熱田神宮前にて参拝

 

 そういえば桶狭間の戦いの前に熱田神宮に参拝に来たんだっけ。

 熱田神宮には以前来たことあるけど、なんか雰囲気が違うなぁ。

 時代が違えばやっぱりどんなものでも違って見えたりするもんなのかもしれないね。

 少し寂れて閑散としているが、そのほうが雰囲気が出るのか、なんかご利益がありそうな気がする。

 俺も祈っておくかな。

 無事に勝てますように、と。

 

「皆の者、聞けぃ!」


 ひとしきり参拝が終わった後、信長が兵たちを鼓舞する為に声を張り上げる。

 

「我らはこれより桶狭間山に上り、愚かにも油断し田楽狭間などで陣を張っている今川義元を、山から一気に駆け下り奇襲をかける!」


 そう言って作戦の概要を説明していく。

 

「既に囮を使い本陣付近の兵は本陣から離しており、なお本陣の兵数は我が軍勢奇襲勢4000とほぼ同数である! 我らは今、一筋の光、この空に輝く小さな光のような光明を得ているのだ!!」


『オオオオオオオォォォォォ!!!!!』

 

 信長に煽られた兵たちは、もしかして勝てるんじゃないかという光明を示された為か、熱気に包まれたかのように雄叫びを上げ始める。

 しかし信長も上手い事いって兵を煽るなぁ。

 この空に輝く光…か。

 そう思って空を見上げるとそこには散りばめられたように星空が広がっている。

 星空?

 いや、待て。

 何か違和感がある。

 確かに史実通りに今川義元は田楽狭間にいる。

 囮を使って本陣付近の兵を兵数を減らし、短時間ながらも兵数は此方のが有利になっているはずだ。

 上手くいっている、上手く行っているはずなんだが。

 

「ふん。せいぜいこの世の最後の月夜を楽しんでいるがいい、今川義元よ」

 

 その信長の言葉で俺は違和感の正体に気がついた。

 

 そう、史実の織田信長は『天候』を味方に付け、この大奇襲を成功させている。

 

 

 

―――桶狭間の戦い当日は『激しい豪雨』が振っていなければいけないのだ。


 

 

 それに気づいた瞬間、俺は喩えようもない悪寒が背筋を走ったのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 


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