第五十四話 丸太は万能汎用兵器である
今日で信長の野望201Xとのコラボ期間終了です。
こんな作品とコラボをしていただいてありがとうございました。
今日の24時までらしいので、まだまだチャンスはあります!
お試しにでも覗いてみて、201Xでの平手久秀を確かめてみるのも面白いかもしれませんよ?
元亀2年(1573年) 7月
朝倉義景の居城である一条谷城で攻城戦を開始
一条谷城の城門に破城槌が叩き込まれている光景を、少し離れた場所から眺めながら、馬上で俺は考える人になっていた。
「うーん…なんていうか俺、要らないな。面倒くさいことがなければ隠居できたんだが……って、そんなこと言ったらお市に頬を思いっきりつねられてしまうな」
子宝に恵まれたのに面倒くさいことなんて考えてはいかんだろう。
手を合わせ、脳内のお市と幸之助にごめんなさい、と謝っておく。
眼前に広がる戦場の現場指揮は氏郷に一任しており、俺は高みの見物を決め込んでいた。
現在攻城戦中なのだが、思った以上に朝倉側の抵抗は弱い。
このまま進めばどうやら俺の出番はなさそうな雰囲気である。
上杉武田との思わぬ挟撃で、兵力や将を割かれたり失われたりした結果なのだろうが、兵力差と将の質によるものが大きいのか。
まあ、ちょっとだけ氏郷も頑張っていること認めてやらんでもないな。
結局隠居は思いとどまったものの、世代交代は悪いことではなく、若い力を伸ばすのは悪いことではない。
半兵衛も息子の重門を随伴させているし、利家も息子をそろそろと思っているようだ。
武田戦ではさすがに前線には出せなかったからな。
自分が古い人間になっている事実に、俺はちょっと複雑な気持ちで髪を掻いた。
「しかし、結局朝倉攻めは止められなかったな…」
事の顛末と今後の展望、俺自身の意見という切望を世間話を含めながら、信長に意見書を出したのだが、やはりというかやはりであり、越前攻めの続行が決定されてしまった。
此方から先に越前を攻めていたのであり、横から割り込んできたのは上杉武田であることは間違いのない事実。
少なくとも柴田勝家殿が2年も前から継続して攻めているのだ。
優先権を主張する訳ではないが、後から割り込まれて兵の衝突が起きたとしても、大義名分は此方にある。
信長的には来るなら来いよ、といった心境なのだろう。
しかし、よくよく考えるとわからない事が多い話だ。
上杉謙信がそもそもなんで越前まで領地を伸ばす必要があるのか。
武田のように海が欲しいわけでもないだろうし、そもそも上杉謙信は領土欲がある人物ではないだろう。
それに義を重んじる性格の謙信が、他国が先に攻めていた領地に攻め込むことを良しとするのかというのも不思議だ。
前世の記憶が強い為、多少の美化があるのだろうが、やはり納得しかねるところではある。
性格的にもそうだが、こういった不義理な行為は風評として流れ、家のイメージを損なうため回避するべきなのだ。
自分のやっていることが正しいと感じていれば、兵は士気が上がり精強なものとなる。
それに織田家は足利義昭によって包囲網を敷かれ、謙信も反信長派ではあるのだろうが、それでも織田家は領地も広く強国だ。
この世界(というのも変な言い回しだが)では金ケ崎の退き口が起きてはおらず、浅井は反乱を起こす前に鎮圧しているためだ。
俺にとっては思い出したくない過去だがね。
しかも逆手にとって同盟相手から従属大名の立ち位置になっており、浅井長政は秀吉の下で苦労させられていることだろう。
近江は織田家預かりで京までの交通路は織田がガッチリ押さえているため、史実ほど反旗を翻した家も多くなく、なにより一番裏切りそうな松永弾正は隠居して俺の御伽衆をやっている始末だ。
そんな国に武田の件があったとしても、むやみに敵対行動を取るのは巧い選択ではないはず。
よほどの勝算があるのだろうか。
やはりいくら考えても答えは出ない。
って、そういえば戦況はどうなったんだろ?
「……あ」
考え事をしている間に城門は破られていたらしく、城へ兵がなだれ込んでいる。
今度こそ真柄兄弟を討ち取ると息巻いていた才蔵と利家だがどうなっているのかねぇ。
俺は指揮権を氏郷に任せているから応援しかできないけどな。
「久秀様! 伝令にでございます!」
「うお!?」
いつままにか側に控えていた伝令兵が、俺に片膝をつき返礼を待っている。
考え事をしていたため、かなりびっくりしてしまった。
今更ながらも威厳をもたせるため、一つ咳払いを挟み続きを促した。
「どうした?」
「氏郷様から救援要請です!」
「………なにがあった?」
ひやりと冷たい汗が背中に伝う。
先ほど色々なことを考えすぎていた為、悪い予感が頭によぎってしまう。
続きを促された伝令は続きを始めた。
「城門の内に新たな門が在るとのこと! 堅牢であるため、久秀様に攻勢をかけて頂きたい由!」
「………俺は破城槌代わりかよ」
まあ確かに稲葉山城でも似たようなことしたけども。
微妙な気持ちになった俺は、一つ深いため息を吐き、伝令にすぐに向かうと伝言を残した。
伝令兵が走って氏郷の元に向かっていくその背中を眺めながら、
「ま、せいぜい氏郷の役に立ってやるかなぁ」
歩く破城槌こと俺は、一度馬から下りて破城槌を組んだあまりの木材の中でも一際素敵な太さの丸太を脇に抱え、再び馬にまたがった。
若干馬が鬱陶しそうに俺を見るが、一言頼むよと謝ると、しょうがねえなあとばかりに足を動かし始める。
なぜ丸太を持って行くかって?
「みんな丸太は持ったな!! 行くぞォ!!」
これが言いたいからに決まっているだろ?




