第五十三話 越前侵攻中、その時…は動いた!
無事書籍化されました、皆様ありがとうございます。
2巻も無事発売されることが決定したようで、本当にありがたい話です。
ちなみに信長の野望201Xとのコラボは12月23日までですので、久秀をGETしていない方はお急ぎを!
元亀2年(1573年) 7月
朝倉領越前に、一向一揆が発生。
上杉武田連合が越前に侵攻を開始
その報告を受けたのは、木の芽峠城を落とし、いざ朝倉義景の居城である一乗谷城へと進行を進めようとしていた矢先のことであった。
「馬鹿な!? 何かの間違いではないのですか!?」
報告を受けた半兵衛は珍しく口調を荒げながらその報告を持ち帰った伝令兵に詰め寄っていく。
詰め寄られた兵は間違いがないことを強調し、それでも半兵衛はもう一度事の詳細を詳しく調べてくるように伝令兵を半ば追い出す形で部屋から追い出した。
「……お前がそんなに取り乱すなんて珍しいな? どんな報告が書いてあったんだ?」
木の葉峠城の一室で珍しく書類を相手にしていた俺は、尋常じゃない様子の半兵衛にそう問いかける。
俺の周りには机を囲むように秀長、藤高、継潤等の平手家内政係が顔を合わせており、一様に半兵衛の様子に戸惑っていた。
「これを…」
一つ息を吐き、気持ちを落ち着かせた半兵衛は、その手に持つ伝書を皆に見えるように差し出す。
俺も興味を引かれ、気になって机に広げられた伝書を覗き込む。
しかし、その内容は興味を引かれて読んだことを公開するような内容であった。
「なるほど……この城の攻城戦で妙に引き際が良い訳は、こういうことだったのか……」
先日の朝倉軍は不利になったと悟ると、城に籠もり籠城戦によって援軍を待つのではなく、あっさりと退却を始めていた。
その際に追撃をかけた才蔵と利家だったが、獲物と定めていた真柄直隆とは結局矛を合わせることが叶わなく、あのばかでかい獲物は見せかけなのかと随分憤慨していたものだ。
しかし、この知らせを聞いた後だと、なぜ籠城という選択を取らなかったのかと言うのがすぐに分かった。
取らなかったのではなく取れなかったのだ。
「……越中が既に上杉武田の手によって落ちている、だと?」
「それどころか加賀すらも平定して、次は越前…ですか」
「………冗談だろ?」
思わず口に出てしまった言葉。
それはここにいる全員の心象だっただろう。
そして朝倉の誰もが思った事に違いない。
「いや、待ってくれ。上杉と武田が同盟を組んだことは問題がなくはないが良いとしても、この進軍速度はおかしすぎる!」
越中だけならば速いという一言だけで済ませられるのだが、それに加賀まで加わっているのなら話は変わってくる。
どう考えても尋常な行軍速度ではないのだ。
これは武田信玄の戦死からまだ幾月も経っていない中での出来事なのである。
「確かに越中に上杉が手を出していたのは知っていたが、幾たびも一向一揆が重なって行軍に支障をきたしていたはず……いや、武田と手を組むというのはこういうことなのか?」
秀長のその言葉に藤孝が顎をさすりながら、
「……武田信玄の継室の三条の方は左大臣・転法輪三条公頼の次女であり、一向宗の本願寺顕如の妻の姉です。故に武田と敵対していた上杉には足並みを乱すよう一向一揆が多く起こっていた。これは事実でしょう」
藤高はなおも自分の言葉を確かめるように言葉を紡いでいく。
口に出しながら整理してもいるようだ。
「武田と上杉が信玄亡き後に同盟を組むというのは、選択肢の中では自然ではあるのでしょう。手を打たなければ信玄亡き後、徳川、北条に領地を切り取られるのは目に見えているのですから。武田は素早い決断を下した、そこまではいい」
「問題は進軍速度……ですね?」
継潤の言葉に藤孝がうなずく。
「この両者の同盟は必ず上杉が上に立つ条件での話になるはずです。なぜなら、先の掛川城の戦いで武田信玄を始め、山県昌景、馬場信春、秋山信友等の多くの有力な将を失い、国力の低下を招いた武田にとって、この同盟は北の守りに兵を避けない武田の苦肉の策なのです。そして徳川、北条の侵攻を抑える一手でもあるはず。ならば国内の平定と共に自国の混乱を抑え防備を固めなければならないその時間と兵力を、なぜ越中に向けるのか」
この現実は掛川の戦いからまだ一年も経っていない中での出来事だ。
武田信玄の継室には一向宗に口利きができる人物がいて、上杉を苦しめた一向一揆を抑えることができるかもしれない。
武田が信玄や有力家臣を失って国力低下を招いたため、独力での国の維持が難しく、上杉に対し譲歩する形で、先日までの敵に対し膝を折ることもあるかもしれない。
だからといって半ば併呑される形で同盟を結んだ両家が足並みをそろえて轡を並べることができるだろうか?
それにそもそもなぜ越中を今侵攻し、またさらに加賀まで手を伸ばす必要があるのか。
考え出したら切りがないほど疑問が残る問題だ。
だが、
「本当に問題なのは俺たちが今侵攻している越前に、その上杉武田も侵攻しているって事だよな?」
伝令兵が持ってきた知らせは既に越前に兵を派兵しているという事実。
と言うことはこのまま朝倉討伐を続ければ必ずぶつかることになると言うことだ。
「………信長ってまだ上杉に喧嘩売ってない…よな? なら使者を送って越前は俺たちが先に手を出したんだから、兵を退いてくれっていう具合には……いかないよなぁ」
「少なくとも武田とは大きな遺恨を残してますからな。上杉武田の体を取っている限り、織田家に譲歩する理由はないでしょう」
「………だよな」
今回ばかりは、お前の領地は俺の物を地でいくジャイアニズムの体現者である信長が原因の結果ではないようだ。
そもそもいくら考えても答えは出ない問題のような気がするぞ、これは。
「上杉武田からの使者は送られてきていないし、信長からの撤退命令も出ていない。俺たちからすれば今まで通りって事になるんだろうけど……」
つまりはこのまま一乗谷城へ攻めよせ、越前を平定すると言うことだ。
その先は……考えたくないなぁ。
「とにかく今は朝倉を早急に落とすか、落とされた後、越前を引き続き侵攻し、改めて上杉武田と戦端を開くか。それとも国境まで戻り、防備を固め様子を見るか……」
「俺としては最後の案を採用したいところなんだがなぁ」
おそらくそれは上司に却下されるんだろうな、と言っていて思うのだった。




