第五話 長良川の戦い、信長「義龍ぶっ殺す」
弘治2年(1556年)
斎藤道三が息子の斎藤義龍との戦いに敗れて戦死。
いわゆる長良川の戦いである。
事の発端は一年前、弘治元年(1555年)。
正徳寺の会見で信長の器量を見た道三は、息子の斎藤義龍に「お前、信長に勝てないから(意訳」みたいな事を言って、美濃譲り状まで書いたことに義龍が激怒。
叔父と共謀して道三を追放したらしい。
それまでも道三は義龍のことを事あるごとに無能だなんだとこけおろしていたらしいので、自業自得と言えば自業自得でもある。
でも実際確か義龍って結構優秀で、信長に対して連戦連勝だったとか大河か書物で見た気がするんだよな。
そして今年、長良川で道三と義龍の両軍が激突し、道三は戦死したのだそうだ。
長良川で戦が起こると知った信長は、急ぎ援軍に向かうが時すでに遅く道三は討ち取られてしまっていた。
なんだかんだで自分のことを認めてくれていた道三のことを、信長は嫌いではなかったらしく、敵討ちとばかりに勢いそのまま義龍軍へと攻め入ろうとしたが、さすがに援軍に来た物資と兵力では分が悪いのは分かりきっているため、数度小競り合いをした後尾張へと撤退した。
いや~さすがに焦ったわ。
俺も援軍に参戦していたのだが、頭に血が上った信長をなだめるのは一苦労だった。
宥める俺を離せとばかりに殴るわ蹴るわ鞘越しではあるが長谷部国重(織田家の宝刀)で脳天割られるわ、突撃しようとする信長を羽交い絞めした後、頸動脈をキュっとしてようやく大人しくなった信長を肩に担いで撤退するという有様だった。
その後、いつものように俺とお市と信長で飲んだんだが、さすがにその日は気が立っていたのか「義龍ぶっ殺す」とか物騒なこと言いながらベロベロになっており、終始俺達夫婦は信長を宥めてばかりであった。
誰だよ性格が落ち着いたとか行った奴は。
っていうか、いい加減長谷部国重で俺を殴るのをやめろよ、一応織田の宝刀なんだからさ。
弘治3年(1557年)
信長の長男、奇妙丸生誕。
後の織田信忠である。
とうとうアイツも一児の親かぁ。
この時代では十代で結婚出産なんて珍しくもないし、俺の嫁のお市も世が世ならJCなのである。
特殊性癖の持ち主なら泣いて喜びそうな時代だが、あいにく俺はおっぱいが大きくて包容力のあるお姉さん系がタイプだったりする。
お市は…まぁ年齢相応? これからに期待? といった具合だ。
って俺のタイプはどうでもよくて、信長の息子なんだが、幼名が奇妙丸というらしい。
なんでも産後間もない子供を見て、奇妙な顔をしているから奇妙丸なんだとか。
現代でも子供に相当痛い名前をつける親が続出しているが、コイツの先進性はそんなところまでも先を行っているのかもしれないな。
母親は生駒吉乃さんといって、ちょっと現代風な名前の女性だ。
吉乃さんは信長の側室で、よく気がきいて、優しい笑い方をするのが印象の女性である。
もともとバツイチの人らしく、夫と死別した後、信長に見初められて側室になったんだそうだ。
年齢は二十代中盤で、この時代ではトウが立ってるとされている年齢だが、俺のタイプど真ん中のお姉さんで、推定Gカップと俺は推測している。
いい趣味してるなぁ信長、やはりこんなところも時代の先を(以下略
さて、織田家に待望の跡継ぎが生まれ、家中が喜びに沸く…と言えばそうではない。
いや、大抵の家臣たちは大喜びであるのだが、問題はその生母に関わってくる。
信長には正室の濃姫がいるためだ。
正室の自分より先に子供を、しかも男児の跡継ぎを生んだ事もさることながら、下世話な話になってしまうが夜の生活がうまくいっていないのだそうで。
それでは子供なんか望めるはずもなく、結構あっさり側室になって子供まで生んだ吉乃さんに対し、いい感情を持てるはずがない。
濃姫は名前のごとく美濃の姫だし、吉乃さんは普通に家臣の娘で身分も違っている。
これはなにかフォローしないとまずいんじゃないか、と信長に言っては見たものの、
「気が強くて面倒くさい」
とノリ気ではないようだ。
もう美濃の斎藤道三もいなくなり、義龍は濃姫の味方になってくれるかというと憎き道三の娘と言うことで後ろ盾になってくれるかわからない為、濃姫の立場はかなり微妙だ。
道三の謀略にはもう気を配らなくてもいいんだから、仲良くやってもらいたいものである。
同年弘治3年(1557年)
平手久秀の長女、茶々生誕。
って、仰々しく言ってますが、つまり俺の娘も生まれました。
信長の息子とは同じ年ってことになるね。
俗にいう幼馴染の関係にあたってくるんだろうなぁ。
仲良くやってくれるといいけど。
前世では結構早死にした俺なので、初めての子供ということになる。
俺も人の親になったんだなぁ、という実感はまだわかないが、可愛らしい顔をして眠るわが子を見ると、これからもっと頑張らないといかんな、という気にさせられるね。
名前はいろいろ考えたんだけど、お市の娘と言うことで茶々と命名した。
史実の浅井三姉妹である茶々、初、江からあやかったものだ。
浅井長政の娘の名前って言うこともあり、若干の嫉妬もあったけど、浅井三姉妹って凄い姉妹間の仲が良かったっていうからなぁ。
なんとなくこの先も二人くらい女の子が生まれそうなので、ゲンを担ぐという意味でもね。
戦国時代まっただ中だけど、姉妹仲良く、家族仲良くで暮らしたいもんだ。
ちなみに俺の娘が生まれた時の信長のはしゃぎっぷりが尋常ではなかった。
いや、お前のとこも長男生まれたじゃねえか、と呆れるくらいに茶々に構ってばっかいる。仕事をしろ、仕事を。
いずれは俺の息子と結婚させるぞー! とか言って大笑いしながら高い高いしているが、首が座ってない茶々に負担がかかるため、即座にお市に叱られシュンとなった信長が地味に面白かったのは秘密だ。
しかし信長の息子と俺の娘が結婚ねぇ。
家系的には従兄妹になるのか?
未来でも従兄妹は結婚は可能だし、俺的にも大人になった両者が望むなら別に問題ないんじゃないかと思う。
っていうかそうなると俺の名前って教科書に載るんじゃないか?
俺の娘の家系からフィギュアスケーターが生まれたり…いや、あれは違う信長の息子の家系だっけ?
いろいろな資料に戦国時代特有のあのタッチで俺の絵が後世に伝えられたりすると思うと、なんか微妙な気もするな。
俺の絵だけ戦国無双の真田幸村並のイケメンで書いて欲しい。
ゲーム内では旗を振り回したりして、敵をなぎ倒したりするのを想像すると笑えてくるけど。
そのためにも俺がイケメンであったという一文を、後に発見されるだろう文献にひっそりと書き足しておくべきか?
ルイス・フロイスに金を握らせて、そういった評価をさせたりとか。
確か賄賂ってこの時代罪にならないって聞いたことあるし…ホントかどうかあやしいけど。
ま、とにかく色々な責任も生まれたことだし、今は今で精一杯生きていくしかないよなぁ。
って、いい加減茶々を返せよ、信長。
お前は奇妙丸のところに行ってやれっつーの。
永禄2年(1559年)
織田信長、上洛し室町幕府13代将軍・足利義輝に謁見
いやー、信行くんの反乱が起こらなかったから、信行くんを擁立し織田家内乱を画策した、とか大義名分をでっちあげて、比較的簡単に織田信友をプチっとして尾張を統一することができたんだよね。
信長と信行くんはあれから相互理解というか、謙虚に兄を立てる信行くんがかわいいらしく、いい関係を築いているみたいだ。
なんだかんだで身内に甘いからなぁ、信長は。
さて尾張の事実上の支配権を得たわけだが、やっぱり事実上という言葉がついてしまうわけで。
時の将軍、足利義輝に謁見して、改めて出仕するという運びになった。
100人程度の上洛で、俺も一緒に上洛している。
というのも、最近は今川義元が兵を集め尾張を攻めようとしているらしく、国境が結構ひりついていたりするためだ。
そんな中で内乱を起こすことなく尾張を統一できたのは大きいが、やはり地盤固めと防衛策は徹底的にしなければならない。
このまま行けばやっぱり起こるんだよなぁ、歴史上に燦然と輝く大奇襲劇。
源義経による、一ノ谷の合戦における『鵯越の逆落とし』に並ぶ『桶狭間の戦い』。
未来を知っていて勝てるとわかっていてもやっぱり不安は残る。
いや今川義元ってこの時代来てわかったんだけど超凄いんだって!
未来のイメージってお歯黒の麻呂でおじゃるのバカっていうような感じだが、政治もしっかりとやってるみたいで領地がとにかくデカイ。
領地が海に面してるもんだから、貿易や塩などによって経済も潤っている。
義元自身の身分が相当高いということも大きいんだろうね。
まあ内乱も起こってはいるようだが、それでもあの武田晴信(後の武田信玄)、北条氏康と隣接してなお、竹千代くん(松平元康)の三河勢を傘下に置き、勢力を誇っていることは素直に賞賛されるべきところだろう。
実際、今天下人に一番近い人物って言われているくらいだからなぁ。
って、ネガティブになってもしょうがないか。
桶狭間がいつ起こるかは思い出せないが、今川が攻めてくるというのならもうすぐなんだろうなぁ。
内乱が起こらなかったため兵力は多少史実より充実しているだろうけど、おそらく雀の涙程度なんだろう。
まぁ、もし万が一勝てなくなっても、俺のチートボディがあれば、信長やお市、奇妙丸と茶々くらいは守ってみせるさ。
いや、守れるといいな。
守れる…よね?