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第三十五話 間一髪のすれ違い、一歩間違えればそこは死地だった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 元亀2年(1572年) 

 浜松城にて馬場信房を討ち取った功績をたたえ、平手家で祝勝会を開く

 と言っても氏郷が祝勝を辞退し、馬場信春の首を丁重に弔い死を悼みたいとのことで、酒は飲みはしてもいつもとはまた違ったテンションの飲み会である

 

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしい武人だったな。結局は幸隆に踊らされて嵌められたが、俺の頑丈さだけは想定外だったようだ」


「そうですね。久秀殿以外の総大将では間違いなく山県、馬場の両四天王に討ち取られていたでしょう。まさか久秀殿を打ち取るのみに武田最強の矛を使ってくるとは思いもよりませんでした」


 そういって半兵衛は何度目かになるため息を付いた。

 祝勝会とは言っても実際は負け戦であることは誰の目にも明らかであるからだ。

 結果、氏郷が機転を利かせていなければ俺は死んでいたし、そもそも氏郷が間に合ったのだって俺がチートで死ににくい身体を持って猛攻に耐えて要られたいただけのこと。

 戦術的には大敗といって良い結果である。

 

「しかし氏郷、お前良く相手が釣り野伏を使ってくるとわかったなぁ。俺なんていきなり背後から回りこまれ急襲されたから何が起こったかなんて終わってからだったぞ?」


 あの時の編隊は鉄砲騎馬隊、騎馬隊、足軽隊の順だったから俺は最後方の総指揮官だったわけだ。

 当然半兵衛達もいたがそれぐらいは逃がすくらいの力は有してるし、伝令に走ってもらっていた。

 ま、才蔵と宗厳を護衛に付けたから滅多なことはないとは思っていたがね。

 いくら技術があっても死ぬときは死ぬ。

 どんなに気をつけても流れ弾に当たることだって否定出来ない時代に移ってきているのだ。

 

「最初は上手く行ったと確信をしていました。でもどこかで冷静になる自分がいたんです。半兵衛殿が日頃おっしゃっていた『戦況を見ろ、状況を見ろ、流れを読み取れ』という言葉を自身に当てはめて考えるとどうも武田の様子がおかしいと思い始めて…」


「ほぉ…おかしい、ですかな?」


 弾正が意外そうに口を開く。

 なにか思うところでもあったのだろう。

 

「まず、敗走するときに散り散りに背を向けました。武田軍相手に奇策とはいえ背を向けてというのはいかにもおかしい。なぜ追撃を危惧しないのか。騎馬が抜ければその穴に此方に騎馬が差し込まれる状況だというのを理解できないとは思えない」


「一介の兵士だろ? 戦場で背を向けるのはよくあることなんじゃないか?」


 利家がそう言って、手に持った盃を、馬場信春の首が丁重に保管されている桶に向かい乾杯をした後一気に飲み干す。

 

「いえ、アレほど戦を繰り返した武田兵が、種子島の猛攻にもそろそろ慣れ始める頃でもありますし、ゆえにそこに罠を感じました」


「罠、と」


「はい。背を向けるのは鉄砲騎馬隊の特性である単発式であることを理解していたのではないか。そして都合よく逃げるフリをして全力で配置へ付き両翼を作り釣り野伏の準備を完成させる。その際逃げる兵に紛れて山県、馬場隊は逆に背後に回りこみ大将首を狙う」


 そう言い切ると氏郷は乾いた口を潤すように盃を口にする。

 俺はそれを見ぬく氏郷もそうだが、真田幸隆も武田の兵の練度も半端ないと思わざるをえない。

 裏の裏は表であり、裏の裏の裏は裏みたいな心理戦で、如何に効率良く兵を運用して如何に最小限に犠牲を抑え、如何に最大限の効果を得るか。


―――ハイリスクハイリターン。

 

 半兵衛はどちらかというとリスクマネージメントの上手い、負けない軍師である。

 相手の心理という眼に見えないものを極力省き、リスクを回避し、リターンを得る。

 結果収支はプラスとなる、そんな策を考える軍師だ。

 その勲等を受けた氏郷がどうしてこんなアカギも真っ青な心理戦でざわ…ざわ…するようになってしまったんだろうか?

 でもそう考えると幸隆も相当ざわ…ざわ…だよな。

 敵一人のために四天王二人動員してるんだから。

 しかも鉄砲騎馬隊を使うと確信しての動員だったしなぁ。


 でも今回馬場信春の戦死はさすがに予定外だろう。

 俺達からすればヒヤヒヤものの戦況だったが、味方からすれば作戦は失敗し、四天王を失ったのだから。

 武田信玄とは20年来の付き合いだと聞く。

 軍師を降ろされる可能性は低いかもしれないが、否定出来ないところだ。

 っていうか是非とも降ろして欲しい。

 真田幸隆と戦うのって神経使うっていうか独特の緊張感があるんだよな。

 

 そもそも弾正が一回見せただけの鉄砲騎馬隊の騎射を次の戦場で活用するだろうと予測し、更にはそれに対抗するようにこれまた一回しか使ってない釣り野伏の特性を把握して見破るわ、逆に仕掛けてくるし…どんな脳みそしてるんだろうな?

 間違いなくチートじゃなかったら死んでるしな、俺。

 俺が思い出し武者震い(?)をしていると氏郷が考えこむように、そして口を開いた。


「でも、少し引っかかるところがあるんです」


「引っかかる所?」


「ええ、釣り野伏の両翼を作り中央に配置されているのは山県昌景だと思っていましたが、父上の言う話だと馬場信春とともに後方へ回ったと」


「あ、ああ。確かに山県は馬場と一緒に強襲してきた。これは間違いない」


 そう答えると氏郷は少し考えこむようにした後、

 

「じゃあ『誰が中央で壁を作り両翼を広げ釣り野伏を指揮した』んですか?」

 

「―――!」


 確かに言われてみれば…。

 

「指揮官もおらずアレほど見事な両翼は作れません。しかも両翼中央ですよ? 一人では足りない。二人もしくは3人」


「……おいおい、じゃああの戦場には四天王や武田信玄、真田幸隆がいた可能性があるのか?」


「其処まではわかりませんが、馬場信春殿が居た以上、誰が居ても不思議ではないですね」


「うーん。半兵衛、わかるか?」


 話に没頭していたのか、話しかけられるとビクリと方を揺らす半兵衛。

 半兵衛がわからなきゃお手上げだな。

 いや、弾正とか以外な視点で物事を見てくるからな。

 

「いえ、ぼうっとして申し訳ありません、では、僭越ながら…武田信玄、真田幸隆はないでしょう。高天神城は要所。徳川殿が今か今かと睨みを効かせておるため、兵はともかく将は割けますまい。結局本多、榊原隊の突撃がなかったのでわかりませんが両翼を広げあった両者は矛を交えており、ここでは五分の戦いを演じています。両名相手に軍団長なしではいかにも不足。四天王級が二人、中央にも軍団長を配置せねば如何にも博打な策。今の武田でその役目を果たせる将は…」


 半兵衛は考えるように顎に手を添える。

 

「誰なんでしょうか?」


 全員が一斉にコケる。

 答えを出してくれると期待していたところに見事外してくれた形だ。

 

 でもまあ、かんがえてもしかたいわな。

 武田四天王を一人討ち取ったんだ、此方の価値という結果は変えようがない。

 

「残るは山県昌景、高坂昌信、内藤昌豊か」


 馬場信春を討ち取った今、残る四天王は3人のみ。

 風林火山の火が無くなったんだから、山、林、風の三種類なんだが…。

 

「山は不動、どっしりと構え揺らぐこと無いって感じは山県昌景を見てわかるし、風は高坂昌信のあの神速の騎馬隊の統率だろ? 釣り野伏を塞ぐ時の隊の速さは凄かったからなぁ」


「あっという間に抜かれて塞がれましたからね。本人の武芸も凄まじいものがありましたし、ある意味部隊戦となれば馬場信春より厄介な相手なのかもしれません」


 速いっていうのはそれだけで武器だからなぁ。

 何をするにも先手を打てば、何事も有利に運ぶ。

 速いだけじゃなくて、強いし馬の扱いが上手いからな……どっかのキ○肉マンかよ。

 

「となるとさいごは内藤昌豊だが…林って一体何を意味するんだろうな?」


「静かなる事林のごとく、ってことは戦場にて静かってことは伏兵何じゃねえのか?」


 利家の言葉は最もだが、伏兵専門の部隊っていうのが四天王ってのも冴えない話だ。

 使う方としても使いづらくてしょうが無いし、そもそも伏兵部隊にそんなだいそれた称号は必要ないんじゃないか?

 いや、伏兵を馬鹿にするわけじゃないけど。

 

「内政系とかじゃないでしょうか? 国が静かなる事、林のごとしっていうのは理にかなってませんか?」


 継潤が我が意を得たりと発言をする。

 

「あれ、継潤? なんでここにい……あ、ああ。いやぁ、それも一理あるよねッ!」


「ちょっとォォォォォ!!! なんで僕がいちゃいけない雰囲気になってるんですかァァァァ!!」


 怒り狂う継潤。

 いやぁないがしろにしてたわけじゃないんだけどね。

 仕事もきちんとやってもらてるし。

 

 ま、こんな騒ぎが起こったということでシリアスはお開きとなり、恒例の飲み会へと姿を変えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『Another eyes』

 

 

 

「交戦とはなりませなんだな」

 

「ふ、さすが音に聞く武の一文字よ。種子島とやらの威力、此方の想像をはるかに超えておったわ」


「あの機転も見事でした。しかし種子島に馬が怯えるというのは聞いておりましたがコレほどとは…」


「元来臆病な生き物なのだ馬というのはな。それを無理やり戦場へ送り出す我らにそれを攻めるなどあってはならん」


 甲冑を脱ぎながら、そう語る男。

 

「しかしあの信玄がこうまで梃子摺る理由がわかった。少々厄介だなあの小僧は」


「小僧…ですか?」

 

「ああ、お前もみたろう。誰よりも先陣に立ち、まさに威風堂々。冷静に状況を判断し即断即決の行動力。私の狙いを読んだのかは知らないが鉄砲騎馬隊とやらを牽制に2/3は残していきおった。アレがなければ我が刀にて織田、徳川を両断してくれたものを」


 苦味を感じさせる言葉だが、口調はひどく楽しげであり、これからの成長に期待しているフシすら感じられた。

 

「しかしこの提案を信玄が飲むとは思わなかったな。願わくばもう一戦し刃を交わしたかったが…」


 そう言って名残惜しげに浜松城方面を見据えるが、暫し後馬を返す。

 

「乾坤一擲、か。信玄……いや、真田幸隆よ。『武の一文字』に気を取られすぎたな。老いてなお麒麟であることに感服はするが、若き力はたしかに育っておるようだぞ」


 最後に高天神城方面を見て苦笑する。

 

「槍や刃にて、力と技にて勝敗を決する時代は過ぎたのやもしれんな。…………おそらくもう二度と会うこともあるまい。

―――さらば宿敵よ」


 そう言って男は馬の嘶きとともに地を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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