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第三十二話 鉄砲騎馬隊編成、やめろぉ、武田! ぶっ飛ばぁすぞぉ~!!

 

 

 

 

 

 

 

「おお~、コレは驚いたな…」


「はい。私としても嬉しい誤算というやつですね」


 俺と半兵衛は眼前の光景に驚きを隠せないでいた。

 先日、弾正が連れてきた鉄砲騎馬隊を見た俺達は、即それをうちの騎馬隊でも実践できないかと試してみた結果、

 

「いや~まさか、ここまで馬が鉄砲に慣れているとは思わなかったなぁ」


 そうなのである。

 試しに馬上で種子島を撃った所、問題なく撃つことが出来たのである。

 弾正からノウハウ、馬上では鐙の位置やら、火薬の量、鉄砲の構えから扱い方の指導のもとに行われた試射は大成功だったのだ。

 元々家の戦法は回し打ち、釣り野伏せ、脳筋三兄弟足軽隊の大蹂躙などの種子島主体であり、それが長い時間続けばさすがに臆病な馬も慣れるというものである。

 うちの騎馬隊は元々扱えるものが少なかったために大した戦力になっていなかったが、鉄砲騎馬隊がそこに加われば話は全く別になってくる。

 そもそも尾張の兵が弱いがための種子島。

 それを騎馬隊で使ったところで何の支障もない。

 

「機動力のある騎馬に種子島が使えれば一撃離脱も可能であり、その混乱に第二陣、三陣と続けば、ようやく平手家は攻めの戦法を使えることになる」


 半兵衛が感慨深く語るが、そうなんだよな。

 平手家は足軽隊がメインの対武田戦線では釣り野伏の待ち伏せや籠城戦といった待ちの戦法しか使わなかった。

 使わなかったのではなく、使えなかったのだ。

 織田の兵が弱いから種子島という発想なのに、種子島は野戦で攻めで使えないからこ、そ今までの待ちの戦法。

 攻めの種子島活用である伊達政宗の鉄砲騎馬隊がアレほど後世に評価されているのはこの点にある。


 武器の相性は射程距離と速度だ。

 刀には槍、槍には弓、弓には鉄砲。

 弓には刀、槍の立ち回りの速さには勝てないし、室内などの狭い場所では使えず、ある程度の広さも確保しなければならない。

 ある意味での三すくみがあるわけだ。

 武田の騎馬隊が最強と呼ばれるのは、この三すくみに騎馬隊は加えられないからである。

 剣も槍も騎馬で踏み潰せるし、弓や鉄砲も装填前に突っ込むか、再装填前に突っ込めばいい。

 機動力が射程、馬力がや馬上の立ち回りが速度を埋める。

 その練度が半端無かったからこその武田騎馬隊が最強と呼ばれる所以なのである。

 

 さて其処に鉄砲を扱える騎馬が現れればどうなるか。

 騎馬の速度で突っ込んできて、射程距離外から種子島を撃って去っていくのである。

 相手に何もさせない完封が可能となる、理論上はだけどね。

 そうなれば相手の前線は混乱し、其処に第二陣、第三陣を突っ込ませれば更に被害を拡大させることができる。

 コレが伊達政宗の考案した鉄砲騎馬隊である。

 いや、大したもんだと思うよ実際。

 さすがに生まれた時代が早ければ、と言われるだけのことはある。

 が、惜しむらくはこの戦法を試せたのが大阪の陣の2戦だけっていうのがね。

 しかも幸村には確か見破られて対処されたんだよな…どうやったんだっけか?

 

「しかし鉄砲騎馬隊は相手に接近して、あくまで相手の射程外からの一方的な攻撃にキモがあります。伏兵で側面や背後に回られたりし、距離を詰められれば唯の騎馬以下の存在のもなりますから注意は必要でしょうな」


「ああ、それだ」


「……は?」


「いや、気にしないでくれ」


 幸村は兵を潜ませて側面をつかせたんだよな。

 鉄砲騎馬隊は対処ができず敗北し、結局伊達政宗は再戦の機会はなくこの戦法もここで昇華することなく終わったんだっけな。

 だが、

 

「幸村に敗れるまでは連戦連勝だったしな」

 

 どんな戦法にも破り方はあるものだし、相性もある。

 家には半兵衛、秀長、藤孝、今回からはジジイも加わったため、軍略、知略、政略面では半ばチート化しているため、俺が何も言わずともやってくれるだろう。

 むしろヘタに専門外に口を出したほうが失敗するって落合○督も言ってたしな。


「…………」


 無言でこの光景を見つめるのは氏郷。

 この隊を率いるのはコイツで利家は副官になる。


 そういやなんか最近やたらと雰囲気というか貫禄が出てきたんだよな。

 本格的な戦場に初めて出たことでなにか成長させるものがあったということだろうか?

 それ以外に成長する出来事なんて―――は!? まさか、童貞を卒業したから大人になったというやつか!?

 初は婚前交渉など許さない貞淑な淑女だ(親ばか目線)

 つまり初夜こそが童貞と処女の戰場、ランデブーならぬ乱で武巧ということなのか!?

 

「ふ…もう子供とは呼べぬか、娘を頼む」


「? ……はぁ」


 ポンと肩を叩き、婿を労う。

 娼館は許すが側室や愛人が出来たと疑ったら連絡しろと初には伝えてある。

 流石に茶々は相手が信忠ということもあり、子供をいっぱい作らにゃならんから、側室持つなとはいえないが、氏郷テメェはダメだ。

 俺だって娼館以外は側室も愛人も居ないんだからな。

 まぁ、それは現代の価値観の一夫一妻制が大きく影響しているんだと思うけど。

 氏郷はこれで婿養子で俺の跡継ぎなんだから、これくらいは教育と割りきってもらおうかね(結局は馬鹿親である)

 

 

 

 

 

 

 

 元亀2年(1572年) 10月

 平手家軍事評定と言う名の飲み会……のはずが今回は弾正の願いによって茶会で開かれる

 もはやなんでもありの風潮である

 

 

 

「鉄砲騎馬隊として使える馬は現種子島数の2/3は用意が出来るそうです。野田城に800、浜松城に1200。撃ち手を集めれば1200全部を鉄砲騎馬隊に編成できますが…」


「さすがにそれはマズイだろ…第二陣からの編成に人数が割けないし、もしもの籠城時に予備は残しておきたいからなぁ」


「浜松城は三方向からの攻め手がおりますからなぁ。一方を攻める間に城を奪われては元も子もないですからな。兵力は増援含め23000おりますが、武田は今は30000としても甲相越三国同盟がありますからな。更に増員しても可笑しくはないでしょうなぁ」


「ったく、本当に厄介だな甲相越三国同盟は」


 これがなければもっと話は簡単に進められたはずなんだ。

 とは言え、思いもよらぬ、相手が嫌がることをするのは戦法の常道なのでさすが武田信玄という他無いわけだが。

 

「あちらにしてみれば、平手の回し打ち、釣り野伏せもそういった類のものでしょうなぁ。アレ等がなければ徳川は今頃遠江を奪われておりますゆえ」

 

「お前絶対家康殿の前で言うなよそれ」


 しれっという弾正だが、確かに事実ではあるのだ。

 三方ヶ原の戦いでメタクソにやられたしな、俺もだが。

 あの勢いのまま来られたら遠江はおろか、徳川存亡の危機といってもいい状況にあったはずだ。

 それが高天神城は奪われたものの膠着状態まで持って行けているわけだから、御の字というべきか。

 

「だが、その膠着が俺達に武器を手に入れさせてくれた」


 そう言って氏郷を見ると、承知しているのかコクンと小さく頷いた。

 鉄砲騎馬隊だ。

 未知の戦法というのはリスクを伴うが、その分のリターンは大きい。

 そしてそのリターンで狙うのは、

 

「……玉を取るか?」


「いえ、信玄までは陣が遠すぎて此方の隊列を維持できません。狙うならば飛車角落とし」


 武田の玉はもちろん信玄だが、武田の飛車角となると、


「武田四天王か真田幸隆」


 この5人の内の一人でも欠ければ間違いなく武田の戦力は落ちる。

 秋山信友は良い将だが勝算が高く、半ば奇襲戦で大将を打ち取れる攻めの戦法を使うには少しばかり言っちゃ悪いが格が落ちる。

 他の将でも穴を埋められるという意味でな。

 その点、武田四天王や真田幸隆は替えの効かない人物である。

 だが真田幸隆は武田信玄の側仕えにいるらしく、戦場には出てこない。

 他の四天王については高坂昌信はいきなり現れてどこかに行っちゃったし。

 馬場信春、内藤昌豊にいたってはこの戦場にいるのかも定かではないしな。


 ならば話は簡単である

 そしてこの武田四天王の内狙いやすく、律儀に戦場の先陣に立ち、今も俺達を苦しめる元凶の一人。

 お誂え向きに一人だけ存在するこの戦局にもっとも適した人物。

 

「復讐の時間は早くもやってきたな、ケケケ」


 そう武田信玄でなく、真田幸隆、秋山信友でないのならもう一人しか居まい。

 俺の憎き怨敵。

 初めての敗北を味あわせてくれた張本人(それからは高坂にもやられてるけど)

 

――――武田四天王筆頭、山県昌景!

 

 

 

 

 

 

 

 

 







『今日の濃姫様』

 

 




『いやぁ、この前の信忠くんの元服の時に拝見いたしましたが、信長と上手くやっているようで安心しました。普通側室を持った上にその子供が跡取りになれば憤懣やるかたないはずなのに、その息子とも上手くやっている姿を見て感嘆の念を覚えずに居られませんでしたね。俺なんか義理の息子のなんかサンドバックしてこのやるせない思いを解消したくらいです』


「さんどばっく?」


 相変わらずこの方の手紙は風情は感じられないが、実直でありながらも頓智が効いていて、綴られる言葉に嫌味や自身が織田家正妻であることを感じさせないため読んでいて清々しいほどである。

 たまに私の分からない文字が綴られているのには困りものだが。

 

 確かに一時は信忠を嫌悪していた次期があったが、寧々やお市の勧めで話し合いの場を設けてみれば、信忠も私と似たところがあり、偉大すぎる父への遠慮や甘えが許されないゆえに張り詰めた所が奥に感じられたのだ。

 まるで昔の自分を見ているようで、色々と自分のして欲しかった『故郷』や『母』のような無条件で落ち着ける、そんな手伝いが出来ればと接しているうちに母上と次第に呼んでくれた時には涙がでそうになったものだ

 

『其処でお願いなのですが、御存知の通り俺は二つの宝石を失いました。残りはあと一つ。どうかこの宝石をお守りいただけませんか? 例えば信長が婚約を画策しだしたら文で知らせていただけると嬉しいです。もう江が嫁に行ったら生きていける気がしません』


「………」


 普通なら冗談諧謔の類かと思うが、あの結納の席を見ているとあながち冗談とは思えない部分があり、お市に相談したら、同席していたお市、茶々、初が一斉に顔を逸らした所を見ると不安を覚えずにはいられなかった。

 

『最後になりますが、前回あった信長の浮気が気になるとのことですが、男は過分に戦になれば血が滾るもの。織田家当主ということもあり、少しばかりは許容するのも必要なのではないでしょうか? 女は港、男は船。ドンと構えて信長の帰るべき場所になっていただければと俺は思います。そしてその為の秘策も用意しておきましたので、後にご覧になってください。ではこれにて』


「……秘策?」


 読み終わった後、やはり平手殿も夫の多少の浮気はしょうが無いとの意見であった。

 今までの事からして彼は信頼出来る人物であることは確かだ。

 最初の手紙からだんだんと私の文章量も増え、文官が受け取った瞬間重みで倒れこんだ時点で書きすぎかもと思ったが、それを律儀に読み返信まで返していただけたのだから相当に誠実であるのだろう。

 その彼が言うのだ、少し許容するべきなのだろう。

 そう自身で締めくくり、文末にあった秘策という一緒に届いた書物に手を伸ばした。

 

 

――――その後の信長は満足そうでありながらも、足が子鹿のようにプルプルしていたという。

 

 

 

 

 

 

 

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[一言] 子鹿の信長草
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