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第三十話 第二次遠江侵攻、武田の牙(後編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元亀2年(1572年) 9月2日

 

 釣り野伏せに関する打ち合わせが終わり、野田城からは滝川2000佐久間2000配置

 浜松城からは俺、氏郷、秀長、才蔵、利家 麾下3000

 徳川からは本多忠勝2000、榊原康政2000

 後は仕掛けを待つのみである。

 

 

 

 

 

 

 浜松城の、久秀の陣にて。

 

 

 

 

「そういえば本格的な合戦ってのは始めてだっけか?」


「…はい」


 俺の跡継ぎとなり正式に平手の婿養子になった平手氏郷。

 今回の戦は俺の副官を務めてもらうことになっている。

 まあ、まえまえから人の上に立つような人物にしてね、と半兵衛や秀長に教育してもらっていたから、頭でっかちな戦場で役に立たない筆頭な人物にはなっていないとは思うけど。

 っていうか元が蒲生氏郷なんだから半兵衛や秀長の薫陶を受けている補正もかかって、コーエー的にはワンチャンオール90すら付く可能性すらありそうだ。

 内政は割りと俺も仕事を振ったりしてるし、簡単な書類仕事なら完璧にこなせるだけの能力は既に持ち合わせている。

 とはいえ、さすがに初めての合戦ということになれば緊張は免れない。

 初めての合戦というより野戦かな。

 籠城戦なら兵站などで活躍してもらってることもあるからな。

 今回はあの武田を罠にはめるの前提とはいえ、直接矛を交えるんだからな。

 

「いいか、まずは生きることだけを考えろ。余裕があれば味方を助けろ。絶対に先走り武功を狙うなよ」


「わかっております」


 半兵衛や秀長に口を酸っぱく言われているだろう言葉。

 

『現当主の真似だけはなさらぬよう。アレは愚か者の所業です』


 俺の前でも遠慮なしに言うんだぜ?

 家臣としてどうかと思うが、俺自身どうかと思っているのでどうしようもない。

 

「久秀様、氏郷様。そろそろ出陣の時刻にございます」

 

 と、そんなことを話していると、声が掛かる。

 

 俺は大きく息を吸いゆっくりと吐き出す。

 いわゆる深呼吸なんだが、その動作を無意識なのか、氏郷も真似している。

 ハハ、こういう親の後をヒョコヒョコ付いてくるカルガモみたいなところが案外可愛いんだよな。

 ポン、と氏郷の頭をなでると、控える兵に出撃の合図を送った。

 

「いいか! 相手が武田だろうが、結局はただの人だ! 人が人に勝てぬ通りがない! いつもの様に俺のこの旗に付いてくれば負けるわけがねぇ!!」


 武一文字を馬上に掲げ、兵を鼓舞する。

 難度も難度も言い聞かせた『武の一文字』

 今回もその精鋭達が俺のもとに集まっている。

 負けるわけがない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『武田eyes』


 浜松攻城戦武田本陣にて

 

 


「伝令! 浜松城から『武の一文字』が出陣。それに続き本多隊、榊原隊も連帯を組み二俣城方面軍に突撃を開始したようです!」


「……遂に動いたか。籠城でしのぎ切ろうすればいいものを欲を出した将がいたか」

 

 嗄れた声でそう言って、軍配でを弄ぶようにしながら報告を受け、受け終わった後、机上にある地図へと向かう孫がいても可笑しくない程の年をとった男性。

 

「立ち上がっても大丈夫か、幸隆? 病身を押して従軍を頼んだワシの言えることではないがな」


 苦味を含む口調で語るのは武田信玄。

 言わずもがな武田の頭領、総大将である。

 その言葉に、大丈夫です、と一言のべると、

 

「二俣城方面に向ったということは、狙いは秋山信友か」


 幸隆と呼ばれた老将はギラギラとした獲物を見つめる瞳で口角を上げる。

 その瞳は深く、すべてを見通すような色を浮かべながらも獰猛さを持つまさに虎と呼ぶに相応しい瞳であった。

 

「秋山隊はそのまま交戦、山県は現状維持で攻城。浜松城の種子島とやらの残存数も知りたい。浜松城にどれだけ残っているかを最重要視して、ここからは被害を最小限に探れ。後ここに高坂を呼べぃ」


「ハッ!」


 素早い対応で伝令に走る兵。

 そして数分もしないウチに高坂昌信が姿を表し、信玄と幸隆の前で方膝をつく。

 

「お呼びでしょうか」


「うむ」


 そういって手招きをして、地図を震える手で指し示す。

 

「ここじゃ」

 

 指し示されたのは堀江城と浜松城の間にある、平地ともいえ、藪も多く群上する更地である。

 だが確かに幸隆はそこを示し、

 

「穴山殿を葬ったであろう土地を洗わせ、あらゆる点から鑑み全てを組み合わせれば状況は自ずと見えてくる。おそらく使われた戦法は『十面埋伏の計』の応用じゃろう」


「…かの大陸の計の事か?」


 信玄が口を挟むと、一つうなずき更に口を開く幸隆。


「左様です。そして近隣住人からは轟音が絶え間なく聞こえ、戦場には種子島の弾が数多く残されておった。十面埋伏自体は余程上手く使わねば今の戦場には適応できませんが、それを可能とするのが…」


 そう言って、懐から一つの種子島の弾を取り出す。

 

「種子島です」


「しかし幸隆、アレは離れた的にすら満足に当てることが出来ぬ玩具と聞くが?」


「その玩具を大量に用いて、隙間なく弾で埋め尽くした結果が穴山梅雪の野戦での大敗北だとお忘れですか?」


「……密集した軍団に撃てば、狙いは不要というわけか」


 幸隆に言われた言葉に反論はなかったのか、それ以上は信玄は語ることはなかった。

 

「おそらく平手、本多、榊原にて秋山隊を引き込み、この場所まで誘導し、種子島を持つ伏兵による奇襲。そしてその後は三隊も反転し追撃にかかる手筈のはず」


「闘いながら後退し、誘導…そんな事が…」


「出来たからこその先の敗戦じゃ」


 高坂の疑問に断言する。

 高坂の言う通り難しい作戦である。

 おそらく失敗する確率のが高いのではないかというほどに。

 

「して幸隆よ、お前の事だ。今までのらしからぬ攻城戦、そしてこの十面埋伏とやらを打ち破る策、お前の頭の中に入って居るのだろう?」


 その音場を受けた幸隆は不敵に笑う。

 

「先に伏兵を片付けようにも察知されれば直ぐに撤退され、機を改めるだけでしょう。だからと言って馬鹿正直に罠を食い破ろうとすればおそらく穴山殿の二の舞、ならば」


 そういって、軍配を更に後方へ、そして軍配を高坂本人へ突きつけ、


「高坂殿、おぬしの隊こそが騎馬隊が鍵となる」

 

―――真田幸隆

 軍配越しに獰猛に笑うのは、信玄に二十年以上に渡り仕え、外様の家臣ながら譜代家臣並の待遇を受けるほどの信任を得、真田家の基盤を作り、数々の武功を立てた稀代の軍師。

 攻め弾正と呼ばれ恐れられ、後の昌幸、信之・幸村の真田三代の始祖とされる人物である。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『久秀eyes』

 

 

 

 

 元亀2年(1572年) 9月2日

 秋山隊が予想通り釣り野伏せにかかり、突出気味になり始める。

 伏兵位置まではまだあるが、この調子でいけば罠にかけることはむずかしくない。

 

「ハァッ!!!」


 二騎の兵が壁を抜けたのか此方に向かってくるが、その内の一騎は冷静に武一文字で馬ごと吹っ飛ばしておく。

 突出し過ぎた騎馬隊は平手家が請け負い、あくまで硬直状態での後退を心がけなければならない。

 馬ごと10mは飛んだかなと呑気に眺めていると、もう一騎は氏郷の方へ向かっていった。

 その氏郷は騎乗で巧みな槍さばきを見せ、相手をいなし、敵をまったく寄せ付けずに心臓を一刺し。

 我が息子はなかなかやるようである。

 まぁ氏郷は才蔵、利家にも教えを請うているみたいだからコレぐらいは当たり前なんだろうが。

 お互いに一息ついたところで一息つく。

 

「上手く後続と引き離せたな」


「はい、こうして押し込まれている側の私ですら、誘導の意図を感じさせない程自然な後退。流石は本多殿、榊原殿です」


「だな。三河武士は本当に頼りになる。…本来なら利家もこの役目を引き受けてくれなきゃ困るんだがな。如何せん二人の邪魔にしかならないだろうし」


「父上…それは…」


 そう言いながらも巧みに兵を誘導し続ける。

 罠が張っている地点はもうすぐである。

 後は鏑矢が鳴り響くのを待つのみ。

  

 誰もがそう思う展開だった。

 そして、思った通りの位置に秋山隊がさしかかり、鏑矢の合図が鳴り響くやいなや、

  

 

――――――オオオオオオオオオォォォォォォォォォォ………!!!



 凄まじい勢いで後方から騎馬隊の一軍が迫ってくる。

 その速さは類を見ないほどの速さを誇り、統率さえも完璧にとれている。


「なぁ…!?」


「なにが……!?」


 このまま一気に藪へと駆け抜けようと、秋山隊は愚か、反転しようとする俺たちを追い抜き、釣り野伏せの中央を駆け抜け反転するその騎馬隊は、徳川でもなく織田でもない。

 神速の用兵をなしたその将は、

 

「武田に対して同じ策が二度通じると思っていたのだったら、甘いと言わざるをえない。ここはどうやら秋山殿の墓場ではなく、貴様らの墓場となるだろうよ」


 すでに伏兵に配置された種子島隊は攻撃範囲に味方がいるため使えない。

 このまま策を実行すれば同士討ちとなる。

 

「全ては幸隆殿の言うとおりか。『囮役は必ず逃げ道を塞ぐためそこへ向かう。その穴を見極め先んじて封じれば種子島の威力故に同士討ちを招き策を実行に移せない』」

 

「マジかよ…」


 たったの一回使っただけでここまで此方の策を分析してくるのか武田は?

 それとも被害が大きすぎたゆえに警戒心が生んだのか?

 

「なぁ、こんな時に口上なんて無粋かもしれないけどこの策を潰したのは『幸隆』って人だって行ったな? もしかして真田幸隆殿か?」


「いかにも」


 俺のその言葉に律儀に答える目の前の男。

 コイツも半端ないやつなんだろうなぁ…。

 

「そうか」


 ってか生きてたのかよ!!

 昌幸は若いし山本勘助は死んでるから、知恵袋がないと思えば幸隆ってこんな時代まで生きてたのか!?

 信虎の時の重臣だったんじゃなかったっけ?!

 

「そして俺の名は高坂昌信。冥土の土産にこの名を持ってゆけッ!!」


「ちぃぃッ!!!」

 

 馬上から繰り出される一撃は、才蔵にも山県にも劣らない一撃。

 それだけで油断の出来ない人物だと一瞬で理解できるくらいの力量は手に入れたつもりだ。

 っていうか高坂昌信って武田四天王の一人じゃねえか!

 こんな後詰めみたいな配置で、今更出てきて戦場かき乱しやがって!!

 

「こんにゃろ!!」



―――――ゴォンッ!!!



 武一文字で砂煙を上げ、視界を奪う。

 さすがにその威力と礫によって多少のスペースが出来た。

 

「滝川隊! 佐久間隊! 釣り野伏は失敗しました! 種子島だけは回収しなければいけないから一箇所に集めて馬で運ばせてください! 急いで! この作戦のキモはおそらく俺達の持つ『種子島』の回収しその構造の研究、さらなる対策を練ることにあるはずです!」


 武田は海を手に入れて間もなく、今までの貿易らしい貿易は食料や武器が主であった。

 だから何も知らないから無関心で居られた所、織田徳川にアレだけやられた原因が『種子島』であると幸隆は見ているのであろう。

 これで種子島の有用性を説いて万が一採用された場合、もう武田は手が出せない状態になる。

 今は騎馬隊に固執しているが、騎馬隊だけではこれからは厳しくなることをこの戦いで武田は学びつつある。

 そんな中でここにある大量の種子島を武田に奪われたりしたら目も当てられない。

 

「氏郷! お前が騎馬隊を率いて種子島を堀江城へと輸送しろ! 出来るだけの時間は殿軍の俺と本多殿、榊原殿が引き受ける! …ですよね?」


 事後報告になってしまったが、二人共頷いてくれた。

 よし、後は時間を稼ぐだけだな。

 少しくらいは盗まれてもしょうがないから、大多数は持ち帰って欲しいもんだ。

 

 じりじりと様子見をしながら、滝川隊、佐久間隊を守るように隊列を組む。

 一応予備として槍を両部隊に持たせてはいるが、防馬柵さえない足軽なんて一瞬で踏み潰されてしまうからな。

 いやぁ、さすがに厳しい。

 武田騎馬隊のしかも秋山信友、高坂昌信率いる6000+数千に俺と本多、榊原率いる騎馬隊5000弱て、勝てる要素が見当たらないっつーの。

 さてどうしようか、互いが硬直状態になっているなか、

 

「……?」


「なんだ?」

 

 

――――――ドドドドドドド…………っ

 

 

 大量の蹄の音。

 姫街道堀江城方面から一万を超える大軍勢がおしよせてきているのである。

 そしてその旗印は、

 

「おい、丸パクりじゃねえか!」

 

――――『武の一文字』である。

 

 何から何までパクリである。

 そしてその先頭に立ち万の兵を率いる総大将は、裏切りこそ『華』、悪徳こそ『美』。 己をそう称し、素で行った戦国の梟雄、

 

「千宗易推参!!!」


「違う、松永弾正久秀だジジイィ!!!」


 救いの手はどこから差し伸べられるかはわからないものである。

 そして悠々と名乗った後、

 

「ここは退かれませい。この軍勢を前にさすがの武田も相手どれはできますまい?」

 

 そう言って弾正が手を上げると馬上の乗り手が一斉に種子島を構え、


 

――――ドンドンドンドンッ!!!!



 誰一人落馬することなく馬上で種子島を討ってみせたのである。

 さすがに賞賛より呆れが先に来る感じだ。

 

「鉄砲騎馬隊かよ…っ。確かにそんな事が出来るかもみたいな文通はしたことあるけど…律儀に仕上げてくる辺り……かなわねえなぁ」



 その後、さすがの高坂、秋山も援軍が来るとは思っていなかったらしく、踵をかえし、その場を立ち去っていった。

 なんというかこう、やり場のないどうしようも無さを氏郷の額にでこピンしておいた。


「あべしっ!?」


  

 



 

 

 

 

 

 時刻は既に夕刻となっており、弾正はその夕焼けを見ながらぼおっとしている様子であった、

 局所的だが戦いが終わり、俺は弾正に詰め寄る。

 

「いや、助けてくれたことには感謝するけど、今頃秀吉泣いてるんじゃないか?」


 弾正が任されていたのは雑賀衆、本願寺であるため弾正が抜ければ戦線が維持できないのではと危惧したのだ。

 

「いや、実はワシ最近隠居しましてなぁ。あ、名前は千宗易といたしました」


「ああ、どうもご丁寧に…って隠居!?」


「まぁ、後のことは久通が何とかするでしょうな。それ以前に対武田戦線でワシが兵力を集めるには隠居して権力から自らを切り離さなければなりませなくてのう」


 対武田戦線に兵を送ることは事前から決まっていたが、柴田殿、丹羽殿、秀吉はそれぞれ京の逗留軍、一向一揆鎮圧などで手が離せず、兵を送ることはできるが、将が居ない状態だったのである。

 そこに弾正が立候補したのだが、当然織田重臣から信用できるわけがなく、じゃあ隠居して『武の一文字』のところで茶の湯でも楽しみます、みたいなふざけた回答をしたら受け入れられたらしい。

 なんでも弾正が平手を裏切ることだけはありえないという噂は蔓延しており、しかも実際仲がいいのでその縁を頼ったというところなんだろう。

 

「というわけでワシは今日から千宗易で御伽衆として使えさせて頂きます。あ、信長様もご承知ですので報告は結構らしいですぞ?」


「文句を聞きたくないだけだろうが!」


 馬上で打った種子島やらいろんなことを考えなければいけないけど、心強い味方が増えた………んだろうか?

 


「…おお! 忘れておりました、コレは前に話したお市様も天に昇る心地となること間違いなしのワシの生涯の手練手管をしr―――」


「今渡す時じゃないだろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『平手家臣団一覧』

 

 御隠居 平手政秀

 

 当主 平手久秀

 

 次期当主 平手氏郷(蒲生氏郷)

 

 御伽衆筆頭 千宗易(松永久秀)NEW

 

 家臣筆頭 羽柴秀長

 

 家臣次席 竹中重治(竹中半兵衛) 

 

 家臣 可児才蔵

 

 家臣 前田利家

 

 家臣 宮部継潤

 

 家臣 細川藤孝 

 

 家臣 柳生宗厳 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

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