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第二十八話 予期せぬ出来事、不幸は纏めてやってくる?

 

 

 

 

 

 

 元亀2年(1572年) 3月

 将軍足利義昭を河内国に追放、室町幕府滅亡

 

 

 越前の兵を朝倉から引き返し、返す刀で足利義昭に一太刀。

 権威はあるが兵は持たない義昭様に為す術はなく、河内国へと追放されたのである。

 将軍家ともなればやはり信長も首を刎ねるなのどの直裁的な行動を起こすことは出来ず、その影響のすくない国へと追放するのが精一杯だったのだろう。

 というか、松永弾正の機転がなければ浅井朝倉が誕生して、信長包囲網が完成されていたてはずであり、かの有名な金ヶ崎の退き口が引き起こされていたんだから、追放で済んで御の字という感じではないだろうか?

 ようやく京での問題を一掃できたかといえばそうではない。

 やはり将軍は将軍であり、それを追い出し追放すれば悪評というのはついて回る。

 周辺諸国に対してもそうであるが、京の民に対してもそうである。

 将軍でさえこのような目に合うのだから、市政の自分たちなどどうなってしまうのか?

 という疑問が捨て去れないのは当たり前の不安といえるだろう。

 そこで信長は明智殿に京の守りを厳重にするため、落ち着くまではある程度の兵力を京へ残し、一応の緩衝材として置いておく。

 だが、兵がヒャッハーする恐れが有るため、そんな事をした兵は有無を言わさず将兵であろうと首切っていいよという許可を出し京を後にした。

 まあ、残るのは京に詳しい明智殿であるし、大きな人事権も与えてあるし、真面目だから(空気がよめないとも言う)やってくれるだろうとは思う。

 大変だろうけど頑張ってほしいね。

 手紙送るから(文友である)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元亀2年(1572年) 6月

 織田信忠元服、茶々と電撃結婚

 

 

 

 いつかは来るんじゃないかと思っていたけど俺の頭からスポーンと抜けていたみたいだ。

 最初は信忠の烏帽子親を努めてくれって言うから那古屋城まで行ったんだよね。

 信忠くんは見ないうちに利発そうな顔立ちになっていて、織田家特有の美男も持ち合わせているようでちょっと腹が立つけど、それ以上に感慨深いものがあるね。

 生まれた時から知ってるし、たまに遊んであげたこともあるし、なついてくれてたもんね。

 ちなみに濃姫様とも仲良くやっているみたいで、母上と濃姫様を呼び、濃姫様も我が子のように元服を喜んでいるみたいだ。

 信長と仲良くやっているせいか、ツヤッツヤした肌で前見た時より若返ってるんじゃないかってくらいだったのが印象だったな。

 

 まぁ、元服の儀自体はつつがなく終わったんだが、信長が、

 

「よし。じゃあ、そろそろ結納の準備に取り掛かれ」


 と、周囲に命令を出した途端に嫌な予感がして、俺は全力で那古屋城の脱走を図ったんだが才蔵と利家、数百の親衛隊に囲まれた時点で、この元服自体が仕組まれたものだとようやく気づいたのである。

 信長のやつ、昔、俺が茶々の結婚に再三反対し、絶対結婚式には出ないと宣言していたのを覚えていたのか、強硬手段にでたようだ。

 俺は才蔵と利家に宇宙人のように抱えられて出席させられた。 

 この時のことは思い出したくない。

 その日の夜、信長と濃姫(様付はやめてと言われた)とお市と死ぬほど飲んで記憶を失おうとしたが、記憶は飛ばなかったが、胃の内容物は物理的に全部吐き出されたとだけ言っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元亀2年(1572年) 6月

 平手氏郷と初が結婚

 何時の間にか那古屋城に氏郷も来ていたらしく、1週間もしないうちに結納

 明らかに計画的な匂いがしたが俺に判断する思考能力は残っていなかった

 

 

 かゆ…うま…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元亀2年(1572年) 6月

 那古屋城、平手久秀の部屋

 

 

 

 

「な~江? お前はずっといっしょに居るもんな~?

 

「お父様痛いよ~、キャハハ」

 

 もはや俺に残された希望はこの娘だけである。

 あれだけ愛情を注ぎ目に入れても痛くない娘たち二人が嫁に行ってしまった心の傷は深い。

 一週間で二人も娘が嫁にってマジでどうなのよ。

 俺は那古屋城にいる限り江を一秒たりとも手放そうとせず、家臣もその気持がわかるのか無理に引き離そうとはしなかった。

 

 だが情勢がそれをよしとはしなかったらしい。

 

「おい、久次郎! 浜松城から急報が入った! って聞いているのか!?」


「………ねえ、後ろに氏郷の姿はないよね? ………俺今、アイツの姿の見たら何を仕出かすかわからないからさぁ……」


「馬鹿を行っている場合か!!」


「何が馬鹿だこの野郎!! 娘二人を急に奪われた俺の気持ちがお前にわかるっていうのか! ええ!?」

 

「だからそういう事を行ってる時じゃないんだというのに!!!」


「お前は息子だからいいよな! 俺は娘だよ、可愛くてしょうがないの! 天使なの!! でも、堕天使になっちゃったの!! 俺は今嘆きのポエム綴りながらBaby Ready for danceなんだよ! 大事なものがなんだかわからない、ジーザスだってわからないんだよ、俺は!!」


「落ち着けというのに!!」


「へぶぅッ!?」


 久々に長谷部国重クラッシュをくらい、少しばかり現実に戻る。 

 だが、もうブルーでしょうがないのである。

 俺の意味不明なことに信長は意に返さず、口を開く。

 

「意味のわからないことを…! いいか、武田が動き出した! 今は農繁期真っ直中だと安心しきっていた! どういうカラクリなのかは分からないが浜松城に織田が居ないことを察知したのか、二俣城ではなく掛川城に総勢30000以上、三方ヶ原の戦い並の戦力で高天神城へと押し寄せている!」


「はぁ!? 馬鹿な!!!」


 一瞬で現実に引き戻される、俺。

 確かに高天神城は攻められる要所だと思って軍備は整えているが、まだこの季節ということもあり、決して充実しているとはいえない。

 

「徳川方の対処は!? 武田の急な動きのために秀長と半兵衛を残しているんだ、何の対処もしているとは思えない! 少なくとも俺には連絡が届いていない!」


 何かがあればすぐにでも高天神城に出向けるように軍備を整えている。

 今回の那古屋城滞在は武田に漏れないように極秘にしている上に、この季節だ。

 動くはずがないと秀長、半兵衛も思っていたようだ。

 動いても万を超える兵は動員できないはずだと語っていた。

 それが三万って。

 

「武田はこの冬に諏訪原城という高天神城攻略を目的とした城を築いていたらしい。よほど極秘に築いていたのか、二俣城と掛川の交流の影に隠れて本命を浜松城に絞ったと見せかけて、掛川城側に人員を流し、1月もかからず築城したらしい」


 築城を阻止することは確かに情報がなければ出来ないだろうが、その情報すら流れてこないなんて…。

 

「…忍びか?」


「確かに否定出来ないだろうが、そもそも伝達には兵農分離といえど身分不確かものはつかっておらん。絶対とはいわんが…」


 まあ確かに秀長や半兵衛が重要書類を身分不確かな者に渡すわけはない。

 情報伝達を絶たれるなんて根本で処理しなければ………?

 あれ…何だったっけ…?

 武田信玄…忍び…場内、邸宅を自由に動けるもの…

 聞いたことがある…殺しに来て逆に惚れたのは……ああ、あれは石田三成だっけ。


 いや、いやいやいや、まてまて。

 そうだ、思い出した。

 女、女中、くの一…武田信玄のくの一といえば…

 

――――望月千代女か!

 

 

「ああ、いつも俺はなんで中途半端に思いだすかなあッ!」


「どうした?」


「くノ一、女の忍びだよ! 女中に化けて浜松城の情報を入手。さらには情報閉鎖。だから秀長、半兵衛からの情報が入って来なかったし入らなかったんだ! 女中なら屋敷内にいても不思議じゃないし、文が出されたことの報告、察知、自らの処理、浜松城と那古屋城の距離を考えれば途中で処理される可能性だって否定出来ない。直接あいつらに接触できなくても文を受け取る文官には接触できる」


 例えば美人局(ちょっと違うが)とか色仕掛けとか、ウチの文官は結構餓えてる奴多そうだからなあ。

 男の性を利用した上手い作戦だとは思うが、武田信玄も柔軟というか。

 いや、案外他の将の進言かもしれんがなぁ。

 

「マズイな、あらゆる点で後手後手に回ってる。高天神城は織田兵が入城していない。つまりは回し打ちが出来ない」


 回し打ちは平手家の所有する種子島があってこその戦法であり、それぞ実行できない徳川兵が守る高天神城は普通の籠城をするしか無い。

 さらに言えば浜松城から高天神城への交通整備はできておらず、大量の兵站、物資、援軍を送るにも苦労する。

 逆に相手は諏訪原城を拠点とした兵站の維持が可能だ。

 考えたくないけどこれは…

 

「………高天神城は落ちるな」


 信長は瞳を閉じ、ただの事実としての言葉をその舌にのせた。

 

 

 

 

 

 元亀2年(1572年) 7月

 浜松城へ平手久秀が戻る

 織田信長は前回の教訓を生かし、堀江城に詰め寄せ前回のような侵攻を防ぐように兵を動かす

 増援を贈ろうにも二俣城、掛川城からの睨みに兵を動かすことが出来ず


『両軍戦況』


 二俣城6000 城主、秋山信友  掛川城6000 城主、山県昌景

 高天神城 攻城側18000 総大将 武田信玄

 

 高天神城 籠城3000 城主、小笠原信興

 

 

 

 

 

 

 元亀2年(1572年) 7月

 遂に高天神城陥落

 浜松城は遠江にて武田から孤立

 

 そして浜松城にて対武田戦線緊急軍評定が行われる

 

 

 

「高天神城は遠江の要所であると同時に、海に近い城。だが、武田には海運業の基盤を持ちあわせてはおらず、すぐに海を活用できるとは限りません」


 浜松城に両家の主要メンバーが勢ぞろいしている中、半兵衛がその口火を切る。

 確かにこれで武田が海を手に入れたのは間違いないが、西に徳川、織田、東に北条、北に上杉といる中で大きく広がった領地経営を出来るかといえば疑問である。

 流石に武田が海を手に入れれば北条とて同盟を組んで足並みを揃えている場合ではないだろうし、元から仲の悪い上杉は、雪解けが始まれば北から攻め寄せるはずだ。

 だからこその短期決戦で高天神城を落としておきたかったはずなのだ。

 農繁期にもかかわらず全兵を動員したのは信玄らしからぬ決断だったとは思うが、これでこのまま浜松城、堀江城を専守防衛すれば農繁期を逃した痛手は確実に武田を襲う。

 

「勝負はこの夏。秋が来ても武田は兵糧を得る術がない。物資や兵站に大幅な負担がかかります。粘りきり、守りきれば武田の補給線は途切れ戦況は一変。今度は此方からの逆襲も出来ましょうし、上杉や北条も黙ってはいないでしょう」


 そう締めくくると、半兵衛は口を閉じた。

 俺はそれを見計らって口を開く。

 

「だがそんなこと武田も判っているはずじゃないのか? 確かに高天神城は落とした。海を手に入れたと思ってもいいかもしれないが、それで兵站がまかなえるとは思ってはさすがに居ないだろ?

 

 確かに海運が上手く言って魚がとれたとしても、兵が足りなくなるし、半兵衛が言ったようにそもそも基盤が存在しないのならどうしようもないと思うんだが。

 どうにもこの農繁期を捨ててまで高天神城にこだわった理由がわからない。

 

「誰がどう考えたってこの信玄の動きはおかしいって思っている。武田には優秀な将があれだけいて大人しくこんな事を許すほど信玄は信任を得ているのか? 普通は止めるはずだろ?」


「……確かに」


「敵は俺達だけじゃないんだぞ?北に上杉、東に北条がいる。そんな中海だけのために農繁期を捨てて攻める必要がどこにあるんだ?」


「………」


 俺の問いに答える答えがなかったのが黙る一同。

 何かがある。

 くノ一までつかって此方の動きを見て、行動を起こした結果が自国のジリ貧を誘発するなんてことをあの武田信玄がやるのだろうか?

 

 そのまま数分程時間が経ち誰もが言葉を発せないままであったが、その沈黙を破ったのは一人の伝令兵であった。

 

「大至急、大至急ご連絡!」


「まて! 今は評定中だ! 後に―――」


「今はそんな事言っている場合ではございませぬ!」

 

 その声が家康殿にも聞こえたのか、周り、俺にも目配せして通すことに同意する。  

 通された伝令兵は脇目もふらず家康殿の前に平伏する。

 

「その方、今がどのような時かわかっていような」


「ハッ! しかしこれは織田信長様からの徳川、織田在住家の方々への速達からの報告です!


「何!?」


 一斉に騒がしくなる評定内。

 信長が何を速達で伝えるっていうんだ?

 一同が固唾を呑む中、伝令はその口を開いた。

 

「武田、上杉、北条が元将軍義昭様の名において対織田戦線、そして対徳川戦線に限り互いの領地に対する不可侵条約を結びました! 更には上杉領越後には元将軍である義昭様が逗留している様子! そして北条はその豊富な物資と兵糧を対織田、対徳川に限り兵站を担うとのこと!」


「な…なんだと…!?」


「マジかよ……っ」

 

「じゃ、じゃあ……ここまで強行軍を繰り返した背景には…!」


「東の強三国が対織田、徳川に限って同盟するっていうのかよ! だからここまで無茶な進軍をしたのも、上杉には警戒がいらず、農繁期を逃しても北条による兵站の維持は約束されているからか!!」



――――甲相駿三国同盟ならぬ、甲相越三国同盟かよ!



 武田と上杉が同盟と言う言葉はふさわしくないかもしれないが、北条と武田は同盟関係である。

 要は織田、徳川と戦っている間は、上杉は武田に手を出さないのだという事だ。

 おそらく元将軍である義昭の要請は同盟であったのだろうが、流石にそこまでは妥協は出来なかったのだろう。

 それでも武田にしてみれば上杉の脅威が亡くなるだけで対織田、徳川に兵を集中できる。

 謙信は義理堅いゆえに約束は破らないだろう。

 普段の信玄ならこんな上杉の助力を借りるような真似はお断りなのだろうが、今回は話が別のようだ。

 

―――どうやら徳川と織田は、武田の誇りに傷をつけるどころか逆鱗に触れてしまったらしい。

 

 

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