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第二十七話 武田信玄撤退、束の間の安息日々をいかがお過ごしでしょうか?

 

 

 

 元亀2年(1571年) 3月

 

 武田信玄、堀江城を全軍30000弱にて出陣

 向かう先は浜松城方面であるという情報が入り、浜松城軍事評定が開かれる

 

 

 

 

「ようやく動いてくれたか…」


「そのようです」


「アレ?」


 当然慌てているものかと思いきや、家康殿や半兵衛、本多正信殿等の首脳陣はホッと一息ついた様子である。

 武田が大軍勢でこっちにやってくるんだから、もっと慌てふためくものかと思っていたんだがそうでもないらしい。

 状況を飲み込めない俺は、それに気づいた細川藤孝にそっと教えられる。

 

「この武田の進軍は堀江城からの撤退です。堀江城で籠城し戦えるだけの戦力や兵站があれば堀江城を空にはせず城主に誰かを残します。今回は回し打ちや釣り野伏せなどの未知な戦法によって将兵を失っており、更には農繁期が近づいております。信玄としては苦渋の決断でしょうが野田城、浜松城で姫街道を封鎖しておりますからなぁ。これ以上の続行は信玄の言う五分を持って良とする、と言った考えからの撤退でしょう」


 地図を持って手振りでこうこう教えてくれる藤孝。

 なんだか凄い頼り甲斐があって先生みたいだな。

 俺より年下だけどな(驚愕の事実だが)

 俺って若く見えるけどっていうかあんまり見た目変わってないらしく、見えても30以下らしい。

 けど、もうそろそろアラフォーだからなぁ。

 なんかこう時の流れの速さを感じるよな。

 って、そんな事言ってる場合じゃないか。


「……そうか、主な道って言えば姫街道しかなくて、信玄は海に面した城を持ってないもんな、戦を続けるにはそりゃ兵站の維持がなけりゃ続行は不可能だわな」


「これでもし高天神城が落とされていたら、海上での物資のやり取りも出来る以上に、武田が海を支配権に入れます。これはなんとしても避けねばなりませんでした」


 まぁたしかにこの遠江の侵攻は武田の支配権に海を確保したいからの侵略戦だしな。

 でもそう考えると武田も不運だよな。

 昔は北には上杉、東には北条、南には今川がいて先代の信虎はさぞ困ったに違いない。

 山に囲まれてるんじゃ、侵略して奪うか貿易して買うかでどうしても下手に出ざるをえないしなぁ、外交的には。

 特に塩なんかは敵に塩を送るってことわざが出来るくらい有名な重要物資だし。

 やっと今川が没落して、ヒャッハー海だァ~! ってなる所を徳川が台頭、更には織田と同盟を結んでまた南に強国発生かよ! みたいな心境かもね、武田的には。

 

「とにかく今回の遠江侵攻は一時的にですが均衡を保つことができます」


「そりゃ俺らも頑張ったかいがあったなぁ」


 俺的には山県昌景に顔パンしてやりたい気持ちでいっぱいだけど!

 宗厳や才蔵から対多数ではなく一対一の術っていうのを学んでいる最中だしな。

 っていうか才蔵に前から教えてもらっておけばよかったと後悔してるわ。

 才蔵は主君に槍を向けなられないとかで一回も戦ったことなかったけど、実際戦ってみると山県昌景より強いんですわ、またコレが。

 笹の才蔵っていう異名は伊達じゃなかったんだな…。

 ごめん、今まで脳筋とか言って。

 やっぱ未来知識でゲームやると武力だけ高い武将って使えないから、少し見くびってた部分があったよ。

 統率の取れる人材も大切だけど、男としてはこういう人物って凄いと思うわ。

 気づくのに20年くらいかかったけど。

 あ、利家は流石にフルボッコしました。

 アイツはアイツで歳を取ってくるたびに世渡りがうまくなっていくというか、丸くなって行ってるから藤孝先生に教養を叩きこんでもらって、内政にも使える秀長タイプにチェンジしてもらおうかね?

 そんあ将来の展望を考えていると藤孝先生が、

 

「ですが、今後は戦場を浜松城か高天神城に移します。結局は農繁期のみの小休止であるかと」


「うげ…」


 武田の脅威を知る身としては、もう戦いたくない相手だ。

 山県昌景だけは別だけど。

 アイツだけは絶対フルボッコにするけど!

 結局、武田は北に上杉、東に北条がいる限り、そして上洛するためには徳川がいる遠江を侵攻はするしか無いわけなんだよな。

 家康殿も大変だわ、コレは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元亀2年(1571年) 3月

 予想通り浜松城を素通りして二俣城へと帰還していく武田全軍

 堀江城の後始末や今後の対応を考えるために、織田家の軍事評定が行われる

 

 

 

 

 

 

「と言っても、恒例の会議と言う名の飲み会なわけだが」


 いつもの様に飲みながら会議をするという意味の分からないノリの無礼講な評定が始まる。

 平手家名物であるため最初は藤孝先生や宗厳は戸惑っていたようだが、案外ノリのいい人達らしく直ぐに打ち解けていった。

 まあ、あの弾正のジジイと仲がいいっていうくらいだから結構な変わり者なのかもね。

 

「ようやく安心とは行かないが、一息つける情勢になってきたなぁ」


「夏までは戦がない…と思いたいですが、相手は武田信玄。何を企み何を狙うかは分かりませんゆえ、気を抜くことはできませんが、一応の節目であることはたしかでしょう」


 そう締めくくる半兵衛の言葉に、俺達平手一同はふひ~とため息をつく。

 もはや平手家は半兵衛が当主といってもいいくらいの権限を持っているので、半兵衛がそういうならそういうことなんだろう的なノリがあったりする。

 ホント頭が上がらないっていうか、秀長と半兵衛の二人はもう別格だよね。

 俺は戦専門でハンコポンポン押したり、重要な会議くらいしか参加してないしな。

 いやその仕事も結構忙しいから誤解しないように。

 

「そういや、武田戦線がどうのって契約で俺達が浜松城に来たわけだけど、武田が二俣城に行った場合どうなるんだ?」


 信長にはどうにかなるまで無期限でコイツをレンタルするから、みたいにTUT○YA並に軽いノリで派遣されたから、こうして見ると今後の展開ってどうすればいいんだろうな。

 

「おそらくは滝川、佐久間殿はわかりませんが平手家は武田戦線に据え置きでしょうね。自分たちを過大評価するわけではありませんが、平手家が抜ければまず間違いなく遠江は武田の手に落ちますゆえ。」


「…よかったな、家康殿呼んでなくて」


 利家がぼそっと言う。

 俺も同感である。

 

「回し打ちは平手家、釣り野伏せは徳川の練度の高い兵と、平手家の種子島無しには成り立ちません。それに平手家は織田家でも最重要の位置にいる家柄。平手家がいることによって徳川を見捨てる意志がないと言うことを徳川にも対外諸国にも示すことができます」


 ってことは当面、あの武田信玄とにらめっこかよ。

 胃が痛くなることうけあいだなあ。

 

「滝川殿はわかりませんが、佐久間殿は対武田からは外れるでしょうな。少々酷ですが対武田となると力不足の感が否めません。前線ではなく後方の守りになると思います」


「…よかったな、佐久間殿呼んでなくて」

 

 利家がぼそっと言う。

 俺も同感である 

 

「まぁ、そこら辺の折衝は信長殿が考えて行くでしょう。案外最近の活躍著しい秀吉殿が来られるかもしれませんな。本願寺や雑賀衆は弾正殿と秀吉殿によって鎮圧が順調でして、他の方に回しても何とか弾正殿なら踏ん張ってくれるでしょうしな」


「あの弾正と秀吉にかかれば、よっぽど一向宗より質の悪い洗脳になるんじゃねえかなぁ」


「ハハハ! 違いないですな!」


 秀吉と弾正のタッグて。

 敵に回したくないわ。

 考えただけでなんか有りもしない策に怯えそうだ。

 

「越前の方は柴田殿、丹羽殿、明智殿でこの秋に決戦まで持ち込めなかったのは痛いですが、冬は雪のため合戦が出来ずその兵力を無駄にする信長殿ではないでしょう。おそらくは包囲網を敷いた義昭殿にその矛先を変え、春の雪解けまでには義昭殿は追放されるでしょうな」


「全く迷惑なヤツだったなぁ。嫌な思い出しか思い出せねえからなあ」


 蹴鞠のこととか、信長の愚痴とか、とにかく手間がかかったことしか覚えがない。

 藤孝先生と目が合うとなにかが通じ合った気がした。

 お互い苦労したよな、みたいな。


「目と目が合う~瞬間す~きだ~と気づ~いた~」


「……私は衆道を嗜みませんので…」


「ええ?!」


 まさかのドン引きである。

 俺だって嫌だよ!

 何が悲しくてアラフォーのオッサン同士でアッー!しなくちゃならねえんだ!

 とりあえずの誤解を解いておく。

 この先の関係がギクシャクしちゃうからな。

 

「まぁ、そうなると今度は毛利家などの中国方面にも目を向けなければならないので、柴田殿か明智殿が西を任されるのでしょうな。となると、丹羽殿、秀吉殿が此方に…いや、いっそこの際に雑賀衆を一気呵成にしてしまう事も…」


 なんかブツブツ言い始めた半兵衛。

 こうなると結論が出るのは結構長いので、それを合図に勝手にこっちはこっちで飲み始めることにしよう。

 平手家の指揮権は実際のところアイツが持ってるし、言ってみれば俺は傀儡っすから。

 なんでも出来る奴が下にいると上って凄い楽だよね。

 

「しかしこうやって改めて見ると平手家の家臣も結構増えたなあ。最初は秀吉と秀長だけだったもんな」


 副官って形から入って、秀長も一緒に来て、才蔵が同じような時期に来て…。

 

「桶狭間で兄者が手柄を上げて足軽大将になり、美濃攻略で平手殿の副官になってからですので…ざっと家臣としては七年程の付き合いになりますかな」


「美濃がまた稲葉山城っていう固い要所があってなぁ。そこで半兵衛を秀吉が無理やり調略して仲間に引き込んだんだっけか。アイツは昔っから変わらないなぁ、メチャクチャやって結果をひきずりこんでくるっていうか」


「ハハ、確かに兄者はそんな人物ですな」


 俺と秀長はこの家臣団の中では一番の長い付き合いになる。

 当然信頼もしているし、半兵衛は別格としても平手家の筆頭家臣は秀長であることには変わりない。

 そんな付き合いの長い俺達の昔話を興味深げに皆が聞いていることに気づく。

 

「ん? なんだ?」


「いや、そういえば父上の昔話や武勇伝などはあまり聞いたことがないなぁ、と思いまして」


 そういう氏郷の言葉に周りが頷いてくる。

 

「武勇伝っていっても俺はあの頃…桶狭間までは『土付かずの旗大将』っていわれるくらいの旗持ちの旗大将だったんだぞ、いろんな意味で」


「ハハハハハハ!! そういやお前そんな呼ばれ方してたもんなぁ! ハハハアグァァッ!!?」


 爆笑するのは利家。

 確かに今思うと爆笑モノだが他人に言われると腹が立つので、地味に果実を指弾で飛ばし黙らせておく。

 そういや生まれのことがあって目立たないように旗持って味方を鼓舞してたんだよなぁ。

 今は『武の一文字』なんて言って大層な旗印で、織田家の象徴とも言われる天下布武の意味を平手家当主は文字通り武一文字を持ってその行動で示している、みたいな歌まで言われてるくらいだし。

 実際メッチャこき使われてるんだけどな。

 

「まぁ、そうだな。桶狭間で手柄一位から稲葉城一夜落とし、六角戦はあんまり出番はなかったな。んで氏郷が平手家に来て…っていうかそう考えると俺の武功ってあんまり大したことしてなくないか?」


「それがしとしては久秀殿の六角戦の口上、今思い出すだけでも身が震える思いですぞ! あの時の久秀殿の一喝、是非氏郷殿にも見せて差し上げたかった!」

 

 そう言って才蔵は立ち上がり、槍の石突を地面に叩きつけるような身振りをして、

 

「我が名は平手久秀! 手に持つは我が旗印にして『武』を冠する愛槍『武一文字』! このまま我らと交戦するなら、この『武』はその名のごとくお前達をなぎ倒し、我らが身に向かう戈を止めるだろう! だが交戦しないのであれば、この『武』はその名のごとくお前達への戈を止めるだろう!」


 ちょ! おま! なんで一文字一句違わず覚えてるんだよ!

 改めて聞かされると自分の負の歴史を、卒業の作文や文集を読まれる恥ずかしさが沸いてくるわ!。

 コレが中二病に苦しむ際の症状か!

 全身が痒くて、床を転がりたい!

 

「さぁ、死にたい奴は前に出ろッ!! 死にたくなければここを去がふぐぁぁァァ!!!」

 

「やめろっつーの!!!」


 俺の渾身のコブラツイストで才蔵を黙らせる。

 コイツは昔っから、俺への尊敬の念が強いのか知らないが、たまに戦場でこの口上を行ってる所を見るんだよな。

 

「その口上は戦場でコイツの口からよく聞くが元はお前だったんだなぁ」


 さっきの指弾で沈めたと思っていたら平然と酒を飲み始めている利家

 流石に槍の又左ってところなのだろうか。

 っていうかアイツそこら中に言いふらしてるんかい!

 いまさらの事実に驚きを隠せんわ!

 

「才蔵殿の愛槍も『武』の一文字を取って『武太原』でしたっけ」


 才蔵は槍を変えるときも絶対にこの名前を継承して使うんだよな。

 戈を止めると言う意味を忘れないようにだとか、その意味を『体現』するだとか、太く生き、原……戦場を駆けるようにだとかの意味があるらしい。

 

「あ~! この話はやめだ! 他の話題に移ってくれ!」


 流石にもう耐え切れないのでそう言うと、皆苦笑いしながら違う話をそれぞれし始める。

 黒歴史は触れちゃイカンのだよ。

 この際才蔵には少し肉体言語でお話しておかねばな。

 な~に、槍のない才蔵などただの肉ダルマよ。

 まだまだコブラツイストはフィニッシュホールドとして通用するって教えてやんよ!

 

「ふんぬぅぅぅぅ!!」


「あががががががが………ッ!!!」

 

「……やはりそうなってくると、摂津や播磨などが重要拠点であり、この先生きのこるには……」

 

 まあ、いつもの終わってみればいつものノリで始まって終わっていく定例。

 初めは藤孝先生や宗厳も戸惑っていたが、次第に慣れて最後の方はノリノリだったような気がする。

 流石は弾正に縁がある人材だと変なとこで感心させられるよ、全く。

 

 

 

  『平手家の主な家臣団一覧』

 

 御隠居 平手政秀

 

 当主 平手久秀

 

 次期当主 平手氏郷(蒲生氏郷)

 

 家臣筆頭 羽柴秀長

 

 家臣次席 竹中重治(竹中半兵衛) 

 

 家臣 可児才蔵

 

 家臣 前田利家

 

 家臣 宮部継潤

 

 家臣 細川藤孝

 

 家臣 柳生宗厳 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

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