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第二十五話 信長と濃姫、女のツンデレは可愛いけど男のツンデレはウザイ事この上ない

 

 

 

 元亀2年(1571年)

 武田本隊が攻め込んだ野田城には信長本隊が詰めており、兵農分離による兵と財力にモノを言わせた某大戦の米の国を思わせる物量作戦で、回し打ちもあり武田攻城戦に敗北

 武田は苦渋の選択で堀江城に戻るも野戦で大敗、多くの戦死者を出し、穴山信君戦死報告を受けショックを隠しきれずにいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久秀様、文が届いておりますよ」


 とりあえずあの釣り野伏せから武田の動きが慎重になったため、この機に態勢を整えようと兵站や内政官の仕事が多くなってきているため、俺も一応内政官の一員なので仕事をしているところだった。

 しかしよかったな、信長なら実際見てなくても概要を理解すれば回し打ちを指揮できると思っていたが、野田攻城戦ではそんな杞憂が要らないくらいの大勝をしたそうだ。

 まあ確かに突っ込むかハシゴから登るかするしか無い攻城戦の攻め手は種子島の回し打ちの良い的になるだろうなぁ。

 相手は弓矢で此方は種子島、火力がまず違う上に攻城戦の守る側だしな。

 すげえいい顔しながら指揮してたのが目に浮かぶようだ。

 

 と、今は半兵衛が文を持ってきてくれているんだっけか。

 

「ありがとさん。で、誰からだ?」


「今回は信長様と秀吉様、明智様と丹羽様、松永弾正殿に……おや? お市様からも来てますね」


「結構来たなぁ。ってかお市からは別に珍しいことじゃないだろ?」


「まぁ、そうですが…普段の言動を見ていると筆不精かと思っていたものですから」


「ん~…俺も実際そうだと思ってたけど案外読んだり書いたりするのは面白いよ。面倒くさい相手には祐筆任せだけど」


 筆不精か…俺は現代ではメール不精というか、電話してこいよ派だったなぁ。

 あのチマチマした部分部分を千切って渡すようなやり取りが、めんどくさかった記憶がある。

 

 で、俺とお市は結構頻繁に文のやり取りをしている。

 現代だとメールっていうのはすぐ届いてすぐ返してで結構面倒くさい部分があったけど、この時代に来て文を書くっていうのは案外面白いというか趣があって好きだったりする。

 紙とか硯や筆は用意してくれるから面倒じゃないし、人任せだけどまぁそれくらいは許される立場だと思いたい。

 文章を読みながら、こんなこと思いながら書いたんだろうな、とか想像したり、近況報告でもちょっとした言い回しに感心したりメールに慣れていた俺にとっては新鮮だったんだよな。

 

 後は折角仲が良くなったり縁が出来た人にはマメに文通してたりもする。

 秀吉なんかはその筆頭だな、っていうか寧々さんともたまに文通するしね。

 っていうか奥さん方から文がめっちゃ来るんだよね、松さんもそうだし特に濃姫様かな。

 あの人ツンデレだと思って、文で信長が戦中にたまに濃姫は何をしているか等、意外と気にしてたりしていますよ。たまに顔を見せてあげると喜ぶかもしれませんね、的な文を送ったら速攻で返信が来たからね、速達な上に巻物みたいな大量の文が。

 だいたいこんな感じの文だっけか?

 

『我が夫の唯一の友人である平手久秀様からこのようなお気遣いをいただき誠にありがたきことでございます。夫が出先で何をしているかを考えると気になるものの、お気を煩わせる事を考えると文を出すにも憚られ、顔を合わせればお互いに今までの事もあり素直になれぬ為、この頃は禄に会話らしい会話もしていない中、このような形で夫がそのように私を思ってくださる想いが存在していたことに思わず涙を流してしまいました。いけませんね、私は美濃の蝮と呼ばれた斎藤道三の娘であり織田家の正室、毅然とせねばならぬとわかっていながらも夫の行動一つで一喜一憂してしまう自分が情けなくも、些細な事で嬉しく思う自分がいることに(以下略)というわけで私からは歩み寄れず、夫からも歩み寄っていただけぬこの身の寂しさを夫のご友人である平手様に頼るのは心苦しいですが、どうかお力添えをしていただけないでしょうか』


 というツンデレというか、普通の女の人で情が厚いが名家の矜持と吉乃さんや信忠の存在がネックになって素直になれなかっただけなんだなって思ったよ。

 凄い心細かったんだなぁ、すごい文章量なのに誤字一つなく達筆だったし。

 まぁそれから濃姫様とも文通が始まっているんだが信長は間違いなくツンデレで、気を使ってやれって言うと、今更素直になれるかアホ! みたいにテンプレみたいなこと言いながら、懐からかんざしを俺に寄越し濃姫様にプレゼントして、勘違いするなよ!? この前見た時髪がうっとおしそうだったからコレをやるだけだからな! とかお前の先進性は一体どの分野まで適応されるんだと言わんばかりのツンデレぶりである。

 

 と、そんな事を考えていると、半兵衛がいつものように苦笑いしながら、

 

「もちろん濃姫様からもお預かりしておりますよ」


 半兵衛は苦笑いしながらそう口を開いた。

 この『信長、濃姫いい加減仲直りしろ戦線』は俺の家臣の間にも広がっており、濃姫からは性生活から夫婦の会話まで俺に知らないことは無いんじゃねえかってくらい情報が集まっており、ある意味この武田戦線と同じくらい熱い抗争が広がっているのである。

 まあ言ってしまえば人の恋路は最高の酒の肴であることは言うまでもない話で、

 

 

 

『チキチキ! 第3回 いい加減仲直りしろよ信長&濃姫大論争!!』

 

 などというもはや会議と言う名の飲み会へと場を移すのである。




「もういい加減信長も素直になればいいのに、何が「是非に及ばず」だよ。その言葉使いたいだけなんじゃねえかっつーの」


「まあまあ、こうして夫婦でありながら不仲の時が続けば、時が経ってしまうほど普通の交友関係のようには行かないのは確かなことですし…」


「うるせぇ氏郷! そういえばテメェ初とこの前護衛振りきって夜の街に消えていったそうだな! もう夫婦気取りか! いい加減なことしたらぶっとばすぞテメエ!!」


 最近、初が氏郷と結婚したいとか言い出したときは、もうショックでアメリカンジョーク風な目ん玉がびよーんってなるかと思ったわ。

 その後、氏郷に結婚の意志があるかと聞いたら以前から恋仲だったとか。

 まぁ初が氏郷に内緒で先に両親に内約を取り付けようとしたのがホントのとこらしいんだけど、俺あの時は初号機並の暴走してたらしくて、あやうく氏郷を肉片に変えてしまうところだったらしい。

 まあ結局は両想いでお互い好きあってるなら文句はないってことで、両親公認となった二人の婚約。

 たまにいちゃついてる所を見ると微笑ましくて、氏郷を蹴っ飛ばしたくなるけどな。


「ちょ、アレは初に無理やり…! 父上に殴られたら死んでしまいますよ!!」

 

「じゃあなんだ! 俺の娘がふしだらにもアイツからお前を誘ったとでも言うのか、ええっ!?」


「あがががががが……ッ」


 俺のコブラツイストを受けながら必死に弁解する氏郷。

 未だ存在しないだろう関節技。

 まだこの技はこの時代ならフィニッシュホールドとしていけるはずだ、そうだろ○木!

 

「まぁまぁ、今は信長様と濃姫様に関しての事での会議中(?)ですから」


「ちっ」


 ぽいっと投げ捨てる氏郷がさめざめと泣きながら、初、俺は挫けそうだ、とか言ってるけど婚約解消したら縁も切って首も斬っちゃうからね?

 最近の初はお市に似るとこは似てるけど少し系統の違う美人なんだよね。

 茶々の方が似てるといえば似てるが、俺としては少し垢抜けた感じがある初のほうが可愛いと思うんだよね。

 お市は可愛いというより美人のキレイ目系な清楚タイプ。

 茶々もほとんどお市とタイプは一緒かな。

 初はどちらかと言うと綺麗とカワイイ系の中間のスポーツ系タイプ。

 江は子犬系というかまだ生まれて間もないしね、将来はカワイイ系の大人しめ系になるのかな。

 いやぁ、どの娘たちは可愛いよ、マジで。

 色々縁談申し込まれてるけど俺を倒せたら考えてやるって言ってるのに、誰も挑戦してこないなんてウチの娘に魅力がないとか言われてるみたいで腹立つよな。

 男ならどんと来いって話だよ、ドンとぶっ飛ばすけど。

 

「まぁとにかく信長様は頑固な方ですから、濃姫様の方から歩み寄るのが一番の方法なのではないでしょうか?」


 俺がそんな益体もないことを考えてるうちに発言するのはまさかの家康殿である。

 ちなみにこの会議(?)の出席者は俺の他にも徳川方も参加しており、徳川家康殿、本多正信殿、鳥居元忠殿等徳川の誇る武将がこんなしょうもない問題に頭を悩ませているという不思議な光景である。

 ちなみに此方も竹中半兵衛、羽柴秀長、平手氏郷、宮部継潤と俺の頭脳を並べてみた。

 脳筋共はどうせろくな事を言わないだろうから呼んでいない。

 ちなみに継潤は今回の野戦では活躍してくれていて、各隊の連携の強化、半兵衛の補佐等の裏方で頑張ってくれた功労者である。

 ただちょっと地味な部分だったので今まで名前が出てこなかっただけでね。

 

「それが濃姫様が言うには吉乃さん…ああ、信忠様、お世継ぎをお産みになった方なんですが、その方は少し前に亡くなりまして。その寂しさにつけ込むようである事も、自分が代用品とされてしまうことを恐れ、二の足を踏んでいる次第でして」


「左様な事情が…。確かに難しいですな」


 徳川の知恵袋とまで言われる本多正信殿がこんなしょっぱい問題にまじめに悩んでいる。

 未来から来た俺的には頭を抱えたいところだが、堪えなければなるまい。

 

「確かに弱みに付け込むような形にはなりますが、それもまた悲しみを受け止めると考えることで今は愛を与え、包容力と母性を織田殿に向ければ自然とお二方は上手く行くのでは無いでしょうか?」


 そう語るのは鳥居元忠殿。

 この人は俺も大河で知ってるけど何かの戦いで徳川家康に死ねと同じくらいの絶対勝てない攻城戦を任せられるんだけど、何の不平も漏らさず、兵も最小限だけでいいと兵を家康に籠城に必要な数だけ残して後を返し、思えば長いつきあいになりましたなぁ。今までお世話になりました、とだけいって、断固交戦して城にいた兵が一兵残らず全員が討ち死にしたという凄まじい最期を飾る人なんだよね。

 やっぱりこういう人の言葉は重みがあるなぁ(未来知識で今はまだそんな事はないけどね)

 

「そう俺も濃姫様に言ってるんだけど、やっぱり信長の目の前にしちゃうと嫉妬もあるんだろうなぁ。素直になれないんだってさ」


「むぅ、女心は秋の空と申しますしなぁ。鬼のような時期もあれば、驚くほど素直で優しい菩薩のような時期もある。私は浮気がバレた時など薙刀を持って追いかけられましたからなぁ」


 思い出すかのように語る元忠殿。

 素晴らしい武功と忠誠を思い出していた後にオチをつけないでくれないかな、イメージ崩れるから。

 さっきの忠誠の話が霞んで来たよ、おい。

 

「しからば信長殿に無理やり事をいたしてもらうのはいかがか? 情は後からついてくるとも言いますし」


 とんでもない事を言い出す本多正信殿。

 なにその嫌よ嫌よも好きのうちみたいなの。

 

「いや、濃姫は父である道三も無くし、斎藤家が所在不明な中、今は織田にしか縁がなく非常に心細く思ってるみたいですし、無理やりそんな事したらどんなことになるか」


 第一回、第二回では俺の嫁のお市を通じて縁を作り、娘たちも積極的に濃姫様が寂しがってるから構ってやってくれと言って対応させたら、また速達で巻物みたいなお礼の手紙をもらったしな。

 どんだけ寂しかったんだよって、お市もなんか同情的になって信長を責めたら逆に意固地になったようだ。

 本当にスゲエ面倒くさいやつだなアイツは。

 今は自然に奥様方の井戸端会議に参加できるようになったんだとか。

 寧々さんがそこら辺は上手くやってくれたみたいで、なんて言うかあの人は秀吉の嫁っていうだけじゃなくて寧々さんっていう一人の武将みたいな存在だよな。

 頼りになるし、機転も効くし、度胸もあるし、人を見る目というか観察眼が凄いんだよな。

 男だったらさぞ名のある武将だったんだろうなって思うわ。

 ちなみに秀吉の浮気を最近チクったんで、秀吉は今頃ヒーヒー言ってるに違いない。

 俺のもとにいる間は女遊びも一緒に楽しんだり、ハメを外させないように俺が見張ってられたけど、俺の元離れちゃったからな。

 手紙だとアイツ饒舌になっていらんこと書くからな、よもや情報が元上司の文通の友とは思うまい。

 ケケケ、俺の元を離れた報いというやつだ。

 

「うーん、こうして話してもやはり結局は本人同士がどうにかしろよっていう結論にしかならないんですよね」


「まぁ、言い方はアレですが、たしかにそうでしょうな」


 ちょっと苦笑いをしながら頷く家康殿。

 

「そういえば家康殿も最近お子さんが生まれたそうで、どうですか? やっぱり可愛いもんでしょう?」


「おお! 去年子供も生まれましてな! やはりこの手に抱くと親になった実感がじんわりと湧いて来ましてなぁ。まだ幼いのに凛々しい顔付きの男児でしてな! 将来は忠勝に師事をさせそれはもう凛々しい若武者になることでしょうな! 今から待ち遠しくてしょうがありませぬわ!」


「そ、そうっすか?」


 自分で振っといてなんだけど凄い食いついてきたんだけど。

 周りの徳川家臣を見ると、誰も目をあわせてくれない所を見るとこの話題は家臣の間では鬼門であったらしい。

 

 ここからは徳川家康のオンステージ、我が子竹千代がいかに将来を嘱望されているかの会に変わったことによって、話の趣旨は代わり、それぞれで話し合う飲み会へと変わっていったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして夜が明け、改めて信長の文を見ると、

 

『前回あった件に関しては処理しておいた。まぁ大きな問題にはなるまい。それと越前は以前通り順調、ただ本願寺は一向一揆に悩まされてはいるが、対武田に差し障るような事態を起こすほどの大事にはなるまいよ。

 と、まぁ、前書きとして書いたが今回の重要な点はそこではなくて、まあなんだ、お前も気にしていたようだからな、こうして報告するのも筋と思うてな。いやまあ、お濃との誤解が溶けたというか、まあ夫婦としてやっていけるかというくらいの関係にはなったのではないかと思うくらいには関係は修復されたということを伝えておこうと思ってな。

 意外と俺のことを思ってくれていたのを知った文を偶然見てしまってな。あやつがあれほどに俺のことをと思うとな…まぁ俺としては夫婦だし、答えなければならない立場であるからにはそれなりの態度は見せねばとな。

 いや、勘違いするなよ! お前の世話になったと言っても主にお市や寧々がお濃に気を配った事が(以下略』

 

 俺はその手紙を静かに置くと、

 

「お~い、半兵衛~。 火を持ってきてくれるか~?」


 ツンデレの惚気話ほどウザいものはないと確信した日であった。

 

 

 

 

 ちなみにまた速達で濃姫様から手紙が届いたが、今度は巻物っていうかデカめのバームクーヘンみたいな手紙が送られてきたのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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