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第二十二話 決戦、三方ヶ原の戦い(後編)

 

 

 

 

 

 

 

「くっ! もう始まってんじゃねえか!!」

 

「武田軍は魚鱗、徳川軍は鶴翼…! 完全に騎馬隊の勢いに飲み込まれて鶴翼は体を成しておりませぬ!」


 魚鱗という陣形は△の後方に大将を置き正面からの攻撃にめっぽう強い半面、両側面や後方から攻撃を受けると混乱が生じやすく弱いという欠点を持つ。

 徳川の鶴翼はVの後方に大将を配置して、大将が攻撃を受けやすい反面、敵が両翼の間に入ってくると同時にそれを閉じることで包囲・殲滅するのが目的な陣だ。

 でもこれは陣を構える側が多数であることが求められる上、大将に攻撃が集中するためこの兵力差では流石にマズイと言わざるをえない。

 

「どうする、久秀!? 完全に武田の勢いだ! このままじゃ家康公の首が取られるのも時間の問題だぞ!?」


「………っ!」


 どうする!

 半兵衛がいないなか、作戦指揮をとるのは俺だ。

 一応全ての陣と対応法は頭に叩き込んでいるが、いざ実践となると俺ってあんまり采配を振るったこと無いんだよな!

 ほとんど秀吉、秀長、半兵衛任せだったし。

 

 武田の陣は魚鱗…正面からの攻撃にはめっぽう強いが反面それ以外からの攻撃には脆い面を持っている。

 俺のいまの兵数は2500。

 滝川殿は1500。

 佐久間殿は1500。

 半兵衛に任せた500の兵を合わせれば総勢六千は確保できている。

 本当にいけるのか?

 行くしか…ないよなぁ…。

 

「滝川殿、俺はこれから背後に回りこみ偃月の陣で武田後方を強襲します! 滝川殿は家康殿が退却する隙を作る為に側面を強襲してください。その後は撹乱! 頃合いを見て家康殿と退却を!佐久間殿は家康殿と合流して、退き佐久間の異名をご存分に発揮なさっていただけますか?!」


「武田後方を…馬鹿な! いくら後方からの攻撃に弱いとはいえ相手は信玄! 無茶ですぞ!?」


「無茶を通さなきゃ、この戦局はどうにもならないでしょう!? おねがいしますよ! あ、そうだ! 佐久間殿、実は…」


 滝川殿はまだ何かを行っているが何かを聞いている暇はいまはない。

 退却路に半兵衛率いる伏兵を潜ませていることを素早く伝えて、半兵衛と俺の考えた戦略図を手短に伝えると、

 

「利家、才蔵! 待たせたな! 『武の一文字』が武田相手にどれだけ通用するか…行くぞッ!!」


「「応ッ!!」」















「おおおおおおおおおおおォォォォ!!!!」



―――――ドゴォォォッ!!!



 俺は馬から飛び降りる反動そのままに武一文字を地面に叩きつけ砂埃を巻き上げる。

 俺の場合馬に乗っているより、地面に二本足で立ってるほうが動きやすいからな。

 

 まずは目眩ましで、相手の視界を奪う!

 どうせここに居る兵士たちは味方なんていやしない。

 ほとんどが武田兵。

 なら遠慮することなく思い切り武一文字を振り回すことが出来るってもんだ!

 

「つありゃぁぁっ!!」


 第二撃は横薙ぎ。

 軽く十数人はポキポキっとできたかなっていう感触とともに、武一文字を振りきる。

 コレでちょっとは兵数も減らせて家康殿も逃げやすくなるだろう。

 とにかくここで暴れるだけ暴れて、あわよくば俺が信玄に一撃食らわせれば…!

 

「久秀! 見ろ風林火山の旗印! 武田信玄だ!」

 

 利家の声に目を向けてみると、目指できる位置に風林火山が靡いている。

 ビンゴか!!

 良い位置に強襲出来たみたいだ!

 

「よし、うまくいったか!? とにかく信玄だ! 手傷でもなんでも負わせられれば、確実に動きは鈍る! そこで俺達もさっさと退散するぞ! ここがこの合戦の分け目だ! 突っ込めぇぇぇ!!!」

 

 俺は一目散にその旗印に向かって走りだし、武田信玄らしき人物を探しだそうとするが、

 

「駄目だ、見つからねえ。―――うぉっ!」


 先ほどまでいた位置にとんでもない速さの槍が貫き通る。

 鉄砲で撃たれても死なない俺だけど、アレはなんかちょっと穴が空きそうな勢いの突きだなぁ…。

 放たれた方を見ると一般兵を絵に描いたような人物が放った一撃らしい。

 

「くっそ~、モブキャラみたいな顔の奴がこんなトンデモナイ攻撃してきやがって、オラァ!!!」


 武一文字を横薙ぎで思い切り振り切ると、一度は槍の腹で受けたが、そこから生まれる反発力はどうしようもなかったらしく20mくらい吹っ飛んでいく。

 俺的には最長記録が出た気分だ。

 

「チッ! 時間を食っちまったが、風林火山の旗は未だに健在。この辺に信玄がいるはずなんだ!」


 ふ~、と硬くなった気分を和ますように深呼吸をする間、ひゅっという風切り音が耳元で感じるやいなや、自分の直感を信じて武一文字をなぎ払うように、風を巻き上げるように振り回す。

 

――――ドスドスドスドスドス!!!


 案の定弓の一斉射撃を受けていたらしく、容赦無い数の矢があらぬ方向に降り注いでいた。

 俺は弓の一撃じゃ死なないけど、俺の後ろにいる、才蔵と利家達は別だ。

 クソッタレが、嫌な攻撃をしてきやがる!!!

 

「さすがに風林火山の旗のもとに集う親衛隊ってとこか…。全員がメチャメチャ強いし頭を使って攻撃してきやがる」


 こういう場合、その場に留まるのは最悪の選択だ。

 あちらが大群、此方が少数ならゲリラ戦を仕掛けたほうがまだ勝算がある。

 

「才蔵、利家! 信玄を狙うには時間を使いすぎた! このままじゃジリ貧だ、一旦林やヤブの中に連れてきた兵とともに身を隠せ! 林や藪じゃ馬の機動力は生かせない! 俺はもう少し敵を引き付ける! その間に撤退しろ!」


「だが…!」


「うるせえ! 上官命令だ! さっさと従え!!」


 この状況で問答してる余裕なんてあるわけがない。

 俺の隊が散り散りになっていくのを背で確認にながら、威嚇と共ににらみ合いを続ける。

 さっきのモブキャラっぽいまた弱そうだけど、メチャクチャ強いんだろうなオーラを発した兵が数十人いる。

 フフフ、さっき倒した奴は親衛隊の中でも最弱の存在よ、とか言わないだろうな?

 って、考えても仕方がない 

 だいぶ時間を稼いだとは思うが、どうする?

 俺も離脱するか?

 

「戦場での迷いは死を意味するぞ、小僧よ」


「な…へ? ―――おわぁッ!?」


 目の前の赤い甲冑を着た男は巧みに槍を捌き、肩、肘、膝を距離を測るように打って、俺の体が流れた所に、本命の心臓への一突きが突き刺さる。

 

「うぐぅ…ッ!」


 流石のチートボディでも衝撃だけは逃せないらしく、軽く2、3mは吹き飛ぶ。

 っていうかチートボディじゃなかったら即死だったっつーの。

 

「くそ…っ」


 あまりダメージを感じさせないふうに立ち上がる俺に対して、目の前の赤い甲冑の男は軽くおろどきを隠せないようだ。

 それはそうだろう、普通なら即死だったからな、ヘルメットがなくてもね。

 

「随分頑丈な体を持っておるようだな。よもやあの一撃を受けてなお立ち上がる者がいようとはなぁ」


「うるせ~! 頑丈さだけが取り柄なんだよこっちは! ってか何なんだお前いきなり!」


 くっそー! 俺もそうだが、才蔵や利家、家康殿の近況が気になるぜ。

 武田がこんなに強い兵を持ってるなんて予想外もいいとこだぞ。

 チートの俺ですらギリギリだってのに…!

 

「はぁあ!!」


 赤い男が俺に向かって突きを放つ。

 流石にいきなりの攻撃じゃなければ、対処の方法はある。

 

「おらぁッ!!」


 突かれた切っ先を払うように落とそうと叩こうとすれば、

 

「未熟」


 その切っ先を絡めとるように捻りを入れ、俺の武一文字をかち上げる。

 

「しまっ…!」


 本命は突きに対応してきた切っ先を絡め弾き、相手から武器を奪う一種の武器破壊(意味合いが違うが)攻撃か! 

 流石に超重量武器の武一文字を吹き飛ばすほどの膂力はなかったようで、片手で何とか武一文字は手放さないでいられている。

 

「弓兵、一斉発射!」


「またかよ!」


 体制が崩れたところで狙いすましたように体を射抜こうとする矢の数々。

 まあ、実際当たったところで死ぬことはないが、その襲いかかる矢を無理やり武一文字を振り回すことでどうにか弾く。

 

「足軽隊、突けぃ!」


 今度はいつの間にか距離を詰めていた足軽部隊が俺に向かって槍の一撃を放ってくる。

 弓の斉射は俺への目眩ましってわけか!?

 マジでやべえ!

 あのモブキャラでもあの威力なら、流石に無傷って訳にはいかないよなぁ?

 鉄砲じゃ傷つかないのに、槍の一撃なら傷がつくかもって、アレか、魂とか熱血でもかかってるのか、スパ○ボ風に!

 流石にその槍の一撃を食らうわけにはいかずに、襲いかかる槍を避けながら一旦後ろにバックステップで下がる。

 

「さあ、どうすんだよ…この状況」


 目の前には赤揃えの槍兵、弓兵、騎馬兵…そして此方を見下すような目で見ているあの赤い男!

 お互い見合いが続いている中、硬直を解いたのは一人の伝令兵だった。

 

「山県様、徳川軍浜松城へと全軍撤退の模様。すぐさま騎兵隊にて追撃せよとのご命令!」


「あい、わかった」


 そう言って、一言労った赤い男は俺に向かって口を開いた。

 

「恵まれた膂力に溺れ、上を目指さぬ者など『この程度』だ。軍の扱いすらも満足にできずこうして無様に一人敵地に這いつくばっている…貴様にはお似合いだろう」


「な…!!」


「徳川を追う! もはやこの地に『戦うべき兵などいない』!! 全軍浜松城へと追撃じゃ!!」


 まるで俺の姿など眼中にないかのように踵を返し、全軍浜松城方向へと突き進んでいく。

 俺はその姿をただ見ていることしかできずにいた。












 

 残されたのは無様に取り残された俺と、

 

「……大丈夫でござったか?」


「逃げることもまた戦略だ…悪かったな、助けにはいろうとはしたんだが、まるで隙がなかった」


 才蔵と利家だった。

 当然の判断だろう、俺には1500の兵が任されていたし、頭に血が上った俺に兵の指揮は無理だと才蔵や利家が林やヤブに隠れ潜みながら指揮をとってくれていたんだろう。

 

「あの男は山県昌景で間違いなかろう。あの赤揃え、そして武勇。凄まじい使い手であると同時に用兵家でござったな」


「山県昌景…」


「…それよりどうするよ? お前が山県隊を惹きつけてくれたおかげでこっちは1300は動かせるぜ? 死傷者は100を超えない。あの武田に突撃をしてこの成果なら上々ってもんだ」


 確かに数だけ見ればそうかもしれない。

 ただあの男の言った、

 

 

『恵まれた膂力に溺れ、上を目指さぬ者など『この程度』だ。軍の扱いすらも満足にできずこうして無様に一人敵地に這いつくばっている…貴様にはお似合いだろう』



 その言葉がやけに胸に突き刺さる。

 何も言い返せなかった。

 何故ならそのとおりだったからだ。

 

 俺が考え事をしている中で、

 

「久秀、お前の気持ちもわかるが、今はそんな事を考えてる場合じゃない。徳川殿の窮地だって言うのはお前にだってわかるだろ? たった1300でももし籠城に成功していたらその数は何倍もの脅威になる! 浜松城に向かうぞ! 半兵衛となんか悪巧みしてしてたんだからきっと上手く行ってるさ」


「半兵衛…! そうか、籠城に回ればまだ策は…!」


 今回は仕方なく野戦での適用となったが、本来の『回し打ち』の用途は籠城戦での堅守防衛のための策だったはず。

 

「才蔵、利家! 浜松城へ急ぐぞ! もし家康殿が籠城していればまだこの戦勝機はある!」


 そう言って馬に乗り浜松城へと向かう。

 頼むから上手く言ってくれていてくれよ!!

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