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第二十話 信長包囲網、意外に人材豊富なんだね浅井家って

 

 

「ふ~む、悩ましいことで御座るなぁ」


「なんでだよ? うれしい悲鳴って奴じゃないのか? なぁ?」


 今、後して向い合って飲んでいるのは織田家直臣として取り立てられた羽柴秀吉と俺、竹中半兵衛、羽柴秀長そして…

 

「私に振られても困りますよ」


 浅井長政、この小谷城の戦いの敵総大将であり、先ほどまで戦っていた相手だ。

 いきなりこんな飲み会に呼び出されてさぞかし混乱していることだろう。

 

「結局の所、無血開城に近かったんだから、北近江、浅井は力を未だ持ちその影響力は強い。正直な話、ワシに長政殿の軍団は全て受け入れられませぬからなあ」


「さらに言えば、一箇所に元浅井家臣を固めるのは危険極まりない。いくら秀吉殿の人心掌握が優れていようと浅井を担ぎ上げるものは少なくなかろう。織田家直臣は危険すぎまする」


 秀吉の言葉に半兵衛が付け足すように口にする。

 

「今現在ワシの主だった家臣は、蜂須賀正勝、山内一豊、仙石久秀、そして新しく加わった浅井長政等といささか不足しているのも確か。とはいえすべてを受け入れられぬのなら、分ければよろしい、そこで」



『第一回、チキチキ! 浅井家家臣団争奪戦大会!!』



 俺の頭の悪いネーミングセンスはともかく、秀吉と俺の家臣団は秀吉はポッと出、俺は少数精鋭である部分があり家臣の層の厚さは薄いのが本当のところだ。

 なのでこの際、俺と秀吉で主だった家臣を話し合って分けあい、浅井の力を分散すると共に自身の力を増強しようというのが狙いである。

 他の重臣に相談しようにも秀吉は成り上がりであり、あまり心象は良くない。

 良くないと言うよりは嫉妬にも似た嫌悪されている現状である。

 頼めるのは俺くらいしかいないんだろうな、と思うとやっぱり手を貸したくなるしなぁ。

 秀長を貸してもらってることもあるし、今までの武功も半分以上秀吉の手柄も同然だしな。

 

 一応この事を信長に相談したら、頭を抱えて、半兵衛を同席させることを条件に受け入れられた。

 いやぁ、話のわかる上司がいるっていいね!

 

「……諦められただけだと思われますが」


 ハイ、半兵衛のつぶやきなど聞こえません。

 というわけで、飲み会とともに秀吉とこのように話し合っているのだが、なぜ長政がこの席に同席しているかというと、浅井と織田は一度も交戦しておらず、お互いの家臣の能力を把握していないためだ。

 そこで主だった家臣を長政による補足や得意分野、性格などを分析して俺と秀吉に割り振っていいこうという画期的アイデアであるといえよう。 

 さてここでの浅井長政の役目は、家臣の選定といったある意味過酷な選択を迫るわけだが、ここは敗軍の将として耐えてもらうほかあるまい。


 しばらくして浅井長政が口にした家臣の名前は、

 

「まず、赤尾清綱、海北綱親、雨森清貞の浅井三将は筆頭に上げられるだろうが、どの方も優秀だが浅井に忠実であり、尚且つ高齢である為、隠居なされるか御伽衆として使われるかされるがいいと思います」


 はぁ~浅井三将ってそんな武将がいたんだなぁ。

 織田でいう織田四天王みたいなものかな?

 柴田勝家、平手久秀、滝川一益、明智光秀の四人からなるのが織田四天王って言うんだけどね。

 いや、わかるよ。

 なんか変なの混じってね? っていうその気持はね。

 

 でもさ、俺って第三者から見ると信長の幼馴染で結構古い家柄の平手当主、桶狭間手柄一位、秀吉半兵衛とともに稲葉山城落とし、そして今回の松永弾正との共謀で小谷城無血開城等など、結構活躍してると思わない?

 だから次席家老っていう立場になっているし、結構発言力も増してるんだなコレが。

 信長にタメ口聞いてるし家臣って言うより友達に近い感じだからな。

 最近は重臣筆頭の柴田勝家殿も認めてくれているみたいで、たまに世間話もしたりするしね。

 文官よりの武官という認識が『武の一文字』のネームバリューによって、さらに俺の武勇、竹中半兵衛もいることで文武両道の家という認識が今の平手家というわけだ。

 ごっつ過大評価されてるけど、まぁ、風評って大事だし、この勢いは大事にしなければって半兵衛にも口を酸っぱく言われてるからあんまり迂闊なことはしないようにしているんだけどね。

 まぁ、何が言いたいかというと、俺は次席家老で織田四天王の一角ってことです、ハイ。

 

 と、そんなことはいいとして、考えにふけっている間に長政は他の家臣を口にする。

 

「後は両家が満足する働きを見せる武将といえば磯野員昌、藤堂高虎、宮部継潤あたりだろうな。磯野はその武勇並ぶもの無きと言われるほどの豪傑、そうだな、勝家殿に似ているかもしれんな。高虎は癖が強いが文武両道でありどの分野でも重宝するだろう、此方は明智光秀殿に近いかもしれん。宮部は質実剛健を地で行く男だな。与えられた任務を確実にこなし、苦手分野を持たない為、言い方は悪いが一番使い勝手のいい義理堅い性格と能力をもっている。しいていうなら丹羽長秀殿か」


 おぉ~! すげえ豪華なメンツだな。

 歴史好きの俺程度でも全員名前ぐらいは聞いたことがあるメンツだ。

 北近江、浅井長政ってこんなにいい武将を抱えていたのか?

 いや、織田家も相当いい武将抱えているけど、領地の大きさから言えば質は全然劣ってないくらいだ。

 

「ふむ、なんとなく運命を感じずにはいられぬのう…」


 その説明を聞いた秀吉は苦笑とともに盃を口にする。

 その評定はなんともいえず、ただただ苦笑いといった感じだ。

 

「ワシは元は木下藤吉郎、そして秀吉、羽柴秀吉と改名をしてきたが、全ての改名にはあやかる人物を参考にさせて名を付けさせていただいておるのです。

 例えば『秀吉』なら『秀』を平手久秀殿から。

 『羽柴』なら丹羽長秀殿、柴田勝家殿のような働きをせねばならぬと、自戒の意味を込めて」

 

 そういや秀吉の羽柴ってそういう経緯から付けた姓だっけか?

 処世術っていえばそうなんだろうけど、やっぱりそこに込められた思いは確かなものではあるのだろう。

 口にした盃を起き、秀吉は静かに口を開いた。

 

「では、ワシは磯野員昌殿、藤堂高虎殿を引き取らせていただきましょうかの」


「なんでだよぉぉぉぉぉ!!!」


 あまりの予想外に思わずツッコミを入れてしまった。

 

「今凄くいいこと言ってたじゃん! 流れ的に完全に勝家殿と丹羽殿に例えた方を選ぶ雰囲気だったじゃん!」


「いや、ワシ、軍師が欲しくてですな。是非高虎殿に任せようかと」


 ひょうひょうと語る秀吉。


「一豊も権兵衛も武士としては今ひとつ抜け切らない部分があるからのう、磯野殿の薫陶で一皮むいていただくとともに、武の方の活躍も期待しておりますしな。申し訳有りませぬが半兵衛殿と才蔵殿、利家殿を抱える平手殿には少しばかりお譲りいただける光栄ですなぁ…」


 またわっるい顔してるよこのオッサン(俺のが年上だけど)。

 

「……わかったよ、もともと秀吉の家の盤石にするための人事配置だ。お前の好きなように決めればいい。まぁもっともお前のところに浅井残党が固まったとしても得意の手八丁口八丁でどうにかするんだろうしな」


 俺のその言い方に苦笑いを浮かべ、頬を掻く秀吉。

 

「また意地の悪い言い方をされますな。まぁ浅井にも兵農分離が進めば兵力は自ずと解消され、謀反などの危険も減るでしょうし、信長包囲網に応じた本願寺へと向かわねばならないため北近江は離れるのですよ」


 秀吉の言った足利義昭の出した信長包囲網に賛意を示したのは浅井、朝倉、三好三人衆、本願寺。

 そして最大の脅威は武田信玄である。

 この時期に武田信玄が呼応するとは思っても見なかったが、このまま放おって置くのはマズイと考えたのか、既に織田に対して宣戦布告を示している。

 ただ救いは松永弾正久秀の存在で、本願寺を主に畿内を牽制してくれているため、松永弾正、秀吉は畿内方面へ。

 柴田、丹羽、明智は越前方面に。

 そして織田本軍、平手、滝川、同盟国の徳川は対武田方面という三方面作戦を取るハメになったのである。

 

 まぁはっきり言って戦況は超やばいです。

 チキチキとか言ってる場合じゃないわけだが、それくらいの余裕がなきゃね。

 ホント松永弾正が味方でいてくれてよかったわ。

 あの爺さんなら本願寺程度には遅れは取らないだろうし。

 

 ただ心配なのが武田だよね。

 確かおぼろげながら覚えているのは徳川が三方ヶ原の戦いでメタメタにやられてウンコをもらすってエピソードなんだが、未だその話をまだ聞かないということはこれから起こるということで、徳川家康は武田に手痛い敗戦を味合わされることになるのである。

 

 とそんな激戦地になるであろう場所に平手家も向かうっていうんだからどうなるもんかな、と思うわけで。

 武田信玄かぁ…早いうちに浅井との決着を付けることができて越前方面は随分と楽になったことは事実だが、それで武田の国力落ちたわけじゃない。

 確かそろそろ武田信玄は病死するはずなんだけど、この俺のいる時代平手の爺さん超元気だからね。

 病気を期待して死ね~死ね~と念を送って時を待ったところで事態は好転しないだろうし(当たり前である)。

 

 ただ、悪い事ばかりではなく、織田は兵を今までの戦でさほど失っていない。

 それは戦争経験が浅いことにもつながるが、此方の主力は種子島である。

 大規模な抗争が起こらなかったことによって、財力はたんまりあるので、兵と種子島は史実よりは多く用意できるだろう。

 ま、ほんとうにダメそうになったら俺が一騎駆けして武田信玄の軍配もろとも真っ二つにするっていうのもありって言えばありだけど。

 とにかく史実よりは恵まれた環境で信長包囲網を迎えることが出来たわけだ。

 

「まあ、とにかく。この信長包囲網かなりつらい場面だと思うけど頼むよ。長政もな」


 突然声をかけられたことに驚いたのか、目を向く長政。

 だが次第に、苦笑を浮かべ、

 

「織田軍は裏切り者である私への恨み、さぞかし大きなものであったろう。だが小谷城で無用な殺生を行わず、なおかつ当主である私まで生かしている。私が信長殿なら決して信長殿を生かしはしまい。……そこに器の違いというものがあるのかもしれぬな」


 迷いを振り切るように前を向き、俺に口を開く長政。

 

「今は何も考えず、信長殿、ひいては秀吉殿に従おう。この信長包囲網をもって器を改めて見聞させていただく。そしてその結果、信長殿に大器あればこの先、我が全力を持って支えさせていただく!」


 そう言ってその場を去っていく長政。

 ふむ、ツンデレというのだろうか?

 根は悪い人じゃなさそうだど…

 

「しかし、一度は同盟を組みながら盟約を破っております。その事はどんな事実があろうと変わらない事。お忘れなきよう」


 と、半兵衛が俺に対しての忠言を挟んできた。

 きっと何処かで信用を起きすぎていることに危惧を覚えたのだろうか?

 こういう時軍師って素敵だよね。

 

 その言葉を聞いて、俺はパン! と両頬を叩き気合を入れ治す。

 

「うし、俺は武田、秀吉は本願寺。どっちも一筋縄じゃいかないけど、せっかくお互い出世街道を歩んでいるんだ。躓かないよう気を入れていこう」


「当然ですな」


 そう言って秀吉と俺は、お互いの健闘を誓うように硬い握手を交わしたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 『平手家の主な家臣団一覧』

 

 御隠居 平手政秀

 

 当主 平手久秀

 

 次期当主 平手氏郷(蒲生氏郷)

 

 家臣筆頭 羽柴秀長

 

 家臣次席 竹中重治(竹中半兵衛)

 

 家臣 可児才蔵

 

 家臣 前田利家

 

 家臣 宮部継潤 NEW

 

 

 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです。戦国時代モノは好きですが、平手久秀さんはノーチェックだったのと、信長の親友ポジションが新鮮です [気になる点] 誤字が多いのでご報告したいです。。書籍化されたし、もうウェブ版は…
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