第二話 お市との結婚に悩む…JCはまずいんじゃないのか?
あ、どうもこんにちは平手久秀です。
絶賛悩み中です。
先日のお市の方との結婚は少し考えさせて欲しいということで、日をあらためさせてもらいました。
あ~俺と信長が義兄弟になるのはいいけど、なんとなくお市の方との結婚はマズイ気がするぞ。
未来のどの歴史書や文庫を見てみても、
『お市は浅井長政の嫁(キリッ』
みたいに書かれているしなぁ。
爺さんに相談してみたら、諸手を上げて「なんという栄誉!」などといって、あまりの喜びように今にも昇天しないか心配したほどだ。
っていうか爺さん超元気なんだけど。
歴史的に見てそろそろ死ぬはずなんだよな。
信長を諌めるための自刃って事だから、別に今元気でも問題はないってことだろうか?
爺さんとは養子になって、色々面倒を見てもらったりしてるし、家督も継がせてもらったし返しきれないほどの恩があるわけで、是非とも大往生してもらいたいものだ。
あ、ちなみに家督はもう継いでます。
俺、平手当主です。はい。
と、話がずれてしまった。
そうだよ、お市の方との結婚話だよ、ほんとどうするんだ――なんて考えていると、
「久秀様?」
噂をすれば影。
ご本人降臨である。
「いやぁ、なんかとんでもないことになっちゃったなぁ」
「そうでございますね」
立ち話も何だから、と言うことで開いている一室を借りてお茶飲み話中である。
お市の方とは過去何度も顔を合わせているので、以外と仲がよかったりする。
こうしてお茶飲み話をする程度にはね。
「兄は久秀様とどうしても血縁を結びたいんだと思います。久秀様と出会ってからの兄は憑き物が落ちたように落ち着かれましたし、身内としてさらに絆を盤石に、親しくなっておきたいのだと」
あれでか。
火縄銃で俺の薪を破壊工作するわ、俺が頑丈だと知るとどこまで頑丈か知りたいとか言って長谷部国重(織田家の宝刀)で斬りかかってくるわ、珍しいことがしたいとか言ってはあれやこれや連れ回された記憶しかないわけだが。
そんな俺の苦い表情を見たお市様(本人にはこう呼んでいる)は、
「久秀様をご信頼しているからこそ、つい甘えてしまうのでしょう」
「まぁ、そういわれると悪い気はしませんが……」
信長も理解者がいなくてだいぶストレスたまってたんだろうしなぁ。
ガス抜きには頑丈な俺はもってこいだったし。
なんと言っても甲冑着ながらフルマラソンができる素敵な体の持ち主だ。
「そういえばさ…」
「はい?」
「お市様的にはどうおもわれるんです? 俺との結婚については」
「久秀様との結婚についてですか…」
そう言って考えるように首を傾げる。
いやぁ、美人っていうのは何をやっても様になるね。
戦国一の美少女? はは、ご冗談を! なんて思っていた時期もあったが、やっぱりお市の方は美人でした。
基本的に顔の作りが整っている人が美人であるというのは今も昔も変わることはないらしい。
ただ髪型が現代人には受け付けないというか、前髪垂らしてポニーテールにしてみてくれませんか? って言ったら無礼討ちされるんかな、やっぱり。
そんな益体もないことを考えていると、お市の方は意見がまとまったのか語り始める。
「……私個人としましては特に不満などは。ここで断ったとしても結局は政略結婚でいずれかの家に嫁がされる身でありますから。そう考えれば兄上の重臣になられる久秀様との縁談は、兄上のお近くに居られる分幸運な事かもしれません」
「ふ~む…」
わかってはいたけど、全然俺好かれてないよね?
いやさ、「久秀様に嫁ぐのでしたら(ぽっ」みたいな展開を期待していたわけじゃないけど、男としてはやっぱり期待するものってあるわけで。
お市の方って基本的にブラコンなんだよね。
にいさま、にいさまと信長の後を追ってきたお市様と一緒に遊んだことも多々あるほどだ。
っていうか織田一族は美形が多いって未来では言われてるけどマジでそうなんだよな。
信長もそうだけど、信秀様、信行くんもイケメンだし。
え、俺?
話題にならないくらい平凡です。
ただこだわりとしては月代っていうあの整えなければ落ち武者みたいな髪型だけは勘弁だったので、茶筅髷っていう月代しなくてもいい丁髷だけは譲れないポイントだよね。
ちなみに信長も茶筅髷でオソロです。
とまあ、現実逃避はここまでにして、要するに信長のそばにいる俺に嫁げば、結果信長と離れることはない、と。
あれ、なんか涙が…。
結局結論は出ぬままに準婚約者止まり、と言うことで時ばかりが過ぎていった。
というのもお市の方の年齢はJCなんだよね。
この時代の教育のおかげか、大人びた印象を受けるが俺のいた時代では義務教育を受けている時期である。
信長の強いススメがあったが、俺も最近、現代風に言えばお酒が飲める年齢になったばかりであり、結婚という単語にピンと来ないのは事実。
今そんな事考えるのもなぁ。
という考えもあり、信長には今はまだ時期尚早と言うことで即断での結納はお断りをしておいた。
信長は渋っていたが、今はまだほら、斎藤道三とか今川義元とか斯波氏とかの問題があるから、それを解決したあとにでもと言って納得させておいた。
ちなみにこの時期まだ尾張を統一しているわけではなく、斯波氏っていうのが実質支配しているみたいだ。
ただ今川義元にガンガンいこうぜ! とばかりに攻められてるのでコレを期に斯波氏から独立してしまおう、と評議会で信秀様も信長もわっるい顔してニヤニヤ悪巧みしていた。
でもこの問題も対岸の火事、とはいえないんだよなぁ。
斯波氏の次は織田家であることは確実だし、あ、竹千代くんは今川に人質に行ってしまいました。苦労人だよね、幼少期の徳川家康って。
天文17年(1548年)
遂に美濃の斎藤道三との和睦が正式に成立した。
というわけで信長結婚乙、人生の墓場乙!
とにこやかに挨拶したらグーパンで返答してきた、痛くなかったけどね。
和睦の証として血縁を結ぶということで、濃姫が尾張に来て信長と暮らし始めた。
最初のうちはお互い牽制しあっているというか、濃姫も気が強そうな顔立ちをしているので多少の気位の高さから反発をしているのだろう。
俺からすればお互い素直になれない同士で案外お似合いのカップルなんじゃないかな、と思ったり。
無事結納も終わり今夜は初夜。
『さくや は おたのしみでしたね』
とからかってやろうか、なんて考えていると、夜更けに信長が俺の部屋にやってきた。
オイオイ、濃姫ほったらかしかよ、と信長に呆れたように忠言したが、どうやらマムシの密命で濃姫は信長に器がなければ寝首とかけと言われていたらしく、枕元に短刀を隠していたのだとか。
おっそろしいな、おい。
賢者タイム中にそんな事されそうになるとは。
そんなわけだからここで寝る、とかいって人の部屋でグースカ寝始めやがった。
まったくホントに自分勝手なやつだな、コイツは。
天文18年(1549年)
この出来事は歴史好きの俺にとって名場面。
というか大河や漫画や文庫で戦国モノが好きで読みあさっていただけだが、おそらく信長という人物を表すにふさわしい出来事として歴史に記録されるだろう。
『織田信長と斎藤道三による正徳寺の会見』
その会見のため正徳寺に向かう信長一行。
当然俺も護衛として信長に付き従っているんだが、コイツはやっぱりむちゃくちゃである。
「この柿うまいな、お前も食うか?」
とか言って、道中に馬上で柿を貪り食っているのである。
差し出された柿を食いながら、そりゃこんな行動してれば尾張の大うつけって呼ばれるわな、と内心ため息をつく俺だが、その行動に理由があることを俺は知っていた。
未来からの知識からではなく、那古屋城を出立する前に俺に話していたことがあったのだ。
『俺は道中に必要以上にうつけを演じるぞ。これは俺の器を示すためだ。きっと道三は陰日向から俺を観察するだろう。そこでうつけを演じる俺を見て道三は何を思う?』
『まぁ、噂通りのバカヤロウだなって思うだ…へぶッ!?」
手に持っていた湯のみを俺に投げつけつつ先を続ける。
こいつ俺が丈夫だからって容赦がなくなってきてるな。
『そうだ。道三は俺に対していい感情は抱かない。唯でさえ濃を俺に寄越しているんだ、呆れ返るだろう。そして会見の時俺が正装して礼節作法全てを完ぺきにこなして見せたらどうなる?』
信長はニヤリと笑う。
わっるい顔してんなぁコイツは。
『道中のうつけぶりは豪胆へと評価は変わり、肝と知を兼ね揃える器と評価を改めるだろう。そうして俺が油断ならぬ人物、尾張侮りがたしと印象付けることができる』
『…話はわかるが、そうそううまくいくもんかね?』
『まぁ見ていろ。必ずうまく行くさ』
とまあこんな感じの会話を交わしていたのである。
この時代、風評っていうのは俺が考えてるよりずっと大事なようで、自分の名が売れればそれを武器に戦略を考えることができる。
近代戦争のような情報戦とまでは行かないが、やっぱり情報には違いなく、いかにそれが大事かという話である。
うまく行けばいいもんだが…ってまあうまくいくんだけどね。
一応未来人だしね、俺。
信長の大方の予想通り、正徳寺の会見は斎藤道三に織田信長という自分を強く意識付けた結果に終わった。
結果だけ見れば大成功だが、家臣たちの胃痛がマッハであることは間違い無いだろう。
それにしても生の斎藤道三…美濃の蝮は凄い迫力だったな。
眼光が半端なくて、威圧感が凄いのなんの。
目からビームが出せるんじゃなかってくらいギラギラしてて、これが戦国の梟雄と言わんばかりの風貌だった。
そんな道三に臆することなく会見をする信長もまた、戦国の覇王たる器なのだろう。
というかどうも最近は信長が、あの第六天魔王、日本史上に残る大殺戮者、事実上の天下人まで上り詰めた人物であると実感がわかなかったりする。
俺と話してる時の信長は、結構気さくに笑うし冗談だって言う。
自信過剰で合理主義で短気で神経質な部分もあるが、それだけだ。
なんかどうも調子が狂うんだよなぁ。
史実の信長も実際はこんな感じだったのかね?
信秀様や平手の爺さんがいうには、見違えるほどおとなしくなったと言ってるけど。
まぁ、こうやってやるときにはバシっと決めているんだから問題はないのかもな。
もしかしたら丸くなった信長が光秀とうまくやって本能寺の変が起きず、そのまま天下統一なんて事もあるかもしれない。
なにごともポジティブに考えたほうが得だよな。
その時はまだそんなことを考えていたのだ。
天文20年(1551年)
織田信秀 流行病により末森城で急死
――――戦国の時代は更に加速していく。