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第十七話 殿中御掟、そんな事より秀吉の穴埋めに必死です

 永禄13年(1570年)

 

 将軍足利義昭を、殿中御掟で諫めたことから対立

 

 

 まぁ、時間の問題だとは思っていたけどね。

 この問題の始まりは、上洛して将軍に擁立した義昭様がようやく念願の将軍になれた事からヒャッハーしはじめた事を、信長が将軍の権力を抑止する制度を作ることによって義昭様の浮かれっぷりを諌めたことから始まった。

 

 いや、義昭様は明智殿に連れられて美濃に来た頃と比べて二重人格を疑うような豹変ぶりを見せてるんだよね。

 そりゃ先々代が暗殺されて自分も立場が危うく、六角には追放されたり踏んだり蹴ったりの抑圧された時期を送っていたことは同情するけど、さすがに色々開放されすぎだろ。

 この前テレビでよくやる女性の腰帯を引っ張ってア~レ~を素でやっていたのを偶然見かけたときはさすがにドン引きしたわ。

 

 稲葉山城で見かけた時の第一印象はなんだか自信無さげで、ソワソワ落ち着きのない性格で、気分転換を兼ねて蹴鞠が趣味だというので一緒にやったら途端にはしゃぎだして、ミスしたヤツに上から目線で講釈を語りだすという場の空気の読めない人で、正直ロベカル並のフリーキックをドタマにぶちかましてやろうかと思うほどのKYな方だったけど、ここ最近のヒャッハーは特に酷い。

 自分の権威を他人の反応を見て確認したいといったらいいのかな、まだ将軍であるという実感が薄いのか、どこまで許されるとか、許されるはずだろう等の無責任な行動で周りを巻き込むんだよね。

 特に女性関係のセクハラとか、下の者に対するパワハラとか。

 

 さすがに信長もこの行動を見てこのままにしておけないと思ったのか、殿中御掟というクレームを付けたのである。

 内容は主に諸国へ書状を出す際は信長の添状をつけろといったような、将軍の権威を押さえ込むもうとするもので構成された九箇条のモノであったが、ヒャッハー状態の義昭様がそういった諫言を聞き入れるはずもなく逆に激怒して、次第に両者の関係が険悪になっていったのだ。 

 正直将軍に対して、

 

 「お前自重しろよ、俺の言うこと聞いてればいいから」

 

 と堂々と言える信長も大概だけどな。

 もう少しオブラートに包んだ言い方もあっただろうに。

 ああいう義昭様みたいなタイプの人間は、恩は忘れやすく恨みはめっちゃ根に持つんだよね。

 俺も今は織田家では柴田家に次ぐ次席家老というポジションに居させてもらっているんだけど、やっぱりそれ相応の責任と権威も発生するわけで、直接信長に言うんじゃなくて俺にネチネチ文句を行ってくるんだよ。

 何度メメタァしてやろうかと思ったかわからないが、どうやら蹴鞠等、上洛するまでの間に色々気を使ったのが心象をよくしたのか、俺には比較的好意的なのがまた対処に困る。

 俺も秀吉も秀長も対人関係は比較的得意な方だが、秀吉の抜けた穴がやっぱでかすぎるとこういう時実感するわ。

 適当にいなしながら人の機嫌を伺うあの話術は秀吉独特の処世術というか流石の一言で、俺と秀長には真似できない芸当である。

 

 ああ、秀吉…なぜ去っていったのか…今になってお前に重要さを改めて知って…俺は…俺は…

 

「いい加減にしろ」


「あべしッ!」


 信長得意の長谷部国重アタックで現実に引き戻される。

 

「話の趣旨が変わっている上に要領を得ない言動はやめろ。結局お前は何が言いたいんだ?」


 殴られた頭頂部をさすりながら改めて、目の前にいる信長に目を向ける。

 

 あ、どうもこんばんは平手久秀です。

 今は伊勢平定を終えて国内もすこしずつだが落ち着きを見せ始め、内政官がようやく暇ができ始める頃で、久しぶりに信長と二人で飲んでいる最中です。

 今回はどうやら俺の愚痴が主体になってしまったらしく、珍しく信長がシラフに近い状態で話に耳を傾けている。

 案外コイツは聞き上手でもあるから話し始めると止まらなくなっちゃうんだよな、反省せねば。

 

「…ん~、まぁ一言で言うなら人事相談だな」


「ふむ」


 俺のその言葉に信長は一考の価値有りと見たのか、顎に手をかけ目を細める。

 

「正直、前半の義昭様の話はどうでもいいんだよな。お前は諌めなきゃいけない立場でもあるし、多少強引ではあったが誰もお前に非があるとは思ってないだろ」


 そう言って杯を手にして口を湿らせる。

 明らかに義昭様はやりすぎだったからな。

 相当周囲の反感を買ってしまっているはずだ。

 

「ただ、後半の愚痴に関しては半ば本気だな。とにかく秀吉の抜けた穴はでかい。いなくなって初めてわかる存在感ってやつかな。軍事、知謀、政略、人心掌握……後半3つはどうにか秀長と氏郷が穴を埋めようとしてくれているが、それでもギリギリだ。軍事に関しては正直マズイというかどうしようもないな」


「もともと平手家は戦に立って働く家系ではなかったからな」


「そう、そこなんだ。はっきり言って今までは少数精鋭と質の高い家臣と俺の突出した怪力でどうにか持たせてきたが、これからは大軍勢を前提とした戦が主になる。正直俺には小規模な局地戦でしか出番はねえよ。秀吉が抜けた今、軍事関係は才蔵しか居ない。アイツに兵の統率、軍略を任せた戦働きが期待できると思うか?」


「まぁ、無理だろうな」


 才蔵の本領はその槍働きにある。

 けして兵を率いて支持を与えるタイプではなく、自ら先頭に立ち先陣を切る生粋の武人だ。


「そこで兵を率いる事ができる、戦術、戦略でものを考えられる人材。要は軍事関係を任せることが出来る武将は居ないかっていう相談をしたいんだが、どうだろうか?」


 凄く長い前フリだったが、言いたいことはこの一言に尽きる。

 俺は才蔵タイプだし、氏郷は経験不足、秀長に任せることもできるが、それをやったら秀長の負担がマッハだろうし。

 色々と秀長は平手家全体の足りない部分を補ってくれているというか、様々な部分でのバランサーとして大きく貢献してくれている為負担が半端無いのだ。

 そんな秀長にもっと働けとは言い難いし、ここは一つ新しい人材の登用を考えるべきだと判断したわけである。

 

「…ふん、周りくどいことを言いおって。要は半兵衛をよこせと言っているのだろうが」


「ギクッ」


 信長の言葉は俺の狙い直球ど真ん中を付いてきた。

 そうなのだ。

 秀吉の穴を埋めるとしたら、今織田家全体を見ればあまりにも選択肢が少ない。

 柴田勝家、丹羽長秀、滝川一益、明智光秀…ぱっと思いつくのはこの人達辺りだけど、流石に無理がありすぎる。

 っていうか俺がこの人達を仕えてるイメージがわかねえよ。

 そうなれば残るのは、俺が率いることが出来て傘下に加わっても適応できる人物と言ったら竹中半兵衛しかいないのだ。

 

「武の一文字を掲げる以上、軍事関係に関しては妥協は許されないと思うんだよ。頼む! 半兵衛を俺に預けてくれないか!」


 そう言って俺は頭を下げる。

 せっかくの久しぶりの飲み会で、気分悪くなるような話をしてすまないとは思うが、ここは譲れないところだろう。

 これからも信長を支えるというのなら、どうしてもこれからの展開に対しての人材が必要になってくるのだ。 

 しばらく無言の時が過ぎるが、ひとつ信長がため息をつくと口を開いた。

 

「秀吉が使い物になったと思えば、半兵衛が抜けるハメになるとはな。いいだろう、半兵衛をくれてやる」


「マジか!?」


「九十九茄子といい半兵衛といい、お前は俺に対して遠慮というものを知らんな」


 苦笑いのように口にするその言葉は、苦々しさを伴ってはいたが、けして気分を害したものではないことがわかる。

 俺達は対等である、とはいえないが、信長は少なくともそうあろうとしてくれているのが伝わってくる。 

 俺はこの信頼に報いなければならない。

 

 ―――絶対に夢なかばで死なせてたまるものか… 

 

「……俺がしおらしくお前にハイハイ従ってたら、お前だって調子でないだろ?」


 気持ちを新たにする反面、口にする軽口。

 俺のその言葉が信長のツボに入ったのか、苦笑から大笑いへと変わっていく。

 

「そんなお前など想像もできんわ!」


 依然として笑いながら、そのまま夜は更けていく。

 難しい話はここまでだ。

 後は久しぶりの友人との飲みを楽しむとしようかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、これからよろしく頼むな半兵衛」


「……なんというか、人の縁というのは面白いものだと改めて感じさせられますね」

 

 改めて、数日後正式に俺の元へと出仕してきた半兵衛を暖かく迎える俺with家臣団。

 俺、秀長、氏郷、才蔵で出迎えたのだが、一瞬呆然としたもののすぐにペースを戻してくる辺りさすが半兵衛といえるだろう。

 

「ふむ、この方が半兵衛殿でござるか。それがし可児吉長と申す。人はそれがしを才蔵と呼ぶので半兵衛殿もぜひそう呼んでくだされ」


「よろしくお願いいたします、才蔵殿」


 そう言って握手を交わす二人。

 同じ軍事関係者同士の邂逅だが、全くベクトルが違う辺り面白いものである。

 それを皮切りに、それぞれの自己紹介を済ましていくが、一つ気になっていたことがあった。

 それは、

 

「お前、もしかして…犬千代じゃね?」


「前田利家だッ!! いつまでその名を呼ぶつもりだ!」


 そう、てっきり半兵衛が一人で来るものだと思っていたら、共を連れてやってきたのだ。

 っていうかその顔に見覚えがあるっていうか、昔一緒にヤンチャした仲で、よく信長と一緒に野山でクマを狩っていたものだ。

 織田家中で結構古くから親しくしている仲である。

 

「っていうかなんでお前がここにいるんだ?」


「ふん、信長様が半兵衛殿だけでは不安だと、不甲斐ないお前には頼りないとしてこの俺もお前の傘下につくことになったのだ、喜べ!」


「……おいおい、お前は次期前田家当主じゃないのかよ?」


 その言葉を聞くやいなや、犬千代はズンと肩を落とす。

 なんか嫌なことでも聞いてしまったのだろうか?

 

「前田家当主は利益に決定した。信長様に是非俺にと頼んだのだが…」


「…お前それはちょっと…」


 尻つぼみになっていく辺り失敗したらしい。

 なかなかセコいというかなんというか。

 

 ちなみに信長と利家はアッー!な関係だと言われていたが、俺の知る限りそんな事はなく、普通の小姓として利家は信長に仕えていたようだ。

 というかこの俺の知る信長は衆道に興味が無いらしく、男を食ったなどという話はいままで聞いたことがない。

 さすがに俺もアッー!を平気でする男とは同じ部屋で寝たくないしな。

 案外信長はその事がわかっていたのか、衆道には手を出していないらしい。


 うーん、微妙な分岐点から大きな変化が生まれたようだな。

 前田家当主が前田利家じゃなくて利益か。

 っていうか前田利益って、あの花の慶次で有名な前田慶次じゃなかったっけ?

 いやいや、あの人に当主なんて出来るんだろうか…いや、傾奇者とは言われていてもやるときはやるし、機転も聞くしカリスマもあるからなぁ。

 案外うまくやるかもしれん。

 これからの前田家は激アツだなぁ。

 

「というわけで、俺もこれから平手家家臣として力を尽くさせてもらうことになった。まぁ、利益のもとで働くよりはよっぽどマシだろうから、渡りに船ではあったがな」


「は~…」


 俺としては全然助かるけど、なんか歴史に大きな変化が生まれすぎじゃないかという不安も隠せないでいた。

 特にこの当主の交代劇は一体どんな変化をもたらすのか。

 漫画みたいに超凄い前田慶次だったら織田家にためになるんだろうけど、そううまく行くもんなのか?

 なんとなく不安のような期待のような、複雑な気持ちを抱えながらこれからの行く末に思いを馳せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 『現時点での平手家家臣団』

 

 

 御隠居 平手政秀

 

 当主 平手久秀

 

 次期当主 平手氏郷(蒲生氏郷)

 

 家臣筆頭 羽柴秀長

 

 家臣次席 竹中重治(竹中半兵衛)

 

 家臣 可児才蔵

 

 家臣 前田利家

 

 

 

 

 

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