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第十六話 伊勢平定、別れに涙はいらねえぜ!





 永禄12年(1569年)

 

 京での騒乱が収まるに従い、かねてからの伊勢国への侵攻も大詰めを迎えるが問題が発生し、諸事情のためプチ緊急軍議評定を行う

 ようするに俺の家で飲みながらいつもの愚痴パーティーである

 ただし、大勢のゲストを迎えながらではあるが 

 

 

 

 伊勢侵攻自体は浅井長政と同盟したあの時期から始まっており、滝川一益殿を総大将として行われていたようだ。

 その時期はようやく美濃を手中にした頃で、念願であった美濃の交通や経済力を背景とした楽市楽座、兵農分離が活発になっていった次期だから結構記憶には残っている。

 正直伊勢方面は俺はノータッチだったからよくわかっていないが、さすがは滝川殿といったところか、ある種の二正面作戦であったのだが、俺が信長本陣と京へ上洛してる中、伊勢を順調に平定していったらしい。

 

 こうして改めて伊勢に向い合ってみて思ったことは、伊勢という国は複雑であるということだ。

 伊勢国は尾張の隣国であり、北畠氏が国司を務めるものの、国内には小さな豪族が48家あって、それぞれが独自の領地支配を行っているという、特殊な国であるのだという。

 よくもまあそこまで複雑怪奇な状態になったものだとこうして纏めてみて改めて思ったもんだ。

 

 義昭様を将軍に擁立し、近畿もひとまず平穏を保っているため、後顧の憂いもなくばっさり快刀乱麻のごとく絡み合った伊勢に刃を振るってしまいたいが、そうもいかない事情というものが存在するのだ。

 

 かの有名な風林火山を旗印に、その存在を誇示する甲斐の虎こと武田信玄である。

 

 足利義昭を将軍に擁立したことによって得た利益や権威、風評など、将軍擁立の追い風のまま一気に伊勢平定に踏み切ろうと兵力を増員しようとしたのだが、ここにいたって武田信玄が織田に目を向けようとしているという情報が入ったらしい。。

 なんでも今は徳川と今川相手に攻防戦を繰り広げているらしいが、織田が伊勢に軍勢を移動させたその隙を突いて織田の横っ腹に牙を突き立てようとしているんだとか。

 たしかに三方面作戦を出来るくらいの勢力があるだけに、無視できない情報だ。

 よって大軍勢での伊勢援軍を動かすことができず、勢いのままに伊勢を一気呵成による併呑が難しい状況になってきているというのが今の現状である。

 

「ということらしいよ、氏郷」


「……私に言われましても」

 

「全くだ。人事のように言うな、バカモンが」


 久しぶりに長谷部国重で脳天をかち割られる。

 一応織田の宝刀なんだからっていうセリフを俺は一体何度繰り返せばいいんだろう。


 俺に一撃加えたことで少しは気が晴れたのか、多少冷静さを取り戻したようだ。

 俺は信長の精神安定剤かってーの。

 

「次から次へと問題が湧いてくるな…さて、どうしたものか」


 そう言いながら盃に口をつける信長。

 

 ちなみに今この場にいるのは、

 織田信長、平手久秀(おまけとして氏郷)、竹中半兵衛、丹羽長秀、秀吉、秀長のコーエー的チートスターズの皆様である。

 この時点の織田家でもこれだけの武将がサクッと集まる辺り織田家の勢力は充実してると言うか、人材を活かす信長が凄いというべきか。

 そもそも俺も秀吉も秀長も元は農民だが、今はもう誰にも文句を言わせることのない文武における活躍を見せている。

 秀吉の名前も俺の副官という立場を超え、一個人として評価され始めているし、氏郷も茶の湯もそうだが文武両道の将来性を垣間見せている。

 平手家が熱い…と勘違いされがちだが、コレは信長の人事采配であり、才あるものなら盗賊でも使うという人材マニア曹操を彷彿とさせるよな。

 っていうか気性といいなんかスゲエこの二人似てるし、今孔明と言われる竹中半兵衛、人誑しと言われる劉備を思わせる秀吉…はどうかな。やっぱ劉備は家康殿かな。

 まあ劉備も色々諸説がある人物だしな。

 ついでにチートボディの俺は呂布ってとこか?

 まぁとにかく織田家は人材が豊富であり、有能な人が多いという事だね。

 

 そんな益体のないことを考えていると、信長が口を開き始める

 

「率直に言って武田は動くと思うか半兵衛?」


 その言葉を受け半兵衛は少し考えた後、

 

「申し訳ありませんが、現状では無い、とは言い切れない、という答えしか返せませぬ」


「…可能性は低いがなくもない、か。無いと高をくくって横腹を噛まれれば大怪我では済まぬからな」


「おっしゃるとおりです」


 織田家は尾張、美濃、南近江、京と領土を拡大して、勢力、人材も豊富ではあるが、だからこそ一つ躓けば危ういところがある。

 徳川、浅井と同盟国がいるにしても、北畠、朝倉、六角の残党、三好三人衆等、味方ではあってもどこか信用のおけない松永久秀等、そして武田。

 これだけの敵が未だ存在しており、地盤もまだまだ盤石とはいえない状況だ。

 特に大勢力である武田の位置が悪い。

 美濃に面しており、下手をすれ美濃に食い込まれる可能性すらあるのだ。


「唯一の救いは上杉謙信との抗争だが…」


 長年抗争を続けているため、両軍お互いの戦力や人材を使い潰している。

 俺としてはある意味もったいない戦いではあるが、風評などがモノを言う時代負けたまま決着つかずというのはメンツにも関わり大名の威信にも関わってくる。

 まあ、俺にはこの二人の関係はこの時代に来てもよくわからんがね。

 

「しかしこう考えてみると、武田もそうそう余裕が無いんじゃないのか? 確かに強大な勢力だろうが、隣接してるのは上杉、北条を初め、家康殿や今川だっているわけだろ?」


 そう言って俺はふとあることを思いつく。

 上手く行けば伊勢を平定する時間をかせぐことが出来るかもしれない。

 それは、

 

「俺達の最大の武器、将軍の威光を使ったらどうだ? 義理堅い上杉は呼応して武田と戦ってくれるかもしれないし」


 顎に手を当て、続ける。

 

「んで、徳川には駿河今川を攻めてもらう。武田は確実に海がほしいだろうから、この動きに対して無視はできないはずだろうし。上手く行けば北条も巻き込んで駿河で抗争が起こり、キリがいいところで家康殿には引いてもらう。そうすれば織田の動きどころではなくなるかもしれないって寸法だが…どうだ?」


 なんか言ってみて結構いい案じゃないかと思い始めていたが、俺のその考案を半兵衛が首を振り、

 

「平手殿は少し今川を過小評価されておりますね。今川は全盛期ほどの勢力は持たずとも桶狭間から今の今まで武田、北条、徳川と隣接しながらも勢力を保っているのです。あの武田、北条を相手に、です」


 大事なことなので二回言われました。

 

「ふむ、しかしそれなら徳川と今川を同盟もしくは和睦させては如何か?」


 そう発言するのは沈黙を保っていた秀吉。

 

「義元公を失ったとはいえ今川氏真殿は領地を保っているのです。相次ぐ離反がありながらも、です。しかしやはりソレは砂上の楼閣。一番理解しているのは氏真殿でございましょう。徳川との仲裁を織田が橋渡しすれば…。ここは一つ発想の逆転で御座いますな」


 そういってサル顔の憎めない表情で口角を上げる。

 二つに別れた勢力をまた一つにする。

 全盛期の今川とはいかなくも、迂闊に手出しができない勢力になるだろう。

 その勢力が睨みを効かせれば、伊勢を平定する時間は十分に稼げるはず。

 

 信長はその言葉を聞くと、小さく笑った。

 

「なるほどな。久次郎がお前を余程買っているのがよく分かる」


「もったいないお言葉です」


「ならばサル、お前が責任をもって徳川と今川の橋渡しをして同盟、もしくは和睦を結ばせい! 見事結ばせたなら俺の直臣に戻し、家老として取り立ててやる」


「ちょ、おま」


 さすがに辺りがざわ…ざわ…するが、信長は言ったら聞かない性格なのは百も承知である。

 いや確かに秀吉、秀長はいつか独立するもんだと思っていたが、そうなると平手家が大幅な戦力ダウンになるなぁ。

 せめて秀長だけでも残って欲しいもんなんだけどなぁ、いいやつだし、気がきくし。

 

 

 

 信長の鶴の一声によってこの緊急評定は終了となり、後はベロベロになった信長が残るのみであった。

 ホントにマジでヤバイくらい自分勝手なやつだなコイツは。

 ちゃっかり俺の布団キープして寝てやがる。

 ふんだりけったりだよ、全く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永禄12年(1569年)

 徳川、今川が電撃的和睦成立

 それによって一時的に武田の脅威を廃した信長は、大軍で伊勢国へ向い北畠具教の籠る大河内城を囲むと兵糧攻めを行い、約1ヶ月後開城させることに成功

 

 

 

 

 

 まぁ、いうまでもないが無事伊勢は平定されたというわけだ。

 しかし秀吉のやつマジでやったなぁ。

 だって裏切ってさっきまで戦ってた敵同士が電撃的に和睦するとかありえないでしょ。

 どんな手を使ったんだろうかね?

 口八丁手八丁なのは間違いないんだろうけど。

 ま、秀吉の能力と要領の良さが起こした奇跡ってやつかもなぁ。

 さすがは未来の天下人、太閤豊臣秀吉といったところだね。

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、おつかれさん」


「ありがとうございます」

  

 俺の家の深夜。

 ひとまず落ち着いた次期を見計らって、二人で酒を飲み交わしていた。

 

「これでお前も家老か。お互い農民からえらい出世したもんだよなぁ」


「いやはや、平手殿の元、活躍の場が多くあっただけに、幸運でございました」


「ったく…こうやって憎まれ口叩くのもこれで最後になるのかねえ」


「いやいや、同じ織田家の家臣である身。機会などいくらでもあるものでございますぞ?」


「そうかもしれないけど、なんかこう、身内としてって意味でかな?」


 そう言って空を見上げると、綺麗に映える月。

 この時代に来て思ったのが、この星空の綺麗さだったっけかな。

 電気のない時代だから余計に星明かりが映える為、最初の頃は飽きずに見上げたっけ。

 まぁ、数日で見飽きたけどな。


「秀吉」


「はっ」


 これで秀吉が平手家から独立して家老に出世することになる。

 つながりがなくなるわけではないが、今までと同じようには接することはできないだろう。

 そう思うと寂しいもんだ。

 

「今までよく仕えてくれた。これからはもうただの秀吉ではない。織田家直臣『羽柴秀吉』として信長を支えてやってくれ」


 俺が頭を下げそう言葉にすると、秀吉は盃に残った酒を飲み干し、数歩下がると俺に向かって深々と平伏した。

 そして震えた口を開く。

 

「出会ったときはただの農民であるワシに優しく声をかけてくださり、平手家家臣としても重用していただくどころか、副官として平手家の参謀、家臣筆頭にまで取り立てて頂いた事、感謝の言葉もございません!」


 震える声で俺に過去を振り返るように、思いを伝えるように言葉を渡してくる秀吉。

 

「そのような寵愛を得ながら、平手に背を向けるワシを快く送り出していただけること、けして、けしてこの御恩は忘れませぬ!」


 秀吉の目元からは洪水のように涙があふれでている。

 床を濡らし、次々と落ちる雫はまるで大雨のようだ。


「あ~…くそ。急に真面目になるんじゃねえよ! お前はそんな辛気臭いやつじゃないだろうが。ったく、俺の盃が空いてるぞ。手酌は味気ない。酌してくれっての」


 そう言って盃を差し出すと、目を真っ赤に腫らした秀吉に酌をしてもらう。

 

「ほら、お前も」


 返杯に俺も秀吉に酌をする。

 お互いなみなみと注いだ杯を手に、

 

「せいぜい出世して、今後は俺に楽をさせてくれ。いままでありがとよ、乾杯!」


 互いの今後の健闘を祈るように盃を飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~…あったま痛ぇ…」


 さすがに飲み過ぎたのか、朝起きた時の頭痛は半端無かった。

 顔でも洗って気分でもさっぱりさせようかね…

 

「おや? 飲み過ぎですかな?」


「まぁなぁ…秀吉との最後になるかもしれない飲みだったから…って」


「む、なんでしょうか?」


 どこかで聞いたことある声だと思って見てみるとそこには、

 

「なんで秀長がいるんだ?」


 秀吉はもう既に平手家を去っている。

 当然秀長もついていくかと思っていたんだが。

 

「それがしは兄者の弟ではありますが、自分の道は自分で決めまする。それがしは平手家に未だ恩を返せたと思っておりませぬし、兄者の分も励ませていただく所存」


 なんというかホントに真面目というかなんというか。

 知らず知らず苦笑を浮かべてしまう。


「…はは…」


 なんていうかこういうサプライズはホント嬉しいもんだな。

 予想してなかった分インパクトが強いわ。

 まあ、なにはともあれ、

 

「……これからもよろしく頼むよ、秀長」


「御意に」

 

 優秀な部下が残ってくれたことに感謝しようかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『平手家現時点の主だった構成』

 

 

 御隠居 平手政秀

 

 当主 平手久秀

 

 次期当主 平手氏郷(蒲生氏郷)

 

 家臣筆頭 羽柴秀長

 

 家臣 可児才蔵

 


 

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