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第十一話 秀吉の調略、竹中半兵衛の決断


 永禄7年(1564年)

 浅井長政との同盟を結ぶため使者を派遣し断られる。

 

 

 その知らせを聞いた瞬間俺は、

 

「マジでか!?」


 と目ん玉をひん剥いてしまった。

 確かにこの歴史では色々齟齬が発生していはいるが、ここまで決定的な差異が起こるとは思いもよらなかった。

 やっぱり俺がお市と結婚したり信行くんを助けたりしたから、変なふうに捻れてしまったのか?

 あ、ちなみに信行くんは武将扱いと言うよりは信長の相談役として信長を支えている形だね。

 お世辞にも槍働きが上手い人じゃないので、どちらかというと内政向きでなんだよね。

 でも人心掌握って言うと変な言い方だけど、顔もいいし弁も結構立つし、あの信長をまだ期間は短いながらも、健気に支えている経験から周囲への配慮がとても上手い人物だ。

 家臣団からも昔から期待されているだけあって才覚はあるのである。

 ただその才覚は過去に土田御前の寵愛によって少々歪みつつ有り、最近は兄である信長の革新性、先進性が強すぎるため影が薄くなって評価が微妙に見える印象は拭えないけどね。

 ……今度美味しい酒持って飲みに誘おう。

 結構頻繁に信行くんとも飲むんだよね、愚痴友ってやつ?

 まぁ、信長やお市も混ざって5人の家族の団欒みたいな飲みもやってるし、織田家というか織田家族は今結構上手くやっているのだ。

 

 って、そうそう浅井との同盟交渉だが、同盟条件は浅井側有利ではあったものの、浅井家臣団の中では賛否両論だったらしい。

 特に浅井長政の父である久政が朝倉義景と盟友であり、朝倉義景と信長は不仲であったのが大きな隔たりとなり障害になったんだそうだ。

 昔からの付き合いとこれからの利益による同盟。

 戦国では当たり前のように起こる出来事ではあるが、俺にとってはなんとなく久政の気持ちがわかってしまった。

 友達や友人は大切にするべきだもんなぁ。

 その考えが甘いってわかってはいるけど、どうしても割り切れない何かを感じてしまうのは俺が戦国になれきれていない証拠なんだろうな。

 

 そんな中で使者が久政の先見性の無さをポロッと口にしたのを皮切りに、何か挑発じみたやり取りに発展し同盟交渉はお釈迦になってしまったらしい。

 

 しかし、このまま浅井と同盟を結べなかったらどうするんだろうな?

 確か北近江は琵琶湖に面しているだけあって水も豊富、船での貿易での経済も活発であり、何より京へ本格的に上洛する段階になったら、北近江を横断する東山道が重要なルート拠点になるんじゃなかったか?

 散々飲み中に愚痴とともに講義されたからな、飲酒学習は完璧である。

 浅井家自身もその恩恵で強国であり、当主の長政も優秀だ。

 そのため敵として交戦したくないわけで、この同盟を締結させないわけにはいかないよなぁ。

 信長はどう考えてるんだろ?
















 永禄7年(1564年)

 平手家緊急軍事会議

 ってただ新たに家臣となった秀吉を呼んで意見を聞いただけだけどな




「ふむ、失礼を承知で言えばお市の方に浅井家と織田家を結んでいただくのが一番の方法であったのでしょうなぁ。大変器量よく見目麗しい信長公の妹が嫁ぐとなれば、同盟に対する誠意や、言い方は悪けれど人質ともなりますからのぅ。今やそれもかなわぬとなると、それ以上の利を用意せねばなりませぬなぁ」


 秀吉の率直な歯に衣を着せない言い方に俺は少し笑ってしまう。

 コイツはホントになんていうか人の機微に敏いというか、何をどうすれば人がどう思うか、人それぞれを観察してそれぞれにソレを当てはめ対応してるんだろうな。

 言っちゃえば俺には何言っても問題ないと思ってるんだろう。

 ま、間違っちゃいないけど。


「兄者、さすがにそれは平手殿に失礼で御座るぞ! お市様は今や平手殿の正室であり、そのようなモノを扱うような――」


「ああ、いいよ秀吉はいつもこんな調子だしなぁ。で、小一郎…あ、いや秀長だっけ」


「ハッ! 無礼とは思いつつも拙者も兄者と同じく、平手殿にあやかりたく字を頂き誠に恐悦至極! この恩、決して忘れず、これからのご奉公にて…」


 そう言って平伏する小一郎こと秀長。

 秀吉の弟で、のちの歴史書や大河では物凄く出来た人物で、才覚もあり、なにより周囲からの人望も厚かった人物らしい。

 こうして見るとなるほどと思うくらい誠実そうで実直そうだ。

 秀吉の弟なのにな、悪意を持って言うけど。

 さてその秀長だが、なぜここにいるかというと、秀吉が家臣になると同時に一緒に平手の家臣団へと加わったのである。


 しかしまぁ秀吉が俺の家臣になっただけでも驚きなのに、秀長までついてくるんだもんなぁ。

 最近妙に平手家が熱いなぁ。設定6にでもなってるんだろうか?

 そろそろタ○ボーイが流れてきそうなくらいの勢いだ。

 

 まあ、それはいいとして。

 秀長に楽にするように言った後、話を続ける。

 

「それ以上の利かぁ。何を用意すればいいのやら」


「生半可な利では動きますまいなぁ。朝倉と浅井が盟友というのもありますゆえ…朝倉と敵対しており、浅井家とは縁が少ない織田家は、どうしても不利にならざるを得ないのがなんとも」


「……やっぱ無理そうか?」


「いまの時点では、ですがのう」


 そう言って秀吉はニヤリと笑う。

 

「要するに今の織田家はまだまだ発展途上。周辺諸国から見れば勢力不足に見えるわけです。これがもし誰もが認めざるを得ない力を持てばどうか。虎の頼みを犬や猫が断れますかな?」


 信秀様も信長もそうだが、悪巧みするときの人の顔ってメチャメチャ悪そうに見えるな。

 元の顔が整っている人がその顔しても怖いが、秀吉の顔でされるのも相当怖いもんがあるな。

 

「とはいっても、今は美濃攻めの最中で、その美濃を落とすという名目も含めての浅井との同盟なわけだしなぁ」


 内部で混乱する斎藤を更に追い詰めるべく浅井と同盟を組み、同時に圧力をかけ美濃攻略に王手をかける。

 さらにはその先も見据え京への足がかりも得る。

 これが信長の描いてる美濃侵略絵図だ。

 その前提が狂うとなると方向修正が必要なるなぁ…また愚痴を聞かされるんかねぇ。

 俺がそんなため息を吐いている中、秀吉は相変わらずのわっるい笑みを浮かべ、

 

「いやなに、この秀吉に一つ良い策がありましてのぅ、桶狭間で名を馳せた平手様の協力があればあるいは」


 その策の概要を聞いた俺は、呆れとともにため息を付いた。

 よくもまぁ、そんなことを思いつくもんだと思うわ。

 俺はなんとも言えない気持ちになりながら信長の元へ向かい、報告をするのだった。

 報告を聞き少し渋る信長であったが、やるだけやってみろという許可をもらったのである。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永禄9年(1564年から1565年)

 

 今孔明こと竹中半兵衛を秀吉が調略成功。

 それに呼応して安藤守就と共謀し稲葉山城を占拠し、稲葉山城の攻勢守勢にわたり平手久秀勢、少数ながらも奮戦する

 その後、織田の兵を迎え入れ、稲葉山城を織田家の居城にすることに成功

 

 

 いや一言で書くと簡単そうに見えるけどね、実際偉い苦労したわけよ。

 いま美濃を支えているのは今孔明と呼ばれる竹中半兵衛であることは誰の目にも明らかだった。

 ならばその支柱を折ってしまばいい。

 そうすれば自ずと自ら崩壊を招くだろう。

 これが秀吉の策だったが、本当に成功させるとは思わなかったぞ。

 

 概要としては秀吉が竹中半兵衛を調略。

 この時点では首を縦に振らなかったらしいが、これからの織田の美濃を取った後の天下取りの概要、楽市楽座、兵農分離、交通整備による流通の活性化などの未来図を何度も何度も聞かせたのだという。


「織田の侵攻は己が為にあらず、広く天下万民のため、今という無慈悲な時代を生きる民のために心を鬼にして戦うのでござる! その為にも、その後の世のためにも今孔明と呼ばれた貴方のそのお力を是非お貸し頂きたい次第!」


 一歩間違えれば機密を漏らした事で機密情報漏えいとも取られかねない行為だが、秀吉は今孔明と名高い竹中半兵衛を説くには、胸の内を全てを晒し、此方の器量と覚悟を見せねばならないとのこと。

 織田信長の先進性、革新性などの器量、光栄なことに平出久秀(俺ね)という武勇優れる無二の友がおり、その才覚の理解者が傍らにいる事よって絵に描いた餅は実現可能であり、机上の空論ではないとひたすらに訴えた。

 秀吉の熱意もそうだが、その信長の政策に興味を持ったのか、民を思うがゆえにその一助となってみたい、歴史を動かしてみたいという、言わば男心をくすぐられたのか、または最近の龍興のこともある為、秀吉の調略に応じ、稲葉山城を手土産に織田に仕えるという内諾を得たのである。

 

 そこまでは順調だったんだが、しかし美濃領である稲葉山城に織田兵を多く動員するわけにもいかず、どうしても少数精鋭にならざるをえない。

 なぜなら織田が兵を動かせば警戒を生み出し、稲葉山城の防衛がより強固になるためだ。

 

 稲葉山城は大自然に守られた天然の要塞であり、難攻不落と名高い城である。

 余計な警戒を生んでしまいかねない軽率な行為は控えるべきだ。


 そこで何を思ったか秀吉が稲葉山城をより確実に落とすために、俺の『土煙の槍大将』『血塗れ一番槍』の名前を有効に使おうとか言い出して、必要最小限まで減らした兵に対し士気高揚を与えるため、安藤守就の手勢を含めた数十人の中から片手に旗、片手に槍を持ち一騎駆けして、稲葉山城の門前に堂々と仁王立ち。

 挨拶代わりにと言わんばかりに槍を一振り、門と兵をぶっ飛ばして見せたのである。

 それによって稲葉山城兵の士気は極限まで低下し、あんまりな出来事に失禁しているものさえいた始末だ。

 そりゃ俺も目の前で人間がスプラッタになったり、ドデカイ門がガンガンぶっ叩かれ破壊されればビビるわ。

 そうして残りの兵を安藤守就率いる数十人の兵と共に攻城戦を開始して俺と秀吉と秀長で色々手伝いながら遂には落城。

 後は信長が増援に来るまでの間、俺は人間破壊と環境破壊を同時に行い、稲葉山城は無事織田の居城となり、その後正式に竹中半兵衛と安藤守就は信長の傘下へと加わったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「疲れた…マジで桶狭間並みに疲れたぞ…」 

 

 事が終わって落ち着く稲葉山城周囲にて、ため息を吐く。

 上手く行ったとはいえなかなかヒヤヒヤする攻城戦だったなぁ、主に俺がな!

 大きなため息をついてる中、俺にのんきに声をかけるサル顔の男がいた。

 言うまでもなく秀吉である。

 

「いやぁ、またもや大活躍でしたなぁ、平手殿。さすがに門を槍でこじ開けたのは予想外でしたがのう。本来は内応者が開ける手筈でしたが…いやはや」


「ったく、最初の一言がそれかよ。主を無碍に使い過ぎだっての」


 そういって秀吉の額を軽くデコピンしたつもりが、勢いが強すぎたのか華麗な一回転半の回転をみせ地面に横たわる秀吉。

 意識はあるみたいだから平気だろう。

 

「い、いや…ワシは最善を尽くし…平手様のためにですなぁ…」


「うっせー、八つ当たりだから別にいいんだよ」


 そう言って横たわる秀吉を無視して稲葉山城から風景を見渡す。

 夕焼け掛かった空が、雲の隙間から幻想的な光の柱を幾本も垂らす。

 高所に建造されているこの城らしい眺めであり、未来では考えられない緑豊かな自然の美しさがそこにはあった。

 

「綺麗なものでしょう?」


 不意に声をかけられ振り返る。


「ん? ああ、半兵衛か」


 そう言って俺に声をかけたのは先程信長と面会して、正式に直臣として安藤守就と共に織田家臣団に加わった竹中半兵衛重治である。

 ちなみに呼び捨てにして欲しいというからそうしている。

 改めて礼とともに祝福すると、本人は苦い顔をしながら、

 

「個人的には秀吉殿か平手殿の家臣として働きたかったのですけどね」


「そうなのか? 俺のところに来てもいい思いはさせられないし、秀吉のもとにいたら寿命が縮むくらいこき使われるぞ。まぁ、信長も似たようなもんだろうけどな」


「ははは…」


 そういって否定しないところを見ると半兵衛自身もそう感じたのだろう。

 一呼吸おいた中、半兵衛は口を開き始めた。

 

「私は元来体が弱く、書物を読むことしかできず武士として半人前の男です。今孔明、軍師だのと持て囃されておりますが、それが実情」


「……」


「秀吉殿、平手殿、そして信長殿。私はこの出会いに運命を感じずにはいられません。民が平穏に暮らせるように、そのために天下を取る。まじめにそう語り具体案を出し、机上の空論、絵に描いた餅を実現させる術までも持ちあわせ、考えて、実行する能力と姿勢も見させてもらいました。……きっと織田は天下を取る」


 そう言って半兵衛は空に浮かんだ夕焼けを掴むようにその手を握る。

 

「私の蓄えたこの知識はまさにこの時の為、そう思わずに要られません……ただ」


「ん?」


 言葉を切ってうつむく半兵衛は何か漠然とした不安のようなものを抱えているように見えた。

 その表情は様々な考えを巡らせているのか、答えの出ない問を自問しているのか。

 そしてたった一言。

 

「今はまだ正道なれど、道を違えれば…いずれ、あるいは」


「!?」


 ボソリとつぶやくその一言。

 たった一言ではあるが、俺にとって何よりも聞き流せない言葉である。

 

『第六天魔王』


 史実の信長はあまりの非道さと残虐さを持って後世に伝わる二つ名。

 今の信長にはそんな道を歩んでほしくないが、そうしなければならない時が訪れる時が来るかもしれないのは否定出来ない。

 

 俺がその一言に考え込んでいると、半兵衛はニコリと笑い、

 

「きっとそうなる前に、平手殿が道を正す道標となるのでしょうな」


 そう言って半兵衛はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「道標ねえ…」


 信長は友達だ。それを否定するつもりはない。

 だが後世に伝わる悪逆非道の数々を知る俺には、一抹の不安が残る。

 果たして俺はそんなことをさせずに済ませられるのか、そんな時が来た時、友達として理解者でいられるのか。

 そもそもソレを極力行わず天下を統一することなど可能なのか?

 

―――なにより歴史を変えることに不安はないのか…?

 

「あ~っ!! 面倒くさいこと考えてるなぁ、俺っ!!!」

 

 そんなことを考えて鬱々した頭を変えるようにガシガシと髪をかく。

 

「今更だっての、そんなこと! ったく、せっかくいい景色見れるんだから信長と飲むことにでもするか」


 そう言って、俺は信長の姿を探し、その自然の美しさに背を向けるのだった。

 







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