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花子の真意

短いスパン、短い文量で投稿するのは自分に良くない気がします。

 花子に会いに行かなければならない。一刻も早く町を出たい僕は町人には挨拶をせずに町を出ようと思ったが、花子にだけは告げておきたいと思った。

 花子とは生まれてからずっと兄妹のように育てられた女性のことだ。家は隣で父親がいないうちの家事を、母さんが仕事をしている間手伝ってくれたりする。昨日も剣術の練習を横で見てくれていた。年は僕の方が上だが、僕より少し上品なので姉のようだった。いずれは結婚して共に家庭を築いていくような気がしていたが、こんな別れが来るとは思いもしなかった。もちろんお互い思いを告げる事はしなかったので、独りよがりな部分もあるがおおかたはそんな感じの関係だった。

 花子に会うには家の前を通らなければならなかった。幸い母さんの顔を見ることはなかった。ほっとしたような残念な気持ちになった。

 花子の家についた。家の前では花子の母親が布団を干していた。僕の方を不審そうに見ていたが、僕は軽く会釈して花子を呼んでもらった。花子はすぐに出てきた。

「どうしたの」

「話したいことがあるんだ。ここでは言えない」

「奇遇ね。わたしもよ。外の高台に行きましょう。あそこなら大丈夫よ」

 何が大丈夫なのかはわからなかったが、彼女に連れられるまま高台へ向かった。高台は町の外にある。町とそれの間には大きな砂丘があり、高台からは町は見えない。僕は訊ねた。

「君の用事は何なんだい」

「あなたから言ってちょうだい」

 彼女の用件が気になったが僕は自分から話すことにした。相手の用件が気になるのは彼女も同じだ。

「今日、町を出る。旅に出るんだ。もうここには戻ってこられないと思う。君を呼んだのはさよならを言うため」

 本当は戻ってこられないのではなく、戻りたくないだけだった。もちろん魔王を倒せるわけではないが、少し間を開けて帰れば母さんにも許してもらる気がしていた。

「……そうね。わたしも付いていくわ」

「それは駄目だよ。君は、駄目だよ。とにかく駄目なんだ」

「どうして。足手まといにはならないわ。野宿するときだって見張りを交代で出来るようになるし、狩りだっていつかは覚える。その……夜の営みだって、させてあげないことは」「駄目なんだよ」そう言って僕はそっぽを向いた。

 彼女を巻き込みたくなかった。理解不能な事態に巻き込まれるのは僕だけで充分だった。確かに道連れが欲しい所ではあるが、彼女についてきては欲しくはない。普通の女の子でいて欲しい。

 しばらくの間沈黙していた。ここにいると町の喧騒は全く感知出来なかった。黙っていても耳は砂漠の風をせわしなく感じていた。視界には広大な砂漠と馬鹿みたいに青い空だけがあった。いっそのこと空が落ちてくればいいのに、と思った。

 振り返ると彼女がいる。おそらくいる。このまま家に帰り、荷物だけ受け取って旅に出ようかと思った。それが一番簡潔で容易な方法だった。そのためには小石ほどの労力と無神経な勇気が必要だった。

 僕は臆病だ。言い訳はしない。このまま謝って家に帰ることに決めた。

「ごめん。連れて行くことはできないよ。でも――」町の方向から煙が上がっていた。おそらくそれは狼煙ではない。空には異常なほど大量の煙のラインができていた。空が落ちてこないように支えているのかもしれなかった。

 彼女はあっけにとられて見ているわけではなさそうだった。もちろん僕もそうである。

「町へ戻ろう」

 彼女の手を引き、町へ駆けだした。彼女の手は重かった。


 町の中は悲惨だった。人と家畜は焼かれ、そこら中から火の手が上がっていた。人が焼かれる臭いをそのとき初めて知った。臭いだけではない。色も音も。悲鳴を聞かなくて済んだだけでも良かったのかもしれない。まだ生焼けの死体も多く、それらはすでに殺されてから焼かれたようだった。死体の皮は焼けただれ、眼球がえぐり取られている者もいた。またある者は全身の皮を綺麗に剥ぎ取られたあと焼かれ、皮は縁側に干されていたりした。爪が剥がされている者もいた。腕や足が無い者もいた。皆一様に火にくべられていた。

 そしてそれは王宮も例外ではなく、窓からは黒い煙が上っていた。きれいに塗られた土壁は崩れ、荒々しい岩のオブジェに成り下がっていた。

 僕と彼女は自分たちの家が在ったところに向かっていた。彼女の手は依然として重いままだったが、息遣いから彼女が泣いているわけではないということがわかった。

 僕の家には誰もいなかった。かなり荒らされてはいたが、血もついていなければ、壁が崩れているわけでもなかった。ただ人の形をした肉片が転がっているだけだった。

 最初は母さんだと信じたくはなかった。しかし、目、耳、鼻、口と確認していくにつれて確信しなければならなかった。これはかつて母であったものだ。

 涙は出なかった。あと一回会うか会わないかの違いなのだ。帰る場所がなくなって気付いたことがある。僕は母が嫌いではなかった。

 母を裏庭に埋葬して家の外に出ると彼女が立っていた。

「わたしも連れて行って。異論は認めない」

 魔王の軍が攻めてきた。それは変わることのない事実だった。

 僕は魔王を倒すだろう。母の元へ帰るためではなく、自分のために。義務ではなく権利だ。法のない世界で生きていくことになる僕にはそれだけがルールだ。規則だ。法だ。

 異論は認めない。

一話とは違い、文学風に仕上げてみました。そうはいってもファンタジーです。

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