旅立ちと紋章
どうしてもファンタジーが書きたくて書きました。ほとんどファンタジーを読まないのでテンプレートのような話が書きたかったです。自己満足です。
夢を見ていた。とても悲しい夢だ。僕の中の忘れていた過去を思い出させるような。しかしそれは目を覚ますと消えてしまう。僕はそれを残そうと必死で眠っていた。
目の前は真っ暗だ。そこに静かな二つの点がある。白なのかグレーなのかはわからないが確かにそこにある。だんだん大きくなり人の形になる。僕を手招きしている。片方は父だと思った。僕が幼い頃に殺されたらしく本物は見たことないが、何となくそう思えた。
僕はその手招きを受け入れたかったがどうも足が動かないようだった。目の前の二人は悲しそうな顔をしてこちらを見ている。そして、だんだん小さくなり、消えた。
「太郎。ごはんよ。降りてきなさい」
母さんの僕を呼ぶ声が聞こえる。なんだか変な気分だ。僕はどうやら夢を見ていたらしい。なんの夢だったかは思い出せない。きっとどうでも良いことだったのだ。ベッドから這い出て、時計をチェックする。六時半。まだまだ眠られる時間だ。なぜこんな時間に起こしたのだろう。
そうだ。今日は父の命日だ。墓参りに遠くの山まで行く予定だった。それならば僕も早く準備しなければならない。そう思って僕は普段着に着替えようとした。
何か違和感がある。左肩が熱い。昨日は剣術の訓練をしたがいつもと同じ量しかしていないし、怪我をしたわけでもない。服を脱いで確かめてみた。
左肩には三列、三行の赤い斑点が縦に二セット出来ていた。なんなんだ、これは。病気なのか。いや、ただの怪我かもしれない。気付かないうちに小石が刺さったのだ。
着替えを済ませて、一階に降りる。
「おはよう、太郎」
「おはよう、母さん」
僕は自分の席に着き――席は二つしかないが――母さんに話し始めた。
「今日は父さんの命日だね。今年もまたあの遠い山まで行くの?」
「そうね。そうなるわね」
僕はうんざりだった。見たこともない父さんの為に徒歩で半日もかかる山に登るなんてばかばかしい。
「もういい加減あんなところに行くのはやめようよ。どうしてあんなところに墓なんか作ったのさ。もっと近くに……この家の裏庭にでも作れば良かったのに。おかげで僕はこんな斑点まで出てきた。あんなところに墓なんか作ったせいだ」
左肩を見せながら言った。出任せなのは悟られていただろう。
「太郎! それが出てきたのかい? ならもうあそこに行く必要はないよ。早く旅の準備をしなくては」
「母さん、どういうこと? この点々は何?」
そう訊ねると母は「食べながら話すよ」と言って自分を席に座った。
「その斑点はハンコチューシャの紋章といって、この家系に代々伝わる紋章さ。十八くらいで現れるんだがお前は少し早かったようだね」
「じゃあそれと旅はなんの関係があるの?」
「その紋章が出る頃には皆旅に出なければならない。自分を成長させるためにね。だからお前に剣術を習わせてきたんじゃないか」
母さんの言っていることがわかってきた。だが、今は昔と違って、魔物だけでなく魔王の軍隊も町の外を歩いているのだ。そう簡単に町の外は歩けない。
「母さん。今は昔と違うんだ。魔王軍だっているし、旅なんてできっこないよ」
「なら魔王を倒しなさい。それが出来るまで家には帰ってこなくていいよ」
「そんな……。僕に死ねって言うの?」
「今から私は支度をするからあんたは町のみんなと王様に旅立ちの挨拶をしておいで」
そう言うと母は食べ終わった食器を洗い場へ持って行った。目尻が光っていたように見えた。
僕はどうすればいいか迷ったが挨拶に行くことにした。もう二度と会うことはないかもしれない町の人々に。
冷静に考えてみるとおかしな話だった。なぜ僕が旅に出なければならないのか。母さんの話は筋が通ってはいるが、反発せずにはいられない内容だった。
花子に相談してみよう。いや、その前に真偽を確かめねばならない。それ自体は簡単だ。王様に会いに行けばいいのだ。わざわざ王様を引き合いに出したのは何か理由があるに違いない。なければそれまでだが……。
家を出て数分後、僕は王宮の前まで来ていた。門は固く閉ざされており両脇に衛兵が立っていた。
「百姓の太郎だが、王様に会いたい」
用件だけ伝える。これで通れるはずがなかった。魔王軍との確執で王様は命を狙われ、最近は式典にも顔を出さない。こんな見ず知らずの百姓が通れるはずがない。
「入れ」
あっさり通されてしまった。これでいよいよ真実味を帯びてきた。僕は右側の衛兵に連れられ王の間へと導かれた。
もともとここは砂漠の国なのでどの家も岩で出来た床だが、それはここでも同様で岩の上に絨毯が引いてあるような簡素な部屋だった。その部屋の中央には豪華な椅子があり王様が座っていた。
「太郎よ、よくぞ参った。思えばあの時から十六年か。長かったぞ。ここへ来たと言うことは出たのだな。斑点が」
なぜ知っているのか気になったが、王の手前、質問に質問で返すようなことは出来なかった。
「はい。ここに」そう言って袖を捲り左肩を見せる。
「では、旅に出るのだな。お前に渡さなければならない物がある。ついてこい」
王様は立ち上がり椅子の向こう側にある部屋へと歩き出した。僕も歩きながら追いついた。
「お前の父親が使っていた剣だ。恐ろしく良く切れる。お前を守ってくれるはずだ」
王様は父親の事を知っている。そういえば母さんからは父の話はほとんど聞いたことがなかった。僕が幼い頃に殺されたということ以外は職業も、容姿さえも知らされなかった。今聞くべきかもしれない。もう母さんとは会って話せないのだから。
進んだ部屋の中には一振りの剣が地面に刺さっているだけだった。
「名前はフォーキ。これを持って行け」
僕は意を決して訊ねてみることにした。
「父を、知っているのですか」
「聞いていないのか……。お前の父は勇敢な戦士だった。私から見ても偉大だったよ。何万ものゴブリンの軍勢に一人で立ち向かい、何食わぬ顔で大将を仕留めてきた。我が国の誇りだった」
父は百姓をしていたと思っていたので意外だった。しかしそのせいで死んだのだと思った。もし百姓をやっていたなら、今日もサボテンと格闘していたに違いない。
「さあ、剣を取れ」
僕は言われるがままに剣を引き抜いた。美しい剣だった。
「もう一つ渡す物がある」
王様はそう言うとおもむろに懐から紙を出した。
「これをヨーミンの王に届けてくれ。立ち寄ったらで構わない。魔王軍に見られそうになったら焼き捨ててくれても構わない。渡すときはショークの王から預かったと言ってくれ」
わかりましたと言って紙を受け取った。町の外にほとんど出たことのない僕はヨーミンがどれほど離れていてどんな国なのかは全くわからなかったが、了解することしか出来なかった。
「それともう一つ。お前には双子の弟がいる」
唖然とした。そんな話は聞いたことも無かった。母さんが言わなかっただけなのか。父の正体も弟の存在も隠されていただけで存在しているのだ。僕はまだ十六。周囲の事さえまともに知らされていないのかもしれない。母さんは本当の母ではないかもしれないし、あるいは王様が父かもしれないと思った。
「なぜそんなことまで知っているのですか」
「衛兵! 外へ出せ」
僕は両手を掴まれ門まで引きずられた。何もかもがわからなかった。このまま旅に出て良いものなのか。僕の頭は空っぽで嘘しか詰め込まれていない。弟がいることも嘘だ。父が戦士だったことも、この左肩の斑点も全部嘘だ。嘘つきだらけのこの国を離れて、どこか遠くに行こう。その為にはこの状況は好都合だ。
僕は失礼しますとだけ言い残して王宮を去った。まだやることが残っている。
この作品はスターウォーズを見ながら書いたので少なからず似ている部分が今後出てくるかもしれませんが、それは似ているだけです。気にしてはいけません。




