五話 旅立って、ついてけない
すいません遅れました。
やはりお気に入り登録はうれしいものですね、はい。ありがとうございます。
草を取り払っただけの簡素な街道を二頭の馬が踏みしめる。準備と整備に口うるさい主人が用意した荷馬車のうえは、不快にならない程度の揺れが現象していた。
そんな環境のなかで、私の肩に寄り添っている少女から息が漏れる。先ほどの揺れで頭の位置がずれたのか、寝ぼけ眼で頭を肩に当て直し、私の腕に抱きついてきた。もしこれが小動物なら有無を言わさずお持ち帰りしていただろう。いや、実際初めて会った日にお持ち帰りはしているんだけども……。
つまりそれほど愛くるしかった。
そんな彼女に出会って四日が経った。
ただのほほんと、先払いした宿の代金を消化するまで引きこもり生活を勤しんで、やっと今日になって活動を開始したのはいいのだが。
ここで問題にぶつかった。
いつも一人旅をしているせいか、まさか移動手段で頭を悩ませることになるとは思いもしなかった。
徒歩でも問題はないと思いつつ、脳裏をかすめるのは紫色に染まった彼女の足。同じ女として、体に傷をつけるのだけはご遠慮したかった。
そんな私の目に飛び込んだのは、町の外れにぽつんと置かれたこの馬車。商人が乗ってきたものであろうそれは、より多くの荷物を置けるためにとサイズ的に申し分なく、また車輪の設備まで行き届いていた。思考する。
持ち主がとる行動は……。
経験に身を任せて、私は一つの建物に飛び込んだ。貿易等、ある程度他所との関係が保たれている土地には必ず置かれている設備。
斡旋所ギルド。
つまるところ、冒険者と民のためのなんでも屋である。
夕食の材料買ってきて、迷子の猫を探して、本当に小間使もいいところだと苦笑してしまう依頼が後を絶たない。当然危険な話もあるにはあるのだが、凶暴な獣もいないこの土地にはおなざりだ。
依頼内容が大ざっぱに書かれた用紙をこれまた大ざっぱに貼ったボードを見つめて、昔はお世話になった依頼の数々を流しながら、私は目的の物を見つけた。
馬車の性能テスト。
予想していたものとは違ったものの、なるほど考えたなと頭をうねらせる内容だった。
多くの商人が盗賊による被害を恐れてギルドに要請する護衛依頼とは違い、今回の商人が用意したのは性能テスト。確かにこの土地は栄えていないが治安はいい。町の人たちの顔も明るく、その雰囲気は暖かだ。
それでも警戒に越したことはないと、しかし護衛依頼を設けるための資金がもったいないと、考えた結果がこれであろう。
命の危険性がある依頼には、その依頼をこなしたうえで用意される成功報酬の相場が決まっている。最低でも人一人の十日分の生活日程度と言えばその額がわかるというものだ。
そこで今回、この商人は性能テストとかこつけて要請をしているわけだ。確かにこれに不満を漏らす者は少数だと思われる。そもそもこの土地で危険視するものなど夫婦喧嘩と病気しかないのだから、足を用意してくれたこの話には感謝したいほどだ。
私は小さくガッツポーズをとってその件を受注すると、宿屋のロビーで店主の話し相手を努めているであろう友人のもとに向かった。
そして今に至る。
なんだか幸せだ。
すやすやと眠り続ける彼女の名を未だに知らないことに関しては幸せと評しきれるかどうか危ういが、とりあえず幸せだ。
当面の目的は町歩きでいいだろうと私はあたりをつける。なにを見ても珍しがって、興味を示す彼女の顔をもっと見たいのだ。
現在の目的地は港町。
そこで当分の間の生活費を稼いでおいて、船で王都に向かうとしよう。大体の目標を立て終わった私は、彼女を落とさないよう背筋を伸ばして固まった体をほぐしてやった。
パキパキという快音が肩から腰にかけて伝わる中で、私も彼女に肩を預けて眠りについた。
おはようございます。
僕、舞園日那と申す者です。今ごろになって名前を教えていなかったことを思い出したけど、過去の詮索をしないエミリアがいい意味でも悪い意味でも原因だと思い至ったので、聞かれるまで答えないことにした。
どこにでもいそうな青年が焚き火に木をくべながら、世話話をもちかけてくる。
すでに空も闇の帳が落ちきっていて、太陽の欠片のように星が煌めいていた。
これが本当の外泊かと、たいして上手くないことを考えながらシチューを飲み込む。エミリアが用意してくれた白いワンピースにこぼさないよう慎重に食べ進めて、世話話には一切混ざらない僕だった。
ギルドってなんですか?
おそらく聞いてはいけないことだと思う。
焚き火の上に吊られた鍋からおかわりのシチューをよそって、質問を飲み込んだ僕だった。
これって馬車の性能テストじゃないの?
そんな夕食時が過ぎて、どっぷり脳細胞だけに疲労を残した僕は、割り当てられた就寝スペースに毛布を敷き詰めていた。
どうやら目的地の町までは三日程かかるらしいので、せめて寝るのに不自由しないようにと用意されたのがこの毛布の山。エミリアの分も混ざっているのだけれど、些かどころでは済まされない量である。
しかも一枚一枚がそこそこの品質を保っている物で、素肌に擦れて不快になるというものでもないのがまた出来すぎている。おそらくあの青年は先のことを考えすぎて損をするなと小さく思いながら敷き詰める。
思えばこんなに働いたのは初めてだ。
額を濡らす汗を拭いながら、お風呂に入りたいなぁとふけてみる。
敷き詰めすぎてレンガのようになっている寝床に背を向けて、僕は馬車から降りていった。
月明かりに照らされる一人の少女にある提案を持ちかけるためなんだけれども、いざ言うとなると恥ずかしい。近くに流れていた川で水浴びしようとでも言ってみようかな。
すっかり癒えた足を運んで、エミリアにもとにたどり着いた僕はそんな提案を持ちかけた。ちょっと困った顔をしたけども、了承してくれた彼女の腕をひいて歩きだす。
それと同時。
風を切る鋭い音が耳について、僕の足元に見慣れない矢が突き刺さった。先ほどまでの雰囲気が一変する。
二つの足音が僕らのもとに届くのに時間はいらなかった。
ようやく名前が……。
展開ってなんですか?
ごめんなさい。わかりません。