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第03話 連絡船を待つ


 あの地震と津波から既に4日が経っていた。ニュースでは毎日、その地震と津波のニュースをやっていた。さらに、日本人の安否もニュースで流れていたが、既に5人の死亡が確認され、34人もの日本人が安否不明になっているという。

「……。」

 瑞貴と湊は呆然と海を見つめたまま、座り込んでいた。

「なぁ」

 瑞貴がようやく口を開いた。12月末。沖縄とはいえ、海から吹きつける風は冷たいものがあった。

「何……」

 湊もようやく口を開く。

「海斗……」

 そこから先の言葉を出すのが不安で、瑞貴もそれ以上のことをいえなかった。沈黙が20秒以上続き、波の音が聞こえ、風の音が聞こえる。

 瑞貴がようやく言った。

「生きてるよな?」

 間髪いれず、湊が立ち上がって激昂した。

「当たり前だろ! アイツがそんな簡単に……」

 その先の言葉を口にするには、中学生にはとても厳しいものがあった。しかし、湊はハッキリと言った。

「死ぬような……ヤツかよ!」

「俺だってそう思いたいよ! だけど、もう……5人も亡くなって、34人も行方不明なんだぞ!? 海斗……タイに行ったじゃん! あの津波がすごかった、プーケットってトコに行ったんだろ!? もう……あんな映像見せられたら……」

「やめろ!」

 湊が耳を塞いだ。

「俺は聞いただけのことなんて、信じない。この目で見ることだけしか、信じない!」

 普段は冷静な湊が、ここまで感情的になることは珍しかった。

「……俺もそう思いたい」

 瑞貴が涙を拭ってそう言った。

 どれくらいの時間が流れたのか、何回波の音を聞いたのかもわからなくなるほど、湊と瑞貴は海岸沿いに座り込んでいた。

「なぁ」

 ふと思い出したように湊が呟いた。

「何?」

「一帆は?」

 瑞貴が鼻の詰まったような声で答える。

「知らないのか? アイツ、毎日連絡船に乗って、海斗が帰ってくるのを待ってるんだぜ」

「アイツが!? 連絡船に!?」

 湊が驚くのも無理はない。一帆は連絡船を営む一家の息子なのだが、とことん船に弱く、乗るたびに悪酔いして挙句、戻してしまう始末なのだ。

「大丈夫なのかよ……」

「知らない。ただ……アイツが、一番行動力あるのかもな」

 瑞貴は少し悔しそうにそう、呟いた。

 結局、地震から4日目を迎えた12月30日になっても、海斗一家の安否はまったくわからずじまいであった。携帯電話も海外なので通じず、それ以外に連絡を取る手段がまったくわからない。もうすぐ、2004年も終わろうとしていた。

 毎年であれば、12月31日には島の年末年始行事に4人で足を運び、カウントダウンを楽しんでいた。その後、初詣をし、海斗の家でおせち料理を食べる。それが恒例行事であった。しかし、おそらく2004年から2005年にいたる今年は、とてもではないがそんな気分にはなれないだろうと、湊は家で夕食を食べながら考えていた。


 翌日。

 2004年も間もなく終わろうとしている。ニュースでは相変わらず地震と津波のニュースは伝えていたが、日本人の安否情報などはまったく流れない。それよりもむしろ、地震や津波の規模の大きさのほうが衝撃的だったようで、そちらのニュースばかり流れている。

 一帆もそのニュースを何度も目にし、耳にしていた。亡くなった人の名前は出ているものの、安否不明の日本人の名前はまったく出ない。それが一帆をもどかしい気持ちにさせていた。

 苦手な連絡船に毎日乗った。乗船時間が12時間になりそうな日もあった。冬休みなので、もう関係ないというような感じでずっと始業時間から終業時間まで乗り続けていた。はじめこそ戻したりしたものの、今ではすっかり慣れてしまって戻さなくなった。

「……。」

 一帆は沖縄本島に近づく船の船首に座り込み、呆然と港のほうを見つめていた。

「……一帆」

 一緒に乗船していた母の梓が一帆の名前を呼ぶ。

「一帆!」

「何……」

 一帆は母に呼ばれ、重い腰を上げた。そして、その視線の先に映る人物を見て、思わず大声を上げた。

 1時間後。ようやく戻ってきた船を見て、湊と瑞貴が手を振る。

「おーい! 一帆。悪酔いしてねぇか?」

 湊はワザと元気よく振舞い、一帆らしい人物に手を振った。そして、その横に立つ人物を見た瞬間、湊は動きを止めた。

「……? どうしたんだよ、湊……」

 瑞貴も立ち上がり、船のほうを見て動きを止めた。

 やがて、連絡船が停泊し、ゾロゾロと乗客たちが降りてくる。その乗客たちを掻き分け、湊と瑞貴は必死にその人物の元へ駆け寄った。

「……!」

 湊と瑞貴の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。そして、湊たちはその人物をしっかり抱き締め、彼の名前を呼んだ。

「海斗……!」

「海斗……海斗……」

「湊……瑞貴……!」

 海斗は二人の名前を呼んだ後、大声で泣き始めた。日本で比較的遅く夕陽が沈む与儀島。彼らの再会を祝福するように、冬の夕陽が優しく、4人の少年を包み込んでいた。










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