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第01話 初めての海外旅行


「えー!? 海外旅行!?」

 長谷(はせ)(がわ) (かい)()の報告に、大声を上げたのは同級生の我那覇(がなは) (かず)()だった。

「静かにしろよ! まだあんまり周りにしれちゃマズいんだって!」

 中学2年生の彼らにとって、まだ海外旅行というのは縁遠い言葉だった。それが突然、自分たちの日常に舞い降りてきたのだからもう大変だ。

 一帆の隣にいた(かね)() 瑞貴(みずたか)が嬉しそうに続ける。

「でもさぁ、海外っていいよな! 海の外だろ? 俺たち、こーんな狭い日本の、さらに狭い沖縄県の、その中でもさらに狭い与儀(よぎ)島に住んでるんだもん。一度は思い切り違う場所に行ってみたいよな!」

 一帆も「オレも思う思う!」と同調した。

「言葉尻捉えるけど」

 後ろで冷めた目をしているのは、(いわ)() (みなと)。海斗、一帆、瑞貴と同い年なのだがどこか冷めたところがあり、かなりのリアリスト。夢のような話には絶対に食いついてこない、海斗にしてみれば面白くないタイプだった。

「別に、海外じゃなくてもいろいろ発見できるところはあるんじゃない?」

 海斗があからさまに不機嫌になった。

「どういう意味だよ」

「たとえば、関西なんかおもしろいと思うよ。あの地方に住んでる人たちはホント、独特の文化を持ってる気がするよ。俺は、そういうところを見たほうが楽しいけどな」

 海斗はいちいちこうした鼻にかけたような湊の喋り方が好きではない。海斗と湊。名前の響きこそ似ているが、二人はまるで性格が違う。

 海斗は活発スポーツ少年。サーフィンが大好きで、夏場になればほぼ一日中、波乗りをしているような少年だ。夏休みの宿題は休みが終わる直前までほったらかしで、サーフィンやマリンスポーツを楽しんでいる。冬は冬で、沖縄はそれほど寒くないと言って、しっかりと装備をした上でサーフィンをしたり、他の球技などのスポーツをやっている。もちろん、水温が低くなるので体が冷えるため、両親には冬場はサーフィンを禁止されているので、最近はやっていない。

 一方の湊は、読書大好き、勉強大好きな勤勉少年。成績は常に学年トップで、将来は島を出て、それこそ東京に行ってもっといろんなことを勉強したいと言っている。体は真っ黒に焼けている海斗と対照的に、色白で少し貧弱な印象を与える。湊の専門分野は海の生物や生態系、サンゴのこととなると特に詳しい。

 こうしたように、まったくタイプの違う二人だが、根底は同じである。それは二人とも「海」が好きであること。海斗はサーフィンを通じて、湊は生態系を通じて海に深く関わっている。

 これを言うと二人は怒るので、一帆も瑞貴も触れないことにしていた。ちなみに、一帆は連絡船を家族で経営していて、瑞貴は一家で水産加工場を経営している。つまり、二人も海に関わる生活を送っているのだ。

「あー、はいはい。勉強小僧の湊くんらしい、ご立派な意見ですね~」

 海斗があからさまに嫌味な返事をする。こうした言い方をすると、二人が火花を散らすことは避けられなくなる。

「あーあ。自分の非を認められない幼稚なスポーツマンはこれだから困るんだ」

「なんだと!? フン! ひ弱なガリ勉にそんなこと、言われたくないね! 勉強してても、それをうまく応用できなきゃ意味ねーからな!」

「それを応用できずにいつもテストで悲惨な目にあってるのはどこの誰だか」

「なにー!?」

「はいはい、ところでさぁ、海斗の行き先はどこなわけ?」

 こうしていつも、瑞貴が仲裁に入る。この瑞貴の会話の持って行き方がうまく、海斗も湊も気づかないうちにケンカを終え、普通に会話を始めるのだ。

「タイのプーケット島ってとこ! まぁ、沖縄と似たようなビーチとかあるんだけど、今の時期でもすっげぇ暖かいらしいし!」

「え!? お前、プーケット行くの!?」

 珍しく湊が食いついてきた。

「お、おう」

 海斗が驚いて少し引いてしまった。

「本当か! なぁ、俺あそこの、このお土産、一度食べてみたかったんだ」

 湊は素早くカバンからガイドブックらしきものを(常に持っているのかどうか疑問だが)取り出し、海斗に見せた。

「へぇ~! こんなのあるのか?」

「あぁ。これ、頼むよ!」

「しょーがねぇな。その代わり、高いぞ」

「バカじゃないか、お前。幼なじみの頼みなんだぞ。お金なんか取るなよ」

「えぇ!? 俺持ちかよ!?」

 それを聞いて一帆と瑞貴が「いいな! じゃ、俺も!」と言って大笑いした。

「それで? いつ出発なわけ?」

 一帆が聞いた。

「ん? 今日の夜!」

 それを聞いて全員がブッと噴き出した。

「んだよ、それ! 聞いてねぇぞ!」

「えー? だって、事前に言う必要とかなくない?」

 海斗はケラケラと笑った。

「サーフィン、するのか?」

 珍しく湊が聞いた。

「もちろん! サーフボード、持って行くから!」

「やる気マンマンだな!」

 一帆がそう聞くと、海斗は「もちろん!」と笑顔で返した。

「じゃ、気をつけてな」

 海斗の家の前に着き、別れ間際に瑞貴が寂しそうに言った。

「何も……一生の別れじゃねーじゃん! たかが2週間!」

「2週間は長いぞ」

 湊が笑いながら言う。

「ま、お土産を俺たちを寂しくさせる分、たくさんヨロシクな!」

 一帆がバシバシと海斗の背中を叩きながら言った。

「わーかったよ、任せとけ!」

「じゃ、また2週間後!」

 一帆が手を振る。

「気をつけてな!」

 瑞貴が続けて手を振った。

「おう!」

「じゃーな」

 湊も笑顔で手を振った。

 2004年12月24日。海斗の初海外旅行は、すぐそこまで迫っているのだった。












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