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事故物件エクソシスト〜霊のお悩み、承ります〜  作者: 地野千塩


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初めての悪霊祓い(4)

 上司の支配人はとても優しい人だった。


「ええ、まだ少し体調不良で。まだ医者から休むように言われておりまして、本日も有給を使いたいのですが」

「わかりました。石山さん、お大事に。また何かあったらすぐ連絡して」

「ええ。ありがとうございます」


 電話越しの支配人の声、優しい。本気で心配している様子だったが、今は体調不良は改善しつつある。あの時、神の名前を叫んで時から、そうだ。


 一体なぜ?


 全くわからないが、長年悩まされてきた霊現象の謎がとけるかもしれない。


 宮乃は都市伝説オカルト系イベントの合宿に参加し、連絡が取れない。仕方ないので、独自にあのコメント主を調べてみることにした。有給も取れたし、そのチャンスは今日しかないはずだ。


 コメント欄から例の「オカルト牧師・羽生尋人」を検索すると、驚く。


「本当に牧師?」


 教会の公式ホームページもすぐに見つかった。しかも近所にある羽生教会。まさかあの変なポスターが貼ってあった教会?


 しかし、教会のホームページは一般的。優等生すぎるぐらい優等生だ。儀式や葬式のご案内ばかりで、そんな霊とかオカルトの話題は一切ない。牧師は羽生信という老人で、半ば隠居状態だったが、息子の尋人が実質教会を運営している模様だった。


 唯子は一般的な日本人だ。確かに霊的な現象に悩まされているとはいえ、キリスト教というとザビエル、踏み絵、十字軍、マリア像、原爆を落とされた教会、マザーテレサ。これぐらいしかイメージがわかない。


 アメリカの映画で神父が悪霊祓いをしているシーンは見た事がある。確かイエス・キリストの名前で悪霊を祓ってはいたが、そんなの現代日本であり得るのだろうか。


「日本には日本の霊がいて、日本の神様じゃないと悪霊祓えないのでは?」


 とはいえ、キリスト教が一神教だと知っている。一神教というと全知全能の神様。だとしたら、全世界共通ではないか。日本だって例外ではない。理屈としては理解できる。


 それより長年の霊問題が解決されるなら、と思う。体調も良くなってきているとはいえ、万全ではない。幽霊も完全に消えたかどうかも自信がない。


 洗脳や献金という恐怖もあったが、公式ホームページでは一応、「献金は自由です。信仰についても自由意思で来てください」とあった。もし何かされそうだったら、逃げればいい。確か教会の裏手には整体、コンビニ、美容院もあったはず。周辺の道は早朝や深夜でも人通りも多い。大声で叫べば聞こえるだろう。


「これは行くしか無い……?」


 また耳鳴りがした。キィーンと不快な音だったが、何か背中を押されているような感覚も消えない。


 身支度をし、羽生教会へ向かった。


 家から徒歩数分の距離だ。周りは何の変哲もない住宅街。よく見慣れた風景。日本の地方都市そのもの。


 それに教会、見た目は公民館に似てる。図書館にも少し似てるかもしれない。宗教施設というよりは、公共の場という雰囲気だ。


「ミャア」


 しかし教会の門のあたり、野良猫もうろついていた。茶色く、汚い猫だったが、野生動物が寄り付くような場所らしい。警戒心は薄れてきた。


 門の近くの掲示板には、相変わらずあのポスターが貼ってあったが、唯子が近づくと、この野良猫、足元に擦り寄ってくる。


「ムアア、ムアア!」


 鳴き声もダミ声であんまり可愛くない猫だったが、この門をくぐっても大丈夫?


 風が吹いた。冬の冷たい風で、思わず目を閉じてしまう。一瞬、思考も途切れてしまう。


「ムアア、ミャア!」


 野良猫の鳴き声と共に、目を開けて、顔をあげる。もう風邪は止まっていたが、目の前に男がいた。


 男は片手に猫缶。一応スーツ姿だったが、ちょっとくたびれた感じ。髪もボサボサで不精ひげもあったが、メガネの奥の目はやけに鋭い。


 年齢は三十代前半から中ばぐらいだが、唯子の姿を見つけると、事情を察したらしい。笑いを堪えるような口元を見せていた。


「何か、霊問題でお困りかね?」


 その声は低く、猫の鳴き声に紛れてもはっきりと聞き取れた。


「きみ、キリシタンではないだろ?」

「な、何でわかるんです?」


 思わず後退りしたが、男はニンマリと笑顔を見せてる。何かこの状況を面白がっているらしい。


「俺はオカルト牧師。わからない霊問題はない」

「は、はぁ……」


 何この人、変人? 三十超えて中二病?


 不信感は倍増中。指先も震えてきたが、野良猫はこの男になついているみたい。唯子の足元から、男に擦り寄って、上目遣いで鳴いててる。


 野良猫がこんなに懐くとは。普通、もっと警戒するものだが、野良猫にとってはいい男なのだろうか。


「とりあえず話を聞こう。それからだ」

「は、はぁ……」


 結局、男に連れられ、教会の門を潜った。野良猫と一緒に歩調を合わせて。


 まだ指先が震えてる。野良猫にとっていい男でも、人間にとって良いかはわからない。


「お邪魔します」


 それでも帰れない。乗り掛かった舟というものかもしれない。

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