正しい死に方
今、私は時を止めている。
私のすぐ横には車がある。時を戻せば、それは私にぶつかり、私は死ぬ。
けれど、時は止まっている。私は動ける。だから、避けることもできる。
私は死ぬかどうか迷っている。迷いに迷っている。
毎日仕事をするのが嫌で、死にたいと思う。けれど、休日に何かをするわけでもない。だらだらとNetflixを見ているだけだ。お金があっても無駄な買い物をするだけだ。だったら、もう死んでもいいのではないか。そんなふうに考えるようになっていた。
それでも、死ぬのは怖い。
怖いから、これまで私は死ななかった。
しかし、今は違う。今は、死ぬチャンスが目の前にある。
理由はよくわからないが、私は時を止めることができた。これは神が私に与えた、最後の選択なのかもしれない。
死ななければ、最後ではない。
だが――。
このまま生きて、何をする?
いや、ダメだ。死んではいけない!
私にはまだやることがあるんだ!
だって、私は『鋼の錬金術師』をまだ全話見ていない。今はたしか40話くらいまで観た。あともう少しなんだ。
それに、毎週木曜日の夜には『呪術廻戦』がある。まだ、放送が始まったばかりじゃないか。死ねるわけがない。
正しい死に方で、私は死ぬ。
私は車から離れた。
時を動かした。
隣には友達の桂奈が立っていた。
「うわー、あの車、信号無視してたねー」
桂奈はそう言った。
「そうだね」
私は桂奈の顔を見て答える。
「あれ? 泣いてる?」
桂奈が言う。
「違う。雨だよ」




