旅立ち
「ドォゴオオオンー!!
て音が聞こえて、手が離れて落ちていったのよね。気がついたら森の中で、朝になって知らないホテルのベッドで寝てる。絶対夢よね」
立ち上がってみたが、窓から見えるのは、映画に出てくる西部劇の景色のみ。
また、ベッドに座り、独り言を呟き始めてしまった。
「昨日、竜って人にお金を借りて、西部劇風の町でホテルに泊まったのよね。どうしてこうなったの?」
頭を抱えて、独り言をつぶやき続ける。
「せっかく米倉先輩と二人っきりになれるチャンスだったのに。早く元の世界に戻らないと。すっぽかされったって、先輩怒ってるだろうな」
両手で自分を覆った後、この重い空気を振り払うように、頬を軽く叩いて気合を入れ、着替えて部屋を出た。
朝食でのこと。向かいに座っている竜が尋ねてきた。
「さくら、お前は防御魔法を使えるのか?」
さくらは、綺麗に皿の上の料理を平らげていく。
竜の質問に、口の中のものを飲み込んでから答えた。
「魔法なんて使えないよ。ここじゃ、みんな使えるの?」
「めったに使えるやつはいないぜ。さくらなら、できるかと思って聞いたのさ」
またさくらは食べ始めた。次から次へ皿が積み重なっていく。
竜は少し呆れる。
「よく食うな」
「こんな状況だから食べれるだけ食べておくのよ。幼い頃からそう躾けられてるの。修行のときなんて、食べ物がないなんて当たり前なんだから」
真剣な表情の竜。
「この世界は弱肉強食だ。防御魔法が使えないなら、せめて防具は身につけておいたほうがいい。武器屋に行こう」
「武器屋なんてあるの」
皿の上の肉を切りながら聞いた。
「このお肉、すっごく美味しいわね。何の肉なの?」
「メニューには、プテラノドンって書いてあったな」
「へぇー、この世界にはそんな名前の鳥がいるんだ」
「恐竜だぜ」
また、吹き出しそうになった。
左右に店が並ぶメインストリートを、二人で歩いていく。
武器屋は、少し離れたところにあった。
中に入ると、所狭しと並ぶ銃と弾丸や剣と盾、防具が目に飛び込んできた。
店主は、ライフルを構えてこちらを見ている。
「竜、あの店主怖いよ」
「気にするな。自己防衛をしないと、武器屋は襲われるんだよ。考えてもみろ、銃を持った男が三人店に入ってきたとしよう。どっちが不利だと思う」
「わかるけどさ...」
「それより、防弾防具を試着してみろ」
竜に勧められるまま、試着室で上半身を守る防具を身につけ、鏡で自分の姿を見た。
恥ずかしすぎる!
重さや感触に違和感を覚えたが、安全のためだと無理やり購入させられた。
武器屋から出てきた格好は、かわいらしい制服の上に肩から腕にかけてのプロテクターと、胸にも心臓をまもるための、防弾胸甲を着けていた。
「こんなの格好悪いよ。まるで世紀末漫画みたいで嫌だな」
「いや、格好いいぞ」
ニコニコしながら、竜は即座に答えた。
ため息をつき、口には出さなかったがこう思っていた。
あんたの美的センスなら格好いいんでしょうけど、それはかっこ悪いってことよね。
竜がさくらの肩に手を置いて、 ニッコリ笑った。
「次は馬だな」
即座に否定した。
「馬なんて乗れないよ」
竜は乗馬に自信があるような口調だ。
「教えてやるよ。ここで待ってろ。さくらの馬を買ってきてやる」
竜は馬に乗って戻ってきた。手綱を引く馬が一匹、後に続いている。
自分の馬から降りた竜は、もう一匹の馬の手綱をさくらに差し出した。
「よく聞けよ。馬は乗れないやつをバカにしてくる。威厳を持って、馬を従わせるんだ」
馬はさくらの存在など眼中にないかのように、無視して横を向く。
「竜、この馬は何ていう名前なの」
「馬の名前までは知らない。さくらがつけてやれ」
「そうね。コータローにする。竜の馬の名前は?」
「名前はつけてねぇ」
「じゃあ、テッペイにしましょう」
優しい笑顔で、コータローと名付けた馬の顔をなでながら、話しかけた。
「コータロー、気に入った?」
馬はいきなり、肩を噛んできた。
困った表情で優しく顔をなでながら、
「そんなことしちゃだめよ」
馬は噛んでる肩を離して、スカートを噛んでめくり上げた。
パンツが丸見えになった瞬間、馬は強烈な平手打ちを食らった。
呆気にとられる馬の顔から、鼻血がツーと落ちてきた。
怒りを通り越したさくらは、妖刀田中家の鯉口を切った。
「コータロー!お前のような変態馬は切り捨てる!」
竜が羽交い締めにして、必死で止めようとする。
馬は恐怖で座り込んでしまった。
「さくら、やめろ。馬が怖がってるじゃないか」
怒りが収まらないさくらは、叫んだ。
「パンツ見られたのよ!竜にも見られた!」
「じゃ、パンツの上から、短パンでも履けばいいだろ。買ってやるから」
暴れるのをやめた。
「そうね、短パンを履くようにすればいいのよね。竜、後で買いに行きましょ」
馬に跨ってみた。先ほどとはうってかわって、従順になっている。
教えられるまま練習すると、意外と簡単に覚えられた。
「あたし、運動神経には自信があるのよね」
「たった一日の練習とは思えないぐらい上達したな。明日、出発しようぜ」
こうして、竜の師匠に会いにいく旅が始まった。
半日馬を走らせた。川で休憩し、馬たちに水を飲ませながら、竜が大した金額でもないように言ってきた。
「さくら、お前に貸した金は五百万だ。働きながら返してくれよ」
「ご、五百万!」
「馬を買ったんだ、安いもんだろう。大丈夫だ。さくらの腕なら、すぐに返せる」
五百万が、繰り返し頭をよぎっていくなか、荒野を一日中馬を走らせた。
次の町に着いてすぐ、
「行くぞ」
と竜に言われ、二人で張り紙がある掲示板に向かい、仕事を探し始めた。
「これなんかいいんじゃねぇーか。二、三人の山賊を退治するだけの仕事だ。簡単な仕事なのに、二百万って書いてあるぞ。半分ずつにして、俺とさくらで百万ずつだ」
腕に自信はあったが、これは初めての賞金稼ぎ。しかも、父との実戦練習は半年以上していない。
「山賊退治なんて無理よ!」
竜が説得するように、
「心配するな。銃にだけ気をつければ、あとは人形みたいなものさ」
五百万が頭をよぎり、竜に押し切られてしまった。
「ところで竜、お金はどうやって貰うの」
「まず張り紙は、銀行が仕事を請け負って、銀行が張り紙をする。仕事が完了して、銀行に届けた後、保安官が見に行く。保安官のいない町では、銀行の専門部署が見に行く。仕事の完了が確認出来れば、銀行に振り込まれる」
「意外としっかりしているのね。感心しちゃった」




