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巨大トラのキメラ

さくらの後ろ姿を見送っている大倉の横を、巨大な袋を担いだどん兵衛と手ぶらの有法が通り過ぎ、さくらの後を追うように森へと向かう。



◇◇◇◇◇



森の中に戻ったさくらは、サソリキメラが生きてるか確認することにした。


大きな獣道を横切り、村のある方向と逆の森深くに入っていく。


「確かこのあたりだったと思うんだけどな」


遠くからでも見える大きな何かが見えた。


「あれだよね」


妖刀田中家を抜いて近寄る。


何か黒いもので覆われていた。


「アリが群がってる。やっぱりあの時死んだんだわ。尻尾が動いたのは死後反射かまだ微かに生きてたかね」


アリの群がるサソリキメラに目を落としてつぶやく。


「これが自然の摂理なのね。初めて見ちゃったよ」


数秒後に我に返った。


「いけない!川で待ち合わせだった!」


左手で刀を持ち、駆け足で森を出て、大きな獣道に戻ると気配を消しながら早足で駆け出した。


まるで競歩のようだが、両足は地面に着いていない。頭が上下しないよう、視界を大きく保ちながら走っているのだ。


「道の端を歩いても、森の中から突然怪物じみたのが出てくるかもしれないし、真ん中を歩くほうが対処しやすいわよね……」


怯えていない自分に気づきつぶやく。


「あたし、図太くなってるわ」


髪が風で顔にかかる。視界に入ると邪魔になるわね。森に入る前に括っときゃよかった。


ポケットからヘアゴムを取り出して、肩までの短い髪をポニーテールにまとめた。


よし、本気モードよ。


「高校じゃ、体育の時間も、剣道部の練習も本気を出さず、弱いフリしてたのに、これじゃ、今のあたしを見たら、米倉先輩だけじゃなく、男子全員に引かれちゃうよね」


怒りを露わにした。


「もう!好きな人に守ってほしいのに、大倉さんを守っちゃったじゃない!全部パパのせいよ!」


心の中でつぶやき始める。


さっき、大倉さんに肩を貸したとき。汗の匂いがしたけど、嫌じゃなかった。むしろ、なんか......いい匂い……


米倉先輩は、どんな匂いがするんだろう。嗅いどきゃよかった。


って、やっぱり変態じゃない!もう烙印押されてるからいいけど!


それより、いつ戻れるんだろ。みんな、生きてるのかな。


あたしのいた世界は、隕石で崩壊なんてしてないよね。


ダメダメ!暗い気持ちじゃ戦えなくなる。


集中集中!



◇◇◇◇◇◇



ジュピターは数百メートル離れて、巨大トラのキメラをつけていた。トラも耳だけを向け気づいている様子だが、何もしてこない。


アジアゾウほどの巨体を持つトラが、巨大な恐竜を見つけた。ティラノサウルスだ。森の中で、音もなくティラノサウルスの背後に廻り、背を低くして構えている。ハンティングの姿勢だ。


それを、大きな木の後ろに隠れながらジュピターが見ている。


「大型恐竜はこいつの餌になっていたのか。どうりでここまで出会わなかったはずだ」


巨大トラが動いた。二歩目でジャンプして、恐竜の首を襲い、そのまま噛み砕いた。


動かなくなった恐竜を貪っているが、耳だけはジュピターを向いている。


「二年前以上に大きくなってる。森の王ってところか。いつの間にか、この森の食物連鎖の頂点はこいつになっていたんだな」


音もなく走り出したジュピターを耳で追うトラ。


「追ってくるんだろ!」


ジュピターは川へと向かう。


こいつを殺せば、森の王はいなくなる。竜とあたしとさくらの妖刀が在れば、戦えるはずだ。


そういえば、以前、サソリのキメラを見かけたが、森のどこかに潜んでいるのか?


数分走ったが、トラが追ってくる気配はない。


少し戻るとトラが見えた。食べ残した大型恐竜を咥えて、どこかへ歩いていく。


慎重に四百メートルほど離れて追跡する。


やがて腐臭がしてきた。


トラは食べ残すと、自分の住処の近くへ隠していたのだ。


少しずつ忍びよると、おびただしい数の、恐竜の白骨死体が転がっているのが見えた。


食料がなくなれば、村を襲い出すだろう。


小さな恐竜がいなくなるのも時間の問題だ。


寝床を突き止めた。あとは、他のキメラと大型恐竜の数だな。


川で合流し、情報を聞こう。


その場を離れようとしたとき、巨大トラの耳が動き、立ち上がった。


ジュピターの方ではなく、村のある方向を向き動かない。


やがて、ジュピターにはまだ、二頭の大型恐竜の足音は聞こえないが、しかし、確かに何かが近づいてくる気配があった。


かすかに感じるもう一つは、確かに人間だ。


「竜が恐竜に追われて、こっちに向かって来ている!!」



◇  一時間前のことである  ◇


ジュピター、さくら、大倉と別れたあと、竜は大きな獣道沿いの木に登りつつ、大型恐竜やキメラを探しながら合流地点へと向かっていた。竜は登っていた木から降り、考えることにした。


「何度か木にのぼったが、見える範囲じゃ、後方に一体、前方に一体の計二体だけだ。この程度なら討伐できるぜ。さてどうするかだな」


大きな獣道に、リボンスティックで魔法陣を描きだす。


「描くのは面倒くさいが、この魔法陣で大型恐竜を捕まえといて、最後にキメラの餌としておびき寄せて、全員で殺るのがベストだろうな」


後ろから、重いザッザッという足音が聞こえる。


「チッ、間に合わなかったか」


振り返ると、巨大な恐竜が見えた。ティラノサウルスだ。


「さて、どうするかだ。前方に走っても、前にもう一匹の巨大恐竜がいるしな」


一瞬の考察後、前方に向かって走り出した。


「待ち合わせ場所まで行けば、四人いるからなんとかなるだろう!」


数分走ると、前方にもう一匹の巨大恐竜が見えた。


「もうすぐ待ち合わせ場所の川辺のはず。一旦、森の中に入って姿を隠すか。運が良ければ、二匹で縄張り争いをしてくれる」


森の中に走り込んだが、二匹の恐竜は縄張り争いするどころか、二匹で竜を追い始めた。


「おいおい!やばい状況になっちまったぜ!」


恐竜は邪魔をする小さな木にぶつかりながら、なぎ倒して追ってくる。


後ろを見ながらつぶやく。


「あいつら、本気で走ってないな。ハンティングじゃなく、俺をおもちゃ感覚で遊びながら追ってきてるように見えるぜ」


走り続ける竜の目に微かに巨大な黄色い縞模様の生き物が映った。


逃げろ!という声が遠くの方から聞こえる。


追ってきていた恐竜が走るのを止めた。


三百メートルほど離れて、睨み合うトラと恐竜。




◇◇◇◇◇◇




森の中を有法とどん兵衛が巨大な袋を担いで歩いている。


どん兵衛に、有法が声をかける。


「次はおらが担ぐべ」


「頼むべ」


有法が荷物を背中に担ぎながら、不安な顔でつぶやく。


「おらたち、村長に会えるべか。村で待ってたほうが良かったんじゃないだべか?」


「もう遅いべ。村長を助けるって出てきたんだ、後悔するな」


「んだな。弱気はいけねぇな」


森の中にトラの吠える声と恐竜の威嚇の怒号が響き渡る。


「有法、きっと戦ってる声だべ!」


「んだ、見に行くべ!」







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