キメラ
一人の村人が走ってきた。
「村長ー! 林の家の近くの養豚場が襲われてるだ!」
それを聞いたジュピターは走り出した。竜、さくら、大倉も続く。
ジュピターは後ろの三人を振り返り、自嘲気味に笑う。
「老いたものだな……今や、普通の人間とあまり変わらぬ速度でしか走れないとは」
少しずつ離されていく三人。
「竜、ジュピターさんに置いていかれるよ!」
「元魔法少女ってのは、みんな化け物だな」
大倉が聞く。
「六十~七十歳に見えるが、彼女は何者なんだい?」
「現役の百四十歳で、能力者さ」
「百四十歳なわけないだろ!」
「……」
「ほんとなのか……」
ジュピターがたどり着くと、豚小屋は破壊され、二十メートルはありそうな巨大な蛇のキメラが、豚を飲み込もうとしていた。
ジュピターが叫び、刀が飛ぶ。
「秘剣・手乗り文鳥 くちばし!」
刀はヘビから離れた空間へ飛び、ブーメランのように戻ると縦回転になり、首を半分だけ切り裂いたまま刺さって止まってしまった。
巨大ヘビは痛みのせいだろう。咥えていた豚を落とし、暴れ狂う。
すぐに三人が駆けつけ、その光景を目の当たりにする。
ジュピターの焦る声。 「みんな、バラバラになって下がるんだ!」
大倉が銃で目を狙い、二発撃つ。
「ジュピターさん、これが俺の必殺技・二段! 一発目の弾丸が当たり、威力の落ちた弾丸を二発目が撃ち抜く!」
首に刀が刺さり、目を撃ち抜かれた巨大ヘビは、怒り狂って体を震わせた。
その様子から攻撃を察知したジュピターが叫ぶ。
「走れ!」
少し離れた場所にある飼育小屋のドアが開き、中から村人が現れた。
「村長さん、来てくださったんですね。こんなヘビ野郎、早く狩っちゃってください!」
ジュピターが叫ぶ。
「タツさん、逃げるんだ!」
「大丈夫ですよ、逃げ足は速いんで!」
ヘビが口を開け、首を振るようにして溶液を一帯にぶちまけた。
タツさんと呼ばれた村人は、「へッ?」という言葉と同時に溶液を浴び、飼育小屋ごと数秒で溶けてしまった。
ジュピターの無念の声がぽつりと響く。
「タツさん……」
巨大ヘビは大倉を睨みつけた。
ジュピターが叫ぶ。
「大倉! 逃げろ! お前が狙われてる!」
潰れていない方の眼球が細まり、溶液が水鉄砲のような勢いで噴き出し、逃げる大倉の背中を追う。
「縦!」
ジュピターの声と同時に、回転しながら飛んできた刀の鞘が溶液を弾き返した。落ちた鞘は溶けて液体になった。
「みんな下がっていてくれ。こいつは、わたしが倒す」
ジュピターは放物線を描くように刀を投げる。
「秘剣・マリオネット!」
刀は操り人形のようにヘビの周囲を舞う。
ヘビが噛みつこうとした瞬間、刀はふっと上へと跳ね上がり、槍のような速さで潰れていない目に突き刺さった。
巨大ヘビは暴れながら、溶液を吐き散らかす。 地面に落ちた溶液が、シュウシュウと音を立てる。
ジュピターはそれを避けるように走る。
「戻れ!」
目に刺さっていた刀が、糸で引かれるかのように抜け、彼女の手に戻る。
「秘剣・手乗り文鳥 くちばし!」
戻った刀を回転させて投げる。
横回転の刃が縦回転へと変わり、刺さっていない方の首を切り裂いた。
動きを止めた巨大ヘビの頭が、ぽろりと地面に落ちる。
ドンッ!
胴体が地面に横たわった。
ジュピターは、さくら、竜、大倉の方を振り返る。
「これがキメラだ」
大倉が軽口を叩く。
「この程度なら、なんとかなりますよ」
「そうだな。だが、こいつは弱い方のキメラだ」
さくらは呆然と呟いた。
「これで……弱い……」
「キメラは、また襲って来るだろう。あまり時間はない。三日後に討伐を決行する。それまでに、教えられることはすべて教える。命がけになる。ついてきてくれとは言わない」




