ラーメン
北山どん兵衛と吉村有法を先頭に廊下を歩き、大きな食堂に着いた。
四人掛けのテーブルが八卓並ぶ、広い食堂だった。
どん兵衛と有法は、厨房に近いテーブルへさくらと竜を案内する。
二人は厨房に入り、お茶をお盆にのせて竜とさくらの前に運んできた。
「村長が作ったお茶ですだ。ハーブティーっていうだよ」
「竜、ハーブティーだって。初めてだね」
ハーブティーを飲んでいると、山崎景子がトレーに昼食をのせて運んで来るのが見えた。
丼の中には、白濁したスープ、玉子、チャーシュー、麺が見える。
さくらの目に涙があふれる。
「ラーメンじゃないですか」
「あら、さくらちゃんはラーメンを知っているの?」
「はい。あたし、過去から来たのかもしれないんです」
「過去から? 興味深いわね。まずはラーメンを食べてからお話ししましょう。麺が伸びちゃうから」
さくらはズズッとすすり、涙が止まらなくなっる。
「美味しいです。美味しいです」
「ありがとう。おかわりはいくらでもあるわよ」
結局、さくらと竜は三杯もおかわりをした。
「美味しかったです。こんなに美味しいもの、この世界に来て初めて食べました」
「嬉しいわ。さくらちゃんが『過去から来たかもしれない』って、どういうことかしら」
さくらは、これまでの出来事を話し始めた。
「それでマーキュリーを探しているのね。私も、彼女なら何かを知っていると思うわ。噂でしか知らないけれど、マーキュリーは隕石後の世界に影響を及ぼしている可能性があると思うの」
入口の方から声がした。
「賞金稼ぎさんが到着しただよ」
北山どん兵衛や吉村有法とは違う、スカウト組が到着したようだった。
村人二人を先頭に、一人の賞金稼ぎが食堂に入ってきた。
「村長、すまねぇだ。一人しか来てくれなかっただ」
竜とさくらは、賞金稼ぎの顔を見て驚いた。
さくらは小さな声でつぶやいた。
「大倉……さん……」
大倉も二人を見て声を上げた。
「竜、さくらさん!」
竜は眉間にしわを寄せる。
「なんで俺だけ呼び捨てなんだ」
大倉は無視した。
山崎景子は立ち上がり、にこやかに大倉を迎える。
「大倉ちゃんっていうのね。竜ちゃんとさくらちゃんの知り合いなんて、都合がいいわ。私たちにできることは、お腹いっぱい美味しいものを食べてもらうことだけなの。それでもかまわない?」
「ええ、かまいません」
「それじゃあ、ご飯を作ってくるわね」
大倉は、初めて見るラーメンの見た目と香りに感動した。
「初めて嗅ぐ香りだが、すごく美味しそうだ」
あっという間に一杯目を平らげた。
三杯目を食べ終えた頃、山崎景子が話し始めた。
「この村は昔、少し離れた場所にあったの。旅をしていた私は、泊めてもらったお礼に何かご馳走を作ろうと思って、食材探しに森へ入ったの。そこで、絶滅したと思っていた野生化した鶏を見つけたのよ。野生の豚や牛もいたわ。飛び上がるほど嬉しかったの」
さくらはこの世界に納得した。
「鶏や豚、牛が絶滅していたなんて知らなかったわ。どうりで、爬虫類や恐竜の肉ばかり売られていると思ったのよね」
それに応えるように、山崎景子は続きを語った。
「それで、捕まえた鶏や豚、牛を村に持ち帰って、増やすことを提案したの。何度も森に入って捕まえ、村へ連れてきたわ。キメラを見かけたこともあったけれど、見つからなければいいし、一匹くらいならすぐに仕留められると思ってね」
北山どん兵衛は悔しそうに言った。
「オラたちは村長に教えてもらいながら動物たちを育て、自分たちの食い物も分け与えて、十年以上かけて増やしてきただよ。鶏は何百羽にも増えて、やっと近隣の村に肉と卵を売れるようになっただ」
悔し涙を流しながら、どん兵衛は続けた。
「それをキメラが食いに来るようになっただ!」
隣にいた吉村有法の声も沈んでいる。
「今じゃ、鶏は十羽も残ってねぇ。豚も牛も、四匹ずつしかいなくなっただ」
山崎景子は明るく二人を励ました。
「大丈夫よ。キメラがいなくなれば、またみんなで森に入って、野生の鶏や豚、牛を捕まえて育てればいいわ」
さくらは不思議そうに尋ねた。
「この建物はどうしたんですか? 昔の建物みたいですけど」
「すごくラッキーだったのよ。ここは温泉宿だったみたいで、みんなでリノベーションして、他の村や町の人たちが来てくつろげる場所にしたの。素敵でしょ?」
山崎景子は、誇らしげな笑顔で言った。
「食事を楽しんだり、温泉でゆっくりしたりできる、安心して過ごせる場所を提供するのが、今の私の夢なの」
感情が突然さくらを立ち上がらせた。
「この世界に温泉とレストランなんて、素敵すぎます! きっとみんな喜びますよ!」
「安心して楽しんでもらうには、この周辺のキメラを一掃しないといけないの。最高の食事しか提供できないけれど、手伝ってくれる?」
「師匠の友達なんですから、もちろん手伝いますよ」
「私も手伝います」
大倉も続いた。
「みんなが安心して楽しめる場所を作ることに大賛成だ。僕も手伝うよ」




