ジュピター 山崎景子
「竜、あの親子、仲直りできたらいいね」
馬小屋から出てきた馬に、さくらと竜が跨った。
「俺には親がいねぇから、よくわかんねぇが、どっかで繋がってるから親子なんだろ。なんとかなるさ」
町の出口に向かって、二人の馬が歩いていく。
「成山の麓の村って、どんなとこだろうね」
「わかんねぇ。山の麓って森が多いから危険なんだぜ。何が潜んでるかわかんねぇからな。恐竜よりやばい奴がいるかもしれねぇから、俺は近づかないようにしてるぜ」
「じゃあ、何でそんなところに村を作ったんだろうね」
「誰も入らねぇから、森にはいろいろなものが豊富にある。たぶん、一番の理由は水だな。山が濾過してくれるから、きっと綺麗な水だぜ」
町をちょうど後にしたところで、二人の男たちがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
一人は小太りで背が低く、もう一人は痩せていて背が高い。
男たちは、竜とさくらを見つけて走り出した。
「竜、こっちに向かって走ってくるよ」
「嫌な予感しかしねぇ。無視してろ」
男たちが、さくらと竜の前に立ち塞がった。革のズボンとジャケットを着ているが、何日も歩いていたのか薄汚れている。
竜を見つめて、小太りの男が話しかけてきた。
「あんた、その帽子……賞金稼ぎの……リボンの……えーと、リボンの……」
背の高い男がすかさずその男の頭を叩いた。
「バカ! 変態ウィザードさんだ!」
さくらが真顔で竜の方を向いて、
「竜、呼んでるよ」
「さくら、俺の名前はリボンの竜だ!」
小太りの男が、
「そうだ! リボンの竜さんだ!」
竜は顔を決めて、
「俺がリボンの竜だが、何か用があるのか」
背の高い男が、
「すいません、魔女の帽子を被っているので、賞金稼ぎの変態ウィザードさんと間違えました」
さくらがニコッと笑って、
「合ってますよ。彼はリボンの竜。通り名は変態ウィザード!」
竜は怒っていた。
「さ、く、ら。誰が変態ウィザードだ!」
さくらは笑顔のままで、
「ごめんね、竜。実は、初めて会った森の横酒場のこと覚えてる? バーテンダーが、竜のことをこっそり変態ウィザードって呼んでたの。それで、竜の通り名を前から知ってたのよ」
竜は愕然とした。
「俺は何百回とリボンの竜と名乗っていたのに、いつの間にか変態ウィザードが通り名になっていたのか……」
さくらは優しい声で、
「竜、大丈夫。気にすることはないわよ。有名税だと思えばいいじゃない。ギャングだって恐れるぐらいなんだから」
竜は腕を震わせた。
「俺はいつか、記憶操作の魔法を覚えて、変態ウィザードという通り名を消してやる」
笑顔でさくらが、
「その時は、私の恥ずかしい記憶も一緒に消してね。よろしく」
背の高い男が尋ねた。
「もう、話してもいいだか?」
さくらは馬を降りて、手を揉みながら、
「仕事の話ですよね。こちらで承っております」
「さくら! お前、キャラが変わってるじゃねぇか!」
馬に乗っている竜の方を見た。
「あんたに早く借金を返したいのよ。黙っててよ!」
前にいる二人に、
「どんなご相談ですか?」
背の高い男が、
「おら、北山どん兵衛といいます」
隣の小太りの男を見て、
「こいつは吉村有法」
さくらは聞いたことがあると思った。
(どん兵衛とユウホウ……)
北山が話し始めた。
「おらたちは、成山の麓の村、縫度留村から来ただ。長老がキメラを退治するために、六人の賞金稼ぎが必要だっていうんで探してるだ」
さくらは思った。
(映画や漫画でよくある展開!)
「北山さん、なぜ六人なの? 普通七人でしょ」
「一人はもういるだよ。村長だ。ばあさんだが強えーんだ!」
竜とさくらは顔を見合わせた。
「おめーさん方は、キメラ退治を手伝ってくれるだか?」
竜は交渉を始めた。
「俺たちゃ賞金稼ぎだ。金額次第だな」
吉村有法が肩をすぼめて、すまなそうに、
「村で飼育していた動物の多くが、キメラに食われちまっただ。今のおら達に払えるのは、腹いっぱい食べてもらうことしかできねぇだ」
北山が話を継いだ。
「だども、トカゲや恐竜の肉ではなくて、おめたちの知らない、豚や牛、ニワトリの肉を食べさせるだよ」
吉村有法はよだれが垂れそうな口元を拭った。
「おめーら知ってっか、牛肉のたたきチーズソース掛け。こんなの、他じゃ食えねぇんだよ。長老はよ、うめぇーのをよく知ってて、作ってくれるだよ」
竜がさくらの顔を見ると、上気して、よだれが垂れそうになっていた。
「竜、長老に会いに行くわよ」
「それを言うなら、うまいの食べに行こう、だろ」
竜が北山に聞いた。
「今、何人集まってるんだ」
「おらたちは、おめえさんたち二人だけだども、他の奴らも探してるから、きっと六人集まると思うべ」
「竜、二人を馬に乗せて村に向かいましょう。白王と赤王を走らせれば、一日もかからないわよ」
四人を乗せた二頭の馬が荒野を走っていく。そして、森がある山の麓へと続く道へ入っていった。
着いたところは、立派な宿だった。前には大きな馬小屋と、馬車を止められる広場がある。辺りには、うっすらと硫黄の匂いが漂っていた。
どん兵衛が宿に入っていった。
「村長ー! 賞金稼ぎさんたちを連れてきただ!」
ベルトに刀を差した、ジャージ姿の凛とした初老の女性が現れた。
彼女は二人を見て驚いた。
いきなり竜に向かって走り出し、刀を抜いて上段から斬りかかった。
リボンスティックを取り出した竜は左に回り込んだが、村長は刀を横に薙ぎ払った。その刀をリボンスティックで受け、後ろへ飛んだ。空中でリボンを彼女の心臓を狙って走らせたが、そのリボンを村長は弾いた。
村長はニッコリ笑って、刀を鞘に戻した。
「よっちゃんの身内なのね!」
竜とさくらは顔を見合わせた。
「その変な帽子とリボンスティック。よっちゃんの身内でしょ。彼女、魔女っ子が好きだったのよね。戦闘のとき、いつもその帽子を被ってたわ」
竜は困ったような表情で村長に、
「よっちゃんって人は知りませんよ」
村長はニコニコしながら、懐かしそうに、
「鈴木美子よ」
竜とさくらは、まったくわからなかった。
「もしかして、師匠の知り合いのマーキュリーさんですか?」
村長は両手を叩いて合点がいった。
「あー! 魔法少女時代の呼び名ね。じゃあ、マーズよ。あなた、マーズの身内なのね」
「あの、師匠の名前って、鈴木美子なんですか」
「あら、知らなかったの。あの子はクールな魔女を気取ってたから、鈴木美子って平凡な名前を教えたくなかったのね」
竜は何も言わなかった。
村長は嬉しそうに続けた。
「よっちゃん、生きててよかった。隕石にあたった後、いくつかの能力が使えなくなって、誰とも繋がれなかったの。もっと、よっちゃんの話を聞きたいわ」
我に返った様子の村長。
「ごめんなさい、嬉しすぎて名前も聞かずに斬りかかっちゃって。お名前は?」
「竜です。マーズ師匠の弟子です」
「田中さくらです」
「竜ちゃんは、苗字はなんていうの?」
「吉村です」
「そう、それじゃよっちゃんの弟子なんだから、苗字をもらって、鈴木竜にしたらいいわよ」
「え!……やっぱり吉村の名前は捨てられません」
「そう。吉村竜ちゃんね。あたしはマーキュリーじゃないわ。あたしはジュピター。山崎景子よ」
村人二人に、山崎景子が声をかけた。
「どん兵衛、有法。二人を食堂にお連れして、お茶を出してね。あたしは昼食を作ってくるから」
そう言うと、山崎景子は宿の方へと歩いていった。
竜とさくらは、ジュピターの後ろ姿を見つめながら、
「ねぇ竜、マーズさんって魔女っ子趣味だったんだね」
「……」
「ねぇ竜、ジュピターさん、竜の帽子のこと変な帽子って言ってたわね。魔女っ子の帽子とも言ってたわよ」
「……」
「それに、魔法少女って聞こえは可愛いけど、突然リボンを放ったり、刀で斬りかかったり、武闘派揃いよね」
納得したように、
「それは、俺も思う」




