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異世界じゃなかった。前編

竜の師匠である、元魔法少女のマーズの住む森が、見えてきた。

白王に乗ってるのが魔女の帽子の賞金稼ぎ、リボンの竜。そうね、格好はなかやまって芸人さんみたい。

隣の馬、赤王に乗っているのがあたし、田中さくら。格好は...恥ずかしすぎる。高校の制服の上に、世紀末漫画のような、防弾胸甲と防弾肩パットを着けてるなんて。

でも、以前撃たれたとき、しっかり銃弾から守ってくれたわ。


竜が馬から降りた。疲れた様子はない。

「やっとたどり着いたぜ」

さくらも馬から降りた。

「二週間もかかったわね」

「さくら、手綱は木に括り付けるんだ」

二人は馬の手綱を木に括り付け、鳥や動物の鳴き声が聞こえる森の中へと入って行った。

木々は茂っているのに、手入れをされているのか、草は一定の高さまでしか伸びていない。

「さくら、ここから先は結界が張ってある。俺のすぐ後ろをついて来いよ。迷子になっちまうぞ」

「迷子になんかなるの?」

「ババアが施した結界だぜ。引っかかって、どこかに連れていかれたら、わからなくなる」

竜がリボンスティックを草が茂る地面にあてると、さくらは辺りの空気がふっと軽くなったように感じた。

何事もなかったように、竜は歩きだした。まっすぐに進み、またリボンスティックを地面にあてた。

三度目にリボンスティックを地面にあてようとしたとき、向こうから、竜と同じ魔女の帽子をかぶった女性が歩いてくるのが見えた。

「竜、久しぶりね」

「師匠、お元気でしたか?」

「三年ぶりかしら。連絡もよこさないで」

「師匠、結界を張ってるんですから、郵便も配達できないですよ」

「そうね。森の入り口に郵便受けを立てようかしらね」

「師匠は人と関わり合いになりたくないから、森に住んでるんでしょ?郵便受けを作ったら、意味がないじゃないですか?」

「それもそうね」

「ボケないでくださいよ」

突然、竜の心臓めがけて矢のようにリボンが襲ってきた。

それを竜がリボンスティックで弾いた。

マーズは笑顔のまま殺気を放ち、空気が揺れる。

「竜、ボケてるか試してみますか?」

竜は頭を掻きながら苦笑いした。

「嫌だな、冗談ですよ」

さくらは驚いていた。

(怖い人だわ。殺す気でリボンを竜に放ってきた)

「竜、そちらのお嬢さんを紹介してくれないかしら?」

「彼女はさくらです。彼女が師匠に会って話がしたいというので連れてきました。聞いてあげてください」

さくらはお辞儀をして、自己紹介した。

「田中さくらです。よろしくお願いします」

マーズは、さくらにニコッと笑った。

「よろしくね」

マーズの視線が、さくらの帯びている妖刀へと移った。

「その刀、凄い力ね。どんな能力があるの?」

「どう言えばいいか…死にたくないと思うと、助けてくれるようなんです」

「そうなの。よくわからないから、後で詳しく聞かせて。家に案内するわね」

マーズの後ろを、二人がついて行く。

竜はさくらの耳元で、ごく小さな声で、

「あれで百四十歳近いんだぜ。魔法少女時代はクールで戦闘が得意だったらしい。笑いながら仕掛けてくるババアだから、気をつけろよ」

「ホホホ、竜、まだ耳は悪くなっていないのよ」

竜は一瞬固まった。

森の中にぽつんとあるロッジのような家が見えてきた。ベランダには、ロッキングチェアが置いてある。

マーズはドアを開け、二人を家の中へと案内した。

年輪の見える分厚いテーブルを挟んで、さくらが座っている。

竜は台所へ向かった。

「師匠、お茶を入れてきます」

「そうね。ありがとう」

「さくらちゃんは何を聞きたいの」

「あたしは日本の東京から来ました。ここはどこなのでしょうか?」

「東京...?」

「はい」

「そういえば、防具の下は制服のようね。懐かしいわ」

「懐かしい...?」

「私はね、この世界ができる前から生きてるの。授かった特別な力で長生きしてるのよ」

マーズは台所に向かって、呼びかけた。

「竜、やっぱり出かけることにします」

「さくらちゃん、見せたいものがあるからついてきて」

森の中を歩きながら、竜が小声で、

「森の奥に行ってはいけないと言われてたから、俺も何があるか知らないんだ」

「ここよ」

木々が生い茂る森の中に、蔓が巻き付き、苔や草の生えた大きな何かがそこら中にあった。

マーズがリボンスティックをムチのように振って、リボンで絡みついたツルを切り裂いていく。

ボロボロに赤く錆びた何かが徐々に見えてきた。

それを見たさくらは、驚き目を見開いた。

「展望台...見たことあるわ...東京タワー?」

折れて、酷いサビで朽ち果てた東京タワーの一部がそこに現れたのだ。

周りをよく見ると、草が生え、ツルが巻き付いているが、ビルの残骸のようなものがあちらこちらにある。

少しパニックになったさくらは、震える声で、恐る恐る尋ねた。

「マーズさん、ここは東京なの?」

「私の知っている東京よ。でも、さくらちゃんがいた東京かは、私には分からないわ。世界線が違うかもしれない」

両手を握りしめたさくらは、感情が制御できなくなり、大きな声で、

「でも、ここへ来る前に、炎が空に!爆発音も聞きました!」

「さくらちゃんは、パラレルワールドや世界線って聞いたことがある?」

「ないです...」

「簡単にいえば、パラレルワールドは、並行世界のもう一つの地球。世界線は、違う時間のもう一つの世界ってことよ。もしも、あのとき一時間早く起きてればこうなってた、と思うのがもう一つの世界。だから、まだわからないわね」

異世界だと思っていたさくらにとって、東京タワーの光景は、自分を制御できないほどのショックだった。

「さくらちゃん、落ち込まないで。まだ伝えたいことがあるの。家に戻りましょう」

さくらの肩をマーズが抱いて森の中を一緒に歩きはじめた。

家に戻り、テーブルに座った。

「師匠、今度こそお茶を入れてきますよ」

「ありがとう」

「さくらちゃん、落ち込まないで。話の続きを聞いてもらえる」

竜が台所から戻ってきた。

「竜も一緒に聞いて頂戴。私が聞いた話も含めて、百二十年前からのお話をしましょう」

マーズは二人の後ろに視線を移し、遠くを見つめるように話し始めた。

「ある時、小惑星としては超大型のものを発見したことから始まったわ。各国が秘密裏に計算をした結果、地球に衝突することがわかったの。でもね、どの国も発表しなかったのよ」

さくらが不思議そうに尋ねた。

「なぜ発表しなかったのですか?自宅にシェルターを持ってる人もいたんでしょ」

「そうね。でも、パニックになるのも確実だわ。そうなれば、政府高官たちだけで、秘密の地下シェルターに家族と一緒に避難することが、難しくなるわ」

竜が冷静な声で、

「今の政府を動かしてる連中は、そいつらの子孫なんですね」

視線を竜に移して、

「そうよ。うまく立ち回ることを幼いことから教育されたエリートたちよ」

マーズの言葉から、彼女が嫌っていることは、さくらにもわかった。

「話を続けるわね。世界中の天文学者が集まって、シミュレーションしたのだけれど、核爆弾を使って、大きな爆発を惑星上で起こせば、軌道を変えられることがわかったのよ。ただ、大量の隕石が地球に降ることは避けられなかったわ」

さくらは納得したように、

「あたしが見た火の玉は、その隕石だったのね」

「そうだと思うわ。世界中の政府は、こう考えたの。小惑星が激突して、地球の半分が消し飛ぶよりは、地球を残す方が被害は少ないと。この計画を先頭に立って実行したのが、大国アメリスなの。アメリスは核弾頭を載せたシャトルを小惑星へ飛ばしたわ」

さくらは心配そうに尋ねた。

「それじゃ、小惑星の軌道は変わったのですね」

「そうよ。聞いた話では、核ミサイルは、小惑星の軌道を変えたわ。でもシミュレーションどおり、小惑星の半分が砕け散ってしまったのよ。放射能に汚染された小惑星の破片は、大型の隕石となって、地球に接近して来たわ」

マーズはテーブルの斜め後ろにあるチェストに視線を移した。そこには、魔法少女時代の写真が飾ってあった。

「大きな隕石を砕いて被害を最小限に抑えようと試みたのが、あの写真に写っている、私達、魔法少女五人よ」

マーズが遠い記憶を思い出すように目を瞑った。






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