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さくら 変態ウィザードと出会う

無数の隕石が地球へ降り注ごうとしていた。五人の高校生である魔法少女たちは、これを食い止めるため酸素ボンベを背負って宇宙へ飛び立った。


だが、無限に向かってくる隕石は、彼女たちの体力と酸素を奪っていく。


動きが鈍くなった彼女たちに隕石が衝突し、力尽きて一人ずつ落ちていった。


やがて巨大隕石が、燃えながら地上めがけて飛んでいった。



ー 同じ時刻。東京 ー



さくらは家宝の妖刀《田中家》を抱え、日本刀マニアで剣道部の先輩・米倉の家へ向かって走っていた。彼はさくらの初恋の相手だ。


「やっと二人きりになれる。妄想が爆発しちゃうよ!」


胸の高鳴りを抑えきれないまま角を曲がった、そのときだった。


シューゥーという異様な音を感じ空を見上げると、徐々に何かが大きくなって向かってくる。


「何よあれ、火の玉?」


思わず立ち止まり、空を眺めてしまう。見る間に大きさを増していく。


周囲を見渡す。人影のないビルの裏道だ。


「こっちに落ちてくる!? い、隕石なの!! やばいよ!!」


裏道の先の大通りに、「工事中」と書かれた囲い付きのマンホールを見つけた。


「あそこしかないわよね!」


さくらは走り込み、ためらいなく囲いを飛び超えた。そこには作業員もガードマンもいない。


「みんな逃げちゃったのね。もう! どうなってるのよ!」


必死にマンホールの手すりを掴んで下へ降りていく。


ドォゴオオオンー!!


ビルが吹き飛び、隕石が地面に衝突した衝撃で、マンホール全体が大きく震える。


次の瞬間、手が外れた。


「あ――!」


反射的に手を伸ばすが、空をつかむだけだった。


「キャー! センパーイ!」


闇の中へ、体が落ちていく。


その時、妖刀田中家は光っていた。



さくらは、9歳の自分が死を感じながら、真冬の雪山の吹雪の中を歩いている夢を見ていた。ただ思うことは、怖い怖い怖い。


毎冬、剣術狂いの父に連れられ、知らない山に一人で置き去りにされて、そこから麓まで下山するのだ。


父親の声が頭の中で響く。


「田中家流当主は、どんな状況でも恐怖心に負けず、冷静に判断をして生き残る術を磨かなければならない。そのための修行だ」


「バカげたこと言わないで!」


さくらは叫びながら目を覚ました。自分自身を確認すると、高校の制服を着たままだった。体を確認する。


「クラクラするけど、骨は折れてないようね。まるでグルグルと回されたみたい。あー、気分が悪い」


辺りを見回すと、木々が茂っている森の中だ。


「えーと、隕石が落ちて……森……どうなってるの? どこなのよここ。早く先輩の家に行かなきゃ」


また、父親の声が聞こえた。


「焦るな! わからなくなったときは冷静に状況を整理しろ!」


誰もいないのに声が出る。


「もう! わかってるわよ!」


まずは落ち着いて状況の整理を。それから人を探すの。


立ち上がった。


「あちこち痛いわ。打ち身はあるけど、この程度、修行と比べれば大したことないわよ。でも、痣が残ったらやだな」


妖刀田中家を両手で抱えながら歩き始めた。


「ふらつくわね。でも、この刀を抱いているのは心強いわ」


ふと、頭をよぎった。


こんなときでも冷静に判断ができるのは、修行のおかげよね。


頭を振り、


「あー!! なに感謝してるの! あんな剣術バカのパパなんか嫌いだし、一生喋らない」


父の顔が脳裏に浮かぶと、ふくれっ面になり、ブツブツと呟きだした。


「何でわたしが十九代目の田中家流当主よ。田中家流が実戦で負けることは許されないって、バカの上に超が付くわよ。今は二十一世紀よ。パパは西暦何年か数えられないのよ」


ぶつくさ歩いていると、危険だという直感が頭を貫き、後ろを振り返った。


全長十メートルほどありそうなオオトカゲがさくらを見ている。


「何よあれ……逃げなきゃ!」


走り出したさくらをオオトカゲが追ってくる。


「だめ! クラクラして全力で走れない!」


オオトカゲが数メートルまで追いつく。


焦るあまり足がもつれ、転倒してしまった。


「あ!」


素早く立ち上がり、オオトカゲの方を向き、竹刀袋から刀を抜いた。


青眼に構えたが、2メートル前にいるオオトカゲが口を開けてさくらを襲ってくる。


死という文字がさくらの頭の中に浮かんだ。


《死にたくない! センパイに会いたい!》


突如何かが空中に現れ、オオトカゲの中に入っていった途端、口を開いたまま動かなくなった。


これって、幼いときと同じように、何かが浮かんでオオトカゲの中に入っていったからだわ。


今のうちに逃げないと、と一瞬考えたが。


「追いかけられると面倒だしね」


オオトカゲの開いている口から、頭に向かって刀を突き刺した。


十五分ほど走ると、森を抜けて建物が見えたが、現実感のない光景に目を疑い立ち止まった。


「どこなの? 西部劇のセット? 映画の撮影場所?」


これって夢……なの? ラノベでよくある異世界。まさかケモノ耳の連中が酒場で飲んでるとか?


いやいや、ないない。絶対にありえないわ。ここがどこか聞かないと。


そう思い、近くにある酒場に向かって歩き出した。スイングドアを開け店内に入っていく。


右と左で雰囲気が全く違う。右側は賑やかで、拳銃を腰にぶら下げたガンマンのような格好をしている人たちが、酒を片手に皆喋っている。


左側は、異様な格好の男が、テーブルに一人で座り、静かに酒を飲んでいる。


鍛え上げられた筋肉。魔女の帽子を被り、ピチピチの白い半袖シャツと短パン。足元は革のロングブーツ。


カウンターに歩いて行き、その男の横を通り過ぎた。


彼をちらりと見て、さくらは思った。


あの人の格好、なかやまって芸人さんみたい。二十五、六歳かしら?


バーテンダーにさくらは尋ねた。


「あの、少しお伺いしますが、ここはどこなのでしょうか?」


客じゃないとわかると、バーテンダーは無愛想に答えた。


「ここは、森の横という酒場だよ」


「何県の何市ですか?」


「なんだいそれは?」


え? なぜ通じないの。


何をどう言っていいかわからず、言葉に詰まった。


バーテンダーが、例の男を目で合図する。さくらにだけ聞こえるよう声を潜めた。


「あの男には関わるなよ。魔女の帽子をかぶった変態ウィザードだからな。魔法使いらしいが、男の癖に可愛い紐みたいなのを使って魔法を出すらしい」


さくらはそっと男を見た。


あの人強いわね。でも、みんなから変態ウィザードって呼ばれてるの知ってるのかしら?


バーテンダーと要領を得ないやりとりを続けていると、酒場のドアが乱暴に開いた。


三人組の男が入ってくる。


魔女の帽子の男を見つけて、横に立った。


「あんた、噂の賞金稼ぎだよな。男のくせに魔女の帽子をかぶってんじゃねーよ! お前は女か?」


男は無視して酒を飲んでいる。


バーテンダーが叫んだ。


「そのひとにかまわないでください!!」


横に立った男が魔女の帽子に手をかけようとしたとき、酒場の空気が凍りついた。


どこからともなく現れたリボンが、生き物のように男の腕に絡みつき、へし折った。


「ぎゃああああ!」


マッチョの手には、新体操で使うリボンスティックが握られていた。


立ち上がると、酒場にいる全員を睨み、喧嘩を売るように叫んだ。


「帽子に触ろうとするやつは、覚悟してかかってこい!」


残りの二人が銃を抜こうとしたが、気がつくと、二人とも腕がありえない方向に曲がっていた。


男はカウンターに歩いて行き、お金を置く。


「すまない。酒代だ」


そう言って男は去っていったが、酒場からの悲鳴は続いている。


新体操のリボンスティックを見たさくらが、飛びだすように男を追った。


あの人に聞けば何かわかるかもしれない。


町の大きな通りには、左右に木造の店が建っている。風が吹けば土埃が立つだろう。向こうに見える景色は、ただ荒野が広がっている。


男の背中に向かって、声をかけた。


「ちょっと待ってください!」


男は振り向く。


「それ、新体操で使うリボンスティックでしょ。どこで手に入れたんですか?」


「それを聞いて、どうする」


「売ってる場所を教えてください。道に迷ってしまって……」


「新体操? 知らねぇな」


男は人差し指で頬を掻きながら、


「どっから来たんだい」


「東京です。ここはどこなのですか?」


「そんな地名は知らねぇ。帰りな」


「帰りたいのよ。ここがどこか教えてください」


「俺の名はリボンの竜。竜と呼びな」


会話が噛み合わないことにイラっときて、タメ口で聞いた。


「ここはどこですかって聞いてるのよ!」


手で口を抑えた。


「あっ!ミチコに短気って怒られちゃう!」


そこへ、先ほどの三人組の仲間たちがやってきた。今度は四人だ。


「この変態野郎! 仇を取らせてもらうぜ」


それを見ていたさくらは竹刀袋から妖刀田中家を取り出し、その袋を腰に巻いて帯のようにすると、そこに刀を差した。


ごめんミチコ!ものすごくイライラっときたわ。こっちは米倉先輩を待たせているのよ。


「安っぽいセリフを言うあんたたち! あたしが彼に、ここがどこかって聞いてる最中よ。順番ってものがあるでしょ、順番ってものが。あたしの話が終わったら、あなたたちの番よ。わかった?」


仲間の一人が大声を出した。


「何だテメェ!」


上を向いて頭を掻きながら、諦めたような口調で、


「あー! 面倒くさい! あたしは急いでるの。順番守れないならかかってきなさいよ」


四人は下卑た笑いをしながら、近づいてきた。


リーダーであろう男が腐った匂いがするような笑顔で仲間に指示をする。


「この女、高く売れそうだ。先にこいつを捕まえようぜ。仇はその後だ」


さくらは顔をしかめて、嫌悪感をあらわにした。


「その品性のかけらもない顔。気持ち悪いわね!」


男たち四人に囲まれた。


男の手が伸びてきた。


瞬間《抜刀一閃》


妖刀田中家を居合のように抜き、刃を返して正面の男の右脇腹に食い込ませた。


左の男は肩を上段から切るようにして鎖骨を折った。


後ろから襲ってきたが、軽々と避けると同時に左脇腹に入れた。


残りの一人が拳銃を抜こうとするが、それよりも早く手首を打って折った。


男たちは倒れて呻いている。まるで舞うかのような、一瞬の出来事だった。


「峰打ちよ。あなたたちみたいなのは、殺されたって文句言えないんだから感謝してよね」


刀を鞘に収めると、竜の方を向き直った。


「竜って言ったっけ。ここはどこなのよ。わたしには時間がないの」


「いい腕だ。気に入ったよ。名前は?」


「田中さくらよ」


「飯、食ったか? 俺はこの先に泊まってる。さくらの言ってることはよくわからんが、飯でも食いながら話を聞いてやる」


悪い人ではなさそうだわね。でも、なめられたら何をされるかわからないわ。


右手で肩までの髪をなびかせ、左手は腰に手をあてて、上から目線で言ってやった。


「ここがどこか教えてくれるのなら、食事くらいは付き合ってあげてもいいわよ」


竜は腹を抱えて笑いだした。


「ブハッハッハッ」


皺くちゃになった笑顔で話を続ける。


「ヒィー! おもしれえな。もっと年上で色気のある美人がやる仕草だぜ。幼児体形の子供がやると、コメディにしかならねぇ」


笑いが一息つくと、


「まあいい、ついて来いよ。奢ってやる」


さくらの顔は真っ赤になった。


心の中で、ミチコに愚痴る。


教えてもらった、男を従わせる仕草が通じなかったじゃないの!



高級感のあるレストランだわ。上がホテルになってるって言ってたわね。


テーブルを挟み、食事をしながら、さくらは話を始めた。


「それでね、マンホールに落ちたみたいなんだけど、気がついたら森の中にいて、歩いていたらオオトカゲが出てきて食べられそうになったのよ」


竜は料理に目を落としながら黙って聞いていたが、さくらの顔を見た。


「森の中には凶暴な生き物がうろついてる。出会わなくて運がよかったな。マンホールだっけ? 説明されても意味がわからない。この世界にはそんなのないぜ」


マンホールも知らないし、魔法使い? わたしは違う世界に来てしまったの? そんなの信じられないわ。


「それじゃ、リボンスティックは、どこで買ったの?」


「スティックとこの帽子は、師匠がくれたのさ。師匠と俺以外は使えないから、どこにも売ってないと思うぜ。師匠に聞けばどこで手に入れたのか教えてくれるかもしれねぇがな」


さくらは身を乗り出した。


「竜の師匠に会わせてよ」


「そりゃいいが、遠いぜ」


「かまわないわ。元の世界に帰りたいのよ。待ってる人がいるのよ。早く帰んないと、口も聞いてもらえなくなっちゃうよ」


「わかった。こうしよう。さくらが俺の賞金稼ぎを手伝うなら、師匠のところまで一緒に行ってやるよ」


「それでいいわ。ところで、竜の師匠はどんな人なの?」


「師匠は恐ろしく強ぇー、元魔法少女のマーズってんだ」


「魔法少女!」


「元魔法少女さ。大体130歳ぐらいだから少女じゃねぇ」


「へぇー、魔法少女のいる世界なんだ。竜が真夏のような格好をしているのはなぜなの。戦いやすいから?」 


竜が面倒くさそうに答えた。


「冬が嫌いなんだよ。冬になると寒くてテンションが落ちるから、冬でも夏のテンションでいるために夏の格好をしてるんだ」


さくらは口に出さなかったが、竜の体型からこう思っていた。


体脂肪率が低いから、冬は極端に寒いんじゃないの。それを乗り越えるために夏服を着てるって、パパが言ってた昭和の精神論だよね。やっぱりこの人は、いろいろな意味で変態だわ。


「竜、それより、このお肉、すっごく美味しいわね。何の肉なの?」


「メニューには、大イグアナって書いてあったな。さくらが出会ったオオトカゲさ」


ブッと吹き出しそうになった。


竜は人差し指で帽子を少し上げて、


「オーケー、明日出発だ」





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