怪しい二人組
今年もよろしくお願いします。
「ご機嫌だな」
足取り軽く鼻歌を口ずさむダンデライオンに声をかけると、喜色の浮かんだ双眸がベイリーを見下ろした。
「ああ。事態は芳しくないが、ベイリーとこうして旅をするのは二回目だと思うと、浮足立ってな」
前回の旅――スカルリブからローズガーデンへの道のり――では、拒絶するベイリーにダンデライオンが無理やりついていった形だったため、会話らしい会話は皆無だった。
やり取りといえば、ダンデライオンがひたすら話し、それを煩わしく思ったタイミングでベイリーが呻くか唸るかくらいだった。
「ところで、なんで突然水が枯れたんだ?」
遠くを見つめ思い出に浸るダンデライオンの様子に苦笑しつつ、ベイリーは現在に話を戻す。
「街の人は、魔女だとか言っていたが」
「魔女ぉ? やつらは、国に首輪されてるから、そういう勝手はできないだろう? と、言いたいところだが」
ニヤニヤと浮ついていた表情を引き締め、ダンデライオンは軽く頭を傾けて街を振り返る。
「水が枯れる直前、旅人風の二人組が目撃されてる」
情報を集めるため、街の中心へ向かったダンデライオンは、事態を受けて今後の相談をする商人達の輪に加わった。情報通の商人から怪しげな二人組の話が持ち上がり、住人の間で広まっている魔女、または黒魔女の噂について触れられた。
「女の二人組だったが、一人はまだ成人にならない子どもだったそうだ」
「母娘連れってことか?」
「分からない。ただ聞く話によれば、母子ほど歳は離れてなさそうだな」
二人組が目撃されてしばらくしないうちに、井戸から水をくみ上げていた機械が異常を通知し、作業員が確認すると、地下水脈が干上がっていることが判明した。
街には家庭用の小さなものも含め十三個の井戸が存在していたが、そのすべてから水が湧かなくなってしまったという。
「技術屋たちが悲鳴をあげてたぜ」
「で、怪しいのはただ通りかかっただけの二人組なのか?」
毎晩のように襲い来る砂嵐や昼夜を問わない乾いた強風など、砂漠化の影響こそ受けているが、ローズガーデンは水源が安定した街だ。それを強みに沿岸部から商人を呼び、大量の物資を持ち込むことで旅の経由地として確立されていた。砂漠の中の貴重な街であることから、立ち寄る旅人は大勢いる。とくに、砂漠都市デエダラを目的地にしていれば必ず通る場所でもある。謎の二人組がただの通りすがりである可能性が大きいにもかかわらず、どうして噂の中心へ躍り出たのか。ベイリーの妥当な疑問に、ダンデライオンは歩を急かすようにベイリーの背を押した。
「その二人組、人を探してたそうだ」
「それって」
ベイリーが口をはさむ前に、ダンデライオンは「金髪蒼眼の少年だそうだ」声を風に乗せないよう、言葉を呑み込むように囁いた。
「で、目的の人物がいないと知ると、成人してる方の女が言ったそうだ。『ここの水は嫌な臭いがする』ってな」
そして、女は苛立ちを隠さずに何度も「臭い、臭い」と繰り返し、鼻をつまんでその場を立ち去った。
「実際に相手したヤツによれば、そいつはまるで女神のように見た目麗しい奴で、もう一人の少女は大人しそうな、静かな子どもだったって。あとは、目の色が特徴的だったって言ってたな。ほとんど白に近い水色」
砂漠を歩き回るには奇抜な二人組だったため、人々は彼女らが魔女だと予想したのだろう。
謎の二人の容姿について聞いた途端、ベイリーは足を止めた。
「ウイ・リビングストン」
「ん?」
「少女の方は、ウイ・リビングストン。もう一人の美女はメチコ・ブーチェだと思う」
口では推測にとどめたものの、ベイリーの瞳には確信の色が浮かんでいた。
考え込むように足元に視線を落としたベイリーの隣に立ち、ダンデライオンは次の言葉を静かに待つ。
やがて、ベイリーは顔を上げると、おもむろにダンデライオンの腕を引っ張った。
「確認したいことがある」
「おう。俺にできることはあるか?」
「お前には悪いが、あそこに行く」
ぐいぐいと腕を引かれる方向と、ベイリーの申し訳なさそうな声に合点がいったダンデライオンは「いや、だから暗闇が怖いとかじゃないんだって」渋い声で反論した。
一口解説:魔女
魔術を研究し数多の魔法を扱う種族。
基本的に女性しかおらず、男性の魔女は百年に一度しか生まれないとされる。
イビトリカ(物語の舞台国)では、魔女は国に登録することが義務付けられ、
理由のない魔法の使用を禁じられている。




