異変
区切りの都合上、いつもより短め
先に立ち上がり、片付けの作業を進めるベイリーの手元を松明で照らしていたダンデライオンは、二人を取り巻く暗闇を横目で見る。
「これからどうするんだ?」
「ここを出て、少し西に歩いたところに古井戸がある。そこで石についた土を落とす」
「それがいい。そろそろ日差しが恋しいぜ」
片付けを終えたベイリーに片方の松明を渡したダンデライオンは、善は急げと広間の入口を照らすランタンの元へ駆け寄った。
「まさか暗闇を怖がるなんてな」
その背中を眺めていたベイリーが「意外だ」と言外に零すと、ダンデライオンは心外だと言わんばかりの表情を浮かべ、ベイリーの解釈を否定するように手を振った。
「違うぜベイリー。俺は暗闇は怖くない」
「そうか? 怖がってたように見えたぞ?」
もともとパーソナルスペースが狭いのか、ベイリーとの距離が近いダンデライオンだが、坑道に入ってからはいつにもましてベイリーの背後や傍らにくっついて離れなかった。さらに、神経をとがらせている場面が多く、その様子はまるでホシガラクサリヘビの巣へ踏み込んだホソハナスナネズミのようだった。
「今だって、明かりの傍から離れないだろ?」
「違う。あの穴が不気味なんだ」
赤い炎にぼんやりと照らされる坑道の穴を指さし、ダンデライオンは釈明する。
「俺の勘が言ってるぜ。あの穴には入るなって」
「……俺は、何も感じないけど」
「第六感ってやつだ。砂の民の」
刺青の入った腕を大きく揺らし、順々に撤退の準備を進めるベイリーを急がせる。
どう見てもこの場から早く立ち去りたい気持ちでいっぱいのダンデライオンをそれとなく観察しながら、ベイリーは松明の火を水魔法の魔法小瓶を使って消火した。
「じゃあ、松明はここに置いて、地上に戻るぞ」
「おう」
魔法結晶の青白い光で足元を照らしながら、ベイリーとダンデライオンは来た道を戻っていく。
坑道を出ると、乾いた風が二人を熱烈に迎えた。
「相変わらず風が強いな」
風にかき混ぜられた前髪を頭に巻いた布の中に押し込み、ベイリーは辟易とした様子で零す。しかしいつまで経っても同意する言葉が返ってこないため振り返ると、ダンデライオンは険しい表情を浮かべ、街の方向を睨みつけていた。
「どうした?」
「なにかおかしい」
「え?」
ダンデライオンは自分のマントを身に着け、フードまでしっかりと被ると、ベイリーにもすべての装備をしっかりと身に着けるよう指示した。
「どうしたんだよ」
言われずともザックを背負い、マントを羽織って支度を整えるベイリーに、ダンデライオンは声を潜めてつぶやく。
「街で何かあったみたいだ。遠目から様子を確認して、状況によっては別の場所へ移るぞ」
言いながら、ダンデライオンは上空を見上げる。
それにつられて空を仰ぐと、いくつもの鳥の影が街から離れるように飛んでいくのが見えた。
「……確かに、なんか変だ」
街の近くを飛び回る鳥は珍しくない。しかし、日差しがきつい日中に街から離れ、砂漠のただ中へ飛んでいく様子は異様だ。ベイリーは鳥の動きを観察するダンデライオンの腕を叩くと、歩を揃えて採掘場跡地を離れた。
一口解説:ホシガラクサリヘビ
白い斑点模様が特徴のヘビ。出血性の毒を持つ。
雨や夜露を鱗の間に溜める習性があり、
活動が鈍くなる日中にホソハナスナネズミが鱗を舐めにくることが確認されている。




