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遥かに遠く魔王城~プロローグ~

「……いつかそこに、たどり着けるのかな?」



遥かなた、空に浮かぶ大きな城を見上げた。

城の名は【魔王城】と言われている。いつだれがそう名付けたのかは分からない。


この城には魔王が住んでいる。

住んでいる、と言ったもののあくまでもそれは噂に過ぎない。

でもこの村でも、どこの村でもそう言われている。


魔王の城は不思議の塊だ。

この世のどこからでもはるか彼方に浮かんで見える。

ここ日本にいたって、地球の反対側、ブラジルにいたって遥か彼方に浮かんで見える。



魔王はどんな姿をしているのだろうか?

魔王は地上を滅ぼした張本人だ。

地を焼き尽くし、僕たちの住む日本を文字通り粉々にした。

僕の母は言った。


「私のひいおばあちゃんが言うにはね、昔の日本は凄い高い建物と機械の町だったんだって。空を飛ぶ飛行機って乗り物で一日の間にブラジルまで行けたんだってさ。信じられる?」


飛行機というものを信じられるかどうかは分からないが、この街が昔機械の町だったって言われたら少し信じる。というか、そう思う。だって、生い茂る緑の下には人が壊れた建物のようなものがたくさんあったから。

そして、今では存在しないであろう機械のようなものの残骸がアチコチに見られたからだ。


「慎太郎。あまり地上に長くいると危ないかも。そろそろ日も暮れるかもしれないから戻ろうか?」


動きやすそうな皮で拵えた服に身をまとい、長い黒髪を後ろに束ねヒカリはそう言った。


「日が暮れたらモンスターの動きが活発になる。いくらあんたが強くたって、夜の魔物には勝てないでしょ」


彼女はそう言うと、手に持った弓を引いた。

パッと手を離すとヒュッと風を切り裂き俺たちの様子を伺っていた獣の一匹に突き刺さる。


「ファーラットくらいなら平気なんだけどね。かといってどれだけ倒してもレベルも上がらないし…とりあえず帰ろ?みんなが待ってるよ?」


ニコッと微笑み僕の手を握る。

――本当はもっと、外の世界にいたかった。

そして、どこまでも外の世界を歩いてみたかった。

でもこのモンスターたちがそれを許さない。

日が出ている内はともかく、夜になると非常に強力なモンスターが出現し、何人もの大人たちが殺されてきた。


僕の母もその一人だ。

外の世界に希望を求め、そして命を落とした。

だから僕は誓う。魔物を産み出す魔王を決して許しはしない。

いつの日か、僕は魔王城にたどり着き、きっと倒して見せる。







遥かに遠く魔王城~プロローグ~





「今日もレベル上がらなかったの?」


ニヤニヤと問いかけてくるヒカル。

それもそのはず、彼女のレベルは10。3しかない自分よりも遥かに上。

半年前に3に到達してからちっとも上がらなくなった。

だから覚える魔法も初級回復呪文しか覚えられていない。


「まあでも貴重な回復呪文の詠唱者だからね。私も本当は回復呪文覚えたかったくらいだもん」


指からボッと火を出しながらニヤリと笑うヒカリ。

彼女は俺たちの町「アラカワ」が誇る天才児。

レベルも10を誇り様々な属性の魔法を繰り出す世界でも珍しい逸材だ。


「ま、こんな呪文使えても魔物には大して効果ないんだけどね」


ピョイ、と火を放り投げると、薪に火を点けた。

そして鍋に火があたるように設置すると、やがてクツクツと音を立て食欲を掻き立てるいい香りが漂う。


「はい、ご飯。野菜汁ね」


こうした地下空間の中でも、人々が覚える魔法のおかげで暗闇におびえることなく平和に暮らすことができる。

こうして火や氷を魔法で生み出すことができるヒカリはこの町にとって欠かせぬ存在と言えるだろう。


「……しっかし、私もレベル上がんなくなってもう3カ月。ここが頭打ちなのかもね。アナタのお母さんなんて22まで上がったのに…」

「神父様にもう一度鑑定受けてみるとかは?」

「う~ん…お金かかるしね…」


この町で暮らす神父は「鑑定」の魔法を使うことが出来る。

しかし極悪なので普通に金をとる。しかもそれが割と高額なので次のレベルアップに必要な経験値がいくらなのかという話を聞きに行くのは躊躇される。

そして何より、僕は3カ月前にあまりにレベルが上がらなかったため鑑定を受けたのだが、必要経験値は残り30。そして1か月前位にまた受けた時残り30のままだった。

結構な人にこの現象が起こり、そこからレベルが上がらなくなる現象を俺たちは頭打ちと呼んでいた。


「まあ私は生活魔法と割り切ってるけどね。便利でいいし。あんたは医者になるには…ちょっと回復量微妙よね」


痛みの軽減などには使えるが、戦闘で傷を負ったものを治すには力が不足している。

この町の医者はなんと折れた骨なんかはすぐに治す回復呪文を使いこなす。

それに比べ、僕は力不足なのだ。


ただ町の医者のレベルは30。きっとレベルが上がれば僕も…。


「もしかして、回復があんたの本職じゃないのかもね。そもそもレベル3の割には強いしね」


グイッと野菜汁を飲み干し立ち上がるヒカリ。

声をかけて来た友達たちに応え立ち上がり、手をひらひらさせ


「勝手に地上に出たらダメだよ?出るときは声かけてね」

「……行かないよ。レベル3だ。僕だって、自分の力くらい理解してる」

「よろしい。斎藤さんが今度「イケブクロ」に行くって言ってたよ?しかも地上から行くってさ。行くんでしょ?行くなら一緒に行くから、一人で行動しないようにね」


まるで保護者のように言い放ち、ヒカリはこの場を後にした。

彼女はただの同級生だ。誕生日が少し向こうが早いだけでお姉さん気分。


でも早く彼女の両親はまだヒカリが小さい時にモンスターに殺されてしまった。

そんなヒカリを育ててくれたのは僕の母だった。その母の代わりをするつもりなのだろうか?



多分、ヒカリは分かっているんだと思う。

僕が旅に出たいって事を。

魔王城に行きたいって事を。

でも、僕くらいの年ならみんなが思っている事だ。


だって、魔王城からモンスターは出てくる。

平和に暮らすためにはモンスターを倒さないといけない。

モンスターさえいなくなれば、また平和に地上で暮らせるんだから。


だから僕は魔王城を目指したい。

――それが母の、願いだったから。





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