忘却の王女は裏切りの執事と機神の力で支配する(仮!)
六年前、父である国王ヴァイルド・ベイルリアの病死を切っ掛けに帝国は国王親衛隊隊長の手によって第一王子オルゼルト・ベイルリアが国王に任命された、だが親衛隊による国王暗殺を知っていた第八王女ルシリー・ベイルリアは新国王の兄にこの事を伝えに行った。
場所は王都にある宮殿、そこにある国王専用の執務室だ。机を挟んで二人きりの空間で話す。親衛隊がいては妨害されるからだ。
「お兄様!父は病死ではなく暗殺されたのです!健康だった父が病死されるはずありません!」
「……先代国王は病死した。これは紛れもない事実だ」
「その報告をしたのは親衛隊隊長のランス・レッドでしょう!わたくしは聞きました、親衛隊が…ランス・レッドが!国王の暗殺を企てている事を……!」
「……我が妹よ戯言にしては虚言が過ぎるぞ」
「っ!!なぜその男の言葉を信じるのです兄上!」
「……もういい、君の言いたいことはわかった」
「信じてくれるのですね、お兄様!」
オルゼルトは引き出しを開け、王宮全体に放送を掛ける。
「――第八王女ルシリー・ベイルリアを王家から追放する――」
「なっ!なぜです、お兄様!」
その行動にルシリーは驚愕する。信じていた兄の行動に絶望の一色が心を滲んでくる。
放送を遮断しオルゼルトは再び話し出す。
「ルシリー、君のいう事には一理あるかもしれない。だが、証拠がないよ」
「それはっ……!」
「もし仮に親衛隊の暗殺であったとしてもだ、君の行動は早すぎるよ」
ルシリーの行動は国王の急死に混乱する帝国をさらに混乱させる危険な行動だ。
いくら事実を言ったとしてもタイミングと言う物がある。証拠もロクになく帝国の権力を裏から操る親衛隊がいる今、国王の死の真相を言ったとしても信じる者はいない。
そうなるとルシリーの行動は極めて危険だ。追放が最も安全で妥当だろう。
「ルシリー……私はねこの国を、君たち兄弟を愛しているのだよ。だからこそ追放という処分で逃げるだけの時間を与えよう。」
「お兄様……」
少女は自身の知るあるがままの事しか伝えていなかった。故に証拠はない。探してもおそらく親衛隊の手によって消されているだろう。
こうして第八王女は宮殿を追放された。王女で無くなった少女は親衛隊に操られている帝国兵の命令によって命を狙われ、国王の手助けにより忘れ去られた拝殿へと逃げ込んだのであった。
そこは宮殿から遠く離れた地にあった為、幸いにも追手はこなかった。少女は拝殿近くの村に住む平民の料理屋に働き手として居候させてもらい、身分を隠した。
(お兄様……国王はきっとわかっていたのですわ、だからこそわたくしを逃がしてくれて……)
六年もの間、少女は兄であるオルゼルトの真意に気付きながら後悔していた。
(わたくしがあの時、急かさなければ……)
オルゼルトの考えが理解できたからこそ、ルシリーは毎日あの日の行動を悔やんでいた。
少女が追放されてからの帝国は残虐になった。新国王の誕生に反対したもの、金も力もない平民による差別、帝国が仕掛けた戦争で負けた国の搾取など独裁体制による権力の集中により恐怖政治が行われた。
ある日、村に帝国部隊が訪れた。巨大なロボットに乗り部隊を組んで武装している。
数や装備からみてただ事ではないことがわかる。
村からは怯えきった住民が次々と顔を出す。帝国の体勢的に拒めば暴れられるからだ。
隊長機らしきロボットが先頭に来る。
『住民よ、よく聞け!この場所に帝国の裏切り者が潜んでいるはずだ!その者をこちらに差し出せ!拒んだ場合は全員死んでもらう!』
内部に仕掛けられてある通信マイクから村全体に通告する。
だがこの村に誰かが来たと言う情報は無い、それどころか村のほとんどが1階の木造建築だ。2階以上の高さがある建物でも隠しきるのは難しい。
勘違いだろう。村民のだれもがそう思っている、ここは正直に真実を言うべきだ。ロボットの前に村長が代表して前に出る。
「私はこの村の村長です。兵隊さん失礼ながら申し上げますとこの村に誰かが来たという情報はありません。もし疑いが晴れないのでしたら村中を探していただいても構いません」
優しく丁寧に相手の気に触れずに慎重に事を伝える。
ここ最近、帝国に反逆した者を匿った町が焼き払われたと言う。下手に出れば村民全員の命が無い。
『そうか……なら探させてもらう』
「ええ、構いません」
『ただし、村を焼いてだがな』
ロボットは武装している銃火器を村長に向け放つ。
それに続いて後続にいたロボットが一斉に村に突撃してくる。
帝国兵の行動に外に出ていた村人は全員ばらばらに逃げ出す。
「アンタは逃げな!」
「おば様!」
「ルシリー、奴らの狙いはアンタかもしれない。だから逃げな!」
居候させてもらっている筋肉質な女性、もとい料理長のオーナーはルシリーを庇う。
彼女はこの六年間でルシリーが唯一心を許せた身近な人だ。ルシリーが王女であることも知っている、だからこそ逃がそうとするのだ。
「でも、それではおば様が……」
「アンタみたいな厄介箱の小娘助けるつもりなんて無かったさ、でもね……この六年間アンタといるとずっと、あの娘……娘みたいに思えてきたんだよ」
「おば様……」
「とっとと逃げな!アタシがくたばっちまう前に!」
「っ……!」
ルシリーは悔し涙を流しながらその場を去る。
六年間、素性を知っても身を隠してくれた料理長にはずっと助けられていた。
逃げる途中、ずっとおばさんから聞いた昔の話を思い出す。
「アタシにはな娘がいたんだよ。ちょうどアンタくらいの……だからかなアンタを見捨てられなかったよ、ボロボロの状態で倒れていたアンタが……」
村を出て行く先は決まっている。国王に逃してもらった忘れられた拝殿だ。
もしかしたら自分の居場所がバレているかもしれない、それでも知っている場所はそこくらいだ。
帝国兵は言った村を焼くとならば草木に隠れたこの山に隠れてしまったはいずれ火や煙が来てしまう。ならば、煙は防げずとも火の届かない拝殿に逃げ込むしかない。
道中、村の事が気になってしまい一瞬後ろを振り返る。
「っ!!」
少女は絶望した。目の前に広がるのは自然に囲まれた小さな村ではなく、炎の海に焼き払われた信じたくもない光景だった。
少女は再び走り出す。料理長がくれた命を自分が招いたかもしれない現状の思いを胸に拝殿へと向かう。
拝殿が目の前に差し掛かった時、背後から金属がぶつかり合う音と共に銃声が聞こえる。
どうやら、追われているのは自分ではないらしい。
「まて!この裏切り者が!」
拝殿に入った瞬間、追手が放った一撃が拝殿を囲む洞窟に直撃する。
瓦礫が崩れ、追われていたロボットと共に拝殿へと閉じ込められる。
土ぼこり舞う洞窟の中、天井に空いた穴から日差しが差し込みルシリーとロボットを照らす。
「あ、貴方が帝国に反逆した裏切り者ですの……」
目の前には自信を殺せるほどの力がある兵器があると言うのにルシリーは恐怖を抱いていなかった。むしろ、この状況を招いた怒りが勝っている。
「…………」
「っ!答えなさい!貴方のせいで、村が焼かれたのですよ!」
返事の無い操縦者に怒りが湧く。この者が来なければ村は焼かれずに済んだのだ。
ロボットの扉が開き中から一人の男が降りてくる。
「お久しぶりです、ルシリー王女殿下」
「ア、アルベリッド……ですの!」
そこにいたのはかつて、第八王女だったころに自身に忠誠を誓った執事アルベリッド・シュヴァルツがいた。
「国王陛下の命を受け、帝国を裏切り参りました」
「お兄様の……!」
アルベリッドは拝殿の地に膝をつき、頭を下げ胸に拳を当て、敬意を表しながら頼み込む。
「ルシリー様。かつて貴女に忠誠を誓った身でありながら窮地にも駆け付けられなかった愚執事にてお願い申したいことがございます。どうか今一度、帝国を……国王を裏で操る親衛隊を倒していただけないでしょうか!!」
「アルベリッド……」
アルベリッドはかつて忠誠を誓いながら国王の真意を読み取ってしまった、それが故に主であると決めたルシリー王女殿下を逃がすことしかできなかった。
そんなかつての従者の姿を見てルシリーは奮起する。
「立ちなさい!愚かしくも情けない、されどもわたくしへの忠誠心を忘れず帝国を裏切ってまで守りし我が執事よ!」
「っ!」
「貴方がわたくしに今一度忠誠を誓うのであれば!その命わたくしの為に捧げなさい」
「御意!我が命、ベイルリア帝国にて追放されし第八王女ルシリー・ベイルリア様の為に忠義を持って、捧げさせていただきます」
アルベリッドは大粒の涙を流す。主がピンチな時、その御身を守る為とはいえ何もできなかったことをずっと恥じていた。今もなお行方不明のルシリー様にもう一度仕える資格すらないと思っていた。
だからこそ、国王陛下から忘れ去られた拝殿へ逃したことを聞き帝国を裏切る名を極秘に受けた時、情けなくも会いに来てしまった。
「ありが、、とう、、ございます、、、るし、りー、、様」
「遅いのよ、おバカ……」
ルシリーにも熱い涙が流れる。
後悔の絶えない日々であったあの時の行動は、無駄ではなかった。ちゃんと国王の心に届き希望として刻まれていたのだ。
それに、王家から追放されたただの少女である自分にかつて忠誠を誓った執事は同じように後悔し今も尚仕えてくれると言うのだ。
(おそらく、これもお兄様の計算の内でしょうね……本当に尊敬すべきお方ですわ)
かつて自分を慕い今も尚後悔している従者を向かわせると言うことは、まだ戻れるよという優しくも卑怯な策だがルシリーは心より感謝している。
「策はありませんが、わたくしたちのお国を取り戻すために行きますわよ!!」
「はっ!」
少女、いや元王女は動き出す。傀儡にされながらも国民を愛し、助けてくれた兄を国民を救うために支配する。
――汝らの誓い見届けたぞ――
「ルシリー様!」
「だ、誰ですの!」
突如拝殿全体に声が響く。何者かは知らないがアルベリッドは大事な主であるルシリーの身を守るため周囲を警戒する。
――我が名は、EXマキナ。偉大なる魔導機神の王である――
「魔導機神……ってなんですの?」
「私が乗ってきたロボットの名称でございます」
千年前、世界中の錬金術師が集まって作ったとされる人型操縦兵器”魔導機神”その量産品が帝国兵の乗っているロボットだ。
――汝らの誓いに答えて代々ベイルリア王家に伝わる我が力、EXマキナを与えよう――
その言葉を最後に拝殿全体が揺れ、崩れ始める。
「な、なんですの!?」
「ルシリー様!」
アルベリッドは転びそうになるルシリーを抱きかかえる。
拝殿は崩壊し、拝殿の裏にあった壁から一つのロボットが現れる。
「お怪我はありませんか」
「大丈夫ですわ、それよりもこれは一体何ですの貴方の機神よりも大きいように見えますの」
現れた機神の大きさは量産された機神の三倍はあるくらいに大きかった。
見た目は二足の人型ロボットであり、白く神々しくありながら厳格な雰囲気を出す王や神と言った表現が似合う姿だ。
「わかりませんがあの者のいう事が真にございましたら、これは王の家の”王”の機神でしょう」
「王の機神……アルベリッド、あの機神に乗りますわよ!」
「あの機神に……ですか」
「貴方の機神でお勝ちになれるのでして?」
「それは」
アルベリッドが乗っている機神はボロボロだ。裏切り者として帝都から追われていたと考えるとよく持った方だ。
「アルベリッド!この機神を使い勝ちに行きますわよ!これは主としての命令ですの!」
「っ!!その命令、受けたわりました!」
半信半疑であったアルベリッドの心を奮い立たせ、ルシリーは命令を下す。
「わたくしは操縦できませんのでアルベリッド、エスコートは貴方に任せますわよ」
「そのお誘い、ありがたくお受けさせていただきます」
操縦席にルシリーを抱きかかえ乗り込み、EXマキナを動かす。
「さあ、行きますわよ!」
「はい!」
機神の王EXマキナを動かし、二人は追手を消し払う。