傘予報
天海雫が傘を手にすると、思い浮かべた日の雨量が容易く分かる。
それはどんな傘でもだ。
手にした傘が重ければ雨天時、軽ければ『無』なわけで雨は降らないという感じだ。
重ければ重いほどに雨量は凄いモノだという事で、傘がかなり重い場合は極力外出はしない事にしている。
出勤の日はどんなに傘が重くとも、家を出るしかないのだが。
雫の特殊な能力を知っている幼馴染みの高幡小杖は外出する前日、雫に当日の雨量を教えて貰っている。
「小杖、この後彼氏君とデートでしょ?
私の『傘予報』で雨量を調べるわね」
「ありがとう、いつも悪いわね。
でも、分かってるの……もうすぐ、というより今……大雨……」
「え……?」
小杖の横顔を瞳に映し、手にした傘にはかなりの重さがある。
(この重さ……天気の雨じゃなく、心の雨?)
「彼、ね……最近素っ気ないの。
多分、この後別れ話を切り出される……」
「こづ……」
「会って話してくるね。
それから、やけ食い付き合ってくれる?」
悲しげな言葉を残し恋人のもとへと向かう小杖の後ろ姿を、雫は優しく見守っていた。
(雨は必ず、いつかやむわ……。
そして必ず、虹がかかる……)
親友の心の虹がかかる光景を思い浮かべ、雫は強い眼差しを心の空へと向けた。