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見えているのは、あいつだけだった———もう遅い

「……なんで、あいつだけ入れてない?」


——目の前にいるのに、触れられない。

渇探流は公園の入り口を振り返り、慌てた様子でこちらを見つめている青山輝を観察する。その場で足踏みをしている様は、間抜けだが異様な状態にも映った。


「永遠の傍観者は怪異に遭えない。という噂は本当だったようですね」

「……一人だけ、弾かれていると、いうことか……?」


渇探流は公園の入り口まで戻って行き、青山へと手を伸ばした。しかし———いつまで経っても、その手は青山に———いや、『外』へ届くことなく、空中を彷徨った。


「なんだ……?これ、どう言う状態だ……?」

「この怪異、『少女に案内されないと出られない』んでしょう?多分そこからは出られませんよ」


———つまり。


「……青山は、『最初からここに来られない側』の人間ってことか……?」


……違うな。


渇探流は、ゆっくりと首を振った。


「———『選ばれなかった』」


渇探流は、自分の手を見た。

ほんの数歩の距離だ。目の前にいる。声も、姿も、確かにそこにある。

それなのに———届かない。

完全に、青山は孤立した———かに、思えた。


『きっ、聞こえる…!?』

「おわっ!?」


渇探流のスマホから合成音声の声が聞こえて来て、渇探流は思わず声を上げる。

急いでスマホを出すと、その画面にはとても焦った様子の青山輝が映っているではないか。

渇探流はスマホに映っている青山輝と、公園の入り口にいる青山輝を見比べる。

———微妙に、動きが違うような……


『聞こえてる!?ねぇ!?』

「あっ、ああ。すまん。聞こえてるぞ。青山、お前、入ってこれないのか?」

『入れない……!!入れないんだよ……!!せっかく、せっかく、ここまで来たのに……!!』


血を吐くような青山の言葉に、渇探流はため息混じりに返した。


「入れなかったものは仕方ないだろう。とりあえず、俺とウィルフレッドは探索を続けるぞ」

『……やだよ』

「……………は?」

『置いてかれるの、やだって言ってんの……!!』

「……だが、現実問題、青山だけ入れないんだ。どうしようもねぇだろう」


渇探流が宥めるように言うと、ぐう。と、青山が唸った。


『このっ、通話は途切れさせないでね……!!何か、何か僕でも、役に立つかもしれないから……!!』

「ハッ。傍観することしかできないのに、何が役に立つっていうんですか」

「……ウィルフレッド、言い過ぎだ」

「失礼……少しだけ、嫉妬しました」


渇探流は、今度は明確にため息を吐いてから、辺りを見回してみた。

———赤い、赤い空だ。

まるで夕焼けの空を切り取ったかのように見えるが———まるで、絵の具で塗りつぶしたような、妙な違和感がある。空に、精巧なイラストを描いたような、微妙な違和感だが。

次に、周りを見回してみる。この中央公園は出入り口が二つあるタイプであり、一つは自分たちが入って来た入り口、もう一方は、反対側に出入り口がある。その、先なのだが———


「……人が、全くいない、な」

「そうですね。とりあえず、移動しましょうか」

『……えっ……?』


渇探流とウィルフレッドが公園から出ようとした時、スマホから戸惑うような声が聞こえて来た。

なんだ?と思い、渇探流がスマホを見ると、そこには青ざめた、青山が映っている。


『人……いるよ?見えて……ないの?』

「…………なに?」

「それは本当か?」


バッ!!っと、一気に渇探流とウィルフレッドは臨戦体制に入る。が、しかし———何もいない。見えない。聞こえない。

これは———もしかして。


「……青山、何が見えてる?」

『えっ、と……普通に、帰り道を歩くサラリーマンとか……親子連れとか……立ち止まってる君達を訝しげに見ながら……通り過ぎてる……よ……?』

「……見えるか?ウィルフレッド」

「いえ、何も」


———青山だけに、見えている?

なぜ?外からしか見えないのか?


「ちょっと待て……」


———つまり、今まで中に入った人物が『少女に案内されて出られた』と言う話は、『少女に案内をされないと出口が見えない』から、という可能性が出て来たぞ。


『あ、ちょっと待って……』

「どうした?」

『今、スーツの人が……そっち歩いてって———』


その瞬間。

青山の視線が、わずかに逸れる。


『……避けた』

「……何を?」

『君たちを避けたんだよ……!!ぶつかりそうになって、明らかに……!!……ひっ、ちょ、ちょっと待って……これ、怖っ……』

「なんだ!今度はなんなんだ!!」


青山の声が、わずかに震える。


『子供が……そっち見てる』


——沈黙。

風の音すら、聞こえない。


「……どこだ」

『公園出て、少し先……ずっと……君達を……指、差してる』


一瞬だけ、息が詰まる。この言葉には、流石の渇探流も背筋に寒いものが走った。

しかし、周りをいくら見ようとも、渇探流からしてみれば無人の世界なのだ。ただ空が赤いだけの。


「……予想以上に、やっかいそうだな」

「そうですね」

「……余裕あるじゃねぇか」

『と、とりあえず、そこから動いたほうがいいよ……!!目立ってるから……!!』

「そう……だな、行くぞ、ウィルフレッド」

「はい、渇探流君」

「……これ、大の男が二人で手を繋いで歩いてるところも、よくわからん民衆に見られてる、ということか……?」


ハハッ。と、渇探流はほとんどヤケクソで、乾いた笑い声を漏らした。


「むしろ見せつけていきましょう」

「こっちは無理矢理見せつけられてるんだわ」

『ちょっ、ちょっと待って……!!そっち、誰か近づいて来てる……!!』

「どんなやつだ?」

『10時の方向……包丁持ってる!!なんか動きおかしい……くねくね?とっ、とにかく逃げて!!』

「普通にヤバいやつじゃねぇか!!」

「とりあえず逃げますよ渇探流君!!」

「言われんでも!!」


二人は青山のナビゲートの元、包丁を持っていてくねくねらしい動きをしている男からの逃走を図った。


『二人を追いかけて来てる……!!とりあえず撒いて!!逃げて!!うわっ、走り方がキモい……』

「こちとら足の速さには自信があるんだ!!余裕で撒いて———いでっ!!」

「遅いですよ渇探流君。もっと頑張って」

「このっ、バケモン護衛が……!!」


渇探流が走る更にその上をいくスピードで、ウィルフレッドが渇探流を引っ張りながら走る。渇探流はそれについて行くのに、必死になった。


『ごめんスマホ前に向けて……!!』

「なんだ!?今度はなんだ!?」

『全体を僕も見たいんだよ!!じゃないと———』

「…………っ、」

「…………えっ?」


ウィルフレッドの頬に一筋の亀裂が入り、血が、一筋流れた。

渇探流は素早くスマホをウィルフレッドへと向ける。

青山が叫んだ。


『士道、そのまま右側攻撃して!!』

「…………チッ!!」


ウィルフレッドは盛大に舌打ちをして、何もない空間に回し蹴りを繰り出した。

しかし、やはりなんの感触も、抵抗もない。


『逃げて!!3時の方向!!……いや、6時の方向……!?』

「ああもう!!一体何がどうなってやがるんだ!?」

『刃物持った男がもう一人出て来たんだよ!!渇探流君はなるべく周りを映しながら移動して!!』

「地味に難易度たけぇこと言うなぁおい!!」

「……渇探流君!!」

「えっ……うぇっ……!?って、またかよ!!」

「役割分担です!!」


渇探流はウィルフレッドに横抱きにされ、そのまま走り出される。ウィルフレッドの言いたいことは理解できたので、渇探流は大人しくウィルフレッドの腕に収まりながらも、周囲の撮影をし続けた。


「これ、死んでるやつも相当数いるんじゃねぇか……!?」


———それは、『予感』じゃなかった。もう、何人も死んでいる。

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