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絶対に帰さない

「……愛生、さっきウィルフレッドが影を消した男なんだが……」

「ドンペリだドンペリ!!タダ酒だーーー!!」


笑って愛生が酒をあおる。渇探流はこれはダメだと思い、恐る恐るだが、ウィルフレッドを仰ぎ見た。


「ウィルフレッド……お前、何をしたんだ……?」

「『消した』だけですよ」

「そう……か……そう……か……?」


渇探流は何が正常で、何が狂っているのか、判断がつきかねている今の状態が、酷く居心地が悪かった。

———人の存在って、そんな簡単に削っていいものじゃないだろ。

そう自分の中で結論を出すと、渇探流はビールをあおる。

ウィルフレッドはそんな渇探流を見て、ニコリと笑った。


「渇探流君、怖かったですか?記憶、消しましょうか?」

「…………………………………やめてくれ」


コイツ、自由に記憶を消せるのか?

それ、普通にヤバくないか?

俺が本当に帰還の情報を掴んだ時、コイツはその記憶ごと除去できるって、ことじゃねぇか?

———コイツ、『今までの俺』にも、同じこと、してたんじゃねぇか?

渇探流はビールをグイッとあおると、ウィルフレッドをひたりと見つめた。


「ウィルフレッド。その、記憶?だかなんだか消す能力、俺には使うなよ」

「なぜ?」

「なっ……!!」

「この世界、忘れた方がいいものの方が多いですよ……まあ……多用すると渇探流君が壊れてしまうので、余程のことがなければ使いませんが」


多用は出来ない。その言葉を聞けただけで少し渇探流は安堵したが、逆を言うと、『必要があればコイツは躊躇いもなく使う』ということだ。

———ウィルフレッドから、離れなければ。

でも、どうやって?

解決方法がないから、グルグルと同じことを考えてしまって、渇探流はビールを飲み———ヤケクソで、お代わりを頼んだ。


「マスター!!生お代わり!!」

「おっ!渇探流はイケる口なんだな!!飲もう飲もう!!」


その後は愛生と心ゆくまで飲み、騒ぎ———しっかりと酔っ払って、渇探流は帰路につくことになった。


「……飲み過ぎた……」


渇探流はとりあえず愛生と別れ、夜の街をフラフラとした足取りで歩いていた。

ウィルフレッドが強すぎて詰んでいる。

現在の状況は正に『詰んでいる』の一言である。

もしこのまま帰還する情報を掴めたとしても、ウィルフレッドに記憶を消されて終わりである。しかもコイツ、俺以外にはたぶん、無制限で先程の記憶除去?の魔術?っぽいのを使うだろう。

そうなると、愛生が危ない。

愛生は「記憶がなくなる?そんなこと日常茶飯事だ!」なんてケラケラと笑っていたが、記憶消去だぞ?笑って済ますな。

この、最悪な状況を打破する一手は———


「……別世界線の、俺……」


『一人に一つ、魔術を持ってるよ』と、あの亡霊は言っていた。その魔術の中に、ウィルフレッドに対抗できる魔術が、あるかもしれない。

正に『自分しか自分を助けられない状況』になっていて、渇探流は空笑いが出た。


「渇探流君が楽しそうで何よりです」

「何も楽しくねぇよ!!」


その全くもって楽しくない原因がニコリと笑って渇探流に語りかけてきたので、思わず渇探流は反射でツッコんだ。


「楽しくないんですか?」

「楽しくねぇ……」


フラリ。と、足がもつれる渇探流の肩を、ウィルフレッドの大きな手がガシリと掴み、引き寄せた。

ピトリとウィルフレッドに密着されて、渇探流の不快指数は爆上がりだ。


「おい、離せ。一人で歩ける」

「ダメです。そんなにフラフラと歩いていたら、死にますよ」

「もう、『死ぬ』のワードが軽すぎて驚かなくなってきたわ……」


一応、試しに渇探流はウィルフレッドの身体を押して離れようと試みたが、やはり力ではコイツに敵わないので即座に諦めた。酔っ払っているというところも大きいかもしれない。

もう、こうなったら支え棒として使ってやる。という思いで、渇探流はウィルフレッドに体重をかけた。そうしたらウィルフレッドは心底嬉しそうに渇探流を受け止め———そのまま、ヒョイと。渇探流を横抱きにした。


「……なんで抱き上げるんだよ……」

「こちらの方が安全ですので」

「……そーかよ……」


もうコイツにはなにを言っても無駄だと諦め、渇探流はウィルフレッドの首筋に頭を預けた。

ふふっ。と、ウィルフレッドの喉が笑う。


「渇探流君、今度こそ———ずっと、一緒にいましょうね」

「……………………」


そんな未来はこねぇよ。と渇探流は思ったが、酔いに任せて、そのまま眠り込んでやった。


「……今度こそ、壊しませんから」


渇探流が寝た後、ウィルフレッドの不穏な言葉を聞くものは、誰もいなかった。


「……前は、失敗しちゃいましたからね」

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