表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/31

帰ると言ったら護衛が壊れた

「ウィルフレッド、俺はこの男と話したい。少し黙れ。何度も言わせるな」

「渇探流君が、元の世界に帰らないと言うなら、邪魔はしません……!!」


ウィルフレッドが血を吐くような必死さで言うものだから、渇探流はギョッとして彼を見た。

いつもの余裕面はどこにいったのか、その表情はわかりやすく焦りを体現していた。


「……何を言っているんだ?俺は最初から元の世界へ帰ると、そう言っているじゃないか」


ウィルフレッドの呼吸が、一瞬止まる。


「嫌です渇探流君、そんなこと言わないで下さい……!!」


ウィルフレッドが膝をつき、渇探流の手を掴んでくる。渇探流はその手を———冷酷に、振り払った。


「脅しが通じないときたら、今度は泣き落としか?そんなもの、俺に通じると思うなよ」

「…………………」


ウィルフレッドは沈黙し、視線を逸らした。渇探流は付き合ってられるかと、青山の方へ振り返る。


「すまん。邪魔が入った。それで、俺は普通に生活していればいいんだな?それで姉の情報をお前に渡せば、元の世界に戻る情報をくれると?」

『うん。……探してあげる』

「探すと言うことは、今はその方法は無いということか?」

『……無いかどうかすらわからないね。今まで……調べたことが、ないから』

「連絡手段は?」

『いつでも取れる』

「わかった。お前の姉の情報を教えろ」

『名前は青山恵あおやま めぐみ年齢は順当にいけば24歳なんだけど、この世界のことだからあまり当てにしない方がいい。この———僕と同じ、ピアスをつけている』


そう言って、画面の青山は、片耳だけにぶら下がっているピアスを揺らした。


『もしも見た目が変わってなかったら、14歳の少女だ。写真を送るね』


すると、ピコン。という通知音と共に、愛生のスマホに写真が送られてきた。

青山と同じ髪色で、肩口でスパッと切っている快活そうな少女だった。両耳に、確かに今青山が付けているピアスと同じものを付けている。


「わかった。……いやわからん。14歳のまま変わってないとかあり得るのか?いや、この世界なら、あり得るのか……?そこはとりあえず置いておいて……なんで俺なんだろうな?」

『多分君は、神話現象に遭いやすいから。職業的にも……体質的にも』

「嫌な体質だなおい」

『羨ましいよ。僕は……遭えないから』

「遭えない?」


渇探流がそう言ったところで、愛生が口笛を吹いた。


「あの噂、本当だったんだ。バーストオーシャンの統領は『神話事件に遭遇できない』って」

「羨ましすぎる体質だな交換しろ」

『僕だって……できることなら、交換したいよ』


姉さんに遭いたい。と合成音声で紡ぐ言葉は、感情が乗っていないのにも関わらず、嫌に寂しげに聞こえた。

———俺も、早く生徒達に会わないとな。

元の世界で自分がどんなことになっているか想像はつかないが、学生達———特に、ダン・ラリーは、心配しているはずだから。


「とりあえずわかった。過去の手記に何かないか、とりあえず調べてみよう。俺は筆まめな男なんだ」

『……ほんと……!?あ、ありがとう……!!君みたいな存在が、僕には必要だったんだ……!!』

「なんか、やけに言い方が大仰だな……」

「とりあえず、話は終わったかい?ビールお代わりしていい?」


愛生が空になったビールグラスを振りながら、渇探流と青山に言ってくる。

お前も大概大物だよ、愛生。


『じゃあ、進展があったら話しかけてね』

「えっ……まあ、わかった。なんかあったら話しかけるわ。スマホに」

『うん、それでいいよ。あっ、スマホは壊したり没収したりしても、いくらでも連絡手段はあるからね、士道』


それじゃ。と言って、青山は愛生の———このスピークイージー全ての客のスマホから、姿を消した。

今まで静かだった場所が、またにわかに騒がしくなる。

『こんな異常は日常』なのだと、ここにいる全ての人間が、知っているのだ。先ほどの事件も酒の肴にはなれど、それ以上の存在には、良くも悪くもならないらしい。

しかし、先程と変わった点が一つだけ。

渇探流への視線が、一気に多くなった。


「……急に、居心地が悪くなったな……」

「そりゃあ、あの『医里渇探流』が、こんなスピークイージーにいるんだもん。皆興味津々さあ」

「渇探流君、帰りましょう」

「ビールの一杯も飲んでいないのにか〜?」

「帰りたければお前だけ帰れ。俺は愛生とまだ話がある」

「……お供します」


マスターが、図ったようにウィルフレッドの分の椅子も持ってきてくれた。ウィルフレッドは礼を言って椅子に座るが、渇探流の横に拳半個分の距離だけ開けて座る。

それを見て、愛生がうわあ。という顔をした。


「愛生の言いたいことはわかる。とてもわかるぞ」

「こりゃ、息が詰まりそうだね……束縛が強い男はモテねぇぞ〜?」

「貴方には関係ない」


スッパリと愛生の言葉を切り捨てて、ウィルフレッドは涼しい表情をしながら、渇探流のためにビールを頼んだ。自分の分はお茶だと言うのに。


「……おい。注文ぐらい、自分でさせろ」

「ビールはお嫌いでしたか?」

「いや、ビールでいいが……」


なんというか、このままウィルフレッドに全て任せていたら、一人で歩くことすら出来なくなりそうで、渇探流は一人、心の中で気合いを入れ直した。

この男に、流されてはいけない。と。


「もしかして、さっき言いかけてた依頼の話?」

「ああ、愛生にも、俺が元の世界に帰れる方法を探して欲しい———んだが、説明を諸々していなかったよな?」

「ああ、大丈夫大丈夫!渇探流の話は有名だからな!精神交換させられて、この世界に来てるんだろう?渇探流と話すのは私も初めてだけど……噂では上品な大和撫子だって話だったんだがな!噂はやはり信用ならんな!!」


ガハハ。と笑う愛生には追加の、渇探流には初めてのビールが置かれ、とりあえず二人は乾杯した。


「とりあえず、あの部屋からの生還おめでとう!!かんぱーい!!」

「乾杯。……しかし、14歳、か」


カツン。とグラスを合わせて、グイッ。と酒を一口飲んでから、渇探流は少し考える。青山恵が14歳のまま成長が止まっていた場合、現実に帰ってきた彼女を、周囲はどう思うのだろうか。

———いや、俺には、関係のない話だな。

一瞬、よぎった考えを、渇探流はすぐさま打ち消した。

渇探流は話を元に戻す。


「愛生にも、俺が元の世界へ戻る方法がないか、調べて欲しい」


渇探流が言うと、愛生はキョトンとしながらビールをあおった。


「私?正直、バーストオーシャンが動くんだったら、私は必要ないと思うぜ?所詮は何でも屋だからな」

「俺が、愛生を信用している」


ゴフッ。と愛生はむせて、ゴホゴホと咳き込みながら、渇探流を見つめてきた。


「こりゃ……随分とまあ、重い信頼を勝ち取ったもんだな……?」

「俺が信用できる相手は少ない。愛生、頼まれてくれないか。もちろん依頼料は言い値を出す」

「……そこまで言われちゃあ、この依頼、受けなきゃ女が廃るってもんでしょ!!」

「……ありがとう」


渇探流は少しだけ微笑んで、ビールに口をつけた。

そんな渇探流を、ウィルフレッドは冷ややかな瞳で、静かに見つめていた。


「……絶対に、帰しませんからね……」


そう言った後、俯いて微かに笑う。ポツリと呟いた言葉は、当然の如く、喧騒にかき消された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ